*チチッ*と音。
その声に反射的に剣を構える。そこにいたのは先ほど俺を苦しめた大きな蝙蝠だ。
ここであったが100年目とばかりに俺は睨みつけ、剣を構える。
蝙蝠は空中を狙いをつけるように旋回し、
そしてスピードをあげ、俺に向かって突進する。
それに応じて俺はその蝙蝠の軌道を叩き落すように剣を振るおうとしたが、
蝙蝠はひらりと一回転。叩き落す筈の剣の軌道は僅かに逸れ、蝙蝠の身体を掠めた。
しかし、それは蝙蝠の攻撃にも影響を与え、俺の右肩を掠めるように蝙蝠が飛んでいく。
「うざいな、糞」
空中を再び旋回する蝙蝠。
そして再度突進。それに応じ、こなくそっと剣を振るう。
ざくり、と今度はちゃんと命中。そのままべしゃっと地面に落下し、煙をあげ始める。
ふぅっと溜息を吐いた瞬間、
「グルゥア」
と唸り声。
「千客万来だな。糞。なんでミュレンさんと一緒の時は来ないんだよ」
等と愚痴りつつ、剣を上段に構えた。
そこに居たのは犬のような頭部を持った二足歩行の蜥蜴の怪物である。
考えてみれば、こんな状況に陥ったのは全て――いや、俺が罠踏んだせいだな。
等と自身で怒りを抑え、迎え討つ。
「ゴアアアァアァァァ」
と咆哮をあげ、突進。
しかし哀しいかな。それはあまり迫力の無いものであって。
なんてことを思いつつ、牙と爪を剥き出しにした怪物を視界で確認。
いやそうでもないな、と若干恐々としつつ、
「めぇぇぇぇぇぇぇんっ!」
と、裂帛の気合と共に渾身の力を込め、剣を振るった。
それは相手の頭へ真っ直ぐに振り下ろされ、
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青銅の剣 は突然軌道を変えた。
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不意にかかった右横へのベクトルに、剣はその怪物の肩へと軌道を変える。
「う」
その急激な変化に、自身の身体も僅かに横に。
ざくりという感触。
渾身の力が込められたそれは途中で止まらず、相手の左腕を断ち切り、剣の重さに身体は前へと傾く。
ドン、と相手の身体が俺の肩へとぶつかる。
その勢いに若干俺はよろめいたものの、身体が前かがみとなっていたため、転倒は免れた。
だが小柄な怪物はそうもいかなかったらしい。
その衝撃にバランスを崩し、ぐるりと回転しつつ、俺の左斜め後ろへと仰向けに倒れた。
「グギァァァァ」
と、気味の悪い声をあげながら、地面をのた打ち回る。
俺は苦々しげに自身の持つ青銅の剣を一瞥した後、
そのまま肩を抑えながら倒れている怪物へと、無言で叩くように剣を振り下ろした。
ザクッ、ザクッ、ザクッ
そんな感触を三回ほど感じ、そこでようやく怪物から煙が噴出し始める。
なんで俺はこんなことやってるんだろうか等と、岸の向こうの自身を見るような感覚に若干陥りつつ、
*チャリン*
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75S が落ちている。
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それを拾い、ふぅっと吐息を吐く。
そして次の瞬間、*ポン*という音が鳴り、
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呪いの解き方
どうしてアイテム師なんて職業に就いてながら呪われてる剣をえーじが装備してるのかまったくもってルーエルちゃんには理解不能です。
えーじなら呪い装備して自滅することもないだろうなって安心していましたのに。
……まぁ、それはいいでしょう。とりあえず現実的な案を簡単に書いておりますね。
1.迷宮内。あるいは魔法屋で解呪の巻物、もしくはワンドを見つける
リアルラックになりますけど、一番楽な解呪方法です。強い呪いですと抵抗されたりしますけど。
見たところそれほど強い呪いでもないようですし、アイテム師のスキルもありますからまず間違いなく解呪出来るでしょう。
当然の事ながらそれを見つけるために何度か迷宮内に潜ることが必要になります。ワンドは結構レアですが、巻物ならなんとか。
解呪の巻物はレア度はそれほどでもないですが、需要は高いので魔法屋なんかだとふっかけられますので注意。
2.高位の魔術師に呪いを解いてもらう
解呪出来る職は魔術師などの魔法を使える職業のみです。故に、誰かそのような人を紹介してもらうことになるでしょう。
もっとも可能性としてはどうなんでしょう。何せ解呪の魔法はかなりの魔法の習熟を必要とする魔法です。
故にそこそこ高位の魔法使いが必要となるのですが……そもそも解呪するためだけに応じてくれる高位の魔法使いなんているんですかね。
あいつら基本的に傲慢だったり、興味の無いことには振り向かなさそうだし。って魔術の神を見ていて思いました。
あ、でも金で引き受けてくれる貧乏魔法使いとか中にはいるかもですし、根拠の無い事柄には口を噤んでおきますね。
3.自身が信仰する神に祈る
もし十分な捧げ物を行ってる等、奉納点が溜まってる状態で祈ると、その神が浄化してくれたりするやもしれません。
いっときますけど教会で呪いとか解いてくれたりはしないので。そこだけ予め。
てことでえーじの幸運を祈っています。愛を込めて。
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突如ポップアップが飛び出した。
内容を見て仕事が早いなと感心したものの、中身は明るいとは言えないもので。
溜息。
となるとリアルラックに掛けるしかないというのか。ただここは踏破済みなわけで、先に潜った人が居るというわけで。
だとすると今回に関していえば見つからなさそうだなぁ。
そしてじっと左手の剣を見る。
少しだけ長い付き合いになりそうだなぁ相棒。頼むからちゃんと言うこと聞いてくれよ?等とわけのわからないことを考えること暫し。
そこではっとあることに気づく。
てか俺アイテム使ってねぇよ。
段々と明かりが近づいてくる。遠くに僅かに見えていた光は、もはやすぐ傍のようだ。
少し広い空間に出た。ほんのり開放感を感じつつ、
とそこで分かれ道。前方が大きな石の壁によって塞がれていたのだ。光が見えるのは右の道かららしい。
「ミュレンさん?」
俺は彼女の名前を呼びつつ、右の道へと足を進めた。
暫く壁に沿って歩くと、再び分かれ道。
右への通路と、なにやらぐるっとまわるような左への道である。
もしかしなくてもどっちの道を行っても同じことだったのかなと思いつつ、足を進めようとしたのだが、明かりが見えない。
おや?と思って後ろを見れば、俺が先ほど通ってきた道から光が漏れているのが見えた。
おかしいな。どこかに明かりのようなものでもあっただろうか。
俺は道を引き返す。
そういえば、と空中に浮かぶランタンへと目を向け、右手を伸ばす。
するとそれを察したかのようにランタンは高度を下げ、俺の右手へと乗り、明かりが消えた。
なんとも便利なものだ。てか、
「これランタンじゃないだろ……」
と、俺は呟いた。もっと別の照明器具である。魔法というかSFというか。
照明が無くなり、辺りは闇に覆われた。
と言っても真っ暗闇ではない。何故なら光源があったからだ。
そう、直ぐ傍の右の*石の壁の中*から。
「もしかして……」
俺は呟き、光が漏れている壁へと手を触れ、押す。
すると壁は僅かに後ろへと沈んだ。
「やっぱり」
と俺は呟いた。
あの明かりは壁の中から漏れていたらしい。所謂隠し扉と言うやつである。
ってことはここは隠し部屋だろうか。
若干わくわくしつつそのまま力をこめ、体重をかける。
「おわっ」
壁はぐるりと回転し、勢いあまって倒れこむように俺はその中へ身体を入り込ませた。
迷宮世界
さて、結論から言えばそこに財宝のようなものはなかった。
あるのは沢山の燭台であり、その一つ一つに火が灯っていた。随分と明るい。
その中心に何やら物を置く台のようなもの。
よくよく見ればその台自体が薄く発光している。
はて、と思いつつ、俺はその台へと近づく。
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ドルーグの祭壇が据えられている。
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「ドルーグ?」
俺がそう呟いた瞬間、
「《如何にも》」
そんな声が頭へと響き、俺の意識が暗転した。
* * *
はっと目を開けると、そこは異質な空間だった。
何か人工的なもので造られたと思える地面と壁。ごおんごんという機械音。*じゃらりじゃらり*という鎖の音。
鎖は何かの動力であるのか、たえず動いている。
その中心に、鎖にぶら下げられた奇妙な生き物が居た。
肌は薄く紫がかったピンク色。頭とお腹は丸く身体は大きい。そのくせ、手足は棒のように細かった。
その姿は何処と無くスプーキーEを思い起こさせたが、更に特徴的なのは眉毛のように飛び出た白い角である。
その生き物がぎらりと光る赤い瞳でじっとこちらを見ていた。
俺はその眼光に押され、一歩後ずさる。
「ようこそ。プレイヤーとは珍しい」
ニヤリと笑ってその生き物が言った。
「プレイヤー?ってことは貴方は」
「如何にも」
と、彼は言った。
「私はドルーグ。商売を生業としている神だ」
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ドルーグ
武器商人の神。司るものは交渉と商品。信仰時には力と魅力、交渉にボーナスを加える。
自身もまた商人であり、遭遇した場合強力な武具を手に入れられる重要なチャンスとなるだろう。
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不意に出たポップアップに目を通しつつ、神にも色々な姿があるのだなと思うこと暫し。
「えいじです」 俺は名乗った。
「ふむ。時に困っているようだね。どうだろう。もし良ければその剣と君の持つ銅の剣をセットで引き取って差し上げるが」
「引き取る?」
俺は尋ねた。
「然り。その剣の呪いを解く*代価*として、その剣と君の銅の剣を頂こう。如何かな?」
と商売の神が言った。
呪いが解ける…だと。一瞬嬉々としてそれに承諾してしまいたくなったが、
「そうしたいのは山々なのですが」
と、俺は言った。
「しかしそれをしてしまうと自身の武器が無くなるわけで」
流石にこの洞窟の中を武器無しで動き回りたくは無い。
「確かにそれは由々しき問題だな」
と、商売の神が言った。
「ではどうだろう。代わりとなる武器を進呈するというのは」
その声と同時、俺の目の前に一振りの剣が出現する。
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鉛の刀(4d3)
それは鉛で出来ている
それは錆びにくい
それは(4d3)のダメージを与える(貫通率20%)
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その性能は、自身が持つ銅の剣や青銅の剣よりも僅かながら強く感じるように見えるもので、
「ただし、鞘は無いがね」
と、商売の神は言った。
むむ。確かに抜き身で持つというのは些かきつい感じがするものではあるのだけど。
そう思いつつ俺は左手から離れない青銅の剣を見る。
生憎この状態を維持するよりは何百倍もマシであって、
「それで構いません」 と俺は言った。
「宜しい。商談成立だね」
商売の神はそう言って、鎖にぶら下げられたままこちらへと近づいてきた。
俺の左手にくっついた剣を持ち軽く引っ張る。
それだけで、いとも容易く俺を悩ませていた剣が左手から離れた。
「ではこれも」
商売の神の手には、いつのまにか鞘に収められた銅の剣も握られている。
俺は地面に置かれた鉛の刀を拾い、軽く素振りをする。
その刀の形状はどこか馴染みの深いもので。
「時にプレイヤーえいじ」
と、商売の神は続けた。
「ついでに何か買っていかないかね?」
果たして商売の神が提示した商品リストには、
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☆異光を放つライトセイバー《久遠の落日》 4378902G
☆永遠なる光子銃《終わりの無双》 3282761G
★神龍の卵 9989898G
☆赤く煌くパワードスーツ《紫金のうめき》 4887212G
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とてもじゃないが手を出せないものばかりであって。
「申し訳ないですが」
と、俺は言った。
「お金が無いので」
提示されたインチキ性能の武具達は見るだけで眼福にはなるかもしれないが。
すると商売の神はニヤリと笑い、
「何も全て金銭で取引しようなどと考える必要はないぞ」
その言葉の後、発光する円形の物体が彼の右手に出現した。
「支配の首輪という」
ふわりとその物体が浮かび、俺のすぐ目の前へと滑るように流れてくる。
反射的に俺はそれを受け取った。
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★支配の首輪
装備させた存在を従属させ、自身の意のままに操ることが出来る
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「どうかね」
と、商売の神は言った。
「もし君が今組んでいる仲間を*売り渡して*くれるなら、神龍の卵以外の商品を一つ君に送ろうと思うが」
え?
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クエスト 仲間売買 を受注しました。
武器商人の神ドルーグから取引を持ちかけられた。
もしも今現在組んでいる仲間に支配の首輪を装備させ、
引き渡してくれるなら提示されている商品の一つを褒章として貰えるという。
このクエストを受けますか? Y/N
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「え?」
と俺は困惑の声をあげる。
そんな俺を観察するかのように、商売の神の赤い眼光が俺を見つめている。
後書き
無事呪い解除の巻。
もっとも本来なら序盤に呪われるとなかなか解呪できずに苦しんだり面倒だってことでQy@しちゃうんですけどね!