ナルキをシャーニッドとハーレイに紹介し、明後日から強化合宿が予定されていたのだが、その中止をニーナが告げる。
理由はもちろん、都市警の捜査に協力することになったからなのだが、極秘にしなければいけないためにシャーニッドやハーレイには告げられていない。
故に適当な理由で誤魔化したのだが、おそらくニーナはシャーニッドには言いたくなかったのだろう。
かつての仲間が、違法酒に手を出したと疑いをかけられているなどと。
どんな理由にせよ、ナルキが第十七小隊に入隊したのは事実で、いつもどおりに訓練が始まる。
初日と言うこともあって、ナルキは苦戦していたがレイフォンのアドバイスなどもあり、なんとか乗り切った。
訓練後、かなりダウンしていたナルキだったが、
「おまたせ~」
機嫌のよいハーレイの声が、ナルキを休ませてはくれなかった。
「どうかしたんですか?」
「どうしたもなにも、新人さんがいるんだから僕の出番がたくさんあるじゃないか」
うきうきとしたハーレイの手には、武器管理課の書類が握られている。
「ナルキさんの武器を用意しないと」
「あ、いえ……あたしはこれで十分……」
ナルキは都市警で普及された打棒の錬金鋼を見せようとしたが、ハーレイが首を振った。
「それは都市警のでしょ?都市警マークの入った武器なんて試合で使えるわけないじゃん」
「あ、でも……」
「いいからいいから、お望みのならなんでも作るから。行こう」
目をキラキラさせながら、ハーレイはナルキの手をつかんで研究室へと引きずっていく。
その姿はとても活き活きしていた。
「どんなのがいいかな?やっぱ打棒系がいいの?それならニーナよりも短くて取り回しが利く方がいいよね。あ、そう言えば腰に巻いてるそれなに?取り縄?ふーん、捕縛術ねぇ。それって面白そうだねぇ」
津波のごとく押し寄せられてくる質問に圧倒されつつ、ナルキはハーレイに連れ去られていく。
ナルキはレイフォンに助けを求めるような視線を向けてきたが、レイフォンには『ご愁傷様』と言う以外に出来ることはなかった。
「さて……」
ナルキの恨めしそうな視線を忘却しつつ、レイフォンは訓練室のベンチに座って本を読んでいたフェリをの方を見る。
フェリは本を閉じ、立ち上がった。
「面倒ですがやりますか」
フォーメッドの依頼。
ナルキはハーレイに連れ去られ、ニーナの姿はもうない。おそらく帰ったのだろう。
残ったのはレイフォンとフェリの2人だけで、必然的に2人がやることになる。
フェリが念威端子を飛ばし、レイフォンは殺剄で気配を消した。
(さて、どうしよう……)
殺剄で気配を消したレイフォンは、練武館正面入り口の屋根で時間を潰していた。
「第十小隊は、まだ訓練をしているようですね」
念威端子越しにフェリの声が聞こえる。
ドアを開ければ流石に気づかれるので中の様子までは見てないが、聞き耳を立てると微かにディンの声が聞こえた。
また、訓練中故にそれらしい物音も聞こえている。
訓練が終わり、出てきたらそのまま尾行するのがレイフォンとフェリのプランだ。
そうする以外、良い方法が思いつかない。
フォーメッドが欲しいのは、ディンが違法酒であるディジーを持っているところ。
あるいは明確に使用したと分かる証拠だ。
(そんなの、どうやって見つければいいんだろう?)
ディンの部屋に潜入できれば話は早いのだが、そんな泥棒となんら変わらない手段を取ってしまってもよいのだろうか?
(部屋に入るだけなら簡単なんだろうけどな)
プロの泥棒のように針金ひとつで鍵を開けるなんてことはできないが、今のように気配を消してドアの鍵を剣で切ってしまえば簡単だ。後は無事に証拠が出てくれば大成功。
……だけど、出てこなければ余計な警戒を招くことになるのは分かりきっている。
ならばどうするか?
「フェリ、何かいい案はありませんか?」
「そうですね……」
こういう考えることが苦手なレイフォンは、困ったようにフェリに助けを求める。
頭の良い彼女なら、何か良い案を出してくれるだろうと期待して。
「めんどくさいですから、もういっそのこと、強攻策に出るのはどうです?フォンフォンならディンを伸して、証拠を探ることは簡単なのでは?」
「いや、確かにその方が手っ取り早いかもしれませんが、色々まずいですよ、それ……」
フェリの案に苦い笑みを浮かべ、レイフォンは悩んだ。
どうも自分にはこういったことは向かない気がする。出来たとしても、フェリが言った様に強攻策で腕っ節を披露するぐらいのことだ。
グレンダンでは警察関連の仕事を手伝ったことはあるが、まさしくそれしかやったことがない。
「あ、出てきましたよ」
となれば、後はフェリの機転に頼るしかないのだが……果たして大丈夫なのかと本気で考え込むレイフォンだった。
ディンは小隊員を連れ、練武館から出てきた。
ディンを入れて7人。第十小隊全員がそこにはいた。
武器を扱って動くように訓練された人間には独特の動きがあり、その動きから見ておそらく最後尾の人物が念威繰者なのだろう。
そして先頭に立っているのがツェルニでも珍しい髪形をした、と言うか毛根を除去したのかと思うほどに髪がない禿頭の男、ディン。
そんな彼の斜め後方に、この間レストランでは見かけなかった美女がいた。
(彼女が副隊長の?)
ダルシェナ・シェ・マテルナ。
大人の女性と言うよりも、何かそういった彫像のような美しさを宿しているように見えた。
そして、髪が綺麗だ。輝く金髪はもちろんのこと、螺旋の如く渦巻いた髪が本当に美しい。
思わず目が奪われてしまいそうなほどだ。
「不快です……」
「え、どうしたんですかフェリ?」
「なんでもありません」
レイフォンの視線を追ったのか、フェリが不機嫌そうに言う。
ひょっとして焼餅かと思ったが、もしそうだったらかわいいなと思わず苦笑する。
フェリの髪だって、ダルシェナに劣らず十分綺麗なのだ。
輝く、長くて綺麗な銀髪。
フェリ曰く多少クセ毛らしいが、ストレートに流された髪は十分に美しい。
レイフォンとしては、むしろそっちの方が好みだ。
いや、好み以前の問題に、ハッキリ言ってフェリ以外の女性に興味はない。
ダルシェナに目を奪われたのも、ちょっと綺麗だなと思っただけでそういうつもりは一切ないのだ。
「……なにを笑っているんですか?」
「なんでもありませんよ」
それでもレイフォンの返答、苦笑が気に入らないように問い詰めるフェリ。
誤魔化すようにまた笑うレイフォンだが、それが更にフェリを不快にさせる。
どこか拗ねたように、もう一度問い詰めようとしたところで……
「あれ、隊長?」
「……なにをしてるんですか?あの人は」
ディンが出た後、間を置いて、正面玄関から出てくる人影。ニーナだ。
訓練の後に何も言わなかったし、さっさとシャワーを浴びに行ってしまったからもう帰ったと思ったのだが、そんな彼女は殺剄を使って第十小隊の後を付けている。
レイフォンほどではなく、シャーニッドほどに精緻にその場の空気に溶け込むほどではないけれど、それでも一応、気配は消している。
「今は大丈夫みたいですけど、このままだと遅かれ早かればれますね……」
だが、仮にも相手は小隊員だ。
自分やシャーニッドならともかく、ニーナのレベルの殺剄ではばれる確率が高い。
「ですが、言って隊長が止まりますか?」
「それは……」
だからと言って、止めて彼女が言う事を聞くとは思えない。
今までの経験上からも、それはわかる。何より、止めようとして言い合いになってしまえばそれが原因でディン達にばれてしまうおそれが出てくる。
「隊長を背後から殴って気絶させ、そのまま放置するという手段はどうです?」
「いや、それは流石に……」
「半分冗談です」
「半分なんですか?」
「ええ、最終手段です」
「はぁ……」
フェリの発言に苦笑いを浮かべながらも、いざとなればそうするしかないのかと考えるレイフォン。
一抹の不安を抱き、思考を巡らせながら、ディン達とニーナを追うために屋根から飛び降りた。
ディン達第十小隊の面々は路面電車を使うこともなく、徒歩で移動をしていた。
そして現在、その後をニーナが付け、その後ろをレイフォンとフェリの念威端子が付けるという奇妙な状態になっている。
なんだかとても間抜けな構図だと思いながらディン達の方を見ていれば、彼らは他愛のない会話をして歩いているようだった。
隊員の誰かが砕けた事を言い、それに誰かが乗っかり、笑いが起こる。
第十七小隊でも行われるような。ごく普通の馬鹿話だ。
本当に第十七小隊の会話風景と、何も変わらない。
ただ、予想と違ったのはニーナの様に顔をしかめる役はディンがしている。なんとなくだが、その役目は副隊長のダルシェナがしている気がしたのだ。
身にまとう空気はどこかニーナに似ていて、そしてニーナよりも洗練されている。
上品と典雅を身にまとった麗人……そんな様子で、まさしくその通りだと思うけど、時には隊員達の冗談に下品にならないように笑い、口元を崩して言い返していた。
なんだか、その時の雰囲気がどこかシャーニッドに似ている気がする。
フェリに聞いた話だが、ディン・ディー。
ダルシェナ・シェ・マテルナ。
そしてシャーニッド・エリプトン。
かつて、第一小隊に迫る実力を持っていたという第十小隊の連携を作っていた3人。
言われてみれば、確かにシャーニッドとは気が合いそうなように見えた。
だが、だからこそわからない。どうしてシャーニッドは小隊を抜け、今は不仲の間柄になってしまったのか?
そんな事を考えていると、気づいた。
ダルシェナは時には笑い、時には言い返したりして、楽しそうに第十小隊の面々と会話を交わしている。
だが、時たま心ここにあらずと言うか、稀にどこか熱っぽい視線でディンを見つめている。
レイフォンも不審だと思うぐらいだから、当然第十小隊の面々も気づいているようだ。
そんな一同を代表して、ディンがダルシェナに尋ねたようだが、当のダルシェナはなんでもないと言うように首を振っていた。
何かあったのだろうかとレイフォンが思っていると、そんな第十小隊に解散の兆しが見える。
1人、また1人と別の道へと分かれている。
おそらく、それぞれの寮やアパートに向けて分かれているのだろう。
最後にディンとダルシェナも分かれ、ディンだけが残った。
ニーナは迷わず彼を追い、レイフォンとフェリの念威端子もそれを追う。
主犯格は間違いなくディンだとフォーメッドも言っていたし、彼の出身は彩薬都市ケルネス。
違法酒を禁じていないどころか、現在も生産をしている数少ない都市だ。
入手する方法があるとしたら、ディンしかいない。
このまま真っ直ぐ自分の部屋に戻るのか……1人歩くディンを見ながらそう思っていると、動きがあった。
だが、ディンにではない。動いたのはニーナだ。
「ディン・ディー」
いきなり殺剄を解いて呼びかけるニーナに、レイフォンは慌てた。
止める暇なんてなかった。
「隊長が暴走しました。場合によっては最終手段を」
「……本当にやるんですか?」
なんとか殺剄を維持しつつ、レイフォンはいつでも距離を詰められるように構える。
「ニーナ・アントーク?第十七小隊がなんの用だ?」
ディンの態度は友好的とは程遠い。むしろ、嫌悪すら感じた。
「話がある」
「こちらにはない。聞く価値があるとも思えん」
「大事な話だ」
立ち去ろうとするディンを止めるように、ニーナは強引に話を進める。
「違法酒に手を出すのをやめるんだ」
「……なんの話だ?」
そして、重要キーワードがニーナからもれる。
その言葉を聞いて、ディンが立ち止まり、ニーナに振り返った。
「最終手段です」
「あぁ、もうっ!」
頭を抱えつつ、レイフォンは殺剄を解いて活剄を走らせる。
ディンやニーナに反応させる暇は与えない。一瞬で蹴りをつける。
「都市警……がっ!?」
「!?」
言葉の途中でニーナが倒れた。
嫌悪すら抱いていたディンだが、流石にこの状況には驚愕し、固まる。
レイフォンは一瞬で距離を詰め、ニーナを背後から殴った後、地に倒れ伏す前に受け止め、半ば自棄で言った。
「あれ、隊長どうしたんですかいきなり?こんなところで寝たら風邪引いちゃいますよ。まったく……しょうがないなぁ。あ、失礼しました」
凄く棒読みなセリフだ。
そんなセリフを吐きつつ、気絶したニーナを肩に担ぎ、レイフォンはディンの前から一目散に立ち去る。
そんなレイフォンの背中を見つつ、ディンは未だに呆然としていた。
「なんだったんだ……一体?」
呆然とはしていたが、ある程度の理解は出来た。
ニーナの言葉といい、言いかけた都市警といい、おそらく自分達が違法酒を使っている事に関しての根拠を得たのだろう。
だが、まだ決定的な証拠をつかんでいないからこそ、おそらくは都市警に協力を要請されたニーナかレイフォンが後を付けていたのだろうが……結果はこの通り。全てニーナが台無しにしていた。
普通なら、このまま証拠を処分し、ニーナの言うとおり違法酒に手を出すのをやめるべきだろう。そうすればディン達は罪には問われない。
証拠不十分で、容疑をかけられても無罪放免だ。
(それがどうした?)
だが、そう言う訳にはいかない。
今更、立ち止まるわけにはいかないのだ。
決めたのだ、誓ったのだ、この都市を護ると。シャーニッドがいなくなったとはいえ、それでも残った者達でこの約束を果たす。
そのためには力が、発言力が要る。武芸大会で作戦などを考え、決めるのは武芸長のヴァンゼや、成績上位の小隊長だ。
そのために第一小隊に勝つ。試合でも、総合成績でもだ。
自分の作戦を通すために、この都市を、ツェルニを護るために。
だからこそ、こんなところで立ち止まるわけにはいかない。
「なんで邪魔をする!?」
「それはこちらのセリフです。馬鹿なんですね。馬鹿だ馬鹿だと思っていましたが、隊長は本当に馬鹿なんですね」
気絶から目覚めたニーナを前に、フェリはとても冷たい視線を彼女に向けていた。
レイフォンはどうしていいのかわからず、オロオロしてフェリとニーナの会話を見守っている。
ぶっちゃけ、それ以外何も出来なかった。
「だがな……」
「だがもなにもありません。調査に協力しないのならともかく、ディンに情報を流してどうするんですか?彼はなんだかんだで兄も認めるほど鋭いですからね……ひょっとしたら全部気づいたかもしれません。そうでなくともこれは立派な犯罪幇助です。あなたは第十七小隊を潰すつもりですか?」
「っ……そんなつもりは……」
「つもりはなくとも、結果的にはそうなる可能性だってあります」
フェリには容赦がない。
呆れたように、もはや疲れ果てたようにため息を吐く。
それでも自然体、無表情なままのこの言葉にはある意味怖さを感じた。
素敵な笑み……とは程遠い表情だが、その裏に潜んでいる怒気はとても恐ろしいものだろう。
「第十七小隊がどうなろうと関係がありませんが、私は兄に無理やり小隊に入れられました。おそらく、第十七小隊が解散しても兄はフォンフォンと共に私を別の小隊に入れるでしょう。そうなると訓練をサボれないじゃないですか。第十七小隊なら、隊長を無視してサボる事は容易なのに」
「フェリ……」
そして、色々と台無しだった。今度はニーナが呆れている。
前線で戦おうとするレイフォンのために、常に最高の念威のサポートを勤めようとするフェリだが、それ以外、小隊の訓練などには乗り気ではないフェリ。
最近はレイフォンと共に行動するので、遅刻と訓練の欠席は減ったのだが、それでも訓練中に本を読んでいたりなど、あまり乗り気ではない。
「だが、私はどうしてもああしなければならなかった。ディンがああなってしまったのには、理由がある」
「理由って、シャーニッド先輩ですか?」
レイフォンの言葉に、ニーナは頷く。
「私は1年の時から小隊に入っていた。所属していたのは第十四小隊。それほど強い小隊でもなかったが、当時は一隊員だった今の隊長が気持ちのいい人だった。隊員達の仲はとても良好で、あらゆる作戦に柔軟に対処できるだけの信頼関係の下地は十分だった。武芸大会には、間に合わなかったが……」
第十四小隊。以前に試合をして、負けた小隊だ。
そのころを思い出しているのか、ニーナは過去の記憶を呼び寄せるように目を細める。
「翌年の対抗試合で第十小隊と戦った。ディン・ディー。ダルシェナ・シェ・マテルナ。そしてシャーニッド。ひとつ上の3年生。第十小隊は6年生が多く、殆どが卒業してしまったとはいえ、いきなり3年生を3人取り込むのは大胆な起用だった。誰もが第十小隊は弱くなったと思った。しかし、強かった。ダルシェナの嵐のような攻撃、ディンの変幻自在さ、そしてシャーニッドの精密な射撃。それらが重なり合ってお互いの弱点を埋めながら突き進んでくる。圧倒的とさえ思ったし、正直、憧れた。彼らだけが戦闘衣を改造して独自の物を使っていて、それを同級生達は苦々しく思っていたようだが、私達からすれば新しい時代を運んだ旗手の様に思えて、本当に眩しかった」
そこで、ニーナは一旦言葉を切った。
この先の話はレイフォンとフェリも知っていた。
レイフォンはフェリに聞いたのだが、対抗試合の後半に、いきなりシャーニッドが小隊を抜け、それによって3人の連携によって支えられていた第十小隊も瓦解してしまった。
「ディンの怒りは凄まじかった。シャーニッドに決闘を申し込んだくらいにな。シャーニッドはそれを受けたが、一度も抵抗をしないままだった。ボロボロにやられていたな。審判が止めに入らなければ、シャーニッドは後遺症が残る怪我を負っていたかもしれないほどだ。そうならなくて、本当に良かったと思っている」
ニーナはひとつ息をついた。
心に残っている重荷をゆっくりと引きずり出すような間合い。
レイフォンもフェリも、黙ってニーナが話を再開するのを待った。
「対抗試合が終わってすぐ、私はシャーニッドに会いに行った。自分の隊を作ろうと思ったんだ。あのまま第十四小隊にいても、強くなれたかもしれない。だが、私の欲は深かった。深くなってしまった……出会ってしまったからな」
それはツェルニのことだろう。
この都市の意思である電子精霊に出会ったから、ニーナはこの都市を護りたいと、強くなりたいと思った。
「私はシャーニッドに声をかけたんだ。小隊を作りたい、協力してくれと。最初は渋っていたが、あいつは最終的には協力してくれることになった。ハーレイにも声をかけ、隊を新設したい旨をちょうどそのころ、選挙で会長になったカリアン先輩に伝え、フェリを紹介してもらった」
第十七小隊はこうして始まった。
翌年の入学式でレイフォンが現れ、ようやく小隊として最低限の人数をそろえる事が出来た第十七小隊の始まりの話。
「……私が、第十小隊からシャーニッドを奪ったようなものだ」
「それは、違うんじゃぁ……」
それが、ディンが抱いていた嫌悪の原因なのだろう。
だが、ニーナの言い分は違うと思う。
「事実はそうだが、彼らの感情はそうはいかなかった。許せなかったはずだ。どんな事情かは知らないが、シャーニッドがあのまま、ただの武芸者の生徒でいるだけならこうはならなかったはずだ」
確かに、恨みを持った人物が視界に入るのすら鬱陶しく、邪魔だろう。
その上、自分達から離れて小隊として戦おうとする姿は無視しようとしても出来ない。
第十七小隊が弱ければまた、話は違っただろう。
だが、第十七小隊は強かった。強くなってしまった。
レイフォンが加入し、戦力が劇的に増加し、ニーナは本来の自分の役割、防御と指揮に集中できるようになった。
それでも前衛に出たがると言う困った癖を持っているが、シャーニッドが状況に合わせて自分の役割を変えられる柔軟さを手に入れた。
本業の狙撃と、銃衝術による白兵戦だ。
やる気のなかったフェリも、今もやる気はないが、念威のサポートは前よりも真面目にやってくれている。
少なくとも、レイフォンは不満を感じない。
それほどまでに第十七小隊は強くなり、無視できないほどの戦力を要しているのだ。
都市を護りたいカリアンやニーナからすれば喜ばしいことだろう。だが、ディンにとっては違う。
その事実は許せない。自分達を裏切ってシャーニッドが入った第十七小隊が強いという事実。
それは、信頼を裏切られた怒りだ。
恨みや嫉妬がないと言えば嘘になるかもしれないが、少なくともそれは簡単に割り切れるものではない。
「妄言は以上ですか?」
「なんだと?」
そこまで話を聞いて、こんなことを言えるフェリにレイフォンはある意味凄いと思った。
彼女の言葉にニーナが腹立たしそうに言い、怒りに肩を震わせているように見えた。
「だからと言って違法酒に手を出していい理由にはならないのでは?ディンの怒りは分かりますが、別に隊長がああする理由はなかったでしょう?所詮は自己満足、偽善です」
「なに!?」
それでもフェリはまったく意に返さず、冷ややかな視線と言葉をニーナに浴びせる。
その言葉に腹を立てるニーナだが、フェリが言っていることは冷たくとも正しかった。
「あなたには一度、自分の行いを振り返ってみて欲しいものです。自分では正しいつもりなんでしょうが、あなたの暴走に付き合わされるこっちの事情も考えてください」
「……そんなに酷いのか?」
「ええ、迷惑です」
フェリの容赦ない説教を受け、もはや怒ると言うよりも自分の落ち度を指摘され、不安になるニーナ。
そんな彼女に慈悲すら与えず、フェリは断言した。
その隣でレイフォンは口を挟んでいいのかすら分からず、だけど否定できないフェリの言葉にニーナをフォローすることも出来ずに、苦い表情をしたまま話を聞いていた。
「まったく、隊長にも困ったものです。あの人の思ったらすぐ行動は長所でもありますが、間を置き、もう少しじっくりと考えて欲しいものです」
「まぁまぁ、フェリもそれくらいで」
ニーナの説教を終え、帰路につくレイフォンとフェリ。
フェリをレイフォンが送るのはもはや日課で、当然2人して並んで歩いている。
「そもそも、今更ですがなんで私がこんな事をやっているのでしょう?別に第十小隊や第十七小隊がどうなろうと構わないんですが」
「うわっ……ぶっちゃけましたね」
フェリの発言に苦笑しつつ、何気ない会話を続けていくレイフォン。
何時もどおりの日常。何時もどおりの会話。
その何時もどおりがフェリと一緒にいるだけで楽しくて、レイフォンを幸せな気分にさせる。
だからだろう。
「あんたが、フェリ・ロスさんかい?」
その何時もどおりを邪魔してきた相手に、殺意を覚えるのは。
「忠告しましたよね?『あなたがなにをしようと僕には関係ありませんが、もしツェルニに、僕の知り合いに危害が及ぶようでしたら容赦しませんよ?』って。死にたいんですか?」
その声を聞き、背後から聞こえてきた声にレイフォンは後ろすら振り向かずに返答する。
だが、何時でも戦闘に入れるように、フェリを庇う位置に立ち、錬金鋼をすぐに抜けるように構える。
「おっと、勘違いしないで欲しいさ~。こっちとしては危害を加えるつもりはないし、もちろん敵意もないさ」
語尾にさの付く独特なしゃべり。そして声。
振り返るまでもなく、この人物が誰なのかレイフォンには理解できた。
「フォンフォン?」
「大丈夫です、フェリ」
首を傾げるフェリに一言言い、レイフォンは振り返る。
そこにいたのはやはりと言うべきか、サリンバン教導傭兵団三代目、ハイア・サリンバン・ライアだった。
「ならばなんの用だ?つまらない話じゃないだろうな?」
「つまらない話で邪魔をするつもりはないさ。人の恋路を邪魔して、馬に蹴られたくはないからさ~。ただ、こっちにも事情があるのさ」
ハイアの言うとおり、今のところ敵意はないのだろう。
軽薄な笑みを浮かべてはいるが、両手を挙げて敵意がないことを示している。錬金鋼も剣帯に納められたままだ。
それでもレイフォンは何時でも錬金鋼を抜けるように構えたまま、ハイアに問う。
「廃貴族のことか?」
昨日聞いた、気になる単語。
意味はわからないが、ハイアが言っていた目的がこれなのだから、取り合えず確かめてみる。
「覚えていたか?そう言う事さ~。ちょっとその事で、フェリ・ロスさんにはご協力を願いたいと思ってさ。ちゃんとヴォルフシュテインにも事情は説明するさ~」
「丁重にお断りさせていただきます」
「はやっ!」
だが、フェリの返答はつれなかった。
即断即決で頭を下げ、ハイアの申し出を断る。
「いくらなんでも早すぎるさ~。せめて、話を聞いてからでも……」
「あなたの話を聞くと、ロクな事にならない気がします」
「うわぁ……なんだかもう、あんた、俺っちの苦手な人さ~」
頭を掻きつつ、ハイアは困ったように言う。
「ヴォルフシュテイン。よくこんなのと付き合えるさ~」
「元です。それと、フェリを侮辱してるんですか?殺しますよ」
「ちょっと待つさ!そんなつもりはないさ~。失言だったさ。すまないさ~」
軽薄な笑みのままだが、失言に気づいてすぐさま謝罪する。
敵意はないし、交渉の席で今のセリフはなかったとハイアは慌てた。
だが、だからと言って殺すと言う言葉は穏便ではないと思う。
「まいったさ……あんた達2人は、どうも苦手さ」
困ったように今度は頬を掻くハイア。
そんな彼らの元に、人の気配が近寄ってくる。
人数は3人。内2人は、レイフォンとフェリも良く知る人物だった。
「フェリっ!」
叫んだのはカリアンだ。
生徒会長である彼は、武芸長のヴァンゼを引き連れ、レイフォン達の前に現れる。
もう1人は見覚えのない、眼鏡をかけた金髪の少女だ。
「ああ、やっと来たさ~」
ハイアが胸をなでおろす。
そんな彼に、カリアンが咎めるように言った。
「困るな。先に行ってもらっては」
「商談は早いに越したことはないと思ったのさ~。だけど、あんたの妹は硬いね。元ヴォルフシュテインもそうだけど、まるで気難しい猫みたいさ~」
「レイフォン君はともかく、フェリは人見知りするんだよ」
その言葉に、フェリはカチンときたようだ。
「……いったい、この人達はなんなんですか?」
「生徒会長、説明を」
フェリの言葉に合わせるように、レイフォンも説明を求める。
何でここにハイアがいるのか?
しかも商談と言っていた。その内容は何か?
疑問に思いながら、不審に思いながら、2人はカリアンの答えを待った。
あとがき
フェリがいたので、暴走したニーナには有効(?)な対処法をw
しかし、ディンは鋭いので気づきました。
一応カリアンに認められるほど、頭の回転は速いですからねぇ。
しかし、こうなるとナルキはどうしようかなどと悩みます。
ちなみに、フェリとハイアの遭遇シーンでは今回、レイフォンも混ぜました。
そこで一触即発のバトルもよかったんですが、ハイアも一応交渉で敵意もありませんでしたし、レイフォンも直接的な危害を受けてはいないので警戒はしても、ヤンデレ化はしませんでした。
でも、4巻はなんとか無事でも、7巻ではマジでやばいですよね、ハイア……
さて、この先どうなる事やら……
ちなみにリトバスについて。
面白いですが、憂鬱だ……
現在、来々谷と小毬、クドと攻略して今度は葉留佳をやってるんですが、このルートは……
まだ途中なんですが、個人的にはクドルートより憂鬱です。
なにこれ、凄く空しい……
いやぁ、面白いですし、最高だとは思いますよ、リトルバスターズ!EX
でもなんて言うんだろうか……明るく、悩みのない子だと思っていたら、本当に……
まぁ、個人の感想で、まだ最後まで行ってないので感想は変わると思いますが、皆さんはこういう経験ありますか?
漫画やゲームなどで憂鬱だと感じた経験。
憂鬱と言うのとはちょっと違うかもしれませんが、個人的には面白いと思っていた漫画をジャンプが速攻で打ち切るのには凄く空しくなります。
オーバータイムとか、新世紀アイドル伝説 彼方セブンチェンジなんて好きだったんですが。
セブンチェンジのあの終わり方はなかったと思います……
さて、次はジャンプ、なにが打ち切られるのかな……
なんか無性にスポーツがしたくなります。憂鬱だったり、気が滅入ると。
野球がやりたいですが、18人集めるのは大変で……久しぶりにパワプロやるかな?
それとも、バッティングセンターに行こうかな?
それから、レイフォンについては感想で、ヤンフォンとかヤンデレイフォンなんてニックネームがついてる始末w
そんなに内のレイフォンはヤンデレですか?
光栄ですねw
ヤンフォンのこれからの活躍、楽しみにしていてください!