それは、わたしがまだ小さかった頃のお話。
お父さんが仕事で大怪我をしてから、お母さんとお兄ちゃんはお店の切り盛り、お姉ちゃんは病院でお父さんの看病。
なので、余っていたわたしは、何時も一人でお留守番とか、していました。
一人きりでいるのは、すっごく寂しくて、辛いこと。でも、みんな自分に精一杯で、なのはが入る隙間なんて、無いんじゃないかと感じていた。
仕事が終わったら、みんなでわたしに構ってはくれるんだけど、逆にそれが「腫れ物扱い」されているようで。ただの妄想なんだけれど、その時、みんなから離れてしまう「恐怖」に囚われてしまったわたしには、本当にそうだとしか感じられなくって。
……だから、みんなに黙って出かけた海浜公園で、海を見つめていたら、ふと「そうだ、あの柵を越えて海に入ったら、楽になれるかな」なんて思って。……本当に、越えてしまった。
その辺りの柵は風景が見えるように、特別小さくて、当時五歳だったわたしでも、超えることが出来た。
海に身を投げ入れた時の感触は、まるで重力にわたしが連れ攫われてしまうみたいなもの。急に怖くなって、思わず「助けて」って叫んだ。そうしたら。
「大丈夫か!?」
……腕が奇妙に伸びているお兄さんが、私の手をつかんでいた。
「良かった、無事で……間接を外してなかったら、間に合ったかどうか」
「か、かんせつを、はずすって!?」
「ああ、ぼくには少し奇妙な特技があるんだ。『波紋』っていう」
お兄さんはそう言ってから、自己紹介をしてくれた。
名前はジョナサン・ジョースター。イギリス出身の「貴族」で、何故か解らないけど、気が付いたら此処に来ていたみたい。
服はボロボロで、所々血が滲んでいたけど、とても優しい目をしていた。
「えと、わたしは、高町なのはっていいます。あ、名前がなのはで、みょうじが高町です」
「なのは、か。いい名前だね。……ご両親は?」
ごりょうしん?……そっか。おとーさんとおかーさんのことだ。
あれ?
おとーさんの顔、おかーさんの顔を考えたら、ぼんやりとしか思い出せない。
なんで?どうして?わたしの親なんだよ?……おにいちゃんも、おねえちゃんも思い出せない。やさしかったみんなの顔がどんどんとおざかって、まるでとうめいになったみたいに、ぜんぶ自分をすり抜けていく。
なんだかとっても悲しくなってきた。知らない人の前なのに、涙がでてきちゃう。
いけない。こんなだから、みんなからとおくにはなれちゃうんだ。もっとつよくならないと。
「あ、どうしたんだい!?もしかして、何か嫌なことでも言ったかな」
お兄さんが心配してくれる。わたしをなきやませようとしてくれる。でも、いいんだよ。わたしがつよくないだけだから。
「いいって……そんな。泣いてる女の子を、英国紳士として放っては置けないな。君の悩みを、聞いてあげよう」
「聞いてあげよう」……その言葉で、私の何かがプッツンと切れたみたいだった。堰を切ったように言葉が飛び出す。その時まで感情を抑えていた分を、すべて吐き出した。
支離滅裂なわたしの告白を、ジョースターさんはしっかりと聞いてくれていた。……わたしが話し疲れると、ジョースターさんは、ふとこう言い出した。
「もう、落ち着いたかい?じゃあ、深呼吸をするんだ」
「しんこきゅう?」
「思いっきり息を吸って吐く。そうしたら、君の中に『勇気』が生まれる」
おにいさんのいうとおりに、おもいっきり呼吸する。……なんだか、暖かい。
ジョースターさんも、わたしにあわせて呼吸してくれる。からだじゅうが青く光っているように見えたけど、これが「波紋」なのかな?
「そうだ!その感じを忘れるな!それが『波紋呼吸』!もう一回だ」
「はいっ!」
「いいか、君は今、家族や世界から弾き出されないか『恐怖』していて、それに囚われすぎている。『恐怖』も『生きること』には必要だが、ありすぎると逆に思考を固めてしまって、悪い方向にしか考えられなくなる!」
「すぅぅぅぅ~」
「だから、『恐怖』を支配する!勇気を出すんだっ!」
すこしずつ、わかってきた。わたしは、踏み出せなかったんだ。かえったらたぶん、おかあさんがお皿をあらってる。だから、勇気を出してこう言うんだ。
「おかーさん、それ、なのはにも手伝えますか?」って。
「そう、一歩踏み出すんだ。「勇気」を出して。君の心を乱す「恐怖」を我が物として、支配する。そうすれば、呼吸は正しく乱れない。君の生き方も、思いも、まっすぐに、砕けない。その意思こそが、「人間賛歌」だ!」
たぶんおかーさんは「気を遣わなくていいわよ、私と恭也でどうにかなるし」って言う。でも、それでも、私は手伝う。おかーさんもきっとわかってくれる。だって、わたしの「おかーさん」なんだもん。
「覚えておいてくれ、なのは。『人間賛歌』は『勇気』の賛歌!人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!!君が幾ら強くなったって、『勇気』を知らなければ、ノミと同類だァーーーーー!」
「はいっ!ジョースターさん!」
それから、おとーさんのとこにもいこう。わたしにできることをするんだ。うでが自由に動かないみたいだから、代わりにご飯を食べさせてあげよう。いっぱいお話しよう。
……おとーさんの病院って、ここから近いんだよね。よしっ!今すぐ行こう!!
駆け出すわたし。ジョースターさんは、わたしの背中を押して、笑顔で見送ってくれた。
『……って感じなんだけどね。それから、ずっと会ってないんだ』
『なるほど。…すごい漢、ですね』
『漢?』
『いいえ、気にしないでください、方言の様な物です。それより、彼が使った「波紋」が気になりますね。腕の関節を外しても動かせる様にしたり、そして「波紋呼吸」ですか』
さっき習った呼吸法は、それと同じっぽかったもんね。確かに気になる。
『私のデータベースに、「波紋」の記述はありません。もしかしたら、この世界で独自に発達した「魔法」かも』
「んー、わたしもあの時一度見ただけだから詳しく解らないんだけど、少し違うものだと思うんだ。どっちかっていうと、ポルナレフさんの『スタンド』みたいな、そんな感じが」
こうして、魔法の訓練から「波紋」についての話に目的が変わっていって、気が付いたら予鈴が鳴っていた。急いで教室に戻ったんだけど、そこには、怒り心頭のアリサちゃんが……
「さて、な~の~は~。……わたし達の目を盗んで、こっそり途中で抜けた理由、わたしに話してもらいましょうか」
うう……昨夜の恐怖、いま再びなの。
『Dont mind, My mastar』
「あ、いや、そこまで再現しなくていいような気がするけど……」
「なのはちゃん、何か言った?」
「あううう……」
結局、午後の授業中全部、アリサちゃんに睨まれっ放しでした。すずかちゃんにも無言で見つめられるし、肩身が狭かったです。
……そして、学校が終わって、アリサちゃん達と乗ってきたバスから降りた時。
『なのはちゃん、エマージェンシーやっ!「ジュエルシードシリアル16」わたしの魔法ではっけーん!』
『はやて、あんまりハイになるな。……この通りだ。すまないが、「八束神社」まで来てくれないか』
『よろしく、なのは。そうだ、レイジングハート、なのはにどんなことを教えたんだい?』
『基礎の呼吸法から教えていく予定でしたが……少し脱線しました。まあ、封印には問題ありません』
『よし。僕らで暴走体は抑えておく。早く来て!』
オッケー!ようし、わたしの「勇気」精一杯出してみようか、レイジングハート!
… To Be Continued !!
あとがき
どうも、今日からとらハ!なGantaです。こんな俺設定全開の作品ですが、見て頂けるととても嬉しいです。
テーマは勿論「生きること」!
ではでは。