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あなた は 迷宮の中へと足を踏み入れた。
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扉が閉まる。暗い。見渡す限り真っ暗闇だ!
塔の迷宮というものは洞窟型の迷宮と違い、明かりがあるはずなのだが、入った先はどうにも光源が見当たらず。
ならば、と、俺は光を求めて手探りでバックパックから灯篭を取り出そうとして、
*ボッ*
そんな音が複数暗い空間に響き、それと同時に塔中を照らす光が生まれた。
見れば壁に一定の間隔で設置された燭台に蝋燭の炎が灯っており、頼りなさげに揺らめいている。
その光景は一見原始的にも見えるのだが、このように人が入ってきて自動的に火が灯るという仕掛けはどうにも近代的な要素を感じさせるものであって。
*カサカサカサ*
不意に枯れ葉が地面をかき鳴らすような音。
「くるぞ!」
ルミウスの声に気を引き締め、
見れば人の膝くらいはあろうかという大きな蜘蛛。
それが数匹こちらへと這い寄ってくる。その光景はどうにも嫌悪感を呼び起こすもので。
慌てて剣を構える。だが次の瞬間振り下ろされたドワーフの斧が風を斬り、*グチュッ*とその大蜘蛛を潰し、ミンチに変えた。
「ぶった斬ってやるぜぇ!」
威勢の良い声と共に、ベレスが突進する。力任せに剣を振り回し、寄ってきた二匹の大蜘蛛を斬り飛ばす。
蒸気のようなものを*シュー*と噴き出す大蜘蛛。
それを横目で見つつ、遅れてこちらへとゆっくり這い寄ってくる大きな巻き殻をつけたかたつむりのような魔物に注意を払う。
ずりずりと這い寄るその大きなかたつむり。蜘蛛ほどではないものの、あまり目に優しいものではない。
そういやこれ効くかもしれないなぁとふと思いつき、白い粉の入った試験管を取り出し、投擲。
*ガシャン*と音を立て、中に入っていた白い粉末がその大カタツムリへと降りかかる。
次の瞬間*キキー*と声。反射的に顔を向ける。
「ふっ!」
空気を吐き出すようにルミウスが剣を振るい、近づいてきたこうもりを斬り落とした。
再びかたつむりに目を向ける。見事に試験管の当たったそいつはのた打ち回り、もがき苦しんでいるように見えた。そのまま蒸気を噴き出し始める。
「なに投げたの?」
ルミウスが蒸気をあげて消えていく大かたつむりを見ながら尋ねた。
「いや、真逆本当に塩で溶けるとは……」
何に使うか分からない塩の入った試験管をふと思い出して思いつきで投げただけなのだけれど。
「塩?……ああ、そういやなめくじ系のMOBには効くんだっけ」
ちょっともったいないけれどね!
とは言え近づくのも気持ち悪いし、今度多めに買っておこうかなとか思ったりもして。
迷宮世界
「頼む」
ベレスからポイッと投げられた不思議な光沢の服を受け取り、「鑑定」と呟いた。
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それ は 紙の服[5,0]であることが完全に判明した。
それ は DVを5上げ、PVを0減少させる。
もし店で売れば 1Gと24S ぐらいになるだろう
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何かと思えばこれ紙かーとか意外と丈夫そうだなとかそんなことを思いつつ、
「紙でできた服だって。1Gくらいなら売れるかも」
と、報告。
「エール一杯分にもならんな」
ぼそっと、ドワーフが呟いた。
「どうする?」
「いるやつがいねぇなら捨ててこうぜ」
そんなことを呟く三人。とは言ってもここにはちょっとでもお金になるものは取っておきたくなる性分の俺が居るのであって。
ささっとバックパックの中に仕舞いつつ、
「じゃあ私が貰っておく」
「うん、了解」
どこか苦笑めいたような笑みを浮かべながら、
「とりあえず信仰も上げたいしマップを全部埋めてから進んで行こうと思うのだけど構わないかい?」
手元の何も無い空間を見ながらルミウスが言った。おそらくマップを見ているのだろう。
それではっと思い出し、自身でも「コマンドマップ」と呟いた。
「いいぜ、任せる」
「異論は無い」
「特に問題ないです」
俺が最後にそう応えると、こくっとルミウスは頭を下げた。
「それじゃ気楽にがんばりましょう」
「おうともよ」
どこか不敵に笑いながらベレスが応え、
「まぁ、気は抜かんようにな」
と、ドワーフが引き締めるように注意を促した。
「足を引っ張らないように頑張りますよ」
若干自信がなかったのでそんな感じに応える。というのもベレスの大きな剣やトーレルの大きな斧を見ているとどうにも力の差を感じてしまうのであって。
「俺を床下に転がしてベッドを占拠してた女が何を言ってやがる」
ニヤリと笑いながらベレスが言った。
「へぇー。そ、そうなんだ」
なんか感心したような声。見れば若干引きつったような笑みはなんなんだろうなと思いつつも、
「生憎俺はお前に比べれば非力だよ」
「ふぅん、まぁ、そうかもな」
と、どこかご機嫌に応え、
*チュー*
不意に聞こえた鳴き声に、俺は一歩声の方向から反射的に後ずさった。
走りよってくる大きなネズミに少しばかり前に噛まれた足の痛みを思い出したりして、
*ビュッ*と薙ぎ払うように振るわれたベレスの剣に巻き込まれ、大ネズミが空中を舞い、そのまま蒸気を上げ始めた。
勿論、俺にはそんなことはできないわけで。頼りになるなぁと思いつつ、
「そうだとも」
と、頷いた。
「お、階段だ」
部屋の中央にある螺旋階段を指差す。
「ここに階段っと。それじゃさくっと埋めてしまおう。……っと、」
身を屈め、地面に落ちている何かを拾い、
「あ、これお願いするよ」
ルミウスから抜き身の剣を受け取る。ふとなんか変な感じのする剣だなぁと思いながらも「鑑定」と呟き、
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それ は 呪われた鉛の剣 であることが完全に判明した。
呪われた鉛の剣(2d5)
それは鉛で出来ている
それは錆びにくい
それは呪われている
それは(2d5)のダメージを与える(貫通率5%)
それは筋力を1下げる
もし店で売れば2Gと12Sぐらいになるだろう。
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放り投げた。
放り投げた剣はそのままルミウスへと向かっていき、
「え、ちょ」
どこか慌てたような声と同時、剣が回転しながら僅かに彼のの真横を通り過ぎる。
「どうした?」
「ご、ごめん! 呪われてて思わず」
「呪われた武具の判別できるのはありがたいの」
寡黙なドワーフが感心したように呟き、もしや褒められた?と、なんだか少し照れちゃったりして。
「……気をつけてください」
照れは一瞬で吹き飛び、すいません、と俺は謝った。
* * *
自分よりも遥かに手馴れた様子で魔物を屠っていく三人の姿を後ろから眺めつつ、やはり仲間とは頼りになるものだと鑑定しながら落ちている武具や薬を回収。
そんなことを繰り返していると、
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あなた は よりアイテムへの造詣が深まった。
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不意にそんなログがポップアップ。
もしやと、「コマンドステータス」と呟く。
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所持金 314G 37S
カルマ -2
筋力 7 Great
耐久 8 Great
器用 7 Great
感覚 5 Good
習得 12 Great
意思 5 Good
魔力 0 Nothing
魅力 12 Good
クラス アイテム師
信仰神 ドルーグ
獲得スキル 交渉Lv.2 剣技Lv.1 言語Lv.Max アイテム鑑定Lv.3 アイテム効果上昇
状態異常 なし
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おーやっぱ上がってるなーとそんな事を確認していると、
「それじゃ次の階に行こうか」
と、リーダーが若干弾んだ声で言った。
どうやらマップが全部埋まったようだ。
先ほど見つけた螺旋階段へと向かう。引き返す途中に魔物とは出会わなかった。もしかするとこの階の魔物は一掃したのかもしれない。
そんなことを考えながら、何事も無く階段へと辿り着き、昇って上の階へ。
そのまま第二層の探索を続けようと少し歩き、
「ん?」
何かがうずくまっているのが眼に映った。
すわ、もしや新手の魔物かと一瞬心の中で身構えたものの、そんな気配はまるでなく、ましてやその物体はぴくりとも動かない。
なんだろうと感じつつ近寄る。どうにもそれは人間のようだった。鎧を着ているのを見るに冒険者だろうか。
更に近づきよくよく見れば、それは赤黒い水の中へ突っ伏すように倒れている。
いや、それは、もしかして*血なんじゃないか*とそんなことを今更の様に考えつつ、どこか非現実のような奇妙な感覚に囚われる。
ベレスが近づき、倒れ伏している身体をひっくり返す。
まず目を惹いたのはその男の顔だった。
顔は真っ赤に染まっており、その表情はどこか恐怖にひきつったような、泣きそうな顔に見えて、
右手は左肩を押さえている。当然だろう。なぜなら左肩から先は無く、おそらくは、そのために、彼は、
「死んでるぜ」
淡々とした声でベレスが言った。
後書き
PCが泊まってた宿ごと水没した事件もありましたが私は元気です。
とりあえず加筆修正。ちょっと後に直そうと思ってた雑な文を3年近く晒してたことに・・・。
なんてことだ。
以前のような更新速度は望めない気がしますが、
書き溜めてからとか考えてると何時投稿できるかわからんちんなので自分を叱咤する意味でも一つ。
とりあえずこの冒険のリザルトはネタノートに残ってました。
ちょっとやりなおそうかとおもったけどめんどいのでそのまま書いていきます