なあ、魔術? ってやつ? 譜術とは違うんだろ、どんなのなんだ。
問われた言葉に、魔術のない世界で理論を説明するより実際に見せたほうが早いと思ったのだ。見せようとしたのは、己の手に一番馴染む黒白の双剣。投影、開始(トレース・オン)。呟くと同時、手の中には慣れた重みがそこにあり、そして主は苦しみながら倒れた。
とっさに解析の魔術を使えば、ぞっとするような結果がはじき出された。アーチャーが双剣の投影を行使した瞬間ラインの流れは正常に戻り、第七音素という魔力がこちらへと流れ込み―――そして逆流している抑えがなくなった瞬間、グレンの体を構成している第七音素がゆるゆると乖離し始めていた。
大慌てでラインの逆流の感覚を思い出す。苦しむ主の心臓の上辺りに手をおき、魔力、いや第七音素を流し込もうとして―――脳裏に過ぎる映像に驚いて手を離す。数瞬呆然としていたが、しかしすぐに苦しむ主を見て我に帰りふたたび手を当て第七音素を送る。
また、同時に見えてくる映像。それはまるで別の誰かの目から見る世界のような、
「ちっ、この世界の第七音素とやらは記憶だの形成だのに相性がよすぎるようだ。緊急事態だ、中を覗くことになるが―――許せよ、マスター」
そうやって、アーチャーはグレンの生き筋を見てこれから起こることを知り、また同時にラインの混線により彼も従者の生き筋のおおよそを知ったのだ。
人では見得ぬ距離の先、神秘こそ宿さぬがそれでも技術の粋を集めて作られた強弓をもって、弓ではありえない距離の先を射抜く。指を離せば、それは風を切って解き放たれる。
「一つ」
弓に番えて、矢を放つ。放たれるころには、既にそれは『当たって』いる。
「二つ」
迷いのない動作で次を番えて、流れるように放つ。
「三つ」
番えて放つ。その繰り返し。当たり前のことを淡々とこなすような彼の動作が尋常でないことを知っているものは、今この甲板にはいない。知るのはただ狙い撃たれる標的と、彼の実力を知っている主のみ。
「四つ」
たとえどれだけ離れていようと、彼の鷹の目からは逃げられない。
「…………五つ」
櫛の歯が欠けていくようにポツリポツリと先頭集団の魔物が落ちていく。
その様子を後方から見やって、リグレットはその柳眉をひそめた。
「……何だ、あれは」
「さあな。だが、先ほどから落とされているところから見て狙撃でもされているのかもしれんぞ」
「狙撃? ばかな、この距離だぞ。ラルゴ、お前はタルタロスとどれだけの距離があると思っている」
「でも、案外そうなんじゃない? 譜術にしては威力が小さすぎるし狙いが緻密すぎる。良くも悪くも大技だと周りを巻き込むようなもんだからね……ほら、また一匹落ちてくよ」
シンクの言葉に視線を巡らせば、その通り、またグリフィンが落ちていく。全体の数からすれば落ちていくのは大海に落とされたワインの一滴のようなものだが、それでも無為に落ちていく姿を見て動揺が全くないわけでもない。いや、六神将ともなればうろたえるほどでもないが、魔物の後ろについている兵達が動揺するだろう。
「アリエッタ! 先ほどからグリフィンが落ちているが、何故かわかるか?」
ラルゴ、と呼ばれた大柄な男が振り返って後方にいる小さな少女に尋ねるが、少女はびくりと一度肩を揺らしてひどく小さな声でぼそぼそと答える。
「解、らない……でも、さっきから…………みんな、痛いって」
「では、やはり狙撃か……?」
「だろう、な!」
「ラルゴ?!」
びゅん、と風を切り飛んできたそれをラルゴは手でつかむ。それは鍛えていたからつかめたというよりも、戦の中で生き抜いてきた戦士の勘ゆえの奇跡だ。
何の容赦もなく己の眉間を狙い撃ち抜かんとしたそれを握って、驚いているリグレットに放り投げる。彼女はそれをまじまじと見て、呻くように呟いた。
「矢だと……?!」
「ああ、正真正銘何の変哲もないただの矢だ。そのただの矢をあの距離から放ってこの精度、か……リグレット。マルクト軍にはとんでもない弓手が潜んでいたようだぞ」
「骨が折れるね。僕らも散開しといたほうがいいんじゃない?」
「……ラルゴとアリエッタは左翼へ回れ。私とシンクは右翼へ。アリエッタ、最前列の魔物たちはなるべく距離を空けて散開させておきなさい」
「はい、です」
「了解した」
「ま、妥当だろうね」
それまで中心あたりに固まっていた指揮官がそれぞれ分散する。それを見やって舌打ちをする男がいたことなど知らぬまま、黒獅子と呼ばれる男は獰猛に笑う。
「なかなかどうして……楽しめそうじゃないか」
「ちっ、やはり指揮官ではなく魔物のほうを狙うべきだったか……ふん、がらにもなく私も焦っているということか? それもこれも、いざとなったら無茶を言い出しそうな君のせいだぞ―――グレン」
けたたましい警告音と音素灯の明滅にルークはびくりと肩を揺らし、ティアは静かに顔をあげた。ジェイドはすっと目を細める。そして大股で壁に近付き、そこに取り付けられていた伝声管に向かって尋ねた。
「ブリッジ! どうした?」
『大佐、探索の結果東方より魔物の大群を確認! グリフィンとライガの大集団です! 総数は不明! 約五分後に接触します。師団長、主砲の一斉射撃の許可をお願いいたします』
「わかった、許可する。不測の事態においては前線の指揮は君に一任する。艦長、頼んだぞ」
『了解!』
「……さて、まさかとは思いましたが、あなたのいったとおりになったようです」
「オイオイ、マジで魔物がいたのかよ」
げんなりと呟くルークに、ジェイドは残念ながら、と笑いながら頷く。
「まったく、レーダーよりも先に魔物に気づくとは、一体どんな感覚器官をしているのか……一度調べてみたいですねぇ」
「冗談も大概にしとけよ、大佐。そんなこと言ってるとアンタのほうが解析されちまうぞ」
「おや」
「グレン!」
「ちゃんと伝言しといてくれたんだな。サンキューな、ルーク。助かった」
「………………っ、へ! 伝言ぐらい餓鬼でもできるだろ。礼をいわれる筋合いもねえっつーの」
「んー? まあいいじゃねーか。サンキュ」
「……ふん」
なんだか急に不機嫌そうに顔を顰めたかと思うと、ルークは足元にいたチーグルを掴みあげた。そのままぐしゃぐしゃとチーグルの頭をめたくたにしている。撫でるといってはいささか乱暴な動作だが、当のチーグルはやはり嬉しそうにみゅうみゅう鳴いている。
思い切り不機嫌そうに寄せられた眉間、そのくせ少し緩められている口元。
これは彼の癖なのだろうか、分かり易すぎである。
「なるほど、上手いものですね。参考にしますか」
「やめとけ、アンタにゃ無理だ」
納得したようにしみじみ呟いた言葉にそっけなく返し、あたりを改めて確認する。
ここにいるのはルーク、ジェイド、ティアだけだ。ルークはまだ仔チーグルをぐりぐりしながら微妙に喜んでるし、ジェイドは観察するようにこちらを見ている。因みにティアはルークのほうを見ていた。が、多分見ているのはルークではなくてミュウのほうなのだろう。
難儀なものだ、ルークを視界に入れたくないにしても彼女の癒しのミュウは彼に大いに懐いているせいで、チーグルを見ようとすれば自然と彼まで目に入ってしまうのだから。
「居ねーみたいだけど、イオンは?」
「イオン様はアニスが探しに行ったわ」
「っけ、お前も探しに行きゃはえーんじゃねーの」
「………………」
わあ、鮮やかなレッツスルー。寒い。この部屋急に温度下がってね?
ああそうだ、この二人のことだからまだ冷戦は続いているんだろうなぁ。いい加減俺がどうにかしないと。
と思いもするのだが、それはとりあえず全部が終わった後で、ということにして。まずは今の状況をどうにか切り抜けないと。
「ごほん、んん……あー、大佐? 聞いてもいいか」
「はい、なんですか」
ブリザードが吹きすさびそうな雰囲気一歩手前の中で声を発するのは、それなりに勇気がいる。こちらは微妙に声が裏返りながらも頑張ってなんとかしようとしているというのに、対する男は飄々と顔だけは笑いながら返してくるのだから、もうこいつの面の皮の厚さを五ミリほどもらいたいものだ。
「今回の魔物に対して、現存兵力でこの陸艦を守れるか?」
「……そうですね、まあ、全力で努力はいたします、とだけ答えておきましょうか」
眼鏡を直しながら答えたジェイドの言葉に、ルークが顔をあげ怪訝そうに眉根を寄せる。
「あ? なんでそんな弱気なんだよ。相手は魔物だろ?」
「……グリフィンは普通、単独行動をとる魔物なの。普段と違う行動の魔物は危険だわ」
「ああ?! おめーには聞いてねーっつ、いでぇ!」
突然裏拳を額に炸裂されて、ルークは思わず額を押さえて仰け反る。そしてギンと睨んですぐに犯人に向かって吠えようとするのだが、
「……っの、グレ……」
「いまのは流石に見逃せないぞ、ルーク。今のはダメだ」
分からなかったことを教えてくれた人に、その言い方は無いだろう。腕を組みながら、真っ直ぐに目をみてそう言ってくるグレンに、ルークはぐっと言葉に詰ってしまった。
「だ、だって、別に、教えてくれなんて……」
「む、そうか……そうか、しかたない。教えてくれなんていわれてないけど、俺はお前に結構たくさん教えてやりたかったこととかあったのになぁ……そうか、教えて欲しいなんて言われてなかったら教えないほうがいいのか、そうか……残念だな」
「ぐぬっ……いや、グレンは良いんだ!」
「そう、それだよそれ。なんで? 俺のときは結構素直に注意とか聞くのにさ、なんでお前……まあ別に誰とは言わないけどさ。ほかの人の注意はあんまり聞かないわけ?」
「……それは」
「それは?」
それきり口をへの字にして黙りこくったルークを促すが、彼はそのまま口を開こうともしない。ルーク、と名前を呼べば、しぶしぶ口を開く。
「………は……を………ないからだ」
「は?」
が、俯いている彼から聞こえる声はひどく小さくて、うまく聞き取れない。思わず聞き返せば、あげられた顔はやたらに怒っている。
「……っ、グレンは、俺のこと馬鹿にしないからだ、って言ったんだよ、畜生! 屋敷でもしらねーことを聞いただけでどいつもコイツも俺のこと馬鹿にした目で見やがって! わからねーことは何でも聞けっつっといて、なんだそりゃ! あのくそ教師ども、ふざけんなっつーんだ!」
「……ルーク」
「俺が気づいてないとでも思ってんのか?! 聞く気も失せるってんだよ! 前はもっと早く覚えてた前はもっと前はもっとって、あんな目をしながら教えられて覚える気になるわけあるか!」
「ルーク。分かったから、落ち着け」
ぽんぽんと軽く背中を叩かれて宥められる。それに少しだけ落ち着いて、まるでただの餓鬼みたいに喚き散らしていたことに気づいてますます不機嫌な顔になる。ルークは舌打ちをしてそっぽを向いた。
「なるほど。お前の言い分は、分かった。分かったが……俺は、さっきの彼女の説明は、別に馬鹿にしてるようには聞こえなかったんだけどな」
「…………」
「まあ、意地になってることは分かる。でも、なにもあんな風に言わなくても良かっただろう? 例えば、ちょっとまえに馬鹿にしたみたいに説明されたことがあったとして、でもさっきのはそうじゃなかったんなら、あんな言い方はひどいと思うぞ」
「なんだよ。グレンも結局は俺を馬鹿にすんのか?」
「そうじゃない。いいか、ルーク。覚えといたほうがいい。さっきみたいな言い方ばかりしてると、お前を馬鹿にしようとしてない人でも途中で離れちまう。そうなったら、淋しいだろう?」
「俺は、別に淋しくなんて」
「ルーク。これは知らなくてもいい。知らないほうがいい。でも、覚えておけ―――ひとりぼっちに取り残されるのは、」
とても寂しくて哀しいんだ。
呟いたグレンの声は妙に静かで、ひどく透明で、どこか儚い。
そっぽを向いていたのを振り返ればグレンの表情はまるで泣き笑いで、ルークはどんな反応を返せばいいのかわからない。
「グレ……おわ!」
とりあえず名前を呼ぼうとしたのだが、不意にのびてきたグレンの指がピシリとルークの額を軽く弾く。何をするんだと少し睨んでやれば、そこには小さく笑うグレンの姿。ルークにしてみればイオンと同レベルなくらいの、いつもの人の良さそうな笑顔だ。
先ほどの泣き笑いなど幻想だったのかと思いそうになるくらいだった。
「まあ、俺はお前にそんな気持ちを味わって欲しくねーんだ……だから、気をつけてくれよな」
「……ったく、わーったよ、分かりました、気をつける。気をつけるよ……それでいーんだろ?」
「おう、上出来! っつーわけで、悪いな。ルークも今後から気をつけるって言ってるし、今回はこれで勘弁してくれねぇ?」
「え?」
突然話を振られて、しかも謝られて、ティアは困惑したような声を出すが、やがて苦笑しながらかすかに首を振る。
「いいえ、私こそ今回はちょっと大人気なかったわ……こちらこそごめんなさい」
「ふむ、これにて一件落着……あ、そういやルークに「ありがとう」と「ごめんなさい」の大切さをまだ教えてなったか……むむ、これは時間をかけてじっくりするか。大事だからな」
小声でブツブツ呟きながらグレンが一人でうんうんと頷いていると、
「ごほん」
「っは!」
今まで忘れていた存在をようやく思い出した。
「やー、青春ですねぇ。友情、仲直り、若いうちは青春大いに結構ですが、今はとりあえず置いてくださいね? いま緊急事態なので」
「そーだな、ごめん……俺が聞きたかったのは、俺がエミヤに伸させた40人がもう使えるのかってことだ」
「……まあ、持ち場に着くことはできるでしょう」
「戦闘はまだ難しいってことだな?」
「……まあ、その分あなたのあの人外の従者の活躍を期待してるんですけどね」
「それなら、現在の戦力は70人前後ってことか。やっぱりいくらエミヤでも一人であの大軍は……」
ふと窓に視線を向け、もう視認できる距離になってきた大軍をみて、グレンは数瞬迷う。
「……大佐、一つ案がある」
「ほう?」
「うまくいけば敵兵の七割、少なくともグリフィンとライガの前衛は壊滅状態にできるはずだ。まあ、代わりに俺がしばらく戦闘不能になっちまうんだがな」
「……どういう意味ですか」
「詳しくは企業秘密でな、いえないんだ。でも詮索をしないと約束をしてくれるなら、どうにかする。どうする?」
「……私達は何をすればいいと?」
「べつに、何もしなくていい……ただ、そこの伝声管かしてくれ。それと、その声を甲板のエミヤにつないでくれればいいだけだ」
「六十三………………六十四………………六十五……チイ、切りがないな」
「すみません、エミヤ殿」
声をかけられて、振り返る。するとそこには若い一人のマルクト兵がしゃっちょこばって、緊張した面持ちで立っている。アーチャーは別に彼らの上官ではないし、そこまで緊張することもないだろうにと内心首を傾げた。……どうやらアーチャーは、目の前のマルクト兵がただたんに彼の武人っぷりに震えているということに気づいてはいないようだ。
「トニー二等兵です! グレン殿から連絡が着ております、どうか甲板の伝声管までお越し願いますか?」
「……グレンから、だと?」
嫌な予感しかしない。いっそ無視してやろうかとも思ったが、そうすると今度は拡声器でも使って船体全体に響き渡るような声で一方的に命令されそうだ。
思い切り不機嫌そうに舌打ちをする。番えていた矢を放ち六十六番目の結果も見ることもなく、そのまま踵を返す。伝声管にたどり着き、不機嫌全開の声でこたえた。
「……私だが」
『エミヤか。大佐から許可は貰った。……思い切りぶっ放せ』
「却下だ。と、そういっただろう、グレン。確かにそうすれば敵は一気に減るだろう。だが、」
『エミヤ……俺の願いを、お前は何だか知ってるだろう?』
グレンの言葉に溜息をつく。がっくりと背を壁に預けてぐしゃりと髪に指を通す。そろそろ人でも視認できる距離になってきた。黒い点は青い空を覆い、不吉な予感を漂わせていた。
「…………もちろん知っている」
『このままだと確実に半分はこの戦闘で死傷する。そんなの嫌なんだ。俺は全部を守りたいんだよ』
「手の届く限り全力で、がついていたはずだろう。届きもしないものにまで手を伸ばしていては届くはずだったものにまで手が届かなくなるかもしれんのだぞ?」
『だから諦めろって? それこそ却下だ。エミヤ、俺はね。俺は、手を伸ばさずに届きもしないだなんて、思いたくないんだ。諦めたくない。俺は今度こそ守りたいんだ。全部、全部。ぜんぶを守りたいんだよ』
「……やったとしても、死傷者はきっとでるぞ」
『それでも減るかもしれないだろう?』
「しかし」
『……エミヤ。エンゲーブで40人を伸したのはお前だが、そう命じたのは確かに俺だ。だから、その責は俺が背負わなきゃならない。だから、』
「違うだろう、マスター。本当は、近いうちに陸艦自体を囮にして我々は最低少数人数で徒歩でバチカルを目指す、とあの子を通して六神将や大詠師に流す。そうすればタルタロスは六神将にはスルーされるはずだった……だから、戦闘不能にしてもいいと我々は断じたんだ。そうだろう?」
『いや、本当なら昨日のうちに提案して、今日そうするべきだったんだ……変えることを恐がって後手に回っちまった俺のせいだ。だから、どうにかするのは当然のことなんだよ。まあ、本当にどうにかするのはお前頼みなんだけど』
「しかし、それでは君の体が……!」
『エミヤ』
伝声管から聞こえてきた静かな声。まだ、本当はたった七年しか生きていないはずの者が紡ぐ彼の名を呼ぶ声は、驚くほど静かだ。
そしてその静けさに、続く言葉を容易に想像できてしまって、彼は観念して目を閉じた。
『命令だ―――敵を討て、『アーチャー』』
「……イエス、マスター」
――― I am the bone of my sword.(我が骨子は捩れ狂う)
「……死ぬなよ、マスター。死んだら殴るぞ」
その手にあらわれる捩れた剣。それを矢として最適の骨子に改変し、番えた。
「―――“偽・螺旋剣”(カラド・ボルク)」
真名を解放し放つ。そしてその刃は空気の元素と音素すらも切り裂くように進んで行く。それを見つめながら、彼は魔力がただ一点に集中するさまを強く念じる。
右手を握り、その動きで弾ける爆弾をイメージする。イメージしろ。常よりも強く爆ぜるその様を。
主の命を喰らって放たれた爆弾を、常のような威力ごときで収めるものか。
「――――――壊れた幻想(ブロークンファンタズム)」
爆音が海上を埋め尽くした。