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No.15223の一覧
[0] 【習作】焔と弓兵(TOA×Fate)[東西南北](2010/02/19 00:50)
[1] プロローグ[東西南北](2010/01/07 02:13)
[2] 01[東西南北](2010/01/25 23:57)
[4] 02(改定)(エンゲーブ)[東西南北](2010/01/25 23:59)
[5] 03[東西南北](2010/01/18 00:09)
[6] 04 [東西南北](2010/01/25 23:59)
[7] 05(タルタロス)[東西南北](2010/01/25 23:59)
[8] 06[東西南北](2010/01/26 00:00)
[9] 07[東西南北](2010/03/15 23:51)
[10] 08(前編)[東西南北](2010/03/25 00:56)
[11] 08(後編)[東西南北](2010/03/25 00:57)
[12] 09[東西南北](2010/01/28 12:06)
[13] 10(セントビナー)[東西南北](2010/01/28 12:07)
[14] 11(フーブラス川)[東西南北](2010/03/31 10:36)
[15] 12(カイツール)[東西南北](2010/01/28 12:07)
[16] 13(コーラル城)[東西南北](2010/01/30 00:09)
[17] 14(ケセドニア)[東西南北](2010/01/30 00:09)
[18] 15(キャツベルト)[東西南北](2010/02/04 22:39)
[19] 16(バチカル)[東西南北](2010/01/25 23:56)
[20] 17[東西南北](2010/01/27 00:03)
[21] 18(バチカル廃工場)[東西南北](2010/03/25 01:01)
[22] 19[東西南北](2010/03/25 01:02)
[23] 20(砂漠のオアシス~ザオ遺跡)[東西南北](2010/01/31 00:02)
[24] 21(ケセドニア)[東西南北](2010/03/25 01:04)
[25] 22(アクゼリュス)[東西南北](2010/03/25 01:05)
[26] 23(魔界走行中のタルタロス船内)[東西南北](2010/03/25 01:07)
[27] 24(ユリアシティ)[東西南北](2010/03/14 23:42)
[28] 25[東西南北](2010/03/25 01:08)
[29] 26(アラミス湧水洞~)[東西南北](2010/02/09 00:02)
[30] 27(シェリダン)[東西南北](2010/03/25 01:09)
[31] 28[東西南北](2010/03/25 01:11)
[32] 29(シェリダン~メジオラ高原セフィロト)[東西南北](2010/02/14 22:54)
[33] 30(メジオラ高原~ベルケンド)[東西南北](2010/03/25 01:12)
[34] 31[東西南北](2010/03/25 01:13)
[35] 32(ユリアシティ)[東西南北](2010/03/14 23:44)
[36] 33(上空飛行中アルビオール船内)[東西南北](2010/03/25 01:15)
[37] 34(グランコクマ)[東西南北](2010/02/24 23:50)
[38] 35[東西南北](2010/03/14 23:45)
[39] 36(ダアト~ザレッホ火山)[東西南北](2010/03/14 23:45)
[40] 37[東西南北](2010/03/14 23:45)
[41] 38(ダアト)[東西南北](2010/03/25 01:17)
[42] 39(ルグニカ平原の川を北上中)[東西南北](2010/03/25 01:19)
[43] 40(キノコロード)[東西南北](2010/03/25 01:21)
[44] 41(セントビナー~シュレーの丘)[東西南北](2010/03/14 23:46)
[45] 42(ケセドニア)[東西南北](2010/03/14 23:48)
[46] 43(エンゲーブ)[東西南北](2010/03/25 01:22)
[47] 44(戦争イベント始まり )[東西南北](2010/03/25 01:23)
[48] 45(戦争イベント・一日目終わり)[東西南北](2010/03/22 00:04)
[49] 45.5(幕間)[東西南北](2010/03/25 01:24)
[50] 46(カイツール√・二日目)[東西南北](2010/03/25 00:54)
[51] 47(エンゲーブ√・三日目)[東西南北](2010/03/27 00:11)
[52] 48(戦争イベント・両ルート最終日)[東西南北](2010/03/28 00:08)
[53] 49(ケセドニア)[東西南北](2010/04/04 11:26)
[54] 50[東西南北](2010/04/12 00:02)
[55] 51(シェリダン)[東西南北](2010/04/30 01:47)
[56] 謝罪文(色々と諦めました)[東西南北](2010/04/30 01:50)
[57] 52(地核作戦タルタロス)[東西南北](2010/06/18 00:39)
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[15223] 36(ダアト~ザレッホ火山)
Name: 東西南北◆90e02aed ID:9ece46a5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/14 23:45




「では予定通りは私はダアトを通ってザレッホ火山を目指す。万一導師イオンとナタリア殿下が捕まっていたらアッシュ達の助力をしてからそちらに向かう。ルーク達はアルビオールでザレッホ火山の噴火口から直接パッセージリングのある場所まで潜る。それでいいな?」

「んー」

「いいか小僧、たしかあの場所にはフィアブロンクといういかにも活火山に住まう炎と岩のドラゴンがいて、進もうとするなら戦闘になるだろう。やつの体はとにかく硬い。できるなら大佐殿の譜術で水属性の攻撃をするのが一番なのだがここはグランツ響長の……」

「あぁ」

「………、………、………前衛はお前一人になるだろうからくれぐれも気をつけろ。まかり間違っても戦闘で超振動を使おうとするなよ、体全体にかかる負荷は確かに少なくなったかもしれんが、譜眼にかかるダメージは大なり小なり蓄積され続けるのだ。すぐ後にパッセージリングの操作という仕事が残っているなら連続の使用は常々控えるべきものであって……」

「おお」

「………………聞け!」


 ごん、とアーチャーの拳がルークの頭に直撃する。今までずっと投影された剣をじっと睨み続けながら、いかにも聞いていない返事を返し続けていたルークは頭をさすりながらアーチャーの方を向く。
 痛いじゃないか、冷静に言われるルークの言葉に頭が痛いのはこっちだとアーチャーも言いたくなるのだが、そこはぐっと堪えて代わりに眉間辺りに指を置いている。


「コンタミネーションはそもそもあの人外大佐殿だからこそできる技術なのだ。グレンとて一度体が分解されかかるまでできなかったことだぞ。まあそもそも構成音素が全て第七音素であれば理論上はお前もできるだろうが……体を構成する第七音素と、異物を構成する第七音素の違いを感じとり再構成せねばならん。……そんなに一朝一夕でできるものでもあるまい」

「分かってるよ……でもこれぜんっぜん感じも分からないな。せめて理論だけでも知っといたら少しは違うのか? ……ジェイドの本を見かけたらまた捜しといたほうがいいか……」


 そしたらザレッホ火山のパッセージリングを操作した後、またベルケンドに寄るか。売ってなくても最悪ベルケンドの第一研究所、ヴァン師匠の私室にでも入れれば、難解のものではなくとも基本的なジェイドの研究書類は大抵そろってるはずだ。
 ヴァン師匠がいなかったら話は早いけど、もしもいたら厄介だな。ああ、でも待てよ、ベルケンドに行くならティアも一応またシュウ先生に診てもらったほうがいいのか。だとしたらエミヤをティアのほうにつけてさっさと行動してもらってアルビオールに追い立てれば……いや違うな、逆か。

 あの人をベルケンドに帰れなくしておけばいいのか。

 にやり、と口元が歪む。ルークに感情は無い。感情は無いのに、時々こうして反射的に勝手に顔が歪む。自覚と感情の回線は途切れているが、体は反射行動を思い出しかけているようだ。自覚のない感情に対して表情筋が動く。
 これは良いことなのか悪いことなのかはよく解らないが、これなら多少は交渉ごとにも能面のような状態で挑まなくてもいいだろう。少なくとも害は無い。

 ルークとしてはその認識だったのだが、彼のその表情を見ているアーチャーは渋い顔をしている。どうした、とルークが問えば、アーチャーは腕組みをしてなんともいえないため息を吐く。


「表情反射でその顔は……悪人面だぞ、小僧。もっと穏やかな表情はできんのか」

「知るかよ。表情筋の反射なんだ、自分がどんな顔してるかなんて分からないさ」


 肩をすくめて返して、窓の外を見る。そろそろダアトにつく頃だ。


「エミヤ。パッセージリングを操作した後、モースにちょっと用事がある。師匠に対して嫌がらせをしようと思うんだ。多分すぐにでもバチカルへ行こうとするだろうから、少し足止めをしておいてくれ」

「そうか、あの髭に嫌がらせをするなら私もやぶさかではないな。モースを足止めすればいいのだな? 善処しよう。しかし、あやつに何をさせるつもりだね」

「……なあエミヤ、俺の体の固有振動数はアッシュと同じで、第七音素と同じで、ローレライと同じだろ? しかも俺はレプリカだ。身体の構成音素自体も第七音素……これってさ、はったりに使いやすいと思わないか?」

「……また悪人顔になっているぞ……」


 頼むからグレンと同じ顔でその表情はやめてくれ。
 内心切実にそう思ってしまうアーチャーの従者心は協力者知らずだ。微妙な顔をして目で訴えるアーチャーの、その訴えたいことがわからずルークは首を傾げる。まあわざわざ声に出して訴えるほどではないなら、大した事ではないのだろう。
 ルークはそう思うことにして、アーチャーの遣る瀬無い目はさらっと流し話を続ける。


「ラストジャッジメントスコアの内容に少し触れるから、ティアを連れてアルビオールに帰ってくれたら助かる。後は俺がしとくからさ。頼めるか?」

「任せたまえ。しかし下手を打つなよ、小僧」

「分かってる。ダアトの後に少しベルケンドに寄って、その次は予定通り、だな」


 承知したとアーチャーが頷いたと同時、ノエルが館内放送で着陸の案内をしている。もうダアトについたのだろう。ルークは大人しく座席のほうへ向かおうとし、アーチャーは直にハッチのほうに向かう。


「小僧。ノエルにはハッチを空けた後すぐに発進して構わんと言っておいてくれ」

「……着陸の時には座席についてシートベルトを、って館内放送丸無視するんだな、エミヤは」

「これも時間短縮のためだ」

「帰ってきたときにノエルに怒られても知らないぜ」


 軽く手を振って走っていこうとするルークを、アーチャーが呼び止めた。なんだと振り返るルークに、アーチャーはじっと刃色の瞳を向ける。アーチャーのその目が、先ほどまでの協力者としてのものとは僅かに違うことにルークは気づく。すっと目を細めた彼に、グレンの従者は小さく呟いた。
 小僧、グランツ響長のペンダントを取り戻してやったようだな。それを聞いて、ルークの表情が苦虫を噛んだかのようなものになる。


「ああそうだよ、気まぐれだ」

「そうか。それならいいのだが……まさか小僧、身辺整理のつもりだった、とは言わんだろうね?」

「――――なんのことだ?」


 淡々と返すルークの表情は揺らがない。無表情だ。ああ、なるほど。ルークのその表情を見てアーチャーは納得する。どうやらルーク本人は嘘をつくのが以前よりは上手くなっているようだ。隠したいことについてはまだぼろが出るようだが、少なくとも隠さなければならないことに対しては取り繕うことはできていると見た。
 どうやらルークも己の感情の状態を上手い具合に利用し始めたようだ。無駄に順応能力も高い。


「戯け。言ったはずだな、ルーク。嘘を吐くのは慣れた人間には簡単だが、吐き続けるのにはそれなりの技術が必要なのだぞ?」

「へぇ。それなら俺はモースへのはったりの為にも今の内に練習しとかないとだな」

「…………」

「……じゃあな、エミヤ」


 互いに視線を逸らし、背を向けた。贋作者(フェイカー)からのありがたい言葉を受け取り、ルークは今度こそ踵を返して走っていく。
 アーチャーは今度こそその背を見送って、呟いた。


「嘘を吐き続けることができないなら、意味がないぞ。ルーク、私を騙せるか?」


 アルビオールが降下する。








 アーチャーはダアトに降りた後真っ先にオラクル本部に向かい、まず外郭に手をついた。オリジナルスペルを口の中だけで呟き、その構造を把握する。そして記憶との照合を確認。よし、と頷き侵入する。教会の中だけなら一般の民衆でも勝手に入って咎め立てはされない。

 目立つ赤い外套をこの時ばかりは脱ぎ、砂漠越えでもしそうな大きな外套を羽織る。フードを被って頭を隠し、いつでも双剣を抜けるようにする。そして廊下をずんずんと進んでいけば、オラクル本部の入り口を守る兵がこちらに気づく。
 自分で言うのもおかしなものだが、なかなかの不審人物っぷりだ。オラクル兵は警戒するように剣を握り誰何(すいか)の声をあげる。


「何者だ? ここは関係者以外立ち入り禁ぐが、ぐほ、うがぁ!?」


 鬼畜の三連撃。鳩尾に鎧ごと掌底、体が折れたところで顎にまた掌底、よろけた後頭部に双剣で峰打ち。流れるような動作で容赦の一文字もなく意識を刈り取り、ついでにずるずると柱の影に引っ張っていってぐるぐると紐で縛りつける。


「ふむ、あっけないものだ。まあこの世界にトランシーバーや通信機器がないのが一番ありがたいことだな。動きやすい」


 因みに鎧の間に紐を挟めて動こうとすると節々への締め付けが酷くなり、激痛がするように縛るのが味噌だ。頭部の兜を外して猿轡をかませることも忘れない。これならそれなりに時間稼ぎもできるはずだ。よし、と満足げに頷き、アーチャーは小走りになってオラクル本部の深くを進む。
 構造は把握したし、どこの部屋に囚われているのかも知っている。耳を済ませて兵の巡回の癖を探り、隙を見て通り抜ける。どうしてもダメそうだと後方奇襲をして意識を刈り取らせてもらったが、さすがはオラクル騎士団の本部だけあって兵の錬度がそこそこ高い。
 キッチリと己の領分を完璧にこなしている。と、いうことは他者の仕事領域に過干渉するような低脳はいないということで、大きな見回りでもない限りばれることも無いということだ。恐らく後三十分くらいなら持つだろう。ヴァンの教育様様だ。

 アーチャーは目当ての部屋の前にたどり着く。ガチャリと扉を開けば、驚いた顔のイオンとナタリアが予想通りにそこにいた。エミヤ殿。あなたは。状況がつかめずにぱちくりとする二人に、説明は後回しだと言ってついてきてもらう。


「エミヤ。一体どこへ行きますの?」

「君達を仲間たちのところへ送り届ける。……っと、動くな。兵がいるな……寝かしてこよう」

「寝か……?」


 どういう意味だと問うまでもない。次の瞬間には一つ瞬きをする間に、アーチャーは兵との距離を一気につめあっと言う間に伸してしまった。
 殺さずに、だ。ここはオラクル本部と言うだけあって、兵の錬度は一般兵に比べても質はいい。それを知っている分だけ、アーチャーの実力をはっきりと示していた。イオンはほっと息を吐いて完全に兵の意識が落ちていることを確認していたアーチャーに近付き、恐る恐る尋ねた。


「あの……エミヤ殿」

「何だね」

「迷いなく進んでいるようですが……エミヤ殿は、ここの構造に詳しいのですか?」

「ん? ああ、実は恥ずかしながらここに来るまでに迷ってしまってね。あっちこっち行ったものだから、詳しくなってしまったのだよ」

「そうだったんですか……確かに、ここは迷路のように入り組んでいますから」


 納得したように頷くイオンにアーチャーは全くだと頷きをかえし、遠くから聞こえた足音を敏感に拾い取ってすっと目を細めた。


「……おっと、静かに。足音だ……これは複数だな。チィ、見張りを伸したのが予想より早く見つかっ……? いや、どうやらお迎えのようだ」

「アッシュ!?」


 壁際に身を潜めていたアーチャーの言葉をきいて、ナタリアは廊下の奥を見て声をあげた。あちこちの扉を開けては締めて、何かを探しているような人たち。赤い髪。割と離れていたはずなのに、しっかりとそのナタリアの声を聞き取ったアッシュはばっと顔を上げ、そして彼女の姿を認めて走り寄る。


「無事かナタ「あ、ナタリアっ! と、イオン様ーーーーー! ご無事ですかぁ!?」ぐお!」


 アッシュは婚約者の無事な姿を見て、珍しくほっとしたような表情を浮かべて声をかけた。否、かけようとしたのだが。
 ナタリアの後ろにちょこんと立っていた導師の姿を見つけた瞬間にアニスが疾風と化す。イオンに向かって一直線に向かってきた暴走ツインテールはアッシュを思い切り突き飛ばし、彼は壁にすごい勢いでダイビングするはめになったのだ。

 アッシュ! とナタリアは大慌てで壁にひびを入れている彼に治癒術をかけようと駆け寄り、そしてアッシュは屑が……と呻きながらも動けない模様。ナタリアが怒ったようにアニスの名を呼ぶのだが、アニスはごめんついうっかり、としゅんとしている。
 ついうっかりであんなに力いっぱい突き飛ばすな、とアッシュは叫んでしまいたかった。しかし、ごめんねイオン様が心配だったの、と珍しくしおらしい様子に早速ナタリアはほだされている。


「言っておくけど、ナタリアのこともすっごい心配したんだからね!」

「アニス……」

「それに、アッシュもだよ。すごくナタリアのこと心配してたんだから、早く元気な顔見せてあげなきゃ」

「ぐっ?! この餓鬼、何を勝手なことを言ってやがる!」

「えー、だって本当のことじゃん。オラクル兵に連れてかれた直後のアッシュの焦りようっていったら。すぐに単身で突撃して行きそうな勢いだったんだから、宥めるのに苦労したよぉ、本当?」

「アッシュ……ごめんなさい、心配をお掛けしましたのね。ですがあの時にはああするしか……それに、あなたたちなら必ず助けに来てくれると思っていましたのよ」

「む……」


 ナタリアの信頼のこもった微笑み。アッシュはもごもごと口の中で何かを言おうとして、結局失敗している。ただ、もうこんな無茶はするなよナタリア。アッシュ……。
 早速バカップルモードに突入中のようだ。そして結局アッシュを思い切り突き飛ばしてしまったことがいつの間にやらうやむやになっていることを確認して、アニスは陰でにまりと笑う。ふ、この二人ちょろいな。

 二人の世界を形成しているあの二人には、しばらくは他の誰もがアウトオブ眼中だろう。そのまま放っておいて、アニスはイオンの両手を握る。上から下までざっと見て見えるところに怪我は無い事を確認し、しかし不安は隠せない声色のままイオンに尋ねた。


「イオン様ぁ、大丈夫でしたか? 乱暴にされたり、ダアト式譜術を使わされたりはしませんでした……?」

「はい、大丈夫ですよ。軟禁されましたが、乱暴には扱われませんでした。アニスも無事のようで……」

「私のことはいーんです! 私はイオン様の護衛なのに、イオン様は私達のこと庇ってオラクル兵に捕まっちゃうし……もー、こっちの身にもなってくださいよぉ!」

「すみません」


 アニスとイオン、アッシュとナタリア。そこはかとなく同じような内容を言っている気がするのは気のせいだろうか。ジェイドが眼鏡を直しながらいつもの笑みを浮かべて、色々と疲れたようなガイのボヤキが零れる。

「やー、皆さんお若いですねー」

「年齢不詳のあんたがよく言うよ……」

「ところで時間が差し迫っているのでは無いのかね? 無事を喜ぶのはそれからにしてはどうだ」

「……ん? って、おわあああ!? あんたエミヤの兄さんじゃねえか、いつの間に!?」

「ふむ。それはアレか、嫌味か? 私は初めから居たのだが」

「おや、人外殿はどうしてこちらへ」

「……小耳に導師とナタリア殿下が大詠師に囚われたと聞いたのでね。本来の目的のついでだ、少々寄り道をして手助けをしたまでのこと」

「なるほど、本当に耳が早い。……いったいどのような情報源をお持ちなのか、ぜひとも一度教えてもらいたいものですねぇ……」

「それはできないな、企業秘密だ」


 眼鏡をきらりと反射させるジェイドと、にやりと黙秘を貫くアーチャーと。放っておけばまたブリザードを撒き散らしそうな二人を抑えて、ガイが慌てたようにアーチャーに声をかけた。


「まて、ここにあんたが居るって事はルークもここに居るのか……?」

「残念ながら今回は違うな。彼らはここには来ていない。いずれ合流するが今の私は単独でね。ああそうだ、導師イオン。大詠師の現在の行方はお知りではないかな?」

「……モースの行方、ですか? すみません、僕は捕まってからモースとあっていないのでどこにいるかは」

「大詠師の行方を聞いて、どうなさるつもりですか」

「少し動きたいのだが、私たちが動いているあいだに少々ヴァンをダアトに引き留めてもらいたいのだ。モースに色々吹き込んで、ヴァンの行動を妨害しようかと思ったのだが……」

「……ん? でもエミヤは教団員じゃないでしょ、モース様に会えるの?」

「なに、どうとでもなる。現にいま私はこうしてここに忍び込めているのだからな」


 首を傾げて聞いてきたアニスの言葉に堂々と返せば、少し乾いた笑いが返って来た。


「そっか……そうだよね、エミヤって人外だったもんねぇ……」

「そっ、そうですよね、エミヤ殿はとても……えーっと、足も速いですし、モースの一人や二人に追いかけられても捕まりませんよね!」


 アニスとイオンの脳裏に蘇るのは、人間ジェットコースターエミヤの人外魔境の速度とコーナーリング、その恐怖。そうだ、彼は心配するほうが馬鹿らしくなってくるほどの人外なのだ。微妙に二人の顔が青くなって、両人ともに遠い目をしている。


「やれやれ……モースならバチカルに向かうと言っていましたよ。早いならもうダアト港へ向かっていて、遅くとも執務室で準備をしているくらいでしょう。ただし六神将のリグレットが見送りをすると言っていましたから、近くに彼女が居るかもしれませんがね」

「……大佐殿にしては素直に情報を渡してくれたものだな。何のつもりだ?」

「いいえ、ただあなたに借りを作ったままにしておくのは危険な気がしましてね。……イオン様とナタリアをここまで連れ出していたのは人外殿、あなたでしょう」

「これくらいで別に借りを取り立てようとは思わんのだが……まあ良いとしよう。キムラスカに出られた後では厄介だな。早速ここの執務室から捜してみよう。君たちはオラクル兵が起きる前にとにかくここから離れるんだな」

「……お待ちになって!」

「? 何かな、ナタリア殿下」

「ルークとティアは……無理をしていませんの?」


 おや、とアーチャーは少しだけ目を大きくする。振り返って、意外なことを聞いたとナタリアのほうを改めて見てみる。


「驚いたな、まさかナタリア殿下からそのようなことを聞くとは」

「……あなたは私をどう思っていらっしゃるのかしら?」

「いや、殿下にとっての『ルーク』はそこのアッシュだろう」

「そうですわね。私が約束をした『ルーク』は、ここにいる彼ですわ。ですが、私にとってはルークも七年間を過ごしたもう一人の幼馴染です。……心配をするくらい許されてもいいでしょう?」

「……それはぜひともあの戯けに直接言って欲しいものだ。……私もグランツ響長も、あれとはまだ出合って日は浅い。ルークが生まれて七年間をともに過ごした君たち幼馴染や、もしくはグレンだな。その言葉なら届くやもしれん」

「……どういうことですの?」

「ガイ、ナタリア殿下。次にルークにあったときはぜひとも一発殴ってあいつの目を覚まさせてやってくれ、ということだ。ではな大佐殿。熱くなりがちのこのご一行の引率をせいぜい頑張ってくれたまえよ」


 ひらりと手を振って、アーチャーは一息に跳躍する。あっと言う間に見えなくなった姿を追いながら、やはり人外ですね、と呟いたジェイドの声がポツリと響いた。





  




 ザレッホ火山の火口から降りて、ルークは辺りを見回した。そこらじゅうでゆらゆらと大気が揺らいでいる。周りに居る魔物も妙にごつごつした岩っぽい魔物ばかりだ。


「へえ。暑すぎて息苦しいって聞いてた割には、そうでもないんだな。息を吸うだけでも喉や肺が焼かれる位だって言ってたのに」

「……火山の感想なんて誰に聞いたの? 大方予想はつくけれど……グレンから?」

「ああ、暑すぎて暑すぎて正気がとんで、そんな暑いところで一人だけ涼しそうな顔してやがるなら三十代後半の男性軍……いや、なんでもない」


 話を聞いたときのことを思い出しているのか、ルークは楽しそうにくくっと小さく笑う。流石はアーチャーが言ったとおりのグレン効果と言った所か。
 しかし楽しそうなのは大いに結構なのだが、ティアとしては先ほどの言葉の内容が気になる……三十代後半の男性軍人が何だと言うのだろうか。


「でもその言い様、グレンはザレッホ火山に火口から入ったことがあるってことよね。……本当に、どんな旅をすればそんな機会があるのかしら」

「あいつの探検好きは知ってるだろう、ティア・グランツ。しかも相棒はあのエミヤだぜ。あいつが『エミヤ、俺ザレッホ火山の溶岩見てみたい!』だとか言えば一発で荷物抱えにされて、連れてきてくれるだろうよ」

「…………そうね」


 アクゼリュスにて、人を三人抱えながらすごい勢いで走り去っていた身体能力を思い出してティアも苦笑する。
 導師守護役曰く人間ジェットコースター。
 導師曰く乗り物酔いって人間にも適応できるのでしょうか、と。
 ……なんだか能力の使いどころを間違っているように思えるのは気のせいだろうか。


「さて、俺たちもさっさと行くか。ミュウ、お前は確かセフィロトの位置を感じることができるんだったな」

「はいですの! あっちの方向にあるのが分かるですの!」

「じゃあ迷ったら頼む。行くぞ、ティア・グランツ」


 ルークはミュウを道具袋の中に押し込んだ。肩に乗せるのもいいのだが、それでは突発的な戦闘になったときに少し危ないのだ。
 やるべきことをやる。今のルークには、先ほどまでの楽しそうな笑顔はもうない。見慣れてしまった無表情に戻っている。グレンに関する時の表情と、それ以外の時との落差にいつも本当に微かに動揺して、しかし彼女は兵士らしくそれを瞬きひとつで押さえ込む。

 迷ったら頼む、と言っていたわりには迷いなく進む足取りに疑問を感じながら、ええと頷いて彼女も彼の背を追っていく。

 そして何度か溶岩の満ち引きを見極めて、グネグネと曲がった道を進んでいると、突然巨大な火球が飛んできた。咄嗟にルークは引いて避けるが、当の火球はルークが避けた先で、轟音を上げながら火口の内壁を大きく抉っていた。凄まじい威力だ。


「住居不法侵入に怒り狂ってるのか。気持ちはまあ解らないでもないが……しかしヤバイな。あれ、とんでもなく固いぞ。俺の剣でダメージを食らわせられるかどうか……」

「……エミヤさんと合流するまで、戦闘は避けたほうが良いかもしれないわ」

「だろうな。あんな岩みたいな外皮じゃ物理防御が高いだろう。お前みたいな譜術士が鍵だろうが、はっきり言って俺は一人であいつの攻撃を引き付けて逃げて戦って、前衛一人でどうにかできるほど実力は無い」

「……随分冷静に無理だって言い切るのね」

「俺は人外じゃない無力な馬鹿者だ。馬鹿は馬鹿なりに己の実力を把握しておかないとな」


 それに、ルークはまだ死ねないのだ。何があっても、死ぬわけにはいかない。願いをかなえるまで死ぬわけにはいかない。生きなければならない。そして、それは彼女にも同じことが言える。外殻大地を降下させきるまで、彼女に死なれては困るのだから。
 だから、それがどうしても渡らざるを得ない危険な橋ならともかく、この様にまだどうにかできる可能性がある状況で、自爆突撃覚悟で進むわけにはいかないのだ。

 アーチャーが来るとしたら後どれくらいだろう。暑さとしても、グレンの記憶で見たときほどではない。ならば、少々待機時間が長くなってもグレンの時ほど体力も削れはしない。ならば……


「……っ、ルーク!」

「ん? って、うお!?」


 冷静に思考を巡らせていれば、ティアの鋭い声とミュウのご主人様、という悲鳴のような声。突然腕を引っ張られて、ティアの上に倒れこむ―――のだけは避けようと、両腕を何とか地面につき気合で回避する。そしてすぐ背後でドオンと言う大きな音。壁の崩落音。ばさばさと羽ばたく音と、重い何かがずしんと降り立つ地響き。
 ティアは緊張したような表情で、ミュウは小さく震えていた。振り返らずとも状況は把握できる。


「おい、何の嫌がらせだ、これは」


 すぐに体勢を整えて、腰の剣に手をかける。
 振り返った先では口から火を吐く焔と岩のドラゴンが、敵意もあらわにこちら側へとやってきていた。

 ごうごうと連続で吐き出される火球をやり過ごせば、ロッドを握ったティアが声をあげる。


「気をつけて、来るわ!」

「しかたない……前衛は引き受けた。防御と逃げでおとりを優先するからとにかく譜術を頼んだぞ!」


 簡単な戦略を伝え、ルークはフィアブロンクの間合いへと駆け込んでいく。













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