この光景を見るのは何度目だろう。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
既にそう自問するのも馬鹿馬鹿しい程に繰り返している。
今、僕の目の前には。
「おお······コーイチよ。死んでしまうとは情けない」
などとのたまい、額に手を当て嘆く竜王様がいた。
メタルクエスト LV.0 ~竜王はとんでもないものを作ってしまったようです~
僕は元々、日本の大学に通う、普通の学生であった。
ある日の大学の帰り道、トラックに轢かれ、気付けば今の身体に。
······何というテンプレか。
あまりのテンプレっぷりに、いつの間にか僕は厨二病を発症していたのではなかろうかと、あの時は内心恐怖したほどである。
しかし、それ以上の恐怖が目の前にあった。
そう。
それが竜王様であった。
僕が気が付いた時には、目の前に竜王様がいた。
玉座に座る竜王様はまさに魔王。今まで威圧感や覇気などというものを感じたことがない僕でさえ、それをすぐに感じ認識した。
混乱と恐怖で身を強張らせる僕に、竜王様が声を掛けてくる。
「ついに目覚めたか、キングスライムよ」
その言葉に思わず自分の身体を確認した。
そして感じた、二つの強烈な違和感。
今までの身体とは明らかに違う、丸っこい形、頭の上に何か重い物が乗っている。手も足もないのに、それがあるようで、ないような、不思議な感覚。たぶん今まで気づかなかったのは、それを認識することを僕が無意識の内に避けていたのだろう。
そして、もう一つの違和感。
······僕の身体、銀色なんですけど。これ、キングスライムじゃなくて、メタルキングでは?
僕がその疑問をぶつけると、竜王様は眼を反らした。冷や汗を掻いているように見えるのは気のせいか?
「な、何を馬鹿なことを。私が、この私が、間違えることなど、あるわけがなかろう」
徐に玉座を立ち、僕の目の前までやって来る竜王様。そして、僕の肩らしき部分を思い切り掴んだ。
「お前はキングスライムなのだ、決してメタルキングなどではない! 目覚めたばかりで勘違いをしているだけなのだ、お前はキングスライム、スライムの王、キングスライムなのだ!!」
竜王様が、肯定しろと言わんばかりの鬼気迫る表情で僕を見つめる。捕まれた肩がものすごく痛い。身の危険を感じた僕は、必死で頷いた。
それを見た竜王様は再び玉座へと戻る。
「ふむ。解ったならばそれでよい。私が何故、お前を造ったのか、説明しよう」
今現在の僕の身体、つまりメタルキングの身体は、竜王様が造ったらしい。大陸中のメタルスライムを集め、幾度となく実験を繰り返し、出来たのが僕。そして、その僕を造った理由。それを聞いて僕は妙に納得してしまった。
誰でも一度はやったことがあるであろう、ドラゴンクエストシリーズ。
そのドラゴンクエストシリーズに出てくる主人公達、彼らを見て誰でも一度は思ったことがあるはずだ。
いくら死んでも次の瞬間には安全な場所で復活なんて、どんだけチートなんだよ、と。
味方にすれば頼もしいことこの上ないだろうが、敵にすれば堪ったものではない。
だから『勇者の敵』はそのチートなシステムを畏怖し、こう名付けたのである。
『勇者システム』、と。
そして、竜王様は思い付いた。なら、こっちも使っちゃえばいいじゃん、と。そのためには、一からモンスターを作る必要があり、僕を造ったそうだ。
ちなみにキングスライムを選んだ理由は、ベホマ、ザオリクなど便利な魔法を使える、勇者システム仕様キングスライムを大量生産すれば、邪魔者どもなど容易く殺せるはずと考えたかららしい。まあ、それは置いといて。
つまり、僕はいくら殺されても生き返る、呪文の効かないメタルキングということか。
僕の中二病は既に末期らしい。
でも! これほどのチートならば僕の妄想の中だったとしてもいい、僕の天下だ!!
何か言っている竜王様を無視して、僕は笑いながらその部屋から出る。
そして、肩慣らしにすぐ側にいた悪魔の騎士らしきモンスターに戦闘を仕掛けた。
「喰らえ!!」
突貫!
そして――僕は豪快に地面にぶつかった。
······何で? ヒョイスカッ、ヒョイスカッ、ってなったよ!?
僕が呆然としていると、後ろから殺気が。見ると、先ほどの悪魔の騎士らしきモンスターが、剣を構えていた。
「えーと······平和的に話し合わない?」
咆哮と共に剣が振り下ろされる。最後に聞こえたのは、自分が真っ二つに裂ける生々しい音だった。
はっ!! ここは!?
僕が周りを見渡すと、そこは先ほどの竜王様の部屋。意味がわからず、おろおろしている僕に竜王様が声を掛ける。
「おお······キングスライムよ。死んでしまうとは情けない」
手を額に当てて嘆く竜王様。
僕、死んだのか······。
あの時に感じた強烈な痛み、何かを失ったような喪失感。今思い出すと、身体が震えてしまう。
僕はこれが妄想でも夢でもないことを思い知った。
「ふむ。落ち着いたようだな。次にお前の名を決めねばならん。何か希望はあるか?」
「それではコーイチで。コーイチでお願いします」
竜王様はその名前に怪訝な顔をしながらも、引き受けてくれた。
コーイチは僕の昔の名だ。鈴木幸一。もう僕が使うことはほぼないであろう名前。
僕には死んだからこそわかってしまった。僕が元の世界に帰ることは難しいであろうことを。僕はおそらくトラックに引かれた時に一度死んだのだ、と。未練がましいことは解っていても、どうしても前の世界との繋がりを保っていたかった。
だから、僕はこの世界でも生きていく。
いつか、元の世界に帰れることを願って――
「ふむ。ではこれがお前のパラメーターだ」
僕は竜王様の言葉で、現実に引き戻された。
渡された書類にはこう書かれていた。
種族 スライム
分類 誰が何と言おうとキングスライム
親 実験途中にできたどろどろのメタルスライムっぽいもの×2
LV.1
HP 4
MP 30
攻撃力 13
防御力 32
賢さ 25
素早さ 30
次のLVまであと100
・・・・・・。
「竜王様!! どこでもいいですから僕を他の場所へ飛ばしてください!! ルーラかバシルーラを使ってください!」
「バシルーラ? 何だそれは? そんなもの知らん。それにルーラを使ったところで着くのはここだろうに。他の場所には自分の足で行くがよい」
ああ、そうか。DQ1にバシルーラなんて魔法ないし、ルーラ使っても戻るのは最初の城だもんね。
その時の僕はさぞかし遠い眼をしていたに違いない。
・・・・・・これ、何て無理ゲー?
やっぱりお家に帰りたい。
お·ま·け
私はいつになく混乱していた。
キングスライムではなく、メタルキングだと? バカな! スライムの王なのだから、キングスライムなのだ。メタルなど関係あるまい!!
コーイチが出ていった後、側近どもも部屋から出ていかせる。
「何処だ!? どこに書いてある!?」
本棚から参考にした書物を抜き出すべく、本を豪快に退かしていく。
そして、本棚の奥にある本を震えた手で取る。
スライム百科事典 ~これで貴方もスライムますたー~
それがこの本の題名。
私のようなスライムファンには垂涎物の逸品である。
あの素晴らしきやられっぷりには、心が癒されることこの上ない。
本を手にした私は、直ぐ様メタルキングのページを探す。
白黒の巻の一番最後のページに、それが載っていた。
種族 スライム
分類 メタルキング
沢山のメタルスライムがより集まって出来た、メタルスライムの王。
ほぼありとあらゆる魔法を無効化するメタルな体、更に鉄壁の防御力、豊富なMP、強力な魔法。やや、HPに難が有るものの、素早すぎて攻撃が当たることが少ないので、たいした問題ではない。
スライムの中でも特に強力なモンスターである。
メタルキングに初めて出逢った者は笑うしかないだろう。
『何コイツ? マジパネェンダケド』と。
今現在、この大陸で一番厄介なスライムであるメタルスライムを使うべきではなかった。
パネェか。よくは知らんが、スライムの欄にもやられっぷりがパネェと書いてあったな。
・・・・・・私は無言で本を閉じた。
――コーイチが強くなったらサラッと殺られるかもしれん。
どうやら、私はとんでもないものを造ってしまったようだ。
この本があの伝説のっ、伝説のカラー版ならば、こんなことには。
せめて、観賞用があればなあ・・・・・・。
後書き
主人公、ラスボス付近からスタート。
つい先日、突然思い付いた。
モンスターが死んでも勇者のごとく復活させたら面白いのでは?と。
そんでもってメタルでありながら、チートではない、というよりもならない。強くはなりますが。
そして、書いているうちに思った。
これ、勘違い物にもできそう。
文章量が少なかった場合についてはお許しを。今現在パソコンが使える状態にあらず、携帯で投稿しておりますので。
ちなみに主人公はDQMのテリーのワンダーランド仕様。
レベルが上がれば親の魔法も使える。
ちなみにこれはDQっぽい世界であり、完全なDQ1の世界ではない。
つまり、出てくるのが1のキャラだけとは限らない。