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No.15223の一覧
[0] 【習作】焔と弓兵(TOA×Fate)[東西南北](2010/02/19 00:50)
[1] プロローグ[東西南北](2010/01/07 02:13)
[2] 01[東西南北](2010/01/25 23:57)
[4] 02(改定)(エンゲーブ)[東西南北](2010/01/25 23:59)
[5] 03[東西南北](2010/01/18 00:09)
[6] 04 [東西南北](2010/01/25 23:59)
[7] 05(タルタロス)[東西南北](2010/01/25 23:59)
[8] 06[東西南北](2010/01/26 00:00)
[9] 07[東西南北](2010/03/15 23:51)
[10] 08(前編)[東西南北](2010/03/25 00:56)
[11] 08(後編)[東西南北](2010/03/25 00:57)
[12] 09[東西南北](2010/01/28 12:06)
[13] 10(セントビナー)[東西南北](2010/01/28 12:07)
[14] 11(フーブラス川)[東西南北](2010/03/31 10:36)
[15] 12(カイツール)[東西南北](2010/01/28 12:07)
[16] 13(コーラル城)[東西南北](2010/01/30 00:09)
[17] 14(ケセドニア)[東西南北](2010/01/30 00:09)
[18] 15(キャツベルト)[東西南北](2010/02/04 22:39)
[19] 16(バチカル)[東西南北](2010/01/25 23:56)
[20] 17[東西南北](2010/01/27 00:03)
[21] 18(バチカル廃工場)[東西南北](2010/03/25 01:01)
[22] 19[東西南北](2010/03/25 01:02)
[23] 20(砂漠のオアシス~ザオ遺跡)[東西南北](2010/01/31 00:02)
[24] 21(ケセドニア)[東西南北](2010/03/25 01:04)
[25] 22(アクゼリュス)[東西南北](2010/03/25 01:05)
[26] 23(魔界走行中のタルタロス船内)[東西南北](2010/03/25 01:07)
[27] 24(ユリアシティ)[東西南北](2010/03/14 23:42)
[28] 25[東西南北](2010/03/25 01:08)
[29] 26(アラミス湧水洞~)[東西南北](2010/02/09 00:02)
[30] 27(シェリダン)[東西南北](2010/03/25 01:09)
[31] 28[東西南北](2010/03/25 01:11)
[32] 29(シェリダン~メジオラ高原セフィロト)[東西南北](2010/02/14 22:54)
[33] 30(メジオラ高原~ベルケンド)[東西南北](2010/03/25 01:12)
[34] 31[東西南北](2010/03/25 01:13)
[35] 32(ユリアシティ)[東西南北](2010/03/14 23:44)
[36] 33(上空飛行中アルビオール船内)[東西南北](2010/03/25 01:15)
[37] 34(グランコクマ)[東西南北](2010/02/24 23:50)
[38] 35[東西南北](2010/03/14 23:45)
[39] 36(ダアト~ザレッホ火山)[東西南北](2010/03/14 23:45)
[40] 37[東西南北](2010/03/14 23:45)
[41] 38(ダアト)[東西南北](2010/03/25 01:17)
[42] 39(ルグニカ平原の川を北上中)[東西南北](2010/03/25 01:19)
[43] 40(キノコロード)[東西南北](2010/03/25 01:21)
[44] 41(セントビナー~シュレーの丘)[東西南北](2010/03/14 23:46)
[45] 42(ケセドニア)[東西南北](2010/03/14 23:48)
[46] 43(エンゲーブ)[東西南北](2010/03/25 01:22)
[47] 44(戦争イベント始まり )[東西南北](2010/03/25 01:23)
[48] 45(戦争イベント・一日目終わり)[東西南北](2010/03/22 00:04)
[49] 45.5(幕間)[東西南北](2010/03/25 01:24)
[50] 46(カイツール√・二日目)[東西南北](2010/03/25 00:54)
[51] 47(エンゲーブ√・三日目)[東西南北](2010/03/27 00:11)
[52] 48(戦争イベント・両ルート最終日)[東西南北](2010/03/28 00:08)
[53] 49(ケセドニア)[東西南北](2010/04/04 11:26)
[54] 50[東西南北](2010/04/12 00:02)
[55] 51(シェリダン)[東西南北](2010/04/30 01:47)
[56] 謝罪文(色々と諦めました)[東西南北](2010/04/30 01:50)
[57] 52(地核作戦タルタロス)[東西南北](2010/06/18 00:39)
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[15223] 41(セントビナー~シュレーの丘)
Name: 東西南北◆90e02aed ID:86d35bc4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/14 23:46


――― introduction in


「失礼いたします、インゴベルト国王陛下」

「入れ」


 ぎい、と軋むような扉の音。入ってきたのは見慣れた姿。恰幅の良い体格、白と紫の法衣。


「……?」


 それはよくよく見慣れた人物のはずなのに、なぜか違和感が付きまとう。表情が違うのだ。常の悠然として自信に溢れた大詠師としての誇りが見受けられないし、彼の瞳に浮かぶ色は陰鬱としている。
 暗い、奈落のそこを覗き込んでいるような瞳に、キムラスカ・ランバルディア王国の国王、インゴベルト六世陛下は眉根を寄せ戸惑うようにその人物の名前を呼ぶ。


「来ていたのか、モース」

「はい。この度はナタリア殿下の偽姫嫌疑の報告に参りました」

「……っ!」


 モースの言葉に、息を呑んだインゴベルトの顔色が悪くなる。机に肘を突き組んだ指の上に額を乗せるようにして俯き、静かに小さく聞こう、とだけ答えた。


「殿下の乳母が証言したことですが、やはり今のナタリア殿下は亡き王妃様におつかえしていた使用人、シルヴィアの娘メリルで確実のようです。本物のナタリア殿下は死産、しかし王妃様は心が弱っておいででした。そこで乳母は数日早く生まれていた自分の孫と取り替えた、と」

「それはもう聞いた! 何度も言わずともいい、確たる証拠がつかめたからここに来たのではないのか!」

「……はい。乳母が証言した場所から、嬰児の遺骨が見つかりました。掘り返しにはゴールドバーグ将軍とその旗下の兵もついておりました。虚偽無しは彼にお尋ねください。……インゴベルト陛下、そしてこれが、その場所から出てきた遺骨です」

「―――――――――」


 こつん、と机の上に何かが置かれる。その音にびくんと大げさなまでに肩を揺らして、酷く緩慢な動作でインゴベルトは顔を上げた。
 小さな、白い、脆そうな。酷く小さな、人の頭の骨がある。よりにもよって頭蓋骨だ。普段なら恐ろしいと目を逸らしていたかもしれないそれに、インゴベルトは震える手を伸ばした。その手が届いて欲しいのか、届かないで欲しいのか。

 無言でその様子を見ていたモースはその骨を丁寧に持ち上げて、カツカツとインゴベルトのすぐ横に近付いたかと思えば、その手の上に持っていた遺骨を置いた。インゴベルトの体の震えがひどくなる。
 おお、と、呻いているのか嘆いているのか、もしくはその両方か。一気に老け込んでしまったかのように、インゴベルトの覇気がなくなる。とても大切なものを胸に抱くように、かたかたと震える体でその遺骨を抱きしめた。


「では、ナタリアは……あの子は……」


 王政を司る為政者の長として人前で涙を流しはしないが、ここに一人きりだったのなら泣いていたのかもしれない。それくらい酷く体が震えていて、声もかすれていた。


「インゴベルト六世陛下。あなたの実の娘ではありません」

「そのような、そのようなこと……ああ……」

「陛下、ご決断を」

「しかし……しかし、あの子はずっと、この十八年間……っ!」

「スコアには、マルクトとの戦争が詠まれています」


 以前のように威勢よくその正当を訴えるのでもなく、以前のようにその先の繁栄を謳うのではなく、ただ聞くだけでも陰鬱になりそうな声で、モースは事実だけをゆっくりと言う。それ以上は何もしない。何をどうするべきです、とは言わない。
 大詠師がそう言っているのだから。キムラスカは代々スコアを政治に深く取り入れてきたのだから。その逃げ道さえなくすようにして、淡々とした言葉が続く。


「王女殿下をどうするのか。陛下、ご決断を」

「――――――……」


 ナタリア、と。血の繋がらない娘の名前を、インゴベルトは声にならない声で呼んだ。



――― introduction out




『高い山ほど昇りたい、よっしゃあルーク、目指すはソイルの木だ! ……ふっ、あの高さ、お前はついてこれるか?』

『ばっか、グレン……お前俺の木登りレベルしらねえな? てめえのほうこそついてきやがれ!』

『ええ!? あの、グレン、ルークも……えーっと、あ! あの、二人とも……あっちの木にしたほうが良いんじゃないでしょうか』

『『えええええ』』

『あんなに高いのに昇ったら、登るは良いけど降りられなくなってしまいます』

『んだよー、イオン。俺らがそんな仔猫みたいなポカやらかすと思ってんの?』

『そーだそーだ、グレンの言うとおりだ。俺らに限ってそんな馬鹿なことするわけねえだろ!』

『だ、だってほら、高すぎると審判するのも難しいじゃないですか。高すぎて太陽で目がくらんでどっちが先だったのか、公平な審判ができなかったら嫌じゃないですか』

『『むむ』』


 降りれなくなるかも、というところでは大いに不服そうな顔をした赤い髪の二人組は、しかし勝負事の審判に対しては難色を示した。二人はちらりと遠目に見える木を見上げる。確かにあの高さだと、下から見上げてどちらが先に昇りきったか、の審判をするのは難しそうだった。

 はっきりとした差ができて勝負がついたときなら良いが、微妙な差で本当は勝っていたのに負けた、となると悔しすぎる、という思考だろう。
 うーむと二人してイオンの言葉に唸っていると、少し後方から二人の名を呼ぶ声がした。ぎくりと肩を強張らせて、グレンとルークは目を見合わせる。仕方ないな、ああ仕方ない。
 一番高い木に登れないのは無念だが、このままでは追いかけてきている保護者二人にイオンを連れ出したことをしこたま怒られてしまいそうだ、と目だけで会話をする二人は意思疎通をしていたのか、否か。

 二人は急かすようにイオンにスタートの合図をきらせようとする。スタートの合図? と首を傾げたイオンにルークは、スタートの合図ってったらあれだよあれ! と言うのだが生憎イオンは導師の仕事に対しては詰め込まれているのだが、俗事についてはまだとんでもなく疎いのだ。困っていると、グレンが口早に教えてくれる。
 それに頷き、もう一度口の中だけで繰り返す。
 小さく笑う。自分が木に登るわけでもないのに、イオンはなんだか楽しくてわくわくしていたのだ。


『んじゃイオン、合図よろしく!』

『あ、はい!』


 ふと、教団にある導師の私室の窓から見下ろしていた中庭の風景を思い出す。オラクル兵の訓練風景。競争しようとする二人。いつでもスタートをしようとする体勢を整えて、審判らしき人物が手を上げていて、何かを言いながら手を振り下ろす。あの時、彼が言っていた合図はこんな言葉だったのだろうか?


『位置について、よーい…………どん!』


 緊張気味の合図の言葉に、弾かれたように走り出した二人の後姿。
 優しい風が吹いていた。
 青い空と、陽だまりの記憶。



「どうかしたのか、イオン?」


 いつか二人が昇っていた木を見ていたイオンは、後ろから聞こえた声に振り向いた。金色の髪と、この空と同じ明るい青色の瞳。イオンは苦笑して首を振る。視線を再び木に戻した。


「いえ、以前ここに来たことを思い出していただけです」

「………………ああ。そう言えばグレンとルークと、二人して木登り競争なんてものやってたんだっけ」

「はい。僕は審判で、スタートの合図を切って……」

「で、そのあとお前も来いってルーク達に言われて、結局ソイルの木の展望台に昇ったんだよな」

「展望台に寝転がって、空を見たんです。青くて、高くて、つい三人揃って空に手を伸ばして……」

「……そうか」


 いつかの笑っていた赤い髪の彼を思い出して、ガイの顔にも悲しそうな笑顔が浮かぶ。もうすぐこのセントビナーは沈む。魔界へと落ちる。そしてホドのように魔界の泥の中へと沈んでいくのだろう。だからこその感傷だろうか。


「やれやれ……ったく、今ごろあのぼっちゃんは何をしてるんだろうかねぇ。あいつの性格なら絶対に、セントビナーが沈むのを黙ってみてるわけが無いと思ってたんだが……」


 結局来なかったみたいだな。落胆の溜息を吐くガイに、イオンは首を振る。なんだ、と問うような目をするガイを見て、にこりと笑ったイオンはソイルの木へと視線を向けた。
 高い場所では風が吹いているのだろう、小さく木の葉が揺れて囀っている。


「……グレンが言ってたんです。いつかまた、もう一度三人で展望台に昇ろう、って」

「……」

「ルークが、覚えてないわけがないんです。だから、きっと、ルークがここに居ないのはセントビナーを助けるためなんだと思います。大丈夫ですよ。アクゼリュスみたいにあっと言う間に落ちてなくなる、と言う風にはならない。ルークがどうにかしようとしてくれているはずです」

「……そうだな。あいつが……ルークがこの町を見捨てるわけがないよなぁ」

「ジェイドが、ルーク達はパッセージリングを操作していると言っていました……外殻大地を浮上させているパッセージリングを操作しているなら、きっと……」


 呟くようなイオンの言葉にガイはもう一度強く頷いて、いつかお子様じみた二人が登っていた木を眺める。なんだか感傷的な空気が流れる中、たそがれている二人に後方から元気な声がかかった。


「あ、イオン様ー、それとガイ! こっちの住民はもう避難完了しましたー! そっちはどうー?」

「アニス。ええ、大丈夫です。こちらも大体は終わったようですから」

「そーですか……。ねえガイ、じゃあもうそろそろ私達もさっさと逃げたほうが良いんじゃない? 危ないんでしょ?」

「ああ、そうしたいのは山々なんだが……んー、こっちはあらかた終わってるようだがまだあっちの一角に人が残ってる、かな? ……ちょっと見てくるよ。アニスはイオンを連れて旦那のところにでも―――っ! なんだ!?」


 突然の地鳴り。激しい揺れに、かなり鍛えこんでいるはずのガイでさえよろめいてしまうほどだった。バランスを崩して倒れそうになるイオンを必死に支えながら、アニスは焦ったように辺りを見回した。


「ちょ、ちょっとこれって……うわああ、マジやばなんじゃないですかぁ?」

「長い……嫌な予感がするな」


 ガイが言い終わったと同時だった。ずん、と一際大きな揺れと何かが崩れるような音。揺れは先ほどよりも小さくなったが、ずずずずずと地面の揺れは収まることなく続き、よりにもよってまだ人が少し残っていた気配のあった一角のほうが静かに地面へと沈み始めていた。
 いまガイたちが居る方の揺れは小さくなったが、落ちていくほうはゆれが酷くなっているようだ。大慌てで裂け目まで走っていけば、そこから見えるのは立つことだけに必死になって動くこともままならない取り残された人たちの姿。


「ああ! マグガヴァンのおじーちゃんたちが残ってる!」

「くそ!」

「ガイ、落ち着いてください! 僕たちが飛び降りても何もなりません、ここで何かできる方法を探さないと……ジェイド!」


 ガイ達から少し遅れてこちらに走り寄っていた男にイオンが声をかける。ジェイドは裂け目から酷くゆっくりと落ちていく大地に残された住民を見て、小さく息を吐き眼鏡をかけなおした。


「ふむ、思ったよりも多く残されていますね。ティアが居れば譜歌で、と思ったかもしれませんが、彼女が居ても全員を守るのは難しかったか……何か他に方法を考えましょう」

「ジェイド坊や、わしらのことは気にするな! それよりも町の皆を頼むぞーっ!」

「くそっ、なんとかならねえのか!」

「大佐、空を飛べるような譜術など知っておられませんの?」

「そんな譜術を知っているなら、既に試していますよ。そもそもそんなに便利な譜術があれば、研究者という研究者がこぞって研究して、誰もが知って誰もが使えるように理論を組み立てなおしていたでしょうがね」


 ジェイドの溜息交じりの言葉にキムラスカの王族二名はぐっと奥歯を噛む。無力感に苛まされていた時、しかしナタリアの言葉に何かを思いついたのか、ガイがそういえば、と声を上げた。みなの視線が一斉にガイのほうへ向く。
 何か案があるのですか、と問うてくるジェイドに頷き、聞いた話なんだが、と前置きをして話し出す。


「教団が発掘したって言う、大昔の浮力機関を使ってシェリダンで飛行実験をしているという話を聞いたことがある」

「それなら僕も聞いたことがあります。確かキムラスカと技術協力するという話に了承印を押したはず……飛行実験はもう始まって、そろそろ完成間近でもおかしくないはずです」

「それが本当なら、こっちにはキムラスカの王族が居るんだ。交渉して貸してもらえれば何とかなるかもしれない」

「でもでも……大佐、間に合うんですか? アクゼリュスの時みたいにばーって一気に落ちてっては無いみたいだけど、急に落ちていったら」

「それは、現時点ではそうならないことを願うしかないですが……」


 ジェイドの言葉に一瞬迷うも、それでも何もしないよりもましだ、とアッシュが言おうとした時だった。ふと、頭上にかかる大きな影の存在に気づく。皆が一様にはっとして空を見上げれば、大きな飛行機械が頭上を横切るところだった。
 その黒い機体は危なげもなく揺れているはずの大地に着陸し、取り残されている町の住民たちに向かってその機体に乗るようにと声を張り上げている。機体から下りた階段で残されていた人たちを収容し、離陸したその機体はそのままセントビナーの町のはずれへ。


「ちょ、何あれ!?」

「アルビオール、ですか……?」

「さっき俺が話してたヤツだよ」

「うっは、なんてタイミングのいい」


 まさか先刻まで話していた浮遊機関の実物が、こんなにもいいタイミングで現れるとは思っていなかった。様子を見るのと話を聞こうと皆が機体に近付けば、町の外れの辺りで着地したその機械から一人の青年が出て、こちらに向かって走り寄ってくる。


「皆さんがエミヤさんの言っていたご一行様達ですか? おいらはギンジ。エミヤさんの頼みを受けて、あなたたちに協力するようにとのことです」









 続く地震が終わったのを感じて、腕組みをしていたルークは目を開けた。ちらりと横に控える協力者を見る。アーチャーはルークの視線に一つ頷き、確信しているような口調で推測を話す。


「セントビナーがひとまずは落ちきったようだ。今はディバイディングラインだとかいうものの力場でなんとか保っている状態だろうな」

「分かった」


 ルークは後ろを振り向く。そうすれば、控えていたティアが了解したといわんばかりに真っ直ぐにパッセージリングに進んでいった。その後姿を見てそれはもう黒いオーラを放出しているルークに、アーチャーは明後日の方向を向きながら溜息をついた。


「ルークよ」

「なんだ」

「……いい加減にごくごく普通の一般的な心配の仕方を覚えてはどうかね」

「心配? はっ、誰が誰を心配しているって言うんだ、エミヤは」


 淡々と紡がれたルークの言葉に、アーチャーはもう疲れたと言わんばかりに額に手を当てる。毎度毎度ティアがパッセージリングを起動させるたびに不機嫌になっておいて、何故これなのか。ルークの背後からでは彼の表情を見ることはできないが、それはもう剣呑な表情をしているのだろう。
 ほらそこだ、手をぎりぎりと握り締めて握りこぶしを作っておいて今更何を。いっそそう言ってしまいたかったが、そうすればまた何故そんな結論に? というルークのぶっ飛び理論が待っているのだ。全く、本当に手のかかる協力者だ。アーチャーは心中で再び大きな溜息をつく。

 そんな会話をしていれば、パッセージリングが起動する。歩いていく前に、ふとルークは確認するようにアーチャーに声をかける。


「ここの文字盤はまだ書き込まなくても良いんだよな?」

「ああ、セントビナーが沈むことを防ぐだけでいい。今ここのパッセージリングでルグニカ平原ごと大地を降下させては、降下した戦場に残された軍人たちはそのまま降りた大地で戦争を始めるだろう。大きな混乱と問答無用に対峙しなければならない停戦理由に、戦場の降下はうまく使える。
 戦争真っ只中に戦場が崩落、戦場との連絡不通、大陸の降下、というのが軍上層に戦争停止をさせる理由には一番分かりやすいだろう。初めから落ちていた戦場で戦争をするのと、今まで戦争していた戦場が突然降下するのとでは意味が違う」

「キムラスカは本当にそんなことでも起きないと、戦争を止めようとはしないのか……」

「愚問だな。約束された繁栄の為に今の今まで散々手を汚してきた連中も居るのだぞ。モースが筆頭だというだけで、それと同じ考えを持つ輩などいくらでも居る」

「……そうだな。まあモースもまだ上手いこと道化を演じてくれてるだろうさ」

「……ふむ。私の知らないうちにモースに何か仕込んだのかね?」

「別に。対立中同士に手を組ませるには、共通の敵を作ればいいだけのことだろ」


 ルークのその言いようにおおよその概要は分かったのだろう、アーチャーは少しだけ目を見開き、やがて天を仰いで嘆息する。


「それはそれは……小僧、お前も既に立派な悪人だぞ」

「煩い、なんとでも言え」


 そこで会話の区切りとして、ルークはパッセージリングに向かって歩いていく。両手を掲げて、超振動を起こし操作盤の円の周りに刻まれた赤い暗号文を削り取る。時間にして三十秒あるかないかだ。
 いつものように文字を刻まなかった分だけ負担も少ない。


「よし、これでいいだろう。ルーク、次はどこに行く予定だ」

「……ルグニカ平原の状況を見て決める」

「そうか。ではグランツ響長、ルークの左目を……グランツ響長?」


 アーチャーの訝しむような声にティアははっとして慌てて答えているが、アーチャーとルークと、二人の視線は緩むことがない。ティアはもう一度なんでもないと答えてすぐにルークの左目に手を当てようとするのだが、その腕をルークに掴まれる。
 掴んだ手袋越しの体温が以前よりもまた冷たくなっている気がして、ルークの眉間にはさらに皺が寄った。


「……おい、体調が悪くなったのならすぐに言え。黙って無理されるのは迷惑だ。……あんたには外殻大地を全て降ろしきるまで死なれては困るんだからな」

「……大丈夫よ。なんでもないわ」

「身体状況の過信は兵にあるまじき行動だぞ?」

「……っ、少し立ちくらみがしただけよ。薬も飲んでるから痛みもないわ。大丈夫、それよりも左目を診せてちょうだい。一応治癒術をかけておいたほうが良いでしょうから」


 あくまでも毅然としてそう言うティアに、ルークの怒りのボルデージが急上昇する。それはもう一気に上昇してあっと言う間に天井を突き抜けてメーターオーバーを記録するくらいの、それくらいの勢いで上昇していた。
 彼女のこういうところが嫌いだ。だってグレンによく似ている。自分のことは二の次にして自分以外の誰かの事ばかり。もっと自分のことを考えればいいのにといくらこっちが思っても、あっさりと無視をする。世界のために自分を犠牲に世界のために命を捨てる。顔も知らない大勢のために死ぬのを仕方ないと許容するのだ。

 ああいらいらする、イライラする、苛々する!

 ルークの目つきがそれはそれは剣呑になって、おそらく音がしていたならブッツン、と何かがぶち切れた音がしていただろう。


「…………え」「おお」


 そしてルークがとった行動にティアは硬直しアーチャーは感心したような声を上げた。
 ルークは何をしたのか。それは。


「ちょ、っと、な、ななななにしてるのよルーク!」

「何をとはなんだ。横抱きにしてるだけだろう」

「ちょっ……ええええ!?」


 俗に言えばお姫様抱っこと言うやつだ。ここにアニスでも居れば、こやつ素でやりおった! だのと大いに笑顔ではやし立てていたことだろう。

 因みにティアは絶賛混乱中。助けを求めて視線をめぐらせ視線だけでアーチャーにヘルプを求めるが、なぜか彼は彼で親指をぐっと立てて、良い感じににやりとした笑顔でこちらを眺めていた。ダメだ、きっと彼に助けを求めても意味がない。ティアは自分の孤立無援をひしひしと感じ途方にくれたくなった。
 そのままルークはシュレーの丘から出ようとする。ティアも必死になってもがこうとするのだが、落ちるぞといわれて少し怯む。しかしだからと言ってこのまま大人しくしているなどできようはずもない。だっていくらなんでも恥ずかしすぎる。


「ちょっと! いい加減にして、あなた何のつもりなの!?」

「シュウ先生は痛み止めや発作を抑える薬を出してくれたみたいだが、治療薬は無かったはずだな。ならばあんたの内臓器官には俺の譜眼と同じくダメージが散々蓄積されているはずだ。今まで感じなかった眩暈を感じたならそれなりに疲れてるんだろう。これ以上の疲労蓄積だけでもなるべく回避するべきだ、これからもパッセージリングは起動しなきゃならないんだからな……おい、大人しくしろ」

「いいわよ降ろして! 疲労って、これじゃあ余計に疲れるだけだわ……」

「なに? なんでそうなる」

「何でって……ああもう、だいたい何でよりにもよって、よ、横抱きなのよ!」

「仕方ないだろう。俺はエミヤみたいに人一人を小脇に荷物担ぎなんてできないし、肩に担ぐにしても背負うにしてもそしたらお前、胸が当たるぞ。俺は役得だが、お前それ嫌だろ?」

「む!? ちょ、っと……なん……あ、あなたは今感情減退で……っ!」

「感情はほとんど忘れた。だがな、勘違いするなよ、生存に必要な三大欲求はあるんだぞ。好き嫌いは分からなくなったが食欲はあるし、睡眠欲もあるし、蓄積経験年齢は七歳でも肉体年齢は十七歳なんだから性欲も残ってるんだろうさ」

「る、る、ルーク? 何言って……」

「ああそうだ、ついでにこの機会だから言っておくが、お前もうちょっと異性に対して警戒心を持ったらどうだ。俺はそう言う感情を持っていないが、薄くでもそう言う欲ぐらいはあるはずだ。お前も感情も何もない欲のはけ口にされたくないだろう。いい加減あの無防備はどうかと思うぞ」

「……………………」


 どうやら実は純情な……というかかなり奥手のティアにはなかなか過激な発言に含まれたらしい。固まっている。ああ大人しくなって運ぶのが楽になったかな、と呑気に思っているルークの腕の中でそれはもう見事に彫像と化している。
 色々と脳内がルークの発言についていけてないのかもしれない。

 アーチャーは「ふっ、二人とも若いな」「ツンデレか」「むしろクーデレ?」「ほお、よく素面でそんなことを言えたな小僧」「いや違うか、感情減退どうこうよりも、自身にそのつもりがないからこそ逆にあけっぴろげで言えるのか?」「ちい、無自覚め」と小声でぶつぶつ呟きながら、せっせと寄ってくる魔物たちに遠距離狙撃を繰り返しまくっていた。

 魔物に襲われれば流石にルークもティアを降ろして戦闘体勢に入っていただろう。見事にブラウニーに徹している。こんな時にそんな風に援護しないで下さいとティアなら怒って言っていただろうが。


 そろそろシュレーの丘のセフィロトから出る頃合だ。それはもう平然として歩くルークに対して、赤くなって固まっていたティアが意識を取り戻して小刻みに震えだすまであと五秒。そしてロッドをぐっと握り締めるまであと八秒。




―――『何か』が盛大に爆発するまで、あと十秒をきっている。





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