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No.16004の一覧
[0] ― 閃光の後継者 ― 【ギアス一期再構成】[賽子 青](2012/08/30 12:44)
[1] Stage,01 『白い騎士』[賽子 青](2012/08/29 01:54)
[2] Stage,02 『はじまりの合図』[賽子 青](2012/08/29 01:46)
[3] Stage,03 『黒い仮面』[賽子 青](2012/08/29 01:50)
[4] Stage,04 『一対の炎』[賽子 青](2012/08/29 01:53)
[5] Stage,05 『空からトラブル』[賽子 青](2012/08/29 01:50)
[6] Stage,06 『嵐の前』[賽子 青](2012/08/29 01:51)
[19] Stage,07 『粛清』[賽子 青](2012/08/29 01:54)
[20] Stage,08 『皇女』[賽子 青](2012/08/29 20:43)
[21] Stage,09 『嘘と真実』[賽子 青](2012/09/06 21:31)
[22] Stage,10 『7年前』[賽子 青](2012/08/30 20:08)
[23] Stage,11 『リリーシャ』[賽子 青](2012/09/01 13:43)
[24] Stage,12 『新しい決意』[賽子 青](2012/09/06 21:30)
[25] Interval 『再会』[賽子 青](2012/09/06 21:27)
[26] Stage,13 『介入者』[賽子 青](2012/09/05 21:50)
[27] Stage,14 『サイタマゲットー』[賽子 青](2012/09/06 21:26)
[28] Stage,15 『不穏な影』[賽子 青](2012/09/11 22:26)
[29] Interval 『騒乱の種』[賽子 青](2012/09/12 00:31)
[30] Stage,16 『奪われた剣』[賽子 青](2012/09/13 22:41)
[31] Stage,17 『交錯する閃光』[賽子 青](2012/09/15 13:42)
[32] Stage,18 『ゼロを騙る者[賽子 青](2012/09/20 20:54)
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[16004] Stage,10 『7年前』
Name: 賽子 青◆e46ef2e6 ID:e3b5ec25 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/30 20:08

 ――――― 7 years age.



 皇歴2010年、神聖ブリタニア帝国は日本に宣戦布告した。
 この二国には近年さらに重要度の増してきた戦略物質、サクラダイトを巡る根深い外交対立があり、第98代ブリタニア皇帝の押し進める植民地政策の11番目の犠牲者となった。
 2つの大陸を版図とする大国と、経済で成り上がったとはいえ、国土面積では比べ物にならない島国。物量差において日本とブリタニアの差は歴然だった。
 開戦から数週間で制空権、制海権を押さえられた日本の本土はこの戦争で初めて実戦投入されたナイトメアによって瞬く間に蹂躙される。
 未だ陥落していない主要都市はいくつかあるが、日本側の戦果は後に『厳島の奇跡』といわれる広島での局地的なもののみで、首都を失えば無条件降伏以外にないだろう。
 空爆を受け瓦礫の山と化した此処、枢木ゲンブの実家である枢木神社にもそんな絶望感が漂っていた。

「何でアンタたちがいるのにブリタニアは攻めてきたのよ! この役立たず!!」

「きゃっ」

 パシンという乾いた音が響き、頬を叩かれた少女が地面に倒れこむ。
 叩いた方の女性はやるせなさと怒りに肩を震わせ、憎悪のこもった目で少女を睨みつけた。
 彼女はこの枢木邸で住み込みで働く使用人のひとりだった。
 彼女は目の前の少女が何者であるか知っていたし、愛国心もそれなりに強い。
 だから彼女は事実を受け入れられずにふらふらとしている時、瓦礫の中をさまよっていたブリタニア皇女の姿を眼にした瞬間、一気に感情を沸騰させた。
 爆発する激情の赴くまま、彼女はナナリー罵倒しはり倒したのだ。

「何でなのよ、答えなさいよ!
 アンタはブリタニアの皇女様でしょ? あの皇帝の娘でしょ!?
 なのになんで、ブリタニアは攻めてくるのよ!!」

 地面に倒れこんだナナリーに覆い被さるようにして首元をつかみ、ボロボロと涙を流しながら彼女はナナリーに言い詰る。
 しかし当のナナリーも、父の冷酷さは知っていたがまさか見捨てられるなどと思っておらず、何の答えも持っていない。

「ぁ、ぁ……」

 侍女から向けられる、明確な敵意に刺激され、ナナリーの瞼が震えた。
 不意に、もう何度目か解らないフラッシュバックが彼女を襲う。

 誰かの悲鳴。竦む躯。銃声が響いた。母の身体から血飛沫が舞う。
 即座に反応した母はたまたまその場に居合わせたナナリー銃弾が届かぬように身を呈し、その身体で銃弾を受け止める。
 直後に銃声を聞いた警備の兵が駆けつけた。ナナリーの身体には傷一つない。けれど心は砕けた。彼女の眼は現実を拒絶した。
 ナナリーの景色は、自分の目の前で虚ろに開かれ真っ赤な血を流しながら冷たくなっていく母の最期の姿。
 ひどく現実味のない光景。

 それっきり、彼女の眼は光を忘れた。
 ナナリーの視界はあの日、アリエスの離宮で母が銃撃された日で静止したままだった。

「答えなさいよ!!」

 再び頬に奔った痛みで、ナナリーの意識が現実に戻される。
 幾度となく見た、白昼夢。
 そのたびに兄に縋りつき、その胸で泣いた。その兄は、ここにはいない。
 助けてと声を上げるか、それとも諦観してされるがままにとするか。そのどちらもナナリーは選ばなかった。

「放して、下さい」

 それは小さな抵抗。服を掴む女性の手をぎゅうと握る。
 優しくも厳しい母と、頭がよくいつも冷静な兄には育まれた、お転婆な妹の精一杯の反抗だった。
 しかしそんなもの、大人の女性には大した事もなく、逆に反抗された事で逆上した女に突き飛ばされた。

「―――っ!」

 その時にナナリーが感じたのは何処かに落下する浮遊感と、身体を強かに打ちつけた痛みと、冷たい地下水に濡れる感覚。
 全身がバラバラになったかと思うような強烈な痛みで意識を手放す直前の、何かが崩れる音と女の悲鳴だった。









コードギアス
    閃光の後継者

Stage,10 『7年前』










「ん……」

「これは、お気づきになりましたか、ナナリー皇女殿下」

 そして次に気がついた時、ナナリーが居たのはどこかの部屋だった。
 少なくとも野外ではない。
 一瞬、枢木の家かと思ったが言葉が日本語ではなかったし、何より匂いが違う。
 あの辺りは空襲で焼け野原になったと誰かが言っていた。
 それにこの声は、以前どこかで聞いたことがあるような気がする。

「私はジェレミア・ゴッドバルトと申します。
 ナナリー殿下、覚えておられますか?」

「え?」

 兄ほどでは無いもののナナリーの記憶力も相当にいい。
 ジェレミアが、アリエス宮にいた頃に何度か遊んでもらった事のある若い兵士であることを思い出した彼女は身体を起こそうとするが、それを全身の痛みが阻んだ。
 よく自分の状況を確認してみれば、ベッドで横になった身体の到る所にガーセやシップが貼ってある。
 またその上から柔らかい毛布がかけられているようだ。

「ああ、無理はなさらないでください。
 殿下は確か目が不自由であられましたね?
 そのために崩落した地下室に落ちたのだと思われます。
 ですから、もうしばらく安静になさってください」

 そう言われて思い至る。
 たしかあの屋敷には地下室もあったはずだから、またあそこに落ちたのだろう。

「えっと、もちろん覚えてます。アリエスの離宮にいた兵士さんですよね。
 あの、私の近くに日本人の女性がいませんでしたか?」

 鼓動に合わせてずきずきと痛むのを堪え、何気なく発した疑問だったが、それを聞いたジェレミアは息を飲んだ。
 彼は見かけませんでしたと答えたが、それが嘘であることは明白だった。
 なまじ目が見えないだけに、彼女の視覚以外の感覚は研ぎ澄まされている。
 気絶する直前に聞こえた悲鳴は、きっとそういう事なのだろう。

「そうですか。ありがとうございます、ジェレミアさん。
 ……ところで、ここは?」

「日本のシズオカにあるブリタニア軍のベースキャンプで御座います。
 少々お待ちください、すぐに食べるものをご用意いたしますので」

 ブリタニアという単語にほっとして、ナナリーの身体から力が抜けた。
 彼女は兄とは違い父から酷薄な言葉も掛けられてはいないし、少なくともブリタニアにいる間に接した人は、時折嫌味を言いに来る腹違いの兄弟以外、皆自分を気遣ってくれた。
 幸か不幸か、目が見えなくなってからはルルーシュが彼女に向けられた悪意を全てシャットアウトしていたので、それほどブリタニアに悪い印象はない。

 あの国で最も嫌な記憶は、無論、母の死。
 けれどそれに、何というか、現実味がないのだ。だからそれほど嫌悪感はない。
 あるのは、漠然とした不信感。

「あの、ジェレミアさん。お手を……」

「はっ、何用で御座いますか!?」

 かけられた布団の間から差し出された、不器用に絆創膏の張られた小さな手。
 机の引き出しから取り出した携行食のカンヅメと器を脇に置き、彼はナナリーが横になるベッドの傍らに跪くとその白い手を取った。
 ひどく壊れやすいように思えるそれを、彼は優しく包む。

「ジェレミアさん。
 何故私を助けて下さったのですか?」

 ブリタニアという国に対しては嫌悪していなくとも、それが皇族となると話は別だ。
 『日本への留学』とは建前で、唯一の庇護者である母を喪った自分は、所詮人質だという事くらいには考えが至っていた。
 確信したのは、先ほどの女性に触れた瞬間だが。

「皇族の方々をお救いするのに、理由など必要ありません。
 まして貴女様はマリアンヌ殿下のお子様です。どうして見殺しになど出来ましょう」

 ナナリーの意地悪な質問に帰ってきたのは、一片の偽りもない真摯で誠実な答え。
 見えない彼女には解らないだろうが、この時ジェレミアは膝を突いたまま頭を垂れ、捧げ持つようにナナリーの手を握っていた。

「ありがとうございます、ジェレミアさん。貴方はやさしい方ですね」

「勿体なきお言葉です、ナナリー様」

 彼の心中を、ナナリーは的確に感じ取った。
 眼を塞いでから気付いた感覚。
 もし彼が僅かでも嘘をつけば、たちどころに彼女はそれを察知しただろう。
 眼が見えないからこそ鋭敏になった感覚の成せる業かもしれない。
 突き詰めればその嘘の背景すら見通すその力を根拠として、ナナリーはジェレミアを信用する事に決めて手を布団の中に戻す。
 彼の中には真っ直ぐ過ぎる程の、皇族への絶対忠誠がある。

「そうだ。あの、ジェレミアさん。
 お兄様は、近くにいませんでしたか?」

 その一言に、ジェレミアは唖然として眼を見開き固まった。
 数秒後に再起動を果たしたジェレミアは、何とか平静を装いながらカンヅメを器に開けてスプーンと一緒にナナリーに渡し部屋を飛び出した。
 それでナナリーには解ってしまった。兄は、ここにはいないのだ。
 そう思うと急に不安になる。


 ジェレミアにとってそれは人生最大の失策だった。
 ナナリーを救出した時、彼女が気絶していた彼女の身体は切り傷と打ち身で青くなり、地下水で濡れた身体は冷え切っていた。
 このままでは間違いなく体調を崩される。衛生状態も良くない。
 破傷風などの深刻な病気になられれば一大事だと思った彼は、一刻も早くに彼女の身をどこか休める所に移さねばという思いに支配された。
 即座に彼は自分のコートでナナリーの身体を保温し、そのままベースキャンプにある自室のベッドまで運んでしまったというわけである。

「ルルーシュ殿下!!」

 整備部に無理を言って借りた軍用車のアクセルを目一杯踏み込み、あたりが暗がりに包まれた頃になって、ジェレミアはやっと枢木邸跡まで引き返した。
 彼はここが敵地で、見つかれば命が危ないという事を考えることすら不可能なほど、必死にナナリーの兄、ルルーシュを捜す。
 ヘルメットに装着した暗視スコープの感度を最大に上げ、総身の力を振り絞って必死にルルーシュを捜索するが、遂に見つける事は出来なかった。
 すぐ近くに、二人の少年が息を潜めていたというのに。

 その日の夜、失意のままベースキャンプに引き返したジェレミアは、中佐として同じベースキャンプにいる母を必死に説得した。
 マリアンヌ后妃という最大の庇護者を喪い、人身御供として送り込まれた以上、皇室にお返ししても直ぐにまた他国に送られるだろう。
 敬愛し、しかし護りきれなかった后妃の娘を、外交の道具として使いつぶされるのは我慢ならなかった。
 ジェレミアの説得をうけた彼の母、リアス・ゴッドバルトはすぐさま己が最も信頼する執事を本国から呼び寄せ、第三国経由でナナリーを本国のゴッドバルト邸へと連れて帰ったのだった。







 / / / / / / /  / / /







「貴女がナナリーちゃん?
 はじめまして、私はリリーシャ・ゴッドバルトです!」

 長い移動を終え、ゴッドバルト家の屋敷に案内されたナナリーをまず迎えたのは、少女の高いソプラノの声だった。
 聞けば、このゴッドバルト家の長女で、自分を助けてくれたジェレミアの妹らしい。

 彼女を一言で表すなら、天真爛漫という言葉がぴったりと当てはまる。
 会うと同時に抱きしめられて、おでこを合わせたままの自己紹介。
 他者への警戒心のない彼女は、そのかわりに心の壁や距離をすっと飛ばして、相手の心にするりと入ってくる。けれど、それがちっとも不快ではない。
 彼女は太陽の光みたいに、温かく輝く女の子だった。

「じゃあこれから私たちは友達ね、ナナリーちゃん。
 私のほうが2歳年上だから、私がお姉さんになるのかしら?」

 リリーシャは輝くような白銀の髪と、分厚い眼鏡の奥にある鳶色の目が印象的な少女だ。
 幼くして父を喪い、年の離れた兄の他で周りにいたのは大人ばかり。
 使用人や医師なのだから仕方がないとはいえ、彼女はずっと友達が欲しかったのだ。

 だからナナリーの目が見えない事など気にせず、リリーシャはどこに行くにもナナリーの手を引いて一緒に行った。
 広い屋敷の中で、初めて出来た友達。
 それはナナリーも同じで、兄弟ではない人と常に一緒にいるのは初めての経験だった。
 ただ、

「痛たた!」

「どうしました?」

「ううん、心配しないで。今日はちょっと日光に当りすぎたみたい」

 時折こうして、彼女が痛がるのをナナリーは聞いていた。
 彼女はこの屋敷から出られない身体だったのだ。
 先天性白皮症、いわいるアルビノである。
 リリーシャの身体は、生まれつきメラニン沈着組織の色素欠乏を起こしており、紫外線に極端に弱い。

 さらに他の疾患も併合しているため、屋敷には医師が常駐している。
 だから彼女が、病気に負けず明るさを失わなかったのは奇跡に近い。
 いや太陽に当れないから、彼女は自分が太陽になろうとしたんだと、ナナリーは思った。
 リリーシャは、そんな芯の強い女の子だった。

「それより行こう、ナナリー。
 今日はお母様もお兄様もお出かけになっているから、こっそりナイトメアのシミュレーターに乗るの。楽しそうだと思わない?」

 そんな彼女が今、一番興味を持っているのがナイトメアだ。
 以前訪れた母の職場で、彼女は一度だけグラスゴーに乗せてもらった事がある。
 防御の観点から完全に密閉された操縦席を持つそれに、リリーシャは魅せられた。

 これならば自分も太陽の下で動き回れる。それはどんなに幸せなことだろう。
 それ以来、リリーシャはスキを見ては屋敷内のシミュレーターで遊んでは、兄や母に怒られていたのだった。

「えい、この―――あっ!!」

「どうしました?」

 ガシャン、という大きな音がシミュレーターのスピーカーから響く。

「えへへ、またこけちゃった。やっぱり難しいなぁ」

 リリーシャはナナリーの方を振り返り、はにかむような表情でぺろりと舌を出した。
 当たり前の事だが、何の訓練も受けていない彼女がまともに操縦など出来る筈がない。
 シミュレーターということで起動は簡略化されているが、この筺体は軍から払い下げられた訓練用のものだ。
 ゲームセンターものとは根本的に違う、現実的でシビアな設定がしてある。

「よ~し、もう一回!
 私だってお母様やマリアンヌ様みたいになるんだから!!」

 ふと何気なくリリーシャが発した一言に、ナナリーの肩がピクンと跳ねた。
 幸いにして画面に夢中なリリーシャが気づいていない。
 とはいえ、もし彼女が知ったらどう思うだろう。
 軍人である母の影響で彼女が憧れた『閃光のマリアンヌ』の娘が、すぐ隣にいるのだ。
 ナナリーは初めてできた大切な友達に嘘をついている事実に、常に心を痛めていた。

「お嬢様、またこんな所で遊んで。お母様に叱られますよ!」

 結局その日も、屋敷のメイド長に怒られるまで、シミュレーター遊びは続いたのだった。






 / / / / / / / / / /






「ねぇ、最近のナナリー様のご様子はどう?」

「特にお変わりなく、というのは違いますね。近頃はよく笑われるようになりました。
 これはお嬢様に感謝しなければなりません」

 現ゴッドバルト家党首であるリアス・ゴッドバルト辺境伯が、居間で全幅の信頼をおく執事と共に酒杯を傾けていた。
 成熟した女性の色気を腰まで届く長い青緑の髪とともに背に流す彼女は、ゆったりと革張りのソファーに凭れかかっていた身体を起こし、氷だけになったグラスをサイドテーブルに置く。
 それを見た執事は、すかざす自然な動きでグラスを取り上げると、自分のサイドテーブルに置いた氷と琥珀色の酒をグラスに注ぎ、霜をふき取って彼女のテーブルに返す。

 現在、ナナリーが皇女であることを知っているのはこの2名とジェレミアだけだ。
 表向きはこの執事が、屋敷から出る事の出来ないリリーシャのために養女として引き取った孤児という事になっている。

 前党首であった彼女の夫が戦場で倒れた時、辺境伯の地位を奪おうとした義弟を叩き伏せて強引に爵位を継いでからは、親戚とは絶縁状態だった。
 さらに彼女の実の娘であるリリーシャは、先天的な病をもつ役に立たない存在として何の興味も持たれていない。
 そんな彼女に宛がわれた友達役の少女など、誰も気にするはずがなかった。

「そう、それは喜ばしいわね。
 こう言っては何だけれど、皇族として生きられるにはナナリー様はお優しすぎる。
 あの方には、このまま静かに生活して欲しいと思うのだけれど」

「そうですな。ナナリー様にあの世界は御似合いになりません。
 いずれリアス様の養女にされてはどうでしょう? 我が娘(ナナリー)はいい子ですぞ」

 そう言って悪戯っぽく笑う執事を見て、リアスはくすりと笑った。
 グラスの中では、カラリと氷が鳴る。
 我が娘と自然に言えるくらい、彼はナナリーに情が移っている。それは自分も同様だ。
 辺境伯である自分の養女とするのは流石にどうかと思うが、これからもずっとその成長を見守っていたいと思う。
 これでジェレミアと結ばれてくれれば最良なのだが、歳も離れているしそれは欲張り過ぎだろう。

「そういえば、ジェレミアはどうしているの?
 このところ休暇にも全く顔を見せないじゃない」

「ええ。この頃のジェレミア様は、休暇の全てをナイトメアの訓練にあてておいでです。
 先日お話をさせて貰った時には『マリアンヌ后妃を護れなかった自分は、せめてナナリー様だけお護り出来るようになりたい』とおっしゃっていました。
 次の異動で、ナイトメア部隊への転属するすることが決まったそうです」

「そうか、あいつも遂に。
 今度会ったらくれぐれも根を詰め過ぎないように言っておいてくれるかな?」

 昔から頑張り過ぎるクセのある息子を心配しつつも、息子がはっきりとした目標を見つけた事をリアスは嬉しく思った。
 絶対の忠誠心は、確実にその者を成長させてくれるものだと彼女は知っている。
 アリエスの離宮での事件以降、落ち込む事の多かった息子が真っ直ぐ前を向いて歩きだした事に、リアスの顔も自然とほころんだ。

「それよりも、リリーシャ様の事なのですが」

「……どうしたの?」

 すっと瞳を細め、一転して真剣な表情になった執事にリアスは眉根を寄せた。
 身体の弱い彼女には定期的に医師の健診を受けさせているが、その結果が芳しくなかったのだろうか。

「リアス様。実は、お嬢様の御身体に腫瘍が見つかりました。
 詳しい検査をしてみなければはっきりとした事は言えませんが……」

 そう言って語尾を濁す彼の表情は苦悶に満ちていた。
 自分の娘の病状を我が事のように悩んでくれる彼をリアスは有り難く思うが、それよりもその内容の方が深刻だ。
 アルビノであるリリーシャは、紫外線による遺伝子の変性を起こしやすい。

「間違いではないのか?」

 冷や水を浴びせられたように酔いは覚め、間違いであってくれとリアスは聞き返す。
 だが数日後にもたらされた精密検査の結果は、その願いを粉々に打ち砕くものだった。


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