金だ金だ!金が出来た!いやっふう~!!
さぁ、うさ耳メイド服を作ろうか!へスティー、スリーサイズ教えて・・・痛い、ごめん、マジ許してください。お願いですから、お盆の角で殴らないでください。
「・・・何やってるんですか」
エセックス男爵よ。メイドは男のロマンだぞ?
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ハルケギニア~俺と嫁と、時々息子~(24時間働けますか!)
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「まったく、へスティーはメイド服の良さが分かってないから困ったものだ」
「まったくで・・・違います!」
エセックス男爵、最近ツッコミうまくなったね。しかも今のは伝説の「ノリツッコミ!」。まさかこの世界で見れるとは思わなかった。やっぱりあれかね、海千山千の商人と3年も付き合ってたらそうなるのかね。
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3年前、正座でしびれる足を抱えながら、ジェームズ兄貴に専売所設置計画について説明したら「おもしろい」と理解を得られた。兄貴の口添えもあって、行政の最高責任者であるスラックトン宰相に企画書を提出。「予算と人員ちょーだい。おねがい♪」とおねだりするためである。
「ほう、『せんばーいしょ』ですか」
「専売所です、閣下」
スタンリー・スラックトン侯爵。アルビオンの名門貴族・スラックトン侯爵家の当主にして、現在のアルビオン王国宰相である。アゴひげがダンディーだ・・・父上もそうだが、アルビオン貴族は髭を生やすのが好きなのかね?「抜け目のない男でございます」とエセックス男爵が言うとおり、一見するとニコニコして人のよさそうな爺さんに見えるが、よく見ると顔の表情は能面のように変わらない。しわの1本に至るまで、計算し尽くされているかのように隙がなく、顔の大きさの割に細い目(いわゆる糸目)が、一層その表情を読みづらくしている。
(バケモンだな・・・)
前世では曲がりなりにも商社の人間として、いろんな人間と一通りの付き合いはしてきたつもりだったが、こういった手合いの人間とは会ったことがない。スラックトン侯爵は、魑魅魍魎(←何度練習しても書ける気がしない漢字第1位)だらけの宮廷の中で、政治家として育ってきたと聞く。そういった世界では、仮面を顔に貼り付けなければ、生き残れなかったんだろう。お近づきにはなりたくないタイプだが仕方がない。背中に嫌な汗を書きながら、宰相に「専売所構想」を説明する。こちらは王族とはいえ、まだ15の子供。「アルビオン王国宰相」という公職にある、それもかなり年上の侯爵には敬語を使う。
その宰相だが。先ほどから「ふんふん」と相槌を打ってはいるが、その反応はどうとでも取れるものだ。肯定的にも、否定的にも、理解しているようにも、していないようにも、話を聞き流しているようにも。ウナギを素手で捕まえようとしている感じで、イライラする。
「なるほど・・・ヘンリー殿下、よく練られた計画だと理解いたします」
理解、ね・・・便利な言葉だ。
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宰相の返事は
「やるならどうぞ。人員は出向させます。予算もスズメの涙ほどだけど恵んであげるよ。ですが失敗したときの責任はヘンリー王子、貴方が取ってね?その時は俺シラネーから。あ、成功したら私の手柄だということも忘れないでね。この忙しいのに人員を出向させるんだからさ」
・・・すらすらとよくもまあ口が動くものだと感心する。責任の所在をはぐらかしながら、成功したときの見返りもばっちり要求するというド厚かましさ。それなのに嫌らしさを感じかったのは、ひとえに侯爵の上手さか。どこにもいい顔をして、そしてどこからも恨まれないというのは矛盾しているのだが・・・あそこまで面の皮が厚いと、それも出来てしまうのかもしれんな。まったく、世界は広いものだと感心する。
ともあれ人員と一定の予算は確保することが出来たから、あとは専売所の責任者を決めなければならん。総合責任者は発案者の俺。ギルドや商会との交渉も俺が担当する。岩塩専売所はエセックス男爵、材木専売所はアルバート。そして羊毛は俺の兼任。エセックス男爵は元陸軍軍人だから、岩塩採掘地域の要塞司令や陸軍へも顔が利く。アルバートは文官として交渉能力に長けているから、ややこしい土地権利関係のからむ貴族との交渉を丸投げする。
さて羊だ。
「王家の領土内を、羊の放牧を専門にする地域と、それ以外の農業地域に分ける」
言うは易く、行なうは難しという言葉があるが、まさにその通りでした。
まずは現地を歩き回り、放牧に向かない土地を削除する作業。これだけでも一苦労だった。人任せにして、岩だらけの土地を選ばれてはたまったものではないので、現地に赴き、自分の足で見て回る。ここでの地道な作業が、専売所の成否を分けるとあって、俺も必死に働いた。おかげで足腰が鍛えられたぜ。農業地域と放牧地域に分け終わると、また大仕事が。囲い込み(エンクロージャー)を行うといっても、農民をたたき出すわけには行かない。他の地域に集団移住させる・・・考えるだけでめまいがしそうだ・・・
おまけに、全く油断もすきもない商人との交渉も同時進行でせにゃならんし・・・
というか何だよお前ら。「鴨が来た来た」っていう目してんじゃねえよ。そりゃ、百戦錬磨の商会からすれば、15のガキのお遊びに見えるんだろうけどな、こっちは真剣なんだぞ。商社マンなめんなこら。窓際課長とはいえ、伊達に一日に何十枚もの書類を決済してたわけじゃないんだ。なめた文言いれたら、王立魔法研究所の実験台送りにするぞ貴様ら。
妙に数字にうるさい(細かい)王子に驚く商人相手に、俺は専売所の標語を掲げた。
『24時間働けますか~!』
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懐かしい成長痛や吹き出物との再会を果しながら、商人との腹の探りあいをしているとあっというまに3年が経過していた。というわけでハヴィランド宮殿の国王執務室にいる俺の前で、部屋の主が手放しで喜んでいる。
「でかしたぞヘンリー!それでこそわが息子じゃ!」
「ありがとうございます父上。これもジェームズ皇太子殿下と、スラックトン宰相閣下のご協力あってのものです」
この言葉に嘘はない。ジェームズ兄貴もスラックトンも、実際事業が動き出した後は特に何かしてくれたというわけではない。だが事業は走り出すまでが、一番労力を要する。その時期にこの2人が協力してくれなかったら、専売所事業そのものが、計画倒れになりかねなかったのだ。
結論から言うと、専売所は結構な富を国庫にもたらした。
一番最初に利益を稼ぎ出したのは岩塩専売所だった。技術的課題が早期にクリア出来たため、もともと食通の間で有名だったこともあり、「アルビオンの岩塩は高級でおいしい」というブランド戦略は、あっけないほど簡単に成功した。担当したエセックス男爵は「最近はわしの事を『塩爺』などど抜かす輩がおりましてな」と怒っていたが。
・・・ごめん。それ最初に言い出したのは俺なんだ。だってそっくりなんだもん・・・
材木は、領土権を主張する貴族との交渉こそ多少てこずったが、事業を始めてみると思った以上に儲かった。ほったらかされた森林というので荒れ放題かと思いきや、人の手が入らなかったためか、屋久島の縄文杉レベルのごっつい木がボコボコ見つかったのだ。「どんだけほったらかしだったんだよ」と思う俺を尻目に、商会やギルドは目の色を変えて木材を購入して高値で転売。王家の介入に渋い顔をしていた貴族達も、さしたる苦労もせずに、もたらされた利益に、笑みを浮かべた。
で、羊毛だが・・・これが1番、手間どった。
長年住み慣れた土地を離れたくないという住民連中との交渉は大変だった。むやみやたらに強権を振りかざせば、感情がこじれてしまう。そうなれば後はどれだけ金を積んでも、意地でも立ち退かないだろう。何度●93に頼んで叩き出してやろうと思ったことか・・・まぁ、商会が「うちの下のものに『処理』させましょうか?」と言い出したときは、血相変えてやめさせたけどね。いい子ぶるわけじゃないけど、寝覚めが悪いのは嫌なんだ。睡眠ぐらいゆっくりとりたいから。
何とか土地を確保したら、あとは金に任せて羊飼いを集め、どかーんと羊をぶっ放すだけ!羊は数匹単位で飼っていても利益が出にくい。そのため羊を持て余している国内の中小貴族の足元を見て、2足3文で買い集めた。その数なんと1500頭!
題して「ちりも積もれば山となる」作戦!
これには協力してくれた商会やギルド商人も目を回していた。散々俺を振り回した金の亡者どもが慌てふためく様は、実に愉快だった。これまで国内で1番羊をもっていた東部の大貴族であるエディンバラ侯爵家が200頭だから、その桁違いの規模が分かるだろう。
けっけっけ!これくらいでびびんなよ?!価格交渉の時に、泣きを見せてやるぜ・・・へっへっへ、貴様らが血の小便流して稼いだ金を巻き上げてやるぜ!!
「・・・」
へスティー!?いたの?
「えぇ、ずっと」
え、えーと、えーと、ね?これはね、そのね、言葉のあやというか・・・
「楽しいですか?」
・・・
*
いろんな事があって、少しだけ痩せた俺は、国王である父親直々に褒められることになったというわけだ。
「ほら、こっちこい!ほおずりしてやる、チューしてやる!」
「結構です!」
親父のエドワード12世は、やたらにボデーランゲージを好むという困った癖がある。親子じゃなきゃセクハラだって。いやパワハラか?昔はお父さま大好きっ子だった妹のメアリーですら、最近では「父上嫌い!」と言うくらいだ。難しいね思春期って。おれもアンリエッタにそんなこと言われたら、立ち直れないかもしんないな・・・
って、親父。チューはやめて、お願い、マジで。
こら、ジェームズ兄貴!目そらしてんじゃねぇ!スラックトン、てめぇ今笑ってるだろ!顔色変えなくても、肩震えてんだよ!
ね、親父。マジで、マジで?や、やめてー!!
「この恥ずかしがり屋め」
「そういう問題じゃありません!」
全くこの髭親父が・・・
あれだけ大騒ぎしたのに、何事もなかったかのようにスラックトンが話を進める。
「それにしても「せんばしょ」ですか。わずか3年で、しかもこれほどまでに利益が出るとは思いもしませんでしたな。ヘンリー殿下の手腕、不肖スタンリー、感服いたしました」
おまえ去年の今頃、「あのような赤字施設を作るとは、ヘンリー殿下の物好きにも困ったものだ」という意味の愚痴をさりげなく宮殿で喋ってたろうがこの野郎。失敗したときはアリバイ工作の為に「私はあの時すでに失敗を予想していました」とかぬかすつもりだったんだろうが。
・・・まぁ、俺も正直不安だったんだけどね。3つのうち1つでも成功すれば御の字だったんだけど、まさか3つとも成功するとは思わなかった。1年目と2年目の赤字を帳消しにするだけの利益を叩き出した結果を見れば、宮廷スズメどもも大人しくなるだろう。ジェームズ兄貴も嬉しそうだ。
「正直なところ、財源がないというのはわしも悩んでいたのだ。いや、本当にでかした!何か褒美をやろう。ほら、チューし『お願いがあります!』
先手必勝。大切なものを守るため、国王の機先を制するヘンリー王子。
時にプリミル歴6206年。原作開始まであと・・・37年
「そこなメイド、何をしておる・・・って、どこから入った貴様?!」
「あ、宰相閣下。うちのメイドですからご安心を」