おっす!おらぁ、ヘンリー!アルビオンの次男坊で、アンリエッタの将来のお父ちゃん!(の予定)
でも生家のアルビオン王家は将来貴族の反乱でフルボッコされて滅亡しちゃうし、婿入りするトリステイン王国は、ゲルマニアの成り上がりだの、ロマリアのイケメンでインケンな坊主だの、ガリアのチェス大好き王様だのに翻弄されちゃうんだ!
・・・泣いてもいいですか?
*************************************
ハルケギニア~俺と嫁と、時々息子~(娘がほしかったんです)
*************************************
原作どおりなら、俺(ヘンリー)は原作開始3年前に死ぬことになる。サイトのラブコメは見れないわけだ(というか、あんなもん実際に目の前でやられたら殺意を覚える)しかし前世とあわせれば、100歳近くまで生きれる計算だ。寿命に関して言えば、彼に不満はなかった。
突然だが、ヘンリーである俺は前世で娘がほしかった。彼が20の頃、兄夫妻に三つ子の女の子が生まれた。当時大学生で同居していた彼は、よく面倒を見たものだ。「おじちゃーん」と慕ってくれる姪っ子は可愛かった(20代でおじちゃんと呼ばれるのは微妙だったが)。ある日、いつものように姪っ子たちと遊んでいる時、彼は何気なく聞いてみた。
「ねー。おじちゃんとお父さん。どっちが好き?」
「「「おとうさーん!」」」
微塵の迷いもなく、純粋な笑顔で返されたその答えに、彼のガラスのハートは砕け散った。そのときの兄貴の勝ち誇った顔といったら!!しかしながら、前世で彼は娘に恵まれなかった。出来たのは、くそ生意気で馬鹿でスケベでオタクっぽい息子1人だけ。「息子さん、お父さんによく似てますね」そういわれるたびに、言い知れぬ敗北感を覚えたものだ。
たぶんこのままいけば、自分はマリアンヌと結婚してアンリエッタのお父ちゃんになるだろう。
娘-ドーター。念願の愛娘。
彼、ヘンリー・テューダーの中にひとつの「想い」が芽生えた
娘との思い出が作れる、作りたい、作って見せるとも!!
「アンリエッタぁ!!!お父ちゃん頑張るよ~!!!!」
かつてこれほどまで不純な動機の主人公がいただろうか?(いや、結構いる)
*
まだ見ぬわが愛娘のために、今何をすべきか?ヘンリーはしわの少ない脳みそを絞って考えた。
とりあえずの目標は「アルビオンでの中央集権化=王権強化」だな。たとえ貴族が反乱を起こそうが、返り討ちに出来るくらいにしなけりゃ。原作(小説)なら、俺の死んだ後の話だけど、ジェームズ兄貴やまだ見ぬ甥っ子のウェールズは非業の死を遂げるからな。考えたくもない未来予想図だ。ウェールズとアンリエッタが恋仲になるのは、全力で阻止したいが・・・でもアンリエッタに「お父様のわからずや!」とか言われたくない・・・いや、一度言われてみたい。そして「結婚は認めん!」とちゃぶ台叩いて反対したい。それで(中略)結婚式で「お父さん、今まで育ててくれてありがとう」って(以下省略)
婿入りしたら「トリステインでの中央集権化」。アンリエッタのため、何より、自分の平和な老後のため。ただでさえトリステインはガリアとゲルマニアに挟まれる小国。ヨーロッパで言えば、第1次世界大戦のときのベルギーや、2次大戦のときのポーランドみたいなものだ。歴史があってもどうにもならんですたい!緊急事態に即時対応が出来るようにしなけりゃ、もう即アボーンだろう。
原作どおりに行けば、俺に関しては「畳の上で死ねる」はずだ。だがよくよく考えると、それも怪しい。大体すでに『俺』という不確定要素が混じりこんでいるのだ。俺が死ぬまで、トリステインがゲルマニアに滅ぼされていないという確証なんてない。
まだ見ぬ可愛いアンリエッタ、お父ちゃんがんばるよ?
不純極まりない動機をエネルギーとしながらヘンリーは「勉学の一環」と称して、アルバートやエセックス男爵の協力の下、アルビオンの現状を調査することにした。「敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず」。未来(原作展開)を知っていても、今の現状が分からなければ、動きようがないからな。てか、原作開始の半世紀前だし、正直アテになるかどうか分からん。
ところで話題はずれるが、なんで前世で40半のオッサンである俺が、ライトノベルである「ゼロの使い魔」を知っているかというと、息子の部屋にエロ本を探しに入って、偶然見つけたから。絵柄からそういう本かと思って部屋に持ち帰り、そうでないと思ってがっかりしながら読んでいくうちに・・・笑った、泣いた。本気と書いてマジと読む。本気で感動しちゃったのである。特にタバサのお母さんを助けに行く10巻のラスト、タバサのイーヴァルディのくだりは、涙なくして語れない!(電車の中で、文庫本を見ながら泣くオッサンに、周囲はドン引きしていたが、そんなことは些細なことである)
ちなみにさっきからアンリエッタ・アンリエッタとうっとうしくらいに繰り返しているが、それは彼女が(おそらく)自分の娘になるから。どちらかというと俺はマチルダの方がキャラ的に好きだ。ワルドとのあのなんともいえない関係が、たまらなく色っぽくて(以下略)
*
魔法の練習やこの世界の勉強をしている内に、5年が過ぎた。俺は15歳になった。前世では15歳のときに初めて恋人が出来たんだが・・・この世界では今んところそんな気配はまるでナッシング!言ってて悲しい・・・
「へスティー!ロンリーボーイの俺を慰めてく『何か?』・・・なんでもないです・・・」
ハルケギニアの世界では、「魔法の能力=評価」。ルイズやジョセフがいい例だな。貴族は魔法が出来て当然。魔法の出来ないものは、他の分野で抜きん出て優れていても、軽く見られてしまう。臣下(貴族)に軽んじられては、何かしようと思ってもうまくいくわけがない。
ちなみに俺の系統は「水」だった。「アルビオン王家は代々風系統の家系なのですが・・・」とエセックス男爵は首をかしげていたが。お袋のテレジア王妃が「水」だから俺は不思議には思わなかった。魔法とDNAが関係あるかどうかは知らないが、ABO式血液型っぽく言えば、水>風なんだろう。
あとは元軍人のエセックス男爵の厳しい指導の下、ただひたすらに一生懸命練習。結果、水の『トライアングル』になれた。すごいんだろうけど、ち~んとならす三角形の楽器みたいで、なんだかなーと思ってしまう。もっと締まりのいい名前はないもんかなと考えている俺の横で、白髪の増えた老男爵は「ご立派になられて・・・」と涙を流しながら喜んでくれた。くすぐったくて、なんともむず痒い。風の『ドット』モード大公ウィリアム(結局、大公家にはこいつが養子に行った)からは「お兄様すごい!きらきら!←尊敬の眼差し」という手紙をもらった。そうだ弟よ。もっとこの兄を敬うのだ。
「ジェームズ皇太子殿下が、風の『スクウェア』になられたそうですぞ!」
参りました兄上。調子乗ってスンません(心の中で平伏)ってか、原作でそんなこと書いてないじゃん!よぼよぼの爺ちゃんとしか書いてないじゃん!反則じゃん!とか考えていたら、ジェームズ兄貴は肩をすくめながら
「弟には負けたくないからな」
・・・兄貴、あんた男前だよ。さすがウェールズのお父ちゃんだ。あんたの息子なら、俺のアンリエッタを嫁にやってもいいよ。
閑話休題
まぁ、そんなこんなで兄弟の絆を確認しながらエセックス男爵やアルバート侍従にも協力してもらいながら、この5年間で調べ上げたアルビオンの現状だが・・・問題山積で涙が出ちゃう。だって王子様だもん?
*
(国王の権力)
王権は強くない。むしろ弱い。西洋史で言うなら、11世紀から13世紀ぐらいの封建制社会が一番しっくり来る。まず魔法が使える貴族諸侯がそれぞれの領地を支配しており、王家はその上に盟主として存在している。アルビオン王家の領土は、空中国土全体の4割程度でしかなく、親族である2つの大公家領を足しても5割に満たない・・・まさか落ち度もないのに貴族を取り潰すわけにも行かないし(へたすりゃ反乱起こされるからね)。でもね、軍だの警察だの、国家全体をカバーしなけりゃならないのに「40パーセント」の領土税収で、全土を守れる予算を出せって、どう弄繰り回しても組めるわけないしね。うん・・・いきなり挫けそう・・・
(農村と都市)
農奴制は「制度としては」存在しない。これは正直ありがたかった。さかのぼること約1500年前のブリミル暦4459年、当時のアルビオン国王エドワード3世(開放王)が、「始祖ブリミルの教えに反する」と農奴制廃止を宣言。貴族の大反対を押し切って廃止したのだ。引き換えに、エドワード3世は「謎の死」を遂げている。これ結構すごいことだよね。いつになるかわからないけど、ハルケギニアで「人権」という言葉が当たり前の時代になったら、必ず教科書で教えられることになるんだろうな。ありがとうご先祖様。貴方の犠牲は無駄にはしません。今度お墓参りに行くからね。
制度としての農奴はなくなったが、自作農が増えたというわけではない。領主である貴族に雇われている形になっただけで、内実は農奴と変わらない。だが一応は職業選択の道が開かれている。小さなようで、これは大きな差だ。人の流れをさえぎるものがないからだ。将来、農業改革を行ったときに生まれる農村の余剰人口を都市に呼び込んで、将来的に軍人や警官も含めた公務員や、工場労働者の担い手として期待したい。
もっとも都市の受け皿(雇用・住宅など)をオーバーすれば、都市にスラム街が生まれる結果にもなりかねない。治安悪化→政情不安→反乱・・・駄目駄目駄目。そう考えると、農村での余剰人口を生み出すことになる農業改革は、一気に進めるのではなく、状況を見ながら慎重に進めなければならない事になるが・・・あ~もどかしい~!!
(経済)
経済界はまさに中世。大量生産なんか夢のまた夢の、手工業レベル。鍛冶屋からパン屋まで、ありとあらゆるものづくりに関わる産業が、徒弟制度だ。同業者組合(ギルド)に属して店を構える親方が、その技術を弟子に伝える。弟子は試験に合格すれば、その仕事で独り立ちができる。技術は外部には秘密。ギルドに属さないものが、その商売を行うことは出来ない。
閉鎖的である。無論、競争はなく、大規模な技術革新は望めるはずもない。牛の歩みより鈍い成長速度だ。経済にとって弊害だらけのようにも見えるギルドだが、だからといって、すぐ廃止というわけには行かないところが、また難しい。昔の日本金融界の護送船団方式のようなものだ。なま温いが、それはそれなりに居心地はいい。なにより、ギルド廃止によって、それまでの加盟者は、明日のおまんまに関わる既得権を奪われることになるのだ。その抵抗は、下手な貴族なんか比べ物にならないだろう。それこそ下手なマフィアより怖そうだ・・・だけど、競争なくして発展はないわけで・・・
そんな中でも割かし自由気ままにやってるのが、商会と金融業者だ。物の流れに国境はなく、金は誰への忠誠心もない。各国を渡り歩き、飛び回らなければ商売にならないのだ。両者を取っ掛かりにして経済改革を進めたいが、どちらも油断してたら、身包みはがされて尻の毛まで抜かれてしまう。油断は出来ん・・・
(軍事)
大砲や銃は日本の戦国時代末期、ヨーロッパで言う「チンは国家なり」とかいった某14世の絶対王政の時代ぐらいか。改良の余地はあると思うのだが・・・専門家ではないので、よく分からない。分からないことに口出しは出来ないよなぁ・・・
アルビオンでは国家規模の有事の際に、国王が王軍司令官を指名。司令官が王の名において、貴族の率いる諸侯軍を召集する。状況に応じて、傭兵を雇う場合もある。軍事行動では諸侯軍を率いる大貴族、それも本家筋の当主の意向が反映されることが多い。これは諸侯軍がそれぞれ「○○公爵家とその一族一党」「××伯爵家の一族一党」と言ったように、血族単位で召集されるからである。本家の意向が、一族分家の諸侯軍全体に与える影響は大きい。
といってもこれは陸軍の話。王立空軍やアルビオン竜騎士隊といった航空戦力は、王家の影響力が強い。アルビオン王家はアルビオン最大の地主貴族である。船は金食い虫-金を一番出すものが一番でかい顔ができるというわけだ。空軍は事実上の「常備軍」といっても差し支えないだろう。船というものは、日頃から訓練しておかないと動かせるものではない。竜騎士隊も同じ理由である。アルビオンの竜騎士隊は、ハルケギニア諸国家の中でも精強で知られるが、少数では対した戦力にならない。某中将の「戦いは数」はその通りなのだ。数で戦うには、集団行動の訓練をしなければならない。当然、中央政府(王家)の影響力も及びやすい。
王家直轄の軍としては近衛魔法騎士隊がある。基本は貴族から選ばれる。推薦ではあるが、その内実は志願制といってもよく、王家への忠誠心は高い。ニューカッスルでジェームズ兄貴と一緒に死んだ多くが彼らだろう。
諸侯軍はへたすりゃ軍閥になりかねん。いざという時のために、最低でも王軍司令官に指揮権を一本化したい。しかしこれに手を付けるということは、貴族の権限に王家が直接介入するということ。暴力装置にかかわることには、特に慎重を喫してとり掛からなければならない。将来的には諸侯軍を全廃して、変わりに国王直轄の常備軍を創設したい。だけどお金がかかる・・・空軍や竜騎士隊に関わる支出を見たとき、ヘンリーは眩暈を覚えた。
「金食い虫ってレベルじゃねえぞ、こりゃ・・・」
レコン・キスタに、王立空軍の「ロイヤル・ソブリン号」を始めとした主だった主要戦力や竜騎士隊が付いたのは、王家がその膨大な軍事予算の負担に耐えかね、予算削減を行ったからではないか?それで不満を持った軍人がレコン・キスタに・・・確かめる術はないけどね。
(貴族と領地)
魔法が使える領地貴族だが、まだらに入り組んで細分化した領地という厄介な問題がある。もともと建国当時のアルビオンには、3つから4つの村落を領有する中規模な貴族が多かった。それが家督相続者以外の次男・3男にも土地を与える分割相続であったため、相続のたびに、代々の領地は砕けたビスケットのように小さくなっていった。4000年頃に分割相続の伝統は消えたが、それは単に分け与える土地がなくなったからだ。当然領地経営が苦しくなり、その多くが没落していった。その中でも比較的裕福であった貴族は、砕けたビスケット状の土地を片っ端から買い漁り、大きくなっていく。アルビオンの国土に、まだら状の奇妙な領土が出来あがったというわけ。
大貴族と貧乏貴族が固定化される現状は好ましくない。入り組んだ領土のため、街道1本通すだけでも、莫大の手間と時間とコストがかかるというわけで・・・はぁ・・・
(官僚・行政機構)
いろんな俺の構想を実現するには、手足となる官僚機構が必要なわけだが。これはまだなんとかなりそう(あくまでも他に比べればの話)。大臣クラスはともかく、官僚は基本的に下級貴族を採用する。そう、領地経営だけでは絶対に食っていけない貧乏貴族だ。下手な農民よりも貧乏な彼らは、現状への問題意識が高い。ある意味俺と最も通じるところがあるかもしれない。
だが、彼らは少ない。そして権限がない、なにより「忙しい」。
アルビオンは行政部門の専門化がまだ進んでいない。乱暴に言えば、内務卿が「宮内庁長官」「農林水産大臣」「国土交通大臣」「総務大臣」「国家公安委員会委員長」を、財務卿が「財務大臣」「経済産業大臣」「経済財政担当大臣」「金融担当大臣」「国税庁長官」を兼任している。あれも、これも、それも、あっちも、なんのまだまだそれもこれも、なんのこれしきまだまだ・・・多岐にわたる仕事を、圧倒的に足りない人手で処理している。中央集権化を進めるなら、官僚の頭数を増やし、行政機構を整備しなければならないが・・・先立つものが・・・ね?
とにかく、官僚はじっくり育てていくしかない。人材は一朝一夕に育たないのだから・・・
(司法制度)
「三権分立?なにそれ?おいしいの?」てなもんだときたもんだ
貴族の領土では、それこそ貴族が好き勝手している。領土内の司法・行政・警察・軍事を統括しているのが貴族なのだ。国法を徹底するとか、そういうレベルではない。大体、税率も各地で違うから、税逃れであっちこっちへ移る商人もいるらしい。それくらいならまだ許せるが、入り組んだ領地をまたがって暗躍する傭兵崩れの強盗団や、領地国境などお構いなしに人を襲うオーガ鬼などの亜人対策ですら、霞ヶ関も真っ青な縦割り行政が立ちふさがると聞いたときには、柄にもなく頭に血が上った。
貴族領はともかく、国王直轄内ではどうかというと、これがまた・・・。端的に言うと警察は、軍=警察。制度上では区別はあるらしいが、あってないようなもの。とっつかまえた軍人が、即決裁判を行うのも珍しくないらしい。現行犯ならそれでいいが、冤罪だと思うと身震いする。軍事権と警察権、おまけに司法権までごっちゃになってるとは・・・
(議会)
あると聞いて正直驚いた。アルビオン議会は貴族・教会・大商人の3者からなる。ハルケギニア大陸の諸国家にも議会はあるが、アルビオンの議会が国政に及ぼす影響は、他国と比べてみても強いものがある。その歴史は約3000年。歴史の長さは伊達ではなく、かつては王朝の交替や、国王の選出にもかかわったという。
味方につければこれほど頼もしい勢力はない。かつてノルマン朝のロバート5世は、弟のブルース大公と王位を争った際、議会勢力の支持を背景に国王に即位した。だが敵に回せば・・・。これまで4人の国王が「体調不良」により退位しているって、ちょっとシャレになってないって(ちなみにその中にロバート5世も含まれるっていうんだから笑える・・・いや、やっぱり笑えん)
貴族も、教会も、大商人も、少なからず既得権益を持っているのだ。派手な行動を起こせば、必ずぶつかるだろうなぁ・・・
現状を一言で言うなら
「あちらを立てればこちらが立たず。なによりお金がない」
「はああぁぁぁぁぁ・・・・・・」
ヘンリーは、深い、深いため息をついた。
時にブリミル歴6203年。原作開始まであと・・・40年
「へスティー?何やってるの?」
「バイトです」