この作品は完全に作者の趣味で書きました。
深い考察など一切ない、パラレルワールドのギアスです。
キャラ設定や世界観、その他が崩れていると嫌な方はお帰りください。
別にいいやっていう心の広大な方だけお読みください。
神聖ブリタニア帝国、帝都ペンドラゴン。
その広大な敷地に悠然と居を構えた白亜の居城があった。
ブリタニア皇帝が政務を行う城。国中の貴族が軒を連ね、超大国としてこの世の春を迎えたブリタニアの中心がそこにはあった。
―――そして全ての物語の始まりは、ブリタニア城、謁見の間で起こった。
大きく豪華な玉座。屈強な衛兵と神官が数名後ろに控えている。
その中心で人を威圧するような目をした、銀髪の恰幅のよい男がずんぐり座っている。
全世界の三分の一を支配する、王の中の王である皇帝位に立つ男。
シャルル・ジ・ブリタニア。
九十八第皇帝、弱肉強食を唱える実力主義者の皇帝であった。
妻を108人も娶り、生まれた皇子を競わせ、勝ち残った者に皇位を継承させるという方針を決めた剛腕の王だ。
「ビスマルク・ヴァルトシュタイン。只今参上しました」
その玉座の間に、一人の男の声が響いた。
ビスマルク・ヴァルトシュタイン―――『ナイト・オブ・ワン』の地位に着く、帝国最強の騎士である。白いマントを羽織り、片眼を負傷した壮年の男であった。
貴族達が彼に敬意を払い、皆が頭を伏せ道をゆずる。
武人でありながら文官にも絶大な権力を発揮しているのだ。
「……お前か。で、何の用だ?」
「……まずはお人払いを。日本へ送った二人の殿下についてのことで」
「…………」
シャルルは重い息を吐き、黙って手を上に上げる。
それは謁見終了の合図であった。
貴族たちにどよめきがあがり、しばし騒々しくなったが、皇帝の命に逆らう者は誰もおらず、皆退出していった。
玉座の間にはシャルルとビスマルクだけとなる。
「……ルルーシュとナナリーは死んだ」
「いいえ、生きております」
言い切ったビスマルクに、皇帝の目が少し細まる。
「その閉じた方の目で見た……ということか」
「は……」
「何が見えた?」
「ルルーシュ殿下が、陛下に牙を向き、このブリタニアを滅ぼす未来を……」
何も知らない人間には何のことかさっぱりわからない秘密の会話が続けられる。
感情をさっぱり表に表さない二人の男だったが、やがて皇帝の方が愉快そうに笑いだした。
「ふ……ふふふ。ふははははははは!!」
「……」
「マリアンヌが死んだ時、ワシの前で腰を抜かしたあのヘタレ小僧が、そこまで成長すると言うか!? それはまっことにめでたい話ではないか!」
「……陛下がルルーシュ殿下とナナリー殿下を、陛下なりの愛情をもって接しておられることはよくわかっております。しかし、このままではルルーシュ殿下は陛下を誤解されたまま、世界を不幸にし、悲惨な末路をとげるでしょう」
その時、ビスマルクの瞳は両目ともカッと開いていた。
閉じた片眼が、赤い鳥のマークに染まっていた。
「……で、ビスマルクよ。貴様は奴らをどうしたいと言うのだ? そもそも日本で行方不明になっているのだろう? どうやって探し出す?」
「我が諜報により、殿下らはアッシュフォードにお隠れになっていることが既にわかっています。ナナリー殿下の方はこのままアッシュフォードに引きとってもらうのがよろしいでしょう」
「問題はルルーシュ、か」
「は。ルルーシュ様は私めにお任せください。必ずや文武に優れた立派な皇族にしてみせます」
「お前が育てると言うか?」
「……は」
ビスマルクの瞳に嘘はない。
必ず理想的な皇族に仕上げてみせるという自負と、その自信がみなぎっている。
元々実力だけでここまでの地位についた男だ。
皇族への忠誠も人一倍強い。
しかし、ここまで言い切ったからには、ルルーシュにも妥協しまい。
これからルルーシュは地獄を見ることになるだろう。
「……大した忠誠よな。いいだろう。貴様の好きなようにするがいい。しかし、『接続』
の計画に遅れは許されん。それはわかっておろうな?」
「重々承知しております」
「……うむぅ。では全て任せた」
「イエス、ユアマジェスティ」
この謁見はわずか数分のことだったが―――
ここで、全ての歴史が変わったのだ。
『コ―ドギアス・中から変えるしかないルルーシュ』
『プロローグ』
―――母上。見ていてください。あなたを蜂の巣にした、憎い敵へ必ず復讐します。
―――あなたが受けた屈辱を、そのまま奴らに味あわせてやる。
―――ですから、ですからどうか、安らかにお眠りください。
日本、改めエリア11。
かつて日本と呼ばれた国の、新たにできた租界の深夜のこと。
アッシュフォード学園、皇族の受け入れの為豪奢に改築されたゲストルームにて、一人の少年が、決意を新たに胸に刻み込んでいた。
ルルーシュ・ランペルージ。元の名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
ブリタニア帝国の皇位継承権を持つ、幼き皇子である。
流れるような黒髪に、紫紺の瞳。その立ち振る舞いは平民と偽っても隠せない高貴さが滲みでている。
アッシュフォードでの暮らしにも慣れ、妹であるナナリーと共に穏やかな生活を営んでいるが、ルルーシュの心の奥底ではブリタニア皇族と、自分の父であるシャルルを憎む気持ちが渦巻いている。
今でもいつも思い出す。
赤い絨毯の階段が、母の血でさらに朱に染まった一場面一場面を。
母はナナリーを守るように、抱き抱えるようにして死んでいた。
ナナリーはその時のショックで、目と足の自由を失ってしまった。
そしてその崩れ落ちた母をあざ笑うようにして、佇む貴族、皇族達っ!
貴族でもないのに皇帝から寵愛を受けていた母は、他の后達から嫉妬されていた。
あの中に母を殺した奴がきっといるはず! そして今ものうのうと生きているのだ。
もちろん、母を守ってくれなかった父も同罪だ!
絶対に許さない! 大きくなったら絶対に復讐してやる!
ゲストルームのキングサイズベッド。子供に対して大きすぎるそのベッドに腰掛けながら、窓の外に映る暗黒色の空を睨みつける。遥かかなた、憎い敵のいるブリタニアに向け呪詛をこめた視線を、ルルーシュはただ注ぎ続けた。
ルルーシュの隣にはまだ幼いナナリーが眠っている。
母を亡くし、体の自由をなくし、日本という第二の安息を失い、スザクももうここにはいない。自分の妹は何一つ自由にできるものがない。他人に頼らなければ生きていけない、それでも優しい素直な、たった一人の実の妹だ。
眠るナナリーの頬をルルーシュは優しくなぞる。
「神様……。お願いです。僕はどうなっても構いません。どうかナナリーだけは……。ナナリーにはもう悲しい世界を見せたくないんです。彼女の目が治る頃には、この世界が優しさと美しさを取り戻していますように」
ルルーシュは今度はたいして信じてもいない神に、初めてかもしれない祈りを本気で捧げた。
―――その祈りは、今は決して叶わないかもしれない。
―――でも、いつの日にか。
しかし、その時だった。
いきなり、空が光だし、外が騒がしくなった。
激しいヘリコプターのエンジン駆動音が、バリバリと夜の闇を裂いていく。
学園の中庭を照らし出し、垂直に降りてくる。
ヘリの外装は……ブリタニアの紋章がついていた。それも武器を装備しており、一目で軍事用のものだとわかる。
「な、ナナリ-っ!」
「……お兄様?」
外の異常に気づいたのか、ナナリ-もベッドから起きてくる。
ルルーシュは持ち前の頭の異常な良さもあってか、帝国が自分達の存在に気づいたのだとすでに判断していた。もうアッシュフォードにはいられない!
逃げなければ!
逃げなければまた自分たちはブリタニアの勝手な外交に使われてしまう!
日本に人質に送られた時以上の、さらなる不安がルルーシュに襲いかかる。
「ナナリ-! 僕にしっかり掴まって! 走るよ!」
「ど、どうしたんですか? お兄様!」
目が見えないナナリ-は、外の状況がわからないのか、まだ寝ぼけた声だった。
ルルーシュはナナリ-を背負って、ゲストハウスの外へ行こうと階段をおり、大きな門を開け、中庭に出る。
しかし、ブリタニア軍ナイトメア『サザ-ランド』が二機、そこには待ち構えていたのだった。小さな子供二人など簡単に押しつぶしてしまえそうなほどの巨大なロボットの手が、ルルーシュ達を逃がすまいと迫る。
「くそっ!」
ルルーシュはまたゲストハウスの方へ向かおうと、踵を素早く返した。
しかし、もうその背後には大勢のブリタニア軍人が待機していた。
その先頭には、ナイト・オブ・ワンであるビスマルク・ヴァルトシュタインの姿がある。
ルルーシュもビスマルクは知己の人物であった。
母に忠誠を誓っている、帝国最強の騎士。
彼が自分達を捕らえに来たのだ。
もう逃げることができない、その運命も頭のいいルルーシュは理解できた。
「……ルルーシュ様。お迎えに上がりました」
ビスマルクの低い、抑揚のない声が響いた。
ルルーシュに絶望と共に、自分達を放って置いてくれないブリタニアに対する怒りが噴だす。
「どうしてっ! どうして、僕達を放っておいてくれない!? 僕達が何か悪いことでもしたのかよ!」
「……あなたは皇族です。どうか義務をお果たしください」
「義務……だって? 僕達兄妹は人質になる義務でもあるっていうのか! 勝手な言い分で僕達をまた苦しめるのか! ふざけ―――」
その時だった。
ビスマルクがなんとルルーシュの頬を張ったのだ。
「きゃあ! お兄様!!」
ナナリ-の悲鳴が響き渡った。
「……ぶ、ぶったな? ナイト・オブ・ワンであり、皇族に忠誠を誓うはずの騎士が、僕をぶったな!」
「堕落している……」
その時、場の空気が変わった。
「―――ヒッ」
ビスマルクの冷酷な瞳がルルーシュを貫いた。
まるで、その目はブリタニア皇帝のようで、ルルーシュを無価値な塵のようにでも見るかのような冷たさだった。
「なんの力も持たない、力を得ようと努力もしようとしない。今のあなたに皇族としての価値はありません。こんなぬるま湯のような生活に浸りきっていたのではあなたに未来はない」
「…………」
ルルーシュもナナリ-も言葉が出ない。
反論を一切許さない、そんな雰囲気がビスマルクから出ていたからだ。
「これよりルルーシュ様は我が監督のもとで、一から教育させてもらいます。お可哀想ですが、ナナリー様とはここで一旦別れて頂きます。修練の邪魔になりそうですから。
ナナリー様にはこのままアッシュフォ―ド学園で生活してもらいます。ブリタニアに戻るよりもそちらの方が良いでしょう」
「―――なっ!?」
ナナリーと別れる!?
冗談ではない!
恐怖よりも怒りが上回り、ルルーシュはビスマルクに踊りかかっていた。
勝てるはずがないにもかかわらず。
ナナリーを守る。兄としてそれは当然のことだった。
自分しか彼女を守れないのだ。
誰がこれから彼女の面倒を見ると言うのか!
たった一人の妹をここで捨てていけるものか!
「母さんと約束したんだ! 絶対守るって!」
「…………」
ルルーシュの拳はビスマルクの顔をかすりもせず、固い腹筋に当たった。
あえてビスマルクはルルーシュの攻撃を避けようとはしなかった。
母さん、マリアンヌの名が出た瞬間、ビスマルクの顔にうっすらと感情が宿った。
それは苦しみか、自嘲か。
ルルーシュには判断しかねたが、それでもビスマルクは何も反論しなかった。
「私をお恨みになるならそれもいいでしょう。ですが、あなたをこのままにはしておけない。無理矢理にでも連れていかせてもらいます」
「―――ぐぁっ」
ビスマルクの固い拳がルルーシュの鳩尾に入った。
ここでルルーシュの意識はブレ、地面に倒れ込んでしまう。
立ち上がる気力などない。
最後にナナリーの泣き叫ぶ悲痛な声だけが耳に残った。
「お、お兄様っ! お兄様!!! お兄様ーーっ!」
倒れ伏したまま、ルル-シュに向かって手を伸ばすナナリー。
しかし、ルルーシュには何もできない。
「……総員、撤退する。
ナナリー殿下、どうか、どうかお強く、健やかにお過ごしください。それだけが、それだけが、私の望みです」
僕をさらおうとするお前が言うな。
そんなルルーシュの声は嗚咽としてしか、意味をなさなかった。
担架に乗せられ運ばれていくルルーシュ。
歴史が完全に変わった瞬間だった。
数年後、ブリタニアに復讐し世界を壊す少年は。
中からブリタニアを支配する、次世代の皇帝への道を歩んでいく。
果たしてその行末はどうなるのか。
それはまだ誰にもわからない。
第一話へ続く。