『土竜の尻穴亭』
一体どういうセンスでここの店主はこんな名前をつけたのだろうか。
そんなことを思いつつ、物静かな酒場へと足を踏み入れる。
「よう、相変わらずここは客がいねぇな」
ドワーフのおっさんが、カウンターに向かって呼びかけた。
見ればトーレル以上の長いひげがカウンターを覆っている。
どうやらここの店主は彼と同じくドワーフのようだった。
「あ?」
ぶるりとひげが震え、木のコップを倒す。
「大きな世話だ、トーレル。さっさと注文を言え」
「注文なんざ聞くからこの店ははやんねぇんだ。最初に飲むもんはエールと相場が決まっておる」
「そうかい」
舌打ちしながら店主が言った。
「適当に座ってな」
ベレスに促され、腰をかける。
俺は酒場の様子を見渡した。ずいぶんと薄暗く、乱雑としている。
奥には誰かが飲んだと思われる木のジョッキが転がっていた。
4つのジョッキがテーブルへと置かれ、*ドン*と酒樽を乗せ、
「後は勝手にやんな」
と、一言いってカウンターへと戻っていく。
なるほど、これは流行らないだろうなぁ。と、納得しつつも、一番の原因は名前だろうなとかそんなことを考えつつ。
「さて、何はともわれ新たなメンバー。エージさんの加入を祝いまして」
「ま、よろしくな」
「よろしくやってこうぜ、えーじちゃん」
木のジョッキを掲げてる三人に合わせてこちらもジョッキを上げる。
「ナヴィのめぐり合わせに」
3人の中では一番普通な彼が声をあげ、酒盛りが始まった。
ちなみに俺ははちみつ酒を最初に飲みたかったが言い出せなかったことを付け加えておく。
迷宮世界
「確かにナヴィ様様だな」
ぐふふっとこちらを見てベレスが笑う。その顔はどこか愛嬌があるもので。
ていうか今更だけど、こいつ人間じゃないよな。流石にちょっと人間と呼ぶには酷すぎる面構えだ。
もしかしてこれがオーク?か。
なんてことを考えながらふと豚という言葉が禁忌なんだっけ?等とルーエルの説明書文を思い出していると、
「おう、お前さん、ジョッキをよこせ」
と、ドワーフのトーレルが手を差し出した。
手に持ったジョッキの中身はいつの間にか無くなっている。
飲み終わった空のジョッキを渡すと、酒樽の中に直接ジョッキを入れ、そのまま俺のほうへと差し出した。
その豪快さになんとなく楽しくなりつつも、こちらをじっと見つめるトーレルに、ほほう。これはそういうことか。ニヤリと俺は笑った。
そのままジョッキを傾け、中身を流し込む。
どうだ、とトーレルを見れば、そんな俺の様子に笑みを浮かべてジョッキを呷り、俺のほうへと手を差し出した。
「おー、やるなぁ」
ふと豚面が感心するように言った。ふふん、だろう?
なんだか気分は最高にハイであり、俺は勧められるまま杯を呷る。
***
そしてなんだかふわふわ気分。
酒を繰り返し呷りつつ、ぐるぐるしてきた天井を見て楽しむ。
「ちょっ、ちょっとエージさん。そろそろやめたほうが」
うるさい。せっかくいい気分だっていうのに邪魔すんなっての。こちとらそんなにやわな身体はしてませんですー。
「そうだぜ、リーダー。えーじちゃんも乗り気なんだ。ほら、酒の席でくだらないこといいっこ無しさ」
おお、お前なかなかいいこと言うな。やっぱ人間容姿じゃねぇな。中身だな。
「お前さんもわかってきたじゃねぇか。ほれ、お前さんも飲め。このままじゃとわしとこの娘で全部飲み干しちまうぞ」
うはは。よーし俺様全部飲み干しちまうぞー。
「おうおう。なかなか豪快じゃな。わしには敵わんがな」
にゃにおう!
*ごくり*と甘露を味わいつつ、
って、
ん?
あれ
…………。
ふわふわ気分でぐるぐる?
「……から、言ったのに」
「……んじゃ。…だ始まったばかりだってのに」
「……ぁわかってたけどな。どれ、休むか?」
え?あ、うん。大丈夫だって。なんかぐるぐるしてるだけだしぃ?
「ああ、ふらふらしてんじゃねぇよ。仕方ねぇなぁ。えーじちゃん宿何処だい?」
やどぉ?なんだってそんなこと聞くのさぁ?
そんなことよりなんかぐるぐるして面白いよ?ちょっと歩きたい気分。っと、おや身体がふわり。
「わかったわかった。俺が付き合ってやるよ」
別にいいのに。あ、でもこの状態でちょっと外歩きたいかも?
「じゃあなおさらだな。ここら辺の地理ないだろ?」
確かにそうだけど、でも迷惑じゃない?
「仲間だろ。迷惑じゃないさ」
おーそっかー。仲間かぁ。うへへ。いいやつだなコイツ。
よーしじゃあちょっとだけいこっかぁ。
後書き
なんか気がついたらこの文章を書いていました。
そういやこれ酒飲んで乱闘シーンとか書いてたの没にして別なの書こうとしてたらそのままお流れになってたんだっけ。
てなことで、再開ついでにそんな最初の仲間との会合シーンを一つ。