澄み渡る青空。
草むらに直接座っているので若干尻が冷える。
本当なら、アルバイトで訓練場の清掃に向かうはずが、なぜかミナトさんに拉致られてうちはの里に俺は居た。
右のほうを見るとナルトとサスケが掴み合いの喧嘩をしている。
理由は知らないが、微笑ましく二人を見ているミナトさんとフガクさん。 なんだピクニックに来た家族みたいだ。
左を見ればイタチさんの術実演。
忍者が手の内をホイホイ見せて良いのだろうか? うちの幼女二人が「今はこんな術があるのか」としきりに感心している。
こんなにも爽やかな昼前なのに、この場にS級忍者四人とかキナ臭いにおいがプンプンする。
そんなことを考えていると、向こうのほうから日向家御一行もやってきた。 ヒナタだけじゃなくネジもいる。 ヒアシさん和解したのかな?
見かけは家族合同のピクニックだが、その気になれば小さな里なら…… いや、もしかしたら木の葉だって落とせるかもしれない面子だ。
臭すぎる。
ミナトさんと眼が合ったらニヤリと笑われた。
うちは壊滅を止めてやるぜーとか、伝説の忍者に教えてもらって俺TUEEEEするぞとか。 ちょっと前の俺を殴り殺してやりたい。
陰鬱な気持ちで、あの復活の儀式の後を思い出した。
薄暗い地下室の中、沈黙する四人。
当然だが、復活した彼ら(うち2名幼女)は俺に説明を求めた。
尸解仙転生という術式の説明。 それにより彼らが人間でなくなったことの説明。
目的は、これから始める物語の師であり仲間になって欲しいこと。 その物語の説明に頭解入の術という、予め組み込んでおいた情景や文字、知識などを脳内に直接再生する術を使った。
それがいけなかった。 いや、いずれ分かることだろうが、暗い密室で使うべきではなかった。
使えば一発で秀才になれる勉強要らずの術は、元々は尸解仙転生開発にあたり知識の習得が面倒で開発した術である。 三年自分で使ってきた術であり、一番の錬度と信頼を置いている術なのだから失敗は無い。
しかし、術が終わり再生が済んでもう三十分になろうというのに、三人は動かない。 幼女二人は眉間に深い皺を寄せ険しい顔をしている。 もう一人の青年――ミナトさんは能面のような喜怒哀楽をそぎ落としたような顔をしていた。
ちょっと不安になって「ミナトさん?」と呼ぶとぽつりぽつり、独白するように呟いた。
「俺は忍びだ。 命のやり取りなんて忍界大戦では日常茶飯事だったし、人を殺したことも両手使ったって数えられない。 殺したくなかったやつの命を奪ったこともある」
「はぁ」
「はじめて知ったよ。 心から憎しみで人を殺そうと決意したときは、こんなにも穏やかな気持ちに成れるんだな」
こえええええええええええええええ
怖すぎる。 ミナトさん怖すぎるよ。
なるほど。 考えていたのはナルトのことか。
そりゃ原作読めばこの里の連中が、自分の息子にした仕打ちもわかるしな。
命がけで守った里のこの行動は、そりゃトサカにくるだろう。
となると……
ちらりと幼女二人に視線を移すとなにやら悲壮な決意を固めた顔をしている。
ミナトさんのこともあるし、聞きたくは無い。 聞きたくは無いが、不安を押し殺して聞いてみる。
「平和な里だな。 しかし腐っている」
「私と兄上が目指した里はこのようなものだったのか? あいつが…… あいつらが命と引き換えに目指した平穏とは、こんなにも悪臭のたつものだったのか?」
自分たちで木の葉崩しするつもりか?
やばいよ~ やばいよ~
大蛇丸と違って、この三人がやれば成功しそうな気がする。
失敗しても成功してもどえらいことになる。
ここに至りようやく俺は自分のしたことに恐れを抱いた。
悪魔にこの力を貰ったとき、かつて読んだ2次系SSのオリ主のように、俺もこの世界で物語に介入しようと思った。
特にNARUTOは後半になると大好きなキャラが次々と死んでいく。
ヒナタ誘拐のときもどうにかしたかったが、当時三歳の俺には力があっても手段は無かった。
そして手段を欲した俺はこの地下室を見つけたのだ。
九尾によって親を失った俺が預けられたこの孤児院。
大蛇丸が人体実験の材料集めのために作ったという、由緒正しい孤児院を探索した結果発見した地下室を見て狂喜した。
多くの先輩方の人骨を供養し、残された数々の研究資料を読みふける。
その中に穢土転生の術式資料と、成そうとした転生体の材料があったことは天啓にすら思えたのだ。
しかし、どうやら簡単に考えすぎたらしい。
漫画ではよくある台詞だ。
『強い力には強い責任がある』
『力を使う意味を知らなければならない』
『馬鹿に刃物』
気分はもう
やっちまったな~
やっちまったな~
太鼓を叩きながら褌一丁で踊っている気分だ。
影からナルトたちを支援するはずが、俺が大蛇丸になっちまったよ。
オロオロする俺にはどうすることもできない。
なにやらマダラと~なんて話してる兄弟を制したのは、意外とも言うべきミナトだった。
「俺は…… 俺は木の葉を愛していたんだ。 心の底から大好きだったんだ。 里も忍びも…… 火影という名も」
抑えきれない涙は、冷たい地下室の床をぬらし、薄暗い石の壁はミナトの声を反芻するように響かせた。
「ナルトにしたことは許せない。 裏切られた絶望感に気が狂いそうだ。 でも…… それでも、この里を。 木の葉を崩すものは看過できない」
ああ、この人は火影なんだと思った。
公と私、憎しみと愛の狭間で揺れ動く炎。 冷たくも燃え盛るその火に心を焦がしているんだろう。
目を向ければ幼女二人も同じ顔をしていた。
どうすればいいのかわからない。
でも許すことは出来ない。
そんな顔だ。
重い沈黙が続く室内。
なんか底なし沼に嵌った気分。
小市民が力を貰って暴走した結果がこれだ。
なんとか二人を説得しようと考えていて思い浮かべたのは、昔大好きだった2次SS投稿サイトだ。
そこには色んなNARUTOの世界があり、いろんなナルトがいろんな物語を紡いでいた。
それを思い出し、名案が浮かんだのだ。
「あ、あの。 嫌なら抜ければいいんじゃないですか?」
俺の提案に三人とも目を丸くする。
「里を抜けろって…… 抜け忍になれということか?」
「火影だったものが木の葉を抜ける?」
全うな常識を持つ忍者にとって、里抜けという考えは最初から除外される。 だからこその盲点。
実際『抜け忍』の文字よほど重いのだろう。 三人とも渋い顔をしている。
それだけ抜け忍狩りは熾烈を極めるということだろうか?
「抜け忍にならずに里を抜けるんです」
俺の提案に三人とも『?』を浮かべてる。
やばいな~。 なんかテンションあがってくる。
このテンションで失敗したのに、喉元過ぎれば? まだ過ぎてないのに、また突っ込もうとする俺はなんと呼べばいいんだろう?
「里に抜けることを認めさせるんですよ」
「そんなことが」
「できます。 あの物語を見たでしょ? 木の葉には火種がくすぶってるんです。 つまりは『うちは』と『日向』です。 この二つをつれて抜けることを認めないなら内戦です。 執行部も暗部も断れないですよ。 木の葉が絶対勝てるなら内戦になるだろうけど、雲の脅しにびびってヒザシさん差し出すような連中です。 うちはと日向とミナトさんで脅せば一発です」
唖然とする三人。
しかし、ミナトさんはどこかホっとしたような顔をした。
逆に頭の固い二人は
「うちはと日向が木の葉を抜けるものか」
なんて言う。 そこは君たちの説得でイケますって。
少なくとも『うちは』は絶対いける!
初代と二代目は神格化してるような連中だ。 これほどの交渉人は世界中探したっていないだろう。
「里抜けか」
ミナトさんは静かに目を瞑る。
この問題の根幹はナルトへの迫害だ。
幼女二人もミナトさんの決断に従うとしい、静かに座っている。
やがて見開いたミナトさんの瞳には強い意志の光が戻り、不退の決意が宿っていた。
「うちはと日向に会いに行く。 お二方。 同行をお願いいたします」
「「承知」」
幼女二人も満足げに頷いた。
木の葉崩しに比べれば木の葉抜けのほうが遥かにマシだ。 この作戦段階でうちは虐殺も回避されるだろう。
思わず腰が抜けそうになるほど脱力する。
悪魔から貰ったこの力はチートだろう。
使い方を誤らなければ『最強』だって『俺TUEEE』だってできる。
でもおれはこの力の使い方を学ばなくてならなない。
過ぎた力は自分を滅ぼす。
幸いというべきか、力に対して多くの経験を持つ三人と知り合えたのだ。 忍術や体術と同時に力の使い方も教えてもらおう。
しかし、いまは最悪の事態が回避できたことを、ただ喜んでいてもいいはずだ。
やりとげた顔の俺は地下室を出ようとしたところで、幼女二人に呼び止められた。
「「ところで、次は我らが女の子供になっている理由を説明してもらえるんだな?」」
俺の受難はまだ続く。
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前回コメ返し忘れていてすみません。
書き溜めではなく、毎回書いているので勢いが切れたら更新停止します。
稚拙な部分が多いとは思いますが、暖かく見守ってくれるとうれしいです。