既に迷宮は踏破済み。
故に、特に波乱無く戻れる予定だったのだが、どうにも物事というものはふとした拍子に落とし穴があるもので。
帰りがてら、どこかに獲物がいないかと探したのだが、矢張り殲滅済みなのかそうそう遭うことも無く。
少し残念だと思いつつ二階へ。
もう一匹ぐらい倒して行きたいなとか一瞬思ったのだけれども、
最初に来たときのことを考えるに、敵は見つかりそうにないなーと諦めムード。
真っ直ぐ帰ることにする。
部屋を抜け、マップを見ながら1層目の階段へ向かおうとして、
「えっ」
あまりのことに声が漏れる。
不意に誰かが部屋の電気のスイッチを切ったかのよう。
視界が唐突に暗闇へと包まれた。
迷宮世界
な、なんだ?どういうことだ?
何も見えない。
突然の暗闇現象に焦りつつも、パニックを起こさなかったのは空中に浮かぶマップとステータスがあるからだ。
宙に浮かぶステータスとマップは普通に見ることができるようで、安堵する。
だが、何が起こったのかとステータスを見るものの特に異常は無く、マップにも変化が無い。
*ゴトリ*と、何かが落ちる音。
何の音だと警戒しつつも、宙に浮かぶ地図とステータスの僅かな灯りが、その正体を教えてくれた。
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使用済みのランタンが落ちている。
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今更ながら、この便利明かりアイテムに使用時間とかあったのだなぁと思うこと暫し。
救いは空中に浮かぶマップとステータスだ。
周りはほとんど見えないものの、空中に浮かぶマップとステータスの僅かな光で、自分の足元ぐらいは確認できる。
もしこれが無ければ自分は暗闇の中で朽ち果てていたかもしれない。そんな想像にぞっとする。
突然灯りが無くなってしまっても多少の救済はあるのだと、この世界に優しさのようなものを感じた。
とは言うものの、
*ごつり*
「痛っ」
どうにもマップの空間が上手く把握できず、壁に頭をぶつけてしまう。
「むぅ」
ぶつけた頭を抑えつつ、左手を前に出し、恐る恐る歩く。
一階への階段がすぐ近くであったことは幸いだったなぁと思いつつ。
四層目に行っていたらどうなっていたことやら。そんなことをふと考える。
引き返して正解だった。
地図を見ながら手探りでドアを開ける。
そのまま地図に従って階段へ進もうとして、
*カチリ*
「ん?」
何かスイッチのようなものを踏んで、
突然、身体に衝撃が走り、一拍後、壁に背中から叩きつけられた。
「―――っ!」
パクパクと口を開く。
不意な衝撃に身体が驚いたのか声が出ない。鈍い痛みが身体全身を覆う。
そのまま崩れ落ち、痛みを和らげようと身体を丸める。
罠か。一体なんの罠だ。
焦りながらも、ステータスを確認。異常は無い。
身体全身に広がる鈍い痛みに少し泣きそうになったものの、特に致命的な罠ではなさそうだと安堵。
地図を見れば壁際に自分が移動していることがわかる。
丸太でも飛んできたのだろうか。
「ハッハッ」
じっとして身体の痛みが引くのを待っていると、動物の息遣いのようなものが聞こえた。
思わず息を殺す。
こんな真っ暗闇では投げエンジェルに頼れそうも無い。
早いとこ一階へ行こうと再びマップを見ながら階段へと進もうとして、足を止めた。
何しろこの真っ暗闇。一体どこで自分が罠を踏んだのか良くわからないわけで。
耳を澄ます。
息遣いと地面を噛む音が聞こえる。
心臓が高鳴る。
なるべく自分の吐息を聞こえないように、抜き足で音から離れる。
その後マップを見ながら回り込むように階段へ。
無事辿り着き、ほっとしながら階段を登ろうとして、
「あいたっ!」
若干焦りがあったのか階段を踏み外してしまい、うつ伏せに倒れる。
身体を押さえていると、
「ウォン!」
と、吠えるような声。
俺は慌てて一階へと登った。
* * *
ばくばくと心臓の鼓動音が響いている。
暗闇とは随分と心を不安にさせるもののようだ。
一階層といえどまったく安心できず、そのままひたすら地図と足元を見ながら出口へと進む。
例えネズミであっても、この暗闇状態では遭いたくない。
祈りが通じたのか、それとも既に殲滅され切っていてモンスターが居なかったのかはわからないが、出遭うことなく、明かりへと辿り着いた。
やっとそこで俺はほっと胸を撫で下ろし、明かりへと足を進める。
地図を見た。出口はもうすぐだ。
* * *
外の眩しさに目を手で覆う。
目を慣らし、手の保護を外すと入り口のすぐ傍で佇んでいる馬のロシナンテを発見。
俺の姿を見つけると、こちらに向かって「ブルリ」と鼻を鳴らした。
後書き
なかなか踏破できなくて必死で頑張ってたらちょっとエタりそうになった。反省。
短いですがここまで。この先機会がなさそうだったので、入れようか迷ってたイベントを一つ入れました。
予定がずれることはよくあることだね!
じ、次回こそ二章ラストの予定です。