*パリン*
投げた試験管が見事に命中し、中身がウーズへとぶちまけられる。
「どうだ?」
トーレルが身を乗り出し尋ねた。
部屋に蠢く緑色のどろどろした物体がぶるりと震え、ぐにょんぐにょんと形を変え、奇妙な動きを始めた。
「効いたかも」
俺が答え、しかしそれと同時にウーズはずるりとこちらへにじり寄ってくる。
その移動の動きはなんとも奇妙なもので。
「本当かぁ?」
ベレスは既に先ほど拾った銅の剣へと獲物を変えている。
「た、多分!」
もしかしたら効いてなかったのかもしれない、と思った。
「行きましょう!」
声と同時、ルミウスが飛び出していく。
ウーズの動きは見かけによらず速い。
部屋の隅にいたはずのその物体は、既に5歩の距離。
「おうよ!」
ベレスが応じて飛び出す。
俺も慌てて飛び出した。
先頭を行くリーダーが剣を振るった瞬間、ウーズはうにょんと形を変え、鞭のように振るわれる。
「はっ!」
声と共に一閃!
振るわれたウーズの手は、ルミウスの身体に触れる前に斬り離された。
が、
「つっ」
苦悶の叫び。
身体は斬り離されたものの、残ったゲル状の肉片がルミウスへと降りかかったのだ。
じゅうっと煙が立ち昇り、ウーズの身体が強い酸でできていることを証明する。
剣を振り抜き、動きが止まるルミウス。
身体を斬られ、一瞬奇妙な動きを見せたウーズだったが、再び形を変え、近くのルミウスへと身体を伸ばす。
しかしそこで、
「おらおらぁ!」
威勢のいい声とともに振り回された剣がウーズの身体を真っ二つにした。
*がきん*
振るわれたベレスの剣はそのまま塔の石畳にあたって動きを止める。
二つに分かれたウーズがぶるりと震えた。
まだ動くか!?
そう思いながら走りこんだものの、次の瞬間べちょっと地面に沈み、*シュー*と煙を噴出し始めた。
「っと失敗失敗」
苦笑しながらルミウス。見れば手袋と鎧の間、剥き出しの腕の部分が火傷したかのように赤くなっている。
「これだからウーズはいやなんだ」
ベレスが己の剣を見ながら苦々しく呟いた。
「ルミウスさん大丈夫ですか?」
俺は右懐に入れてある傷薬用の試験管を取り出しながら尋ねた。
「大丈夫大丈夫。……ああ、その薬はもっと大きな怪我をしたときにとっといてくれ」
「その通り。あんなもんほっときゃ治んよ」
ぐいっと俺の肩に手を回しながら言うベレス。
「ほら、いくぞリーダー!」
「あ、ああ。わかってるよ」
とりあえず俺は回された腕を引き剥がした。
迷宮世界
再び早足で足を進めていると、三匹のコボルトが吠え声と共に走ってくるのが見えた。
以前見た固体よりも心なしか大きい気がする。
むむ、と剣を構えたものの、
「どれ、さっき働けなかった分、ここは任せい」
そう言ってトーレルが飛び出していく。
「あ、ずるいぞ」
そう言って追いかけたのは既に元の獲物へと戻したベレスだ。
「うおおおおっ!」
薙ぎ払うように振るわれた斧は三匹もろとも切り刻みながら吹き飛ばし、少し離れた壁に叩きつけた。
叩きつけられたコボルトはそのままばったり倒れ、*シュー*と煙を立ち昇らせ始める。
なんという馬鹿力。トーレルの腕と自分の腕の太さをふと目で測ってみたり。
「すまんすまん」
「しょうがねぇなトーレルのおっさんは。次は俺にやらせろよ」
「わかっとるよ。お、これはわしがもらってもよいな?」
見れば先ほどのコボルトのいた場所にはきらきら輝く白い石の塊が落ちている。
「うん?ああ、ミカか。いいよ。約束だしね」
「何に使うんです?」
疑問に思い、尋ねる。
「主に装飾品じゃな。ミカで作った装飾品は幸運のお守りとしてなかなか人気があるんじゃ」
「へぇそうなんですか」
幸運のお守り。女の子に人気がありそうだな。なんてことを考える。
「冒険者にとって運は大事じゃからな。ああ、そうだ。今回の探索が終わったら一つ作ってやろうか?」
別に女の子用ではなく冒険者用だったようで。それはそうと、
「えっ、いいんですか?」
「折角じゃしな」
おおー。やったー。
「良かったですね。ドワーフの装飾品といえば見事なものだって聞きます」
「買いかぶって貰っては困る。腕のいいドヴェルグならこんなところに潜っておらんよ」
「おっさんってそういう装飾品とかつくれるほど器用だったんだな。てっきり武具専門かと思ってたぜ」
確かに。先ほどのように吹き飛ばすような膂力に加え、その大きな手を見るとあまり向いてないような気がしなくもない。
「それこそ偏見じゃな」
ふふんとどこか小馬鹿にするように応える。
「武具も装飾も同じくらい器用でなくてはできんよ」
そういうもんなのかね。
とは言え、出来上がりを素直に楽しみにしておこう。
っと、
そんなことを考えてると、なにやら前方に影。
「あ」
「あ?」
俺の声に反応し、通路の前方を見つめるベレス。
近づくにつれ、その正体は明らかになり、
「ほれ、約束通り次はお前さんに任せるぞ」
「ちげぇよ!俺がぶった斬りたかったのはあんなウネウネしたやつじゃねぇ!」
そう言って、再び先ほどの片手剣を取り出し、右手でぐるぐる振り回す。
その声に我らのリーダーは苦笑して、俺に尋ねた。
「折角だからもっかい試してみる?」
頷き、答える。
「やってみます」
結論から言って、やっぱりウーズに塩は効いてないかもしれない、と思った。
* * *
群がるウーズを蹴散らし、再び階段を見つけ、更に上へ。
一体このダンジョンは何階まであるのだろう。
そんなことを思った瞬間、不意にウィンドウがポップアウトした。
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気をつけろ!この階は『ナーガ』によって守られている!
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*ルーエルちゃんのワンポイントアドバイス*
ウーズはドロドロしたゲル状の生物です。
伝統的なRPG雑魚モンスターと侮るなかれ!
その身体は強い酸性で、金属と布を腐食させ装備を容易く劣化させます。
恐怖も混乱も効かず、また睡眠も必要としません。
魔法に耐性を持つ個体も多いです。
また放っておくといつの間にか増えています。
基本的に避けることができねーので、冒険者の嫌われ者です。
低い階層のウーズはあんま強くねーけどウーズはウーズ。厄介です。
後書き
46億年物語でスライムに進化したときは下品ですがちょっと興奮しちゃいましてね……まぁバッドエンドなんですが。
あ、PC版のほうです。