「…『スタンド』ですか」
「そうだ。一種の超能力でな。像が能力者の傍に立つのを意味して、こう呼ばれる。 尚、スタンドを見ることができるのはスタンド使いだけだ」
「ってことは私…」
「そのとうり、君も『スタンド』使いだ。私の『シルバー・チャリオッツ』が見えるようだからな」
「八神はやて」。幼い頃から足が不自由で、私と同じ車椅子生活を送っている少女。…彼女には「スタンド」が見えている。
前述の「スタンドを見ることができるのはスタンド使いだけ」というルールにのっとって考えると、彼女も「スタンド使い」だということになる。
まさかこんなに早く、「同類」と出会えるとは…
やはり、スタンド使い同士はどこかで引かれあうものがあるのだろうか。
「でも私、超能力なんて持ってませんし、『スタンド』なんて影も形も」
「まだスタンドが目覚めていないのかもしれない。早急にSPW財団へ報告したいところだが…その…」
「何か、都合悪いことでもあるんですか」
「それがな…」
はやてに今の自分の現状を話す。
宿無しで一文無し、頼れる組織や友人もいない。いきなり此処に来たからとはいえ、情けないものだ。
若い頃ならば腕一本で何とかできたかもしれないが、今は違う。両足と片目を失っている俺を雇う所など無い。
なんということだ。と改めて実感した。
「なるほどなぁ…ほな、私のところに来まへん?ポルナレフさん」
…っ!今言ったように、私は戸籍も無い穀潰しだぞ?君の役に、立てるとも思えない。
「ええんです。お金は問題ありまへんし、家事手伝ってくれれば助かります」
「だが、しかし…だめだ。私は…」
「そんなら、せめて一泊だけでも泊まってくださいな。命の恩人になんかお礼せんと、気が済みませんから」
「待て!何か厄介な事に巻き込まれるかも…」
「関係あらへん!ささ、早く家に来てくださいな」
やれやれ。強引な娘だ。
そういう訳で、はやての家に連れ込まれることになった。
決して贅沢ではないが、いい家だ。
いい家だが、しかし…いやそんなことは…だが、万が一ということもある。確認しておくとしよう。
「あー、はやて。すまないがトイレは…」
「入ってからすぐ左の部屋です。バリアフリーなってますから、車椅子でも一人で大丈夫です」
「そうか、では早速」
入ってすぐトイレの型番確認。
…T○T○か、良かった。日本製は信用できるからな。
イタリアにいた頃も、トイレ運は最悪だった。まともに排泄できないところが大多数であり、なおかつ車椅子だから余計に手間が掛かる。
此処に来てようやく運が回ってきたということか。
ジョースター・エジプトツアー一行に加わってからの苦節12年、長かったな。思わず涙が出てしまっている。
それもそうだ。このジャン=ピエール・ポルナレフが、ようやっとトイレのトラブルから「脱却」出来たのだから。
と感動してから数十分。俺ははやてと共に食卓についていた。
ただいま午後6時。はやてにしては早めの夕食だったらしいが、俺のすきっ腹に配慮してもらいこの時間になった。
久々に食べる日本料理はまさしく「最高」と言って良い出来だった。
…これはマグロの刺身、か。
承太郎の大学合格記念を祝った時を思い出す。
あの絵に描いたような「不良」が大学に入るだなんて、と驚いてばかりだったな。
「えと…おいしいですか?ポルナレフさん外国人ですから、口に合うかどうか」
「ぴったりさ。もし合わなくても、君のような美人が作ってくれたんだ。こっちで口に『合わせる』よ」
「び、美人だなんて、そんな…もう、冗談が上手いなぁ、ポルナレフさんは」
にんまりはにかむはやて。いい顔だ。初めて会った時の暗い雰囲気が無くなっている。
あの時の顔は「9才の女の子」にしては大人びていた。今みたいな明るい顔のほうがはやてには似合っている。
「でも、ほんまに一泊だけで十分ですか?せめてもう一日」
「だめだ。俺の境遇については話したろ」
「イタリアのギャングに追われてる、でしたっけ」
「その他にも、色々な連中に目を付けられている。『これ』を守るために色々無茶をしたからな」
「矢」を取り出して説明する。この矢は「スタンド」能力を引き出すものであり、またスタンドのその「先」にある能力の鍵であることを。
「だから狙われる、と」
「ああ。君みたいな子に、迷惑はかけたくない」
「迷惑なんかじゃありまへん!ポルナレフさんが離れるよりはずっと…」
「はやて、頼むからこれ以上首を突っ込むな。下手したら、死ぬぞ」
本気の警告。彼女を戦いに巻き込むわけにはいかない。
しかし、その後はやてが言った言葉は、私の想像を超えていた。
「それでも…それでも!一人で暮らすよりは、そっちの方が幸せなんや!」
「一人」!?今、「一人」と言ったのか!?
「ずっと前に、お父さんも、お母さんも死んでしもた。それからずっと、一人っきりや」
そんなことがあったのか…
「それでな、やっと、やっと一緒に暮らせる人を見つけたと思ったのに。なのに、なんでまた一人っきりになんなきゃいかんの!?」
「はやて!」
「もう一人っきりは嫌なんや。ポルナレフさん、私は、私は!」
「落ち着け、はやて。ほおら、泣き止むんだ、一緒にいるから」
「ポルナレフさん…」
…事情は、だいたい解った。私は、はやての力になろう。泣いている女の子の力になれない男には、なりたくないからな。
「『一緒にいる』って、ホントですか…」
「ああ、本当だ。私の力が及ぶ限りの事は、手伝おう」
「良かった…。私、これからは一人っきりやない。誰かと一緒。…あかん、また涙が…」
「そうだ、いっぱい泣くと良い。そして、笑うんだ。私も、辛い事があったらそうしたよ」
――たとえば、「かけがいの無い友を失った時」にな。
――そうだろう?我が友花京院、イギー、そしてアヴドゥルよ。
私の前に精一杯手を伸ばしたはやてを、抱き抱えてやる。
間近で見たはやての顔は泣きじゃくっていて、それでいてどこか笑っているように見えた。
… To Be Continued !!
後書き
続いてしまいました。後悔は今からします。