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No.15223の一覧
[0] 【習作】焔と弓兵(TOA×Fate)[東西南北](2010/02/19 00:50)
[1] プロローグ[東西南北](2010/01/07 02:13)
[2] 01[東西南北](2010/01/25 23:57)
[4] 02(改定)(エンゲーブ)[東西南北](2010/01/25 23:59)
[5] 03[東西南北](2010/01/18 00:09)
[6] 04 [東西南北](2010/01/25 23:59)
[7] 05(タルタロス)[東西南北](2010/01/25 23:59)
[8] 06[東西南北](2010/01/26 00:00)
[9] 07[東西南北](2010/03/15 23:51)
[10] 08(前編)[東西南北](2010/03/25 00:56)
[11] 08(後編)[東西南北](2010/03/25 00:57)
[12] 09[東西南北](2010/01/28 12:06)
[13] 10(セントビナー)[東西南北](2010/01/28 12:07)
[14] 11(フーブラス川)[東西南北](2010/03/31 10:36)
[15] 12(カイツール)[東西南北](2010/01/28 12:07)
[16] 13(コーラル城)[東西南北](2010/01/30 00:09)
[17] 14(ケセドニア)[東西南北](2010/01/30 00:09)
[18] 15(キャツベルト)[東西南北](2010/02/04 22:39)
[19] 16(バチカル)[東西南北](2010/01/25 23:56)
[20] 17[東西南北](2010/01/27 00:03)
[21] 18(バチカル廃工場)[東西南北](2010/03/25 01:01)
[22] 19[東西南北](2010/03/25 01:02)
[23] 20(砂漠のオアシス~ザオ遺跡)[東西南北](2010/01/31 00:02)
[24] 21(ケセドニア)[東西南北](2010/03/25 01:04)
[25] 22(アクゼリュス)[東西南北](2010/03/25 01:05)
[26] 23(魔界走行中のタルタロス船内)[東西南北](2010/03/25 01:07)
[27] 24(ユリアシティ)[東西南北](2010/03/14 23:42)
[28] 25[東西南北](2010/03/25 01:08)
[29] 26(アラミス湧水洞~)[東西南北](2010/02/09 00:02)
[30] 27(シェリダン)[東西南北](2010/03/25 01:09)
[31] 28[東西南北](2010/03/25 01:11)
[32] 29(シェリダン~メジオラ高原セフィロト)[東西南北](2010/02/14 22:54)
[33] 30(メジオラ高原~ベルケンド)[東西南北](2010/03/25 01:12)
[34] 31[東西南北](2010/03/25 01:13)
[35] 32(ユリアシティ)[東西南北](2010/03/14 23:44)
[36] 33(上空飛行中アルビオール船内)[東西南北](2010/03/25 01:15)
[37] 34(グランコクマ)[東西南北](2010/02/24 23:50)
[38] 35[東西南北](2010/03/14 23:45)
[39] 36(ダアト~ザレッホ火山)[東西南北](2010/03/14 23:45)
[40] 37[東西南北](2010/03/14 23:45)
[41] 38(ダアト)[東西南北](2010/03/25 01:17)
[42] 39(ルグニカ平原の川を北上中)[東西南北](2010/03/25 01:19)
[43] 40(キノコロード)[東西南北](2010/03/25 01:21)
[44] 41(セントビナー~シュレーの丘)[東西南北](2010/03/14 23:46)
[45] 42(ケセドニア)[東西南北](2010/03/14 23:48)
[46] 43(エンゲーブ)[東西南北](2010/03/25 01:22)
[47] 44(戦争イベント始まり )[東西南北](2010/03/25 01:23)
[48] 45(戦争イベント・一日目終わり)[東西南北](2010/03/22 00:04)
[49] 45.5(幕間)[東西南北](2010/03/25 01:24)
[50] 46(カイツール√・二日目)[東西南北](2010/03/25 00:54)
[51] 47(エンゲーブ√・三日目)[東西南北](2010/03/27 00:11)
[52] 48(戦争イベント・両ルート最終日)[東西南北](2010/03/28 00:08)
[53] 49(ケセドニア)[東西南北](2010/04/04 11:26)
[54] 50[東西南北](2010/04/12 00:02)
[55] 51(シェリダン)[東西南北](2010/04/30 01:47)
[56] 謝罪文(色々と諦めました)[東西南北](2010/04/30 01:50)
[57] 52(地核作戦タルタロス)[東西南北](2010/06/18 00:39)
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[15223] 28
Name: 東西南北◆90e02aed ID:20c4cb78 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/25 01:11



――― introduction in



 メジオラ高原にたどり着いたアーチャーは、とにかく高い場所に登ることにした。別段以前の主だった少女のように、やたらに高いところが好きだからと言う訳ではない。彼が高所へと上るのは、純然とした戦略の為だ。周りに人の姿など無い。遠慮もなくひとっ跳びで高い場所に出て、荒れた高原をざっと見回す。
 聖杯が無いとは言え、彼はサーヴァントでクラスはアーチャーだ。スキルの鷹の目は伊達ではない。じっとメジオラ高原全体を観察する。見える魔物はイノシシ型、鳥型二種類、細いサボテンと太いサボテン。さほど種類が多いわけではない。
 はてさてあのデカブツトカゲはどこにいるのかと見回して、妙な気配を感じてそちらに目を向けた。ビンゴだ。背中にいくつもの剣を突き刺されながら、それでも元気よく闊歩している赤い魔物。


「まるで恐竜だな。凜がいたなら何がなんでもあちらにもって帰って新種の化石だと言い張って儲けようとでも考えそうだ」


 まあこの世界の生物は死ねば音譜帯という場所に還るらしいし、骨が残るか疑問なのだが。背負っていた弓を構えて矢を一気に三本ほど番える。標的はまだ狙われていることに気づいていない。狙いは脳、心臓、眼球。いくら鋼鉄の皮膚を誇っていても、どれかひとつは貫くだろう。……もちろん、三つともを全て射抜く気も十分にあるのだが。
 高原の、それも高所だけあって風が強い。彼我の距離はおおよそ一キロ前後。普通の弓兵の弓矢ならば標的に届かせるまでもなく風で飛ばされるだろう。しかし彼に限ってはそのような心配など皆無だ。何故なら彼はグレンの従者、最強の弓兵なのだから。神秘は宿らぬまでも精度のいい強弓がしなる。ぎりぎりと弦を引き絞ったまま、中る結果を手繰り寄せる。


「―――見えた」


 的中。中る。その未来をはっきりと視認して、手を離す。飛び出した矢はアーチャーの狙いを外さずその頑強な皮膚を貫き、深く深く突き刺さる。右目の眼球、眉間の間、そして心臓のあるだろう箇所。当たった瞬間にブレイドレックスはびくりと一度大きく痙攣し、そして己に何が起こったのかを知覚するまでもなく横倒しに斃れた。
 ずうんと土煙が上がり、ぴくりとも動かない。しばし眺めていたが、おそらくは死んでいるだろう。確認のために降りていく。そしてその死を確認して息をついたとき、ふとその背に刺さった一つの剣に引き寄せられた。何の神秘も無い剣群。そのうちの一本だけ、アーチャーの解析をもってしても解析できない妙な剣があった。切れ味が鋭いわけでもなく、神秘が内包されているわけでもない。禍々しい。音素を引き寄せる剣だ。
 死したブレイドレックスの背からそれを引き抜く。生きているような脈動を感じ、アーチャーはただ勘のみでそれの危険性を感じとった。


「……妙な気配だ。これは海にでも沈めて、誰の手にも渡らないようにしておいたほうが良いか」



――― introduction out







 手が届かない。手が届かない。何度も手を伸ばしているのに。叫んでいるのにこの声は音にならない。そんなので聞こえる訳も無い。気づかれもしない。俺は『あいつ』の目の前に居るのに。固定された意識体の位置から一歩も動けない。

 魔界の泥の海。どこか見覚えのある残骸。あいつは必死になって進もうとしている。それでも根を張ったように足が動かず、狂ったみたいに暴れている。目の前。沈みかけた板の上。死んだ男と、小さなこども。あいつは声を嗄らして叫んでる。届かない。ゆっくりと沈んでいく子ども。絶叫している。届かない。ただその視線を逸らすことだけはせず、愚直なまでにその沈む姿を見つめていた。必死になって手を伸ばしている。届かない。
 やっと足が呪縛から解きはなられたかのように動き、驚くよりも先にあいつは駆け出した。それと同時に完全に沈む子ども。子どもが助けを求めて手を伸ばし、その手が届くことなく魔界の泥の海へと沈んでいく。あいつの膝が崩れ落ちる。緑の両目に浮かぶのは絶望。絶望。絶望絶望絶望。

 震える両腕を見て拳を握り、地面に叩きつける寸前、その手をがしりと何かに掴まれる。涙が滲んだ目で腕をつかむものが何かを確認して―――表情が凍りつく。泥の人形。見覚えのある泥の人形。その形は、あの沈んだ子どもが必死になって助けを呼んでいた、彼の父親。腕だけではない、両足も反対の腕も囚われる。何人もの泥人形に。気づけばそこは崩落を免れたアクゼリュスの小さな大地ではなく、魔界の泥の只中だった。
 もがこうとして、異臭を放つ泥人形が呟く怨嗟の声に動きが止まる。

 オマエノ セイダ。ヨクモ。ヨクモ、ヨクモヨクモヨクモ。

 ―――ヨクモ、クリカエシタナ。(違う)

 ザイニンメ。(違う)
 トガビトメ。(違う!)
 ニドメハ オノレノイシデ ホウラクヲノゾンダナ。(違うんだ!)
 ユメノセカイデ トワニ クルシメ。(やめてくれ!)


 泥人形に引きずり込まれる。魔界の底へ。あいつは―――グレンは、悲しそうな、苦しそうな、泣き出しそうな自嘲を浮かべる。


『ああそうだ、俺は自分の意思で選択した。その責は、背負わなければ』


 ……逃げることなど、赦されない。

 最後にポツリとそう呟き目を閉じて、何の抵抗もしなくなった。ただそのまま、引きずり込まれる力に逆らうことなく沈んでいく。泥の底、怨嗟と憎悪が満ちる奈落の海へと沈んでいく。

 ザイニンメ。トガビトメ。オマエモワレラトトモニシズンデモラウ。



 違う。違う違う違う違う違う、そいつは何もしていない。グレンは、庇おうとしただけで。俺を、庇おうとしただけで。本当の罪人は。アクゼリュスを、崩落させたのは。引き金を引いたのは。何度も叫んでいるのに届かない。沈む親友はルークに気づかない。ただ紫色の世界を見上げて一度だけ目を開き、閉じる。
 赦しを請う言葉も口にせず、ただ怨嗟の声を聞きながら、それを当然と受け止めて魔界の底へ沈んでいく。

 何度も名前を呼んでいるのに。何度も手を伸ばしているのに。彼の目の前で何度も何度も繰り返す。沈んでいく。何度も何度も、声が嗄れるほど叫んでいるのに、それこそ気が狂うくらいに繰り返す。
 助けたいのに。
 伸ばした手は気づかれない。




 何度も何度も繰り返す、沈む親友の夢を見た―――










 獣のような咆哮をあげて飛び起きる。酷い汗だ。息が上がりきっている。ルークは震える両手で顔を覆った。

 ここは障気など無い世界だ。ここにあいつはいない。ああ、早く。早くしなければ。早くあの夢から覚めさせないと。あいつは馬鹿だから、やっぱり自分のせいだと思ってる。馬鹿だ。馬鹿だよ、お前は。早く。早く終わらせよう。早く。

 肩を揺すられる。大丈夫、ルーク、どうしたの。ご主人様。何か音がする。意味が理解できない。雑音を理解する必要は無い。早く。俺は早くこの茶番を終わらせなければ。早く。早く早く早く! がりがりと額に爪を立てて引掻けば、それを何かが止めようとする。邪魔だ。振り払う。ルーク、と。何かが鳴っている。額から流れていく雫に構わず立ち上がる。すぐ傍にあった剣を掴む。腕を引かれた。邪魔だ。振り払う。
 蹴破る勢いで扉を開け放つ。ルーク。先ほどから同じ音ばかりだ。留めるように腕を引かれて、もう何度目になるか分からない。振り払おうとして、その腕を逆方向から出てきた誰かに押し留められた。


「帰ってきてみたらいきなりこれかね。少しとは言え、思い出していた感情は怒りと焦りだったか。全く、落ち着きたまえ。グレンの何を視たのだ、小僧」


 音がする。何を言っているのか理解する必要は無い。邪魔をするなら切り捨てろ。ただ、その音の中で唯一聞き取れた誰かの名前。グレン。グレンは。アイツは。


「俺が。俺が、俺が……俺は――――俺の、せいで……っ!」


 早くしなければ。早く。早くこんな茶番を終わらせて、全てが終わった世界でアイツを起こさないと。早く。起こさない限り、眠ってる限り、馬鹿なグレンはずっとあの夢を見続けるんだろう。それでも今すぐ起こすわけにはいかない。起こしてしまえば突っ走るのは目に見えている。
 だから、せめて―――。


「俺が叶える。俺が叶える! グレンの願いも俺の願いも俺がこの手で叶えてみせる! 誰のどんなきれいな願いを切り捨ててもだ……邪魔をするな、そこをどけ!」


 アーチャーの手は思い切り振り払われて、ルークは剣を抜く。今の彼には何を言っても伝わらないだろう。驚いたティアが止めようとしているが、標的が彼女に代わるほうが危険だ。片手を挙げて押し留める。ですが、と納得がいかないようだが、彼女を斬ってしまえば一番苦しむのは今目の前で錯乱しているルーク自身だ。

 正気を彼方に飛ばしているルークは、人外、とは言え人の形をしているアーチャーに迷いなく剣を振り下ろす。タルタロスを降りた時にアッシュと戦りあったときの完全な理性による剣戟とは真逆だ。ただただ邪魔者を感情的に排除しようとする激情しか篭っていない。それでも中々の一撃だ。このような状況でもなければひとつ誉めてやりたいくらいの剣筋だった。
 それを腰に佩いた双剣を抜き放ち、防ぐ。確か今日はこの宿には一応他の宿泊客はいなかったはずだ。下手に外に出られるより、この中で戦りあったほうが良いだろう。そう断じて、廊下へ向かって適当な距離にルークを蹴飛ばす。
 体勢を整える前に接近する。しかしルークもぎらぎらとした目を上げ、唸り声を上げながら、体勢を整えるでもなくこちらに向かって突き進んでくる。あちらはそれこそ殺す気なのだろうが、こちらは殺すわけにはいかない。舌打ちをしつつ受け止める。火事場の馬鹿力のようなものだろう、打ち付ける一撃の重みは一々普段のルークのレベルからかけ離れている。

 全く、グレンよ。この馬鹿マスターめ、懐かれすぎだ。これでは本当に宗教の域だぞ。殉教者の目だ。この狂信ぶりではまるでモースだとか言う輩のスコア崇拝と似たようなものではないか。

 まだ人を殺したことが無いとは信じられない剣筋が吹き荒れる。しかし自覚は無いのだろうが、体がついていけていない。超振動の制御訓練をしていたというなら、恐らく彼の体の内側は今ぼろぼろの状態のはずだ。体中が悲鳴を上げているだろうに、それに気づかずこんなに全力で動いているのはまずい。
 実際に剣を握るルークの手の平は裂けていて、アーチャーが防ぐたびに柄から落ちた血が飛び散っていた。恐らくだがこの一撃を放つ間にも筋肉や筋が断絶しかかっているはずだ。疲労と無理やりの動作に圧迫された肺では、まともに呼吸もできていないのでは無いだろうか。
 それでもルークは倒れない。ぎらぎらとした目だけが殺意をこめてこちらを睨んでいる。


「邪魔を、するなあああっ!」


 まるで獣だ。本能のみで打ち込んでくる。しかしアーチャーはしっかりとその全てを防ぎきり、目はルークの体の状況を冷静に把握して、苦虫を噛んだ顔になる。疲れれば止まるだろうと、ありえもしない可能性を願っていては手遅れになってしまう。仕方ない。


「これ以上はお前の体がもたん。悪いが腕を一本折らせてもらうぞ!」


 言うや否や、ルークが振り下ろした剣を白剣で受け止め、剣を握るルークの左手に勢いよく黒剣の峰打ちを叩き込む。この体内の損傷状況では脳内麻薬でもでて痛覚が遮断されているのだろうか、ルークは特段大きな悲鳴も上げない。小さな唸り声をひとつ上げただけだった。しかし左手はだらりと垂れ下がり、剣も握れなくなりカランと軽い音を立てて床に転がる。
 これならもう大丈夫だろう。ほっとして、ティアにルークの回復を任せようとして―――彼女が鋭くルークの名前を呼んだのと、とんでもない第七音素の動きにはっとして振り返った。
 幽鬼のように立ち続けるルークの左腕は、折れているはずなのに真っ直ぐとこちらに向けて突き出されていた。その左手を支えるように右手が添えられている。収束する第七音素。譜眼を持っているわけでもないのに知覚できるその流れ。赤橙色の左目からは血の涙。ルークの左手に光が灯る。

 しくじった。脳を揺らして意識を刈りとるべきだった。今更悔いても遅い。


「やめろ、ルーク! 今お前の左手は折れているんだぞ?! ただでさえぼろぼろの体内組織に、音素もめちゃくちゃ、そんな状況でまともに超振動など……音素が暴走する!」

「うる、さい。邪魔をするなら、立ち塞がる、なら。殺してでも……砕いて進む!」


 ヒューヒューと、ルークの喉から零れる音は酷く弱弱しい。なのに、声だけは圧倒的な意思の強さをもっている。
 そして恐ろしいことに、今のルークはコレだけの状況で音素の暴走を起こすことなく超振動を制御していた。とんでもない量の第七音素を引き寄せ続けているのに、超振動の威力はぶれていない。集まり続ける音素を体内循環させて必要量だけ残して拡散させている。
 全く、どうやら自分が居ない間にティアはよくよく優秀に制御訓練をしてくれたらしい。
 この世界に存在するアーチャーの体を構成しているのは第七音素だ。第七音素で体を構成している限り、今の威力の超振動をくらってはひとたまりも無い。絶体絶命だ。
 だが、アーチャーはにやりと口元を吊り上げた。


「悪いなルーク。それでも私はグレンの従者だ。ああそうだ、君がグレンの相棒だと納得するただ一人は私なのだよ」


 飄々と呟き、アーチャーはルークに対して直線状に突き進む。狙ってくれと言わんばかりだ。常なら愚策と呼ぶべき動きだが、怪しいと思索を巡らせる暇もない。ルークは左手から超振動を放つ。その光が一直線にアーチャーに向かい、しかし彼は懐から取り出した何かでその光を受け止めた。数秒。それだけで、その何かは砕け散る。しかし数秒とは言え、超振動に耐えたそれはいかなるものか。
 謎は解けぬがアーチャーにとってはその数秒だけで十分で、手に入れて一日で砕けた魔剣を放り投げる。稼いだ数秒だけでルークに肉薄し、折れているという労わりもなく左手を掴み上に向ける。超振動で思い切り宿の天井に穴が開いた。後で直さねばと心中で呟きながら、超振動が途切れたころを見計らって後ろ手に拘束した。


「相手が悪かったな。君も知っているだろう、私は人外でね」

「離、せ!」

「断る」

「畜生、俺が、俺のせいなんだ! 俺が、俺が……俺のせいで、グレンは―――!」

「ふむ、今の状況では落ち着くことも無理か。グランツ響長、譜歌を。眠らせたほうが良い」


 ルークが超振動を使ったことに何故か一番驚いているらしいティアに声をかける。そうすればすぐに我に返り、畜生畜生畜生と狂ったように叫び続けるルークの状況を見て納得したらしい。すぐに紡がれる譜歌に暴れていたルークが大人しくなった。ルークの体中から力が抜けて、がくりと倒れこむ。その体を肩に担ぎ上げて、ついでに解析を行うが……その結果にアーチャーは思い切り表情を顰めた。
 明日一日は絶対安静だ。ベッドに縛り付けてでも動かすわけにはいかない。文句を言おうが何を言おうが絶対のこととして決め、ティアとミュウによくよく頼まなければならないだろう。
 柄だけを残して砕けた残骸を拾い、ルークをベッドに寝かせる。その時にずたずたになった手の平が見えて、流石にげんなりしてしまう。


「グランツ響長。すまないがルークを診てくれ。身体中に片っ端から治癒術をかけてくれないか。いろいろ見えないところにまでガタが来ているだろう。特に左眼、譜眼にはよくよく注意してくれ。下手をすれば視力低下を覚悟せねばならん」

「分かりました。あの、ルークは……」

「さあな。だが、これがあそこまで暴走するなら……いや、実際問題叫んでいた内容からすると、確実にグレン絡みだろう。グレンとルーク、この二人は誰より遠くて誰より近い。時折無意識が繋がるのだろうさ」

「……繋がる?」

「グレンを助けるために色々とやった時にね。私を媒介に精神感応というか……特殊な繋がりが出来てしまったのだよ」


 まあ同調フォンスロットだとか元が同一根源の別人の可能性だとかアーチャー媒介の魔術ラインだとか。そういう色々と説明しづらいところをぼやかすのだが、ティア的には恐らくその色々と、といってぼかしたところを聞きたいのだろう。それは分かるのだが、あくまで言うつもりはないとしれっとしているアーチャーの姿を見て諦めたらしい。ティアは溜息をついて、早速ルークを診る。
 ああ、手の平を見てしょっぱなから表情を険しくしているが……起きたらどんな小言を言われるのだろう。覚悟しておけ、小僧。……と、待てよ。仕方なしとは言え、確か私もこいつの左腕を思いきり折ってしまったな。


「では後は任せたぞグランツ響長。私は宿の主人に言ってルークが吹きとばした屋根の修理と……後はご老体たちに時間ができたらと呼ばれていてね、少々手伝ってこよう。もしかしたらそのままとっ捕まって缶詰になるやもしれんが……明日一日はルークは絶対安静だ。文句を言おうが無視してしっかりと見張っていてくれたまえ。嫌がったら縛り付けてでも絶対安静だと言い聞かせてくれ。ミュウ、君にも頼んだぞ」


 ティアが何かを言う前に早口に言い切り、では後は頼んだとアーチャーは出て行った。ちゃっかり逃げて行っただけとも言う。ミュウだけは張り切ってその背に向かって頑張りますのー、任せてくださいですのー、と使命感に燃えていたのだが。
 そんな健気なミュウの姿にティアは口元を緩め、頭を撫でる。両方の手の平の治療を終えた彼女は次に彼の左頬に伝っている血を拭い、左目に手を当てる。そうして破壊する為の第七音素ではなく、癒す為の第七音素がルークの体に降り注いだ。



* * *



『なんつーかさ、帰ってきたなーって感じるのは、グランコクマなんだよ。俺の生まれってグランコクマじゃないんだけどさ。噴水の音とか。鳥の鳴き声とか。飛んでく雲の形だとか……あとブウサギ?』
 何だよそれ。っつーかブウサギ? エンゲーブじゃなくて? ……しっかし、生まれ故郷でもないのに帰ってきたって。ちぇ、俺なんてバチカルに帰ってもそんな気になれなかったっていうのにさ。ずりーってのー。
『ははは、そりゃあまあ、仕方ないだろ。お前お屋敷にずっと軟禁されてたんだろ。でもほら、親善大使? この仕事が終わって、軟禁が終わったら―――きっと帰ってきたって思えるようになるって』
 そういうもんかねぇ。
『そういうもんだろ。グランツ響長もイオンも言ってただろ? コレから知ってきゃいーんだよ』


 いつの会話だろうか。確かバチカル廃工場を出て……ああ、英雄になんてならなくて良いといっていたグレンと少し言い合って、次の日に朝食を一緒に作っていたときだったか。いやあ俺もエミヤ任せでさぁ、料理微妙なんだけど……ま、二人いりゃどうにかなるだろうし、いくらなんでもポイズンにはなんねーだろ。最後の方はぼそりと小声で、そんなことをいいながら呑気に笑うグレンと一緒にああだこうだ言いながら作っていた。
 今まで色んなとこ回ってきたんだよな。そう言って旅の話を聞けば、ああと頷くグレンは懐かしむ時の目をして、一つ一つ思い出しながら話をしていた。


『で、ケテルブルクは雪の国でなー。信じられるか、あそこって春にでも雪が降るんだぜ。本当に雪が降らないなんて夏の間だけ。でもロニール雪山は雪が降らなくても溶けないままでさ。あ、っつーかルーク、お前って雪見たことあったっけ』
 ねえよ。バチカルって結構温暖な気候……なのかな。よくわかんねーけど、雪なんて見たことないぞ。
『だよなー。雪が降るって本当に寒いんだけどさー、でもすっげー楽しいんだぜ。雪合戦にスケートに雪合戦に雪合戦にあとかまくらとか雪合戦とか……』
 どんだけ雪合戦の比重がでけえんだよ! っつか、雪合戦って何。
『そりゃおまえ、こう……合戦って言ってんだから、真剣勝負のだな。雪を丸めて弾を作るだろ、で、それをいかに的確に相手にぶつけて戦闘不能にするかを競うんだ。雪球なんて当たっても冷たいだけだからさ、いかに自分は当たらず相手にあてて体温を奪い行動を遅くさせ思考回路を―――』
 待てよ。本気かよ。何だよそれ新手の軍事演習か。
『……ダヨナ。っかしーとは思ってたんだが……しかしあの国出身とはいえ、言ってたのがあいつだからやっぱちょっとおかしくねーかとは……』
 エミヤじゃねえの?
『ん? ああ……ちょっとそこで知り合ったやつにね。ま、そしたら色男にでも聞いたほうが良いかな雪合戦。俺の知識ちょっと違ってるっぽいし。あ、そしたらさ、いつか雪合戦しねーか? どうにかしてイオンも巻き込んでさー、標的は色男。三人がかりで狙い撃ち! ってな!』
 おいおい、ガイ虐めんなよ。
『で、ばたんきゅーしてる色男を見て親切な通りがかりの女の人が介抱してくれるんだぜ。でもあいつだろ、目を覚まして三秒でまた気絶確定だな!』
 うわあ、お前ひでーなおい。
『そんな楽しそうな顔して言ってても止めてる感じないですよー、ルークさーん』


 グレンはけたけた楽しそうに笑う。笑いながらも、手は止まらない。確かにガイほど上手い、と言う訳ではないがそれでもルークにくらべれば余程上等な手さばきだ。因みに作っているのはチャーハン。割と初心者でも大丈夫とエミヤのお墨付きの料理らしい。……俺は聞いたこともなかったが。グレンはエミヤのレシピを見て、時折うーむと唸りながらも指示をくれる。……その唸ってるあたりがちょっと怖いが、まあポイズンにはならないだろう。多分。
 しかしバチカルをでてからこちら、それなりに料理もしたんだが。一向に上手くいかない自分の料理レベルと、唸りながらもレシピどおりに作れるグレンのレベルになんとなく負けた感が漂うが、昔は俺もお前並だったんだぜ、精進あるのみ! だの言っていたので、いつか追いぬいてやるとひそかに決意しつつゆっくりと材料を切り刻む。
 しかしこれ……目に痛いな。くそう、たまねぎめ。毎度ながらなんて強敵なんだ。


『そんでもってベルケンド……は、あまりなあ。研究者ばっかだしむしろ医療施設の町? 特に言うでも無いな。同じ研究者だらけの町って言ったら、シェリダンの方が俺は好きかなぁ。すっげーんだぜ、町中仕掛けまみれ』
 ふぅん。どんな仕掛けがあるんだよ。
『えーっと、例えば大きな歯車があるだろ、そうしたら絶対どっかにスイッチがあるんだって。で、それを見つけてぽちっと押せばその歯車が回りだしてさ。他には機械仕掛けの人形がでてきたり歯車が回るだけだったり時計になったり風が吹き出したり火がぼおっと出てきたり床がびよよーんとか跳ねたり、後は……』
 いい。もういい。機械仕掛けねぇ……ガイが好きそうな町だなってのは、分かった。
『ああ、うん。確かに好きそうだなぁ。きっとさ、いやっほーいとか言いながら走っていくんだろうぜ』
 え。あのガイが?
『おう。あいつが、だよ。で、ダアトは、そうだなぁ……あっちもこっちも石碑だらけ』
 なんじゃそりゃ。
『初心者用の五大石碑巡りならすぐに終わるんだけどなー、めちゃくちゃあるんだよ。さすがローレライ教団の本拠地、ってかんじか』
 へー。俺は軟禁されてる間、殆どスコアになんて触れてないからよくわかんねーけど。やっぱでかいのか、ダアトって。
『そうだなぁ。まあそれなりにな』


 ダアトや教団、スコアの話になるとグレンの表情は少し曇りがちになる。ルークも昨日の言い合いを思い出して気まずくなるが、すぐにグレンは表情を和らげて苦笑を溢す。


『まあ、今の状況じゃスコアに頼る人がいるってのはしょうがないだろうさ。そうしなさい、って指針があったほうが楽だしな。でも、俺はそれが嫌だ。だから自分で考えて、自分で選んで、その結果は自分で背負う。そうしたい、ってのは俺の意思だ。あ、これ皆にはあまり言うなよ。結構ヤバイ思想らしいからさ』


 口の前に指を当てて内緒な、と苦笑するグレンの言葉にまたちくりと心が揺れるが、別にグレンもわざわざ蒸し返そうとしたわけではないのだろう。ただ、昨日のグレンの言葉の理由として説明したつもりだったのだと思う。なるほど、そう言う考えを持っていたなら、確かにキムラスカの政治のやり方にはあまりいい気はしないだろう。なんせ政治にがっつりとスコアがくい込んでいる国だ。
 ナタリアが王女として国を動かすようになったらまたちょっとは違う感じになるかな、そうしたらグレンもキムラスカに……って、そういえば俺ダアトに亡命するんじゃん。え、ちょっと待てそうしたらスコア嫌いそうなこいつに会えなかったりする?
 今になって思いついたその思考にがーんとショックを受けるルークは、ついついがつんと大きくまな板に包丁を打ち付けてしまった。うおう、と驚いた声をあげた後、どうしたかと聞いてくるグレンに慌ててなんでもないと返す。しかし親友に会えなくなるかもしれないという可能性は地味にダメージが大きかった。いや、でもグレンだし、どうして亡命したのかを手紙にでも書けば分かってくれるんじゃないかと……


『って、おいルーク。うんうん唸りながら何やってんだ。もう良いよそれくらいで。それ以上やったらたまねぎが摩り下ろしりんごみたいになっちまう。そんなのチャーハンのたまねぎじゃないぞ』
 ん? あれ、いつの間に。
『お前延々とたまねぎ切り刻んでたじゃねえか。ほれ、次はこれな』
 えー、どれ……っ?! にににににに、ににににに……
『こっちを細かくしてくれりゃ良かったのによー』
 にんじんんんんんんん!? 嫌だ、絶対にいやだ! 俺は認めねえ、こんなの入れるなよ!
『えー、でもこれエミヤのニンジン嫌いでも食えるぞ! ってメッセージが』
 嫌だああああああああ!
『うん、そうだな。エミヤの料理なら俺らでも食えるかもだけど、わざわざ料理レベル人並みの自分で作るのは危険か。はい却下却下ー。じゃあソーセージでも切っとくか?』


 笑いをかみ殺しながら食材を渡してくる。
 朝っぱらから騒がしいと、眠そうな目を擦りながら起きてきたアニスがグレンにさらに料理の指導をしていた。今度はイオンとも一緒に料理をしてみたいなあとグレンは笑っていて、イオン様に料理させるつもり? とか言って怒っていたアニスは、でも本人やりたいって言い出しそうー、となんとも言えない顔をしていた。俺の料理にガイは何だか感動していて、ジェイドはいつものように平然としていて、何故か……といかまあ理由はなんとなく分かりはするのだが、とてつもなく落ち込んでいるナタリアを、必死になってティアが慰めていた。



 楽しそうだな、と他人事のようにぼんやりと思う。
 楽しかった、と思い出すことなどもうできない。

 それでも、きっと楽しかったのだろう。
 あのころの自分にとっては、確かに。




『でもやっぱりもう一度いきたいのはセントビナーだな。なあルーク、今度機会があったらまた三人で展望台に登ろうぜ』




 これは、そんな、いつかの記憶。



* * *



 懐かしい夢を見ていた。目覚めてもはっきりと覚えている、いつか。何で急にこんな夢を見たんだろう。ぼんやりと目を開ける。いや、開けようとして、左眼が少し痛んだ。少し呻きながら左眼に手を当て、のそりと起き上がる。その拍子に、何かがころころと。


「……は?」


 見れば、腹の上から転がり落ちていったらしい物体は青い小さな小動物。おい、ご主人様の腹の上で寝こけるとはどういう了見だ。そう思いながらも、このまま寝てたらこいつ風邪引くなあとなんとなく思う。風邪を引かれたら厄介だ。チーグルの風邪っぴきに俺は優しくなんてできないのだから、全部ティア任せになってしまう。彼女なら大喜びで請け負いそうだが……動物に感染したウイルスが人に二次感染する可能性も捨てがたい。
 彼女には外殻大地のこれからのためにも生きても貰わなければならないのだから、体力の低下をもたらす体調不良の可能性は是非とも避けたい事象だ。
 だからだ、と思いながらチーグルを引っつかみ、布団の中に入れようとして体を動かすのだが、その時にまた身体中の筋肉が引きつりそうになって小さなうめき声が零れてしまう。一体何だと言うのだろう、なにやら体中が筋肉痛になったみたいに痛みを訴えている。はて、俺はいつの間にベッドで寝ることになったのだろうか。色々思い出そうとするが、よく思い出せない。のろのろと現状を把握しようと周りを見回して、固まる。

 自分が寝ているベッドのすぐ脇。何故すぐに気づかなかったかと思いたくなるこの現状。
 床に座り込みルークが寝ているベッドに頭を預けるようにして、ティアが寝ていた。よくぞそんな体勢で寝れるものだ、流石は現役兵士……? いや兵士だったらこの体勢で寝れるものなのか? 分からないが。あれ、よくよく見てみれば自分の右手首が彼女の右手に握られている。何故だ。というか、なんで俺は起きてすぐこれに気づかなかったのだろう。自分で自分が不思議だ。
 無言で観察。常の真っ直ぐとした意志の強そうな青い瞳は閉じられていて、すーすーと静かな寝息を立てている。寝てる姿だけを見れば年相応だ。そういえば初めっから、黙ってりゃ顔だけは美人、だとか日記にも書いていた気がする。あれこれ考えながらも分かっている、これは現実逃避だと。
 とりあえず右腕を引く。同じくティアの右手もついてきた。どうしろと言うのだ。しかし、寝る前に俺は何かやらかしたのだろうか。心配だとかそう言うのよりも、これはどうも容疑者確保傾向の意識があるような気がする。起こして聞いてやろうかとも思ったが、どうにも窓の外の色を見るとまだ夜明け近くだろう。何があってこの状態になっているのかは解らないが、流石にそれは悪い気がして躊躇ってしまう。

 この状態のまま寝ていては起きた時に体の節々が痛いことになっているだろう。とにかく隣のベッドにでも運ぶべきだろうか。いや、もしかしたら現役軍人なら大丈夫なのかもしれないが。しかしこのままと言うのもいただけない。だが何故か知らないが体の節々は痛むし、ティアを運ぶのも実は結構今の俺には重労働だしな……放っておくか、兵士なら大丈夫では、いやしかしこいつ女だしな。などと、かなり軍人に対しての偏見の入ったあれこれをつらつら思いながら、ルークは心底困惑しながら溜息をついた。


「……よく覚えてないが、一体何があったんだ。ついでにエミヤは帰ってないのか?」


 途方にくれたようなルークの言葉に答えるものは誰もいない。いまだしばらく、ルークは一人でぐるぐる考え込むことになりそうだ。






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