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No.15223の一覧
[0] 【習作】焔と弓兵(TOA×Fate)[東西南北](2010/02/19 00:50)
[1] プロローグ[東西南北](2010/01/07 02:13)
[2] 01[東西南北](2010/01/25 23:57)
[4] 02(改定)(エンゲーブ)[東西南北](2010/01/25 23:59)
[5] 03[東西南北](2010/01/18 00:09)
[6] 04 [東西南北](2010/01/25 23:59)
[7] 05(タルタロス)[東西南北](2010/01/25 23:59)
[8] 06[東西南北](2010/01/26 00:00)
[9] 07[東西南北](2010/03/15 23:51)
[10] 08(前編)[東西南北](2010/03/25 00:56)
[11] 08(後編)[東西南北](2010/03/25 00:57)
[12] 09[東西南北](2010/01/28 12:06)
[13] 10(セントビナー)[東西南北](2010/01/28 12:07)
[14] 11(フーブラス川)[東西南北](2010/03/31 10:36)
[15] 12(カイツール)[東西南北](2010/01/28 12:07)
[16] 13(コーラル城)[東西南北](2010/01/30 00:09)
[17] 14(ケセドニア)[東西南北](2010/01/30 00:09)
[18] 15(キャツベルト)[東西南北](2010/02/04 22:39)
[19] 16(バチカル)[東西南北](2010/01/25 23:56)
[20] 17[東西南北](2010/01/27 00:03)
[21] 18(バチカル廃工場)[東西南北](2010/03/25 01:01)
[22] 19[東西南北](2010/03/25 01:02)
[23] 20(砂漠のオアシス~ザオ遺跡)[東西南北](2010/01/31 00:02)
[24] 21(ケセドニア)[東西南北](2010/03/25 01:04)
[25] 22(アクゼリュス)[東西南北](2010/03/25 01:05)
[26] 23(魔界走行中のタルタロス船内)[東西南北](2010/03/25 01:07)
[27] 24(ユリアシティ)[東西南北](2010/03/14 23:42)
[28] 25[東西南北](2010/03/25 01:08)
[29] 26(アラミス湧水洞~)[東西南北](2010/02/09 00:02)
[30] 27(シェリダン)[東西南北](2010/03/25 01:09)
[31] 28[東西南北](2010/03/25 01:11)
[32] 29(シェリダン~メジオラ高原セフィロト)[東西南北](2010/02/14 22:54)
[33] 30(メジオラ高原~ベルケンド)[東西南北](2010/03/25 01:12)
[34] 31[東西南北](2010/03/25 01:13)
[35] 32(ユリアシティ)[東西南北](2010/03/14 23:44)
[36] 33(上空飛行中アルビオール船内)[東西南北](2010/03/25 01:15)
[37] 34(グランコクマ)[東西南北](2010/02/24 23:50)
[38] 35[東西南北](2010/03/14 23:45)
[39] 36(ダアト~ザレッホ火山)[東西南北](2010/03/14 23:45)
[40] 37[東西南北](2010/03/14 23:45)
[41] 38(ダアト)[東西南北](2010/03/25 01:17)
[42] 39(ルグニカ平原の川を北上中)[東西南北](2010/03/25 01:19)
[43] 40(キノコロード)[東西南北](2010/03/25 01:21)
[44] 41(セントビナー~シュレーの丘)[東西南北](2010/03/14 23:46)
[45] 42(ケセドニア)[東西南北](2010/03/14 23:48)
[46] 43(エンゲーブ)[東西南北](2010/03/25 01:22)
[47] 44(戦争イベント始まり )[東西南北](2010/03/25 01:23)
[48] 45(戦争イベント・一日目終わり)[東西南北](2010/03/22 00:04)
[49] 45.5(幕間)[東西南北](2010/03/25 01:24)
[50] 46(カイツール√・二日目)[東西南北](2010/03/25 00:54)
[51] 47(エンゲーブ√・三日目)[東西南北](2010/03/27 00:11)
[52] 48(戦争イベント・両ルート最終日)[東西南北](2010/03/28 00:08)
[53] 49(ケセドニア)[東西南北](2010/04/04 11:26)
[54] 50[東西南北](2010/04/12 00:02)
[55] 51(シェリダン)[東西南北](2010/04/30 01:47)
[56] 謝罪文(色々と諦めました)[東西南北](2010/04/30 01:50)
[57] 52(地核作戦タルタロス)[東西南北](2010/06/18 00:39)
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[15223] 43(エンゲーブ)
Name: 東西南北◆90e02aed ID:118e7dd0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/25 01:22




 テオドーロから伝えられたルークからの伝言を聞いて、はいそうですかと何も考えずに従うことはできない。嘘は付いていないだろう。それでも、誰かの伝聞を何も考えずにはいはいと了承してその通りに動くなどできない。事は一つの街の存亡に関わるのだ。
 シュレーの丘へ行き、一応本当にパッセージリングが起動しているかどうか確認するべきだとのアッシュの主張を否定しなかったのはそれゆえだ。本当に起動しているのを確認したら、以降はルークの行動を全面に信頼し外殻大地降下はあっちに任せてこちらは和平の為に動く。

 ガイあたりはルークのことが信用できないのか、と少しお怒り気味だったが、アレはほとんど八つ当たりだ。ジェイド・カーティスはそう考えて、溜息をつきながら眼鏡を直す。


「落ち着きなさい、ガイ。例えばルークがパッセージリングを起動させたとしても、グランツ謡将もパッセージリングを操作できるのです。……ルーク達が操作した後に起動をまた停止させられていてはことがことでしょう」


 ルークがいれば即座に否と答えていただろう。
 パッセージリングの起動とユリア式封呪。その両方を解くにはユリアの血縁の遺伝情報が必要で、そしてパッセージリングを起動させれば解呪者に障気が流れ込む。再度封呪する時も然りだ。
 ただでさえヴァンの体もギリギリで、そのような状況でいくら効果的とは言え再び封呪をかけられるものか。ルークか、エミヤか、グレンか。誰かが居ればそう答えていただろうが、今その事実を知っている人間はここにはいない。

 よって、ジェイドの話す可能性を否定できなくなったガイは大人しくなり、俯いて小さく舌打ちをする。イオンが気遣うようにガイの名を呼び、ガイは少し苦笑気味で謝っていた。因みにアッシュには謝っていない。
 ナタリアは何かを言いかけて、しかし小さくため息をついてアッシュの傍に立っていた。アッシュは何もいわない。本当に、アッシュも健気なものだ。アッシュもナタリアも、ガイがホドのガイラルディア伯爵家の遺児だということを知ってしまったからこそ何も言わないのだろう。言えないのかもしれないが。

 二人がそんな負い目を持ってしまっているのに気づいているのだろう、ガイは何も言わずにそっぽを向くアッシュに一瞬だけ申し訳無さそうに眉根を下げて、それでも簡単に長年の蟠りが解けるわけもない、こちらも気まずそうに顔を背けている。

 全く、ルーク。あなたもとんでもない爆弾を放置したまま好き勝手動いてくれるものですね。

 ジェイドは心中でごちて、アニスが困った顔で空気を和らげようとあれこれ言っている。それに便乗するような形で適当に言葉を繋げ、さて、と彼らにそろそろシュレーの丘へと向かおうと提言しようとした時だ。


「あの、ジェイド・カーティス様はどちらのお方でしょうか」

「それは私ですが……失礼ですが、どちら様で?」

「ああ、あなたが。私はユリアシティでテオドーロ市長の補佐をしているものです。この手紙をジェイド様へと預かっております。どうぞ」

「手紙……? 一体誰からのものですか」


 封筒を裏返して表にして、どこにも差出人の名前がない。当然といえば当然の問いに、手紙を渡してきた市長の補佐は困った顔をして首を振る。


「すみません、何も言わずに渡すようにとだけ言われておりますので……内容をお読みになれば誰からの手紙かはお分かりになると思います」

「そうですか。分かりました」


 受け取りポケットに入れるジェイドの様子に、イオンが首を傾げて読まないのですか、と聞いてくるがジェイドは肩をすくめた。アルビオールで移動中にでも読みますよ、今は時間がもったいないので。その言葉に皆は納得したらしい。
 其れでは一刻も早くシュレーの丘へ。促すナタリアの声に皆も頷き、アルビオールの停泊している港へと一同は歩いていく。その最後尾を歩きながら、ジェイドはこっそりと封筒を改めてみた。

 封筒は薄い。手紙は恐らく一枚二枚。読もうと思えばすぐにでも読めるだろう。それでもすぐに読もうとしなかったのは、この手紙の送り主に大体の当りをつけていたからだ。何のヒントもない封筒。宛名も差出人の名前もない手紙。
 こんな無礼千万のものをネクロマンサーに送りつけるようなやつなどそうそういない。

 恐らくはルークかあの人外殿か。

 差出人はなんとなく予想はつくのだが、内容がどんなものか想像がつかない。それでもしも秘密裏な内容だったとして、それを顔に出してしまってはと流したのだ。ポーカーフェイスには自信があるが、あの二人は何を言ってくるか想像が付かない。念には念を入れておくに越したことは無いだろう。


 そしてアルビオールの中で一人手紙を見て、ジェイドは大きく溜息をついて天井を見上げるはめに陥った。





 シュレーの丘へ入る。パッセージリングに浮かぶ文字。ルグニカ平原全体を支えているという文章に、ガイが驚愕の声をあげ、アニスが頭を抱えて唸りナタリアは焦ったようにエンゲーブの民の避難を提案した。否が返るわけもない。皆で慌てて外殻大地に戻る。
 そしてエンゲーブへと向かう途中。ルグニカ平原を通り過ぎようとした一行の目の前に現れたのは、キムラスカとマルクトによる戦争の光景だった。





 マルクトの軍艦の周りには騎兵が並び、突撃を繰り出している。キムラスカの歩兵とマルクトの騎兵がぶつかり合う。
 歩兵と騎兵のぶつかりあいでは、圧倒的に騎兵が有利だ。歩兵は取り囲むようにして騎兵を押し包もうとしているが、人間以上の突進力をもった騎兵を押し包み包囲しようとするならそれなりの人の壁がいる。押し包む前に一点突破をしようと騎兵部隊の隊長が声を荒げていた。

 一点突破。それを狙っていたマルクトの騎兵隊長は、ふと遠目に歩兵部隊の後方で準備している長槍の兵装を見つけた。パイク兵だ。このまま突撃をして敵にダメージを与えても、パイク兵の槍衾に思いきり狙い打たれる。あちらに被害を与えても、こちらもそれなりに被害を被るだろう。騎兵隊長は舌打ちをした。
 状況を整理しようと後方を見れば、こちらの後詰の歩兵も到着しだしている。どうやら、戦線の維持はできたようだ。騎兵隊長はほっとして、一時撤退こそが上策と転進の命を出そうと大きく息を吸う。

 その時、キムラスカの赤い軍艦の譜業砲撃が狙いを定めた。ぎちぎちと砲の方向が調節され、エネルギーが収束する。ぼうと紫色の音素の光が浮かび上がり、何発もの砲撃が放たれる。狙いは過たずマルクトの後詰の歩兵部隊へ。そして、己の軍兵の一部を巻き込んでしまう形になるが、マルクトの大多数の騎兵すらも巻き込んでの砲撃攻撃だった。

 馬鹿な。自軍すらも巻き込むキムラスカ軍の砲撃に、マルクトの騎兵隊長のうめき声は軽くかき消される。そして、それが彼の最後の言葉だった。

 押し包むように降ってくる砲撃。轟音、絶叫、血の匂い。絨毯爆撃でキムラスカは自軍側にも多少被害が生まれたが、マルクトの被害はさらに甚大だ。前衛の騎兵部隊の被害は特に悲惨だ。総員撤退の命を受け後退する。しかしそれを狙い打つようにキムラスカの歩兵部隊が追撃をかける。
 被害を受けた最前線を助けようと、マルクトの後詰の無事な歩兵部隊が前線にまで出て行く。抜剣。あたり一面で剣戟の音が鳴り響く。

 キムラスカの軍艦は先ほどの譜術砲撃で余過のエネルギーは使い切ってしまったのだろう、お返しだとマルクト軍艦に乗っている譜術士十数人が力を合わせて放つ大きな譜術攻撃に対して、譜術障壁を張れていない。凄まじい譜術の爆撃に、軍艦の装甲の一部は剥がれ落ちて進行方向は無理やりにそらされる。
 その結果、進行するはずだった針路上に重なる自艦を避けようとキムラスカの軍艦部隊に一瞬の混乱が生まれる。その隙を見逃そうとはせずに、マルクト軍の反撃と起死回生の攻撃が始まった。

 凄まじいまでの譜術攻撃に、キムラスカの最前衛の軍艦は既に満身創痍だ。黙して目を閉じていた艦長は、ギリリと奥歯をかみ締める。口の中で一言だけ家族の名前を呟いて、捨て身の突撃を命じた。一瞬目を見張る乗り組員達。逃げたいものは逃げろという艦長に首を振る。

 軍艦と軍艦がぶつかり合った。キムラスカの軍用艦が放つ譜業の攻撃をマルクトの譜術士たちがはった障壁が跳ね返す。その譜術障壁を打ち砕かんと、喰らう譜術攻撃をものともせずに突進するキムラスカの軍艦。ついにキムラスカの突進力がマルクトの譜術障壁を打ち破り、その先鋭がマルクトの軍艦の横腹に突き刺さった。


 爆音。悲鳴。焼けた匂いが戦場全体に充満していた。



 その風景を空を往くアルビオールから見下ろして、ナタリアが呻くようにして掠れた声を振り絞る。


「どうして……! どうして戦いが始まっているのです!?」

「これはまずいですね。場所が場所です、下手をすれば両軍が全滅する」


 戦争が始まっていたことに呆然とするみなの中でも、常に冷静なジェイドのままの落ち着いた言葉に、みなの頭も何とか冷えていく。そして今戦場になっている場所はどこなのか、それに気づいたアニスが真っ青になって口元を押さえた。


「はうあ! そういえばここルグニカ平原だ……下にはもうセフィロトツリーがないから……」

「これが……ヴァンの狙っていたことだってのか!」


 かつての同郷の者が企てる大量殺戮に、ガイの表情が歪む。ぎりりと拳を握って奥歯をかみ締めるガイの横で、アッシュが低い声で呟く。


「あの野郎は外殻の人間を消滅させようとしていた。あいつが、スコアでルグニカ平原で起きる戦争を知っていたとしたら……」

「なるほど。シュレーの丘のツリーをなくし、戦場の両軍を崩落させれば手っ取り早い。効率のいい殺し方ですね」

「ったく、冗談じゃねえ。理由があってもなくてもあのヴァンの野郎がやろうとしてることなんざむちゃくちゃだ! おい、早く戦争をとめるぞ!」

「そうですわね……戦場がここなら、キムラスカの本陣はカイツールでしょう。私が本陣へ行って停戦させます!」


 今すぐにでもカイツールへ行くのだと気負うキムラスカの王族二人に、何とか無理やり落ち着こうとして深呼吸を繰り返していたガイが少し待て、とつとめて冷静を装った声を上げる。


「しかしそれならエンゲーブも危険だ。あそこは食料の町だし、補給の重要拠点として考えられるはず……戦争なら真っ先に狙われるだろう。セントビナーを放棄して丸裸になっている食料庫を、戦争の敵軍が見逃すはずがない」

「崩落前に攻め滅ぼされる可能性がある、ということですね」


 目を閉じて、沈痛な声でイオンが呟く。その言葉に周りの皆が一瞬俯き、しかしすぐに顔を上げる。そうならないためには、どうするべきなのか。落ち込む暇があるなら、何ができるかを考えなければ。しかし誰かが何かを考える前に、ジェイドが真っ先に案を出した。


「……では、二手に分かれましょう。私はエンゲーブに向かいます。マルクト軍属の人間が一人いなければ話にならない。ナタリアとアッシュ、アニスとイオン様、それにガイ。あなたたちはカイツールへ行って停戦を呼びかけてください」

「……! おいおい、ジェイドの旦那、一人でエンゲーブへ行くってのか? それならせめて俺たちの中からもう一人……」

「今は戦争中で村の中もピリピリしているでしょう。キムラスカに関係のある人間があまりこないほうがいい。ガイ、貴方はマルクトの伯爵家の出身だとしても、今はファブレ公爵家の使用人ですよ?」

「それは……」

「それに、イオン様もダアトの最高権力者です。停戦組に入れておいたほうがいいでしょう」


 ジェイドの言葉に声を詰らせるガイに、ジェイドはふっと小さく笑い眼鏡を直す。ポケットに両手を入れて、いつもの飄々とした声音で言葉を紡いだ。


「なに、心配されるまでもありません。これでもマルクト皇帝の懐刀といわれる男です。それなりに死線をくぐってきているし、軍を率いた経験もあります」

「本当に、てめえ一人に任せて大丈夫なんだな?」

「ご安心を、そう簡単にくたばりません。……ギンジ! まずカイツールへ行ってください。そこでナタリアたちを降ろします。その後はエンゲーブへ……皆さんも、それでよろしいですね?」


 ジェイドの言葉に是非もなく、彼らは頷いた。
 誘導されていると、自覚もないままに。








 ジェイドはエンゲーブで降りて、ローズ夫人に話を通そうと彼女の家へ行く。そうすれば、予想通りの人間がそこにいた。


「これはこれは大佐殿。お一人かね?」

「あなたが言いますか人外殿。思い切り私に一人で来いと指定しておいて」

「それは語弊があるな。貴様に手紙を書いていたのはルークだろう」

「ルークの手紙の内容を貴方が知らないわけもないでしょう」


 肩をすくめて返すジェイドは辺りを見回す。そして、疑問に思ったことを尋ねてみた。


「ところで、ルークとティアはどちらにいるんですか」

「……気にするな。隣の部屋で痴話喧嘩中だ」

「……………、………それはそれは。感情減退のリハビリも順調なようで」


 一瞬の間の後、からかうように呟いたジェイドの言葉にアーチャーはふっと口元を歪める。そして隣の部屋から聞こえる喧嘩の声を聞き、あさっての方向を向き少し肩を落とした。


「これで双方自覚がないのだぞ。私の苦労を察してくれ」

「ご愁傷様です。ですが、ルークの感情減退は貴方にも責任があるのでしょう? せいぜい頑張ってください、人外殿」

「……時間もないことだしな。エンゲーブの住民の避難については先に私から話しておこう」







 エンゲーブの村長、ローズ夫人宅その一角にて。先ほど……そう、ゆうに三十分ほど前から両者一歩も引かない言い合いが繰り広げられている。時折心配になった夫人がこっそり扉の間から二人の様子を覗くのだが、わりと顔が近い位置なのに二人の目と目の間には火花が散り、もう駄目だと諦めた。覗き見をする趣味もない。ローズ夫人は大人しく扉を閉めて自分のやるべきことをするために家から出て行く。
 彼女も暇ではないのだ。夫や息子、兄弟をのこしてアル……なんとかに乗り込むのを拒否する女達や、家族とはなれるのを怖がる子どもを説得して廻らなければならないのだから。


「……今度ここに帰ってくる時には、いい加減話が纏まってると良いんだけどねぇ」


 小さくぼやきながら、ローズ夫人は村人の説得に回っていった。


「お前は馬鹿か! 何でここにいるんだ、アルビオールに残れと言っただろう!」

「あなたこそ何を言ってるの? 戦場を民間人を連れて移動するつもりなんでしょう。なら、一人でも護衛の数が多いほうが良いに決まってるわ」


 平行線をたどり続ける議論は何度目か解らないやり取りを繰り返している。残れ、できない、その繰り返し。ルークの一日総舌打ち回数の最高記録を更新し、それは順調に現在進行形で絶賛更新中。
 彼の眉間には皺が寄って、これで服を変えて髪を上げればそれこそオリジナルにそっくりな表情だ。いや、下手したら不機嫌なアッシュよりもさらに鋭い眼光をしていたかもしれない。そんなとんでもなく柄の悪い表情のまま、苛々とティアを睨みつけながらルークは言葉を吐き捨てる。


「ああそうだろうよ、一人でも護衛が多いほうが助かるのは事実だ。しかしお前が護衛できるか? 障気障害で体はズタボロ、そんな状態で長い行軍についてきて万一出会った兵士と戦って、民間人を守れると?」

「……私は軍人よ、民間人を守る義務がある。いざとなったら、」

「民間人を助けるためにその身を挺して庇うとでも?」


 ティアの言葉をルークは鼻で笑う。その声に込められた感情はどこか小馬鹿にしている響きを宿していて、彼女の表情が険しくなる。そしてティアが何かを言う前に、ルークがすっと目を細めた。とても冷ややかな緑の瞳だ。その瞳の色に、彼女の声は喉の奥に引っ込んでしまう。
 ルークの凍てついた緑の瞳は、先ほどまでのあからさまな不機嫌さを表していた表情に比べて酷くわかり辛い。けれど気づいてしまえば何倍も萎縮してしまうような、冷え切った色を湛えていた。


「いいか、お前は軍人の義務より先に外殻大地降下の為にも生き延びる義務があるんだぞ。お前は、万一のときは民間人を盾にしてでも生き延びなければならない。より大勢の命を助けるために、だ。お前はそれを選んだのだから、その選択を最後まで選び続けなければならない。
 ……世界のために自分の命を賭ける覚悟はできているだろうが、はたしてお前に世界のために命を見殺す覚悟はできているか?」

「それは……」

「目の前で、助けを求める民間人を見捨ててでも己の命を優先させる覚悟はあるのか」

「……そうしたくないから、アリエッタから飛行系の魔物を借りるように手配したんでしょう?」

「確立を減らす努力はしたさ。それでも確実とはいえない。万が一と言う場合もある。いい加減、お前は今からでも遅くないからアルビオールに乗って……」

「却下よ。私が乗るくらいなら、一人でも多くのこの村の人たちを乗せたほうが良いわ」

「だから、お前の体の状況を……畜生、どうして自分の体のことを自分でわかってないんだ! 自己管理は兵士の義務だろう!」


 激昂したルークはティアの腕を無遠慮に掴んだ。驚いたティアが腕を引こうとするのだが、それでも彼は掴んだ腕を離さない。ぐっと力を入れて、跡が残るようなその力加減にティアの表情が歪む。それに気づかぬままルークはティアの腕を掴み続けて、苛々と吐き出す。


「ほらみろ、また体温が低くなっている。障気が体内に溜まって臓器の機能が落ちてきてるんだ。これは軽度の症状じゃない、もう重度の症状だ。そんな状況で戦場を突っ切るなど馬鹿げている! いくら治癒師といえども付いてくるのを許容するわけにはいかない。さっさとアルビオールに乗って、」

「るー、く…………腕、」


 離して、と堪えるような小さなその言葉でルークは我に返り、はっとして慌てて手を離す。痛みに無理やり耐えて歪んでいた表情がほっとしたように戻り、まだ少しじんじんと痛みを訴える手首に軽く手を当てていた。その様子を見て流石に罰が悪くなったか、今までのルークの勢いが少し弱まった。
 もごもごと口の中で何かを呟いた後、そっぽを向いて腕を組んでいる。

 くそう、頑固者め。こうなったら本当に食事に睡眠薬でも一服盛って、寝てる間にさっさと出発させるしかないか。……ミュウに戦争の殺し合いをみせるのも気が引けるし、やはりミュウを置いていけば少しは機嫌も取れるか? うん、あとフローリアンに何とか頼んで……よし、やはりここは一服……


「待ちなさい、ルーク。あなた何言ってるの」

「……ん?」

「睡眠薬って……ミュウを置いてかれても誤魔化される気は無いわよ」

「…………………………」


 ルークは無言でしくじった、と顔を顰めた。頭の中だけで考えていたと思ったが、どうやら小声でぼそぼそ喋っていたらしい。これしきで動揺しすぎだくそったれ。自分自身を罵りながらガシガシと頭をかく。
 ルークのトンデモ発言を聞いていたティアの表情は、それはそれは険しい。なにせ食事に睡眠薬でも混ぜるかな、発言だ。

 ……もう、こいつ絶対に引かないな。

 ルークは大きく溜息を吐いた。指で米噛み当りをとんとんと叩く。戦力状況を再確認。人間代表人外と、ばっちりしっかり分類人外と。人外二人がいるのと、視界確保のためにアリエッタからグリフィンを数匹借り受けている。その背に乗ってアーチャーが上空から索敵すればおおよそキロ単位で探索できるだろうし、住民もアルビオール一号機と二号機の二機に分けて乗れるのだからグレンのときよりも女子ども老人は少ないはず。進軍速度は遅いだろうが、いくらかマシだろう。

 ……万が一のいざ、ということでもあればカイツールでアリエッタがやったように、グリフィンに命じて問答無用でティアを戦場から離脱させることもできる。
 これ以上引く気のない者を相手取って言い合いするよりもさっさとエンゲーブから住人を移動させたほうが良いか。


 そう思うことにして、ルークは渋々分かった、と呟いた。








 ティアとの壮絶なる口論の結果をアーチャーに報告しようとしてルークが扉を開けた先。ルークはなんだか久しぶりに見る感じがする眼鏡の男を発見した。ジェイド・カーティス。呟くような彼の声に、おや、とこちらを向いた男は胡散臭そうに笑う。


「お久しぶりですね、ルーク、ティア。それで? いい加減に付いていく付いてくるなの痴話喧嘩は終わったんですか」

「大佐! 私たちはそのような関係ではありません!」

「そうだ、どこが痴話喧嘩だ、どこが。その単語が成立する為の関係性に齟齬がある。一度辞書を引いて言葉から勉強しなおしたらどうだ、ネクロマンサー」


 ジェイドのからかう言葉にティアはいつかのように全力否定。ルークはルークであの時とは違い淡々と否定。さらに言うなら、ルークの否定はかなり皮肉気になっている。ちらりとアーチャーの方を向く。
 アーチャーは頭が痛いとでも言いたげに眉間を指で揉んでいた。


「……これはこれは、ルークにしては随分と小難しい言い回しですが……人外殿、あなたの影響ですか?」

「分かって言ってるだろう貴様。全く、濡れ衣甚だしい」


 ああしかしこのようなルークを見たら、マスターに何といって叱られるかたまったものではない。アーチャーの地味に切実な嘆きを聞き流して、ルークはジェイドに現状をどこまで把握しているのかを聞く。それにジェイドは大方のことはそこの人外殿から聞きました、とだけ返して改めてルークを見る。


「ところでルーク、一つ聞いてもいいですかね」

「……程度による」

「なに大したことではありません。……何故、ここで私と接触しようと思ったのですか」

「…………」


 ルークは無言だ。ただ、観察するような目になっている。そんな目をするようになったルークをジェイドが見たのはこれが初めてで、その姿はどこか、今は眠っているもう一人の旅の仲間の姿にダブって見える。言葉に出して本人に聞いてはいないが、それでも硬くなるばかりの確信。
 少し固い顔をするジェイドをみて、ルークは別に、と小さく息をついた。


「そんなに大した事じゃないさ。ただ、ちょっとアンタに確認したいことがあってな」

「確認、ですか」

「……まあそれは追々話す。それよりもアルビオールの二号機はもちろんここにいるんだろう? なら、まだ乗り切れてない女や子ども、あと足手まといになりそうな老人や病気がちのものを中心に運んでくれるようにギンジさんに頼んでくれ」


 ルークがアーチャーの方をちらりと見て、誤魔化すように話を逸らした。アーチャーはアーチャーでそんなルークの動きを知っていて何も口を挟まなかった。ただ面白そうにルークを見ているだけだ。
 そこでジェイドは初めて、ルークとアーチャーが完璧に力を合わせているわけではないらしいと思い至る。協力はしているのだろう。ただ、最終的な目的地が違う者同士の協力で、ルークはアーチャーに聞かれたくない思惑を持っていて、アーチャーはアーチャーでそれを妨害はしようとはしていないが……どうやらこの様子だとこちらも影でそれなりに手を打っているのだろう。

 こんな人外相手にあれこれやっても無駄だと思いますがねえ。

 ルークの勝ち目のなさを大きく見て、ジェイドはしみじみそう思った。何をするつもりなのかは解らない。しかし、良い機会だ。少なくともここからケセドニアへ住民を避難させるまではともに行動するのだから、その間にできる限り状況を把握しておくに越したことは無い。
 そのためにもここはルークの機嫌を取っておいたほうがいいだろうと判断して、ルークの話に乗る。いくつか言葉を交わし、ではギンジに伝えてきますとローズ夫人の家から出て行く。

 出て行く直前、後方でティアの声がした。どうやらもう一機アルビオールが増えたことをローズ夫人に伝えてくると言っている様だ。輸送できる人数が増えたのなら、それだけ引き離される家族の数も少なくなる。早く移動したほうがいいのだから、ローズ夫人の説得もしやすくなるだろう条件は早めに知らせておいて確かに損はない。
 頷くルークの声がして、そしてルークはこれからのことをアーチャーと話している。

 扉が閉まって数歩分。呼び止められてジェイドは振り返った。
 振り返った先のティアの表情をみて、彼は少し目を細める。どうやらこそこそ水面下で動こうとしているのは二人だけではなかったらしい。


「大佐。今すぐに、では無いんですが……少しお聞きしたいことがあるんです」

「聞きたい事とは……わざわざこうして言いに来たということは、あの二人には気づかれないように知りたい、という訳ですか?」

「……はい」


 三人だ。とんだパーティーだ。三人が三人とも相手に知られないように、気づかれないようにと動こうとしている。その中でもアーチャーはルークに、ルークはアーチャーに対して警戒をしているようだが……さて、彼らはこの少女に対して警戒をしているのだろうか。


「……私にわかることなら答えますが、私も全知全能ではない。お答えできない可能性もありますよ?」

「いえ、大佐の研究理論についてですから」

「研究理論?」

「はい。では、私はローズ夫人に報告しなければ行けませんので、また後ほど」


 一礼して去っていく少女の姿を見ながら、首を傾げる。研究理論と言っても、ジェイドが研究して理論だてた仮説も研究して結果からまとめた理論も、それこそ掃いて捨てるほどある。まあ記憶力には自信があるので、話を聞いてからすみません忘れました、という間抜けな自体には陥らないだろう。
 陥らないだろうが……


「……やれやれ、虫の知らせですかねぇ。こういう嫌な予感ほどよく当たる。外れて欲しいものですが」


 ざらざらとした嫌な予感が胸を過ぎる。
 溜息をついて、ジェイドはアルビオールのほうへと歩いていった。















以下追加小ネタ。
(ティアとジェイドがいなくなった後でのルークとアーチャーの会話)



「なあエミヤ、そもそもエンゲーブの住人達って移動させなきゃいけないのか」

「む……まあ確かにあの時は崩落すれば助からないと思っていたからな。大地を降下させられる方法も成功するかが分からなかったからこそ移動をさせた、という流れだったか」

「でも俺たちは外殻大地を降下させることができるって知ってるだろう?」

「……エンゲーブの住人を村に残して大人しく降伏して、か? やめたほうがいいだろう」

「なんでだよ。戦場を渡るよりもよほど安全じゃないか」

「占領統治下の兵は精神的にも正常ではないことが多い。占領先の民は全て己よりも格下だという優越感にかられ、そもそも戦争に出ている自体でいくらか精神的に高揚している。平常心で戦場に出て敵を殺せるものか。そのような兵が大挙して押し寄せるのだぞ。スコアには『近隣の村を蹂躙』して『マルクト帝国を滅ぼし繁栄する』と詠まれた軍だ。はたして占領した村に対して友好且つ寛大な処置を行うであろうかね」

「……でも。そうだ、国同士で捕虜に対する扱いとか占領地への配慮とか住民の保護とか、そう言うのってナントカ条約で決められてるんじゃないのか? それに、占領後の統治の為にも民のご機嫌はとっておきたいと思うだろう?」

「どうかな。記憶を見ているなら知っているだろう? あのフリングス将軍でさえ、完全に兵を抑えておくのは難しかった。まあ確かにあの時は、戦場が突然降下して浮き足立っていたという理由もあるが……キムラスカで彼以上に兵卒の意識を清廉に保ち、しっかり統率できる将軍、そして総大将はいるかね? はっきりと言ってしまおうか、占領後の村に女性やこどもが居るのはたいそう危険だ」

「…………でも、軍は民間人を守るためのものだって、あいつも言ってたぞ。いくら敵国だからって……。そうだ、それなら女や子ども、老人だけでも全部ケセドニアに運んで、それ以外のやつらは大人しく降伏すればいいじゃないか」

「剣や銃火器、譜業兵器を持たずとも反抗しようと思えば反抗できる。ましてや占領した後進軍していた時に背後で反乱を起こされでもしては目も当てられん。残っているのが男だけなら、それこそ徹底的な締め付けをあえて行い……いや、推測で話すのはよしておこう。この世界の人間があちらと同じくそこまでするかどうかは、その時にならねば分かりもせん」

「敵国の占領統治下の村に住民を残すのはいろんな意味で危険、っていうことなんだな?」

「同盟中においても、精神的に立場が対等ではない状態での同盟軍基地の間借りでも問題が頻発するものだ。戦争真っ最中の占領統治下など倫理もクソ喰らえ状態の兵の巣窟だ、危険――」

「分かったよ、もういい。住民移動はする。……ろくでもないな、戦争なんて」

「……そうだな。有意義な戦争などありはしない。戦争など、とことんろくでもないものばかりだ」

「ったく、気分わりぃ……」






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