この六年で里上層部もナルトに対する迫害改善に尽力した。
しかし、根のように奥深くまで侵食された、里人の差別意識を拭う事は容易ではなく、暗部を使い暴行するものを処罰し続けるも、逆にそれがナルトに対する恐れを増幅させる結果となった。
そして四代目波風ミナトの言った期限の年。
頭痛と胃痛によって幹部の大部分が欠席するという事態になりながらも、晴れやかにアカデミーの卒業式が行われた。
蕾をつける桜のしたで、親子並んで写真を撮るナルト。
俺の知る物語ならば合格を祝う親子を、ブランコに乗りながら寂しく見ていたはずである。
頭を撫でるミナトさんの手を、照れて振りほどくナルトの顔を見たとき、六年前後悔した尸解仙転生の術が、少し報われたような気がして思わず笑みがこぼれた。
アカデミーを卒業した面々は原作とほぼ差が無いものの、俺と三人の介入によってその中身は大きく変質している。
まずは、ミナトさんの出現とうちはが壊滅しなかったため、それほど性格がゆがまなかったナルトとサスケの二人。
ナルトはミナトさんの要請により、天狗眼をつかい封印術式を変更した。
天狗眼により妖魔としての邪悪な部分を減らした結果、九尾とは対話が可能となったのだ。
それは尾獣を持つ里に知られれば、襲われかねないほど劇的な変化となり、2年にわたる説得の結果、封印術式は口寄せの契約のようなものになる。
口寄せは時空術式によって扉を開き、口寄せ契約を行った魔物を呼び出す術であるが、この封印術式は魔物自身ではなく魔物のチャクラを呼び出せるものである。
そのさい、原作のように膨大なチャクラによってナルト自身を破壊したり、また暴走しないようにする安全弁となっているのだ。
結果、ミナトさんの個人的な修行をつけてもらったナルトの成長は著しく、こと実技に限って言えばアカデミー2位の座を油目シノと競い合うほどになった。
対して原作より多く能力を落としたのがサスケである。
うちは崩壊のトラウマが無いサスケは、うちはの名にそれほど大きなコンプレックスを持たず、学科こそアカデミー上位という好成績だが、チャクラを用いた実技では集団の中ごろ程度に落ち着いた。
原作では独学でアカデミー主席を取った男が、イタチという偉大な兄に指導してもらって平均的な実技成績という、人間ヤル気が何より大事という証明を見た気がする。
この二人だけではなく、旧家の面々も多かれ少なかれ原作から変化が見られた。
大きいところならば日向ネジと日向ヒナタ。
うちの幼女姉妹がヒアシさんに与えた影響は大きく、ヒアシさんと和解したネジはヒナタを本当の妹のように可愛がり、また自身の訓練時間を減らしてまでヒナタを気にかけた。
ミナトさんと親友だった山中、奈良、秋道の子供である、いの、シカマル、チョウジも原作と比べなくては分からないほどだが、変化しているように感じる。
分かるところで言えば、いのがサスケを追いかけなくなったり、シカマルが面倒臭そうにしても、それを口に出すことは無い。
そして行われた班選別。
当初はナルト、サスケ、ヒナタのスリーマンセルになると思ったが、里上層部の強い嘆願でヒナタの代わりにサクラが加わることとなって驚いた。
原作の修正力かと怪しんだがそうではなく、このままナルトに対して関与できなくなる事態を上層部が恐れたためだ。
旧家の子供ではなくサクラを選んだのは「里人のナルトに対する考え方は変わってきている」というアピールだろう。
そのためナルトに対する偏見の少ないサクラが選ばれたわけだが、普段里人の行動を見る限り成果が上がっているとは言いにくい。
ただ、ナルト、サスケ、サクラの班の担当上忍は原作より大きく逸脱し、『波風フトウ』という暗部上がりで、今年上忍になったばかりの新米に任される事となった。
もちろん波風フトウは元四代目火影の波風ミナトである。
さて、そこでミナトさんに居場所を追われることとなった、原作の担当上忍であるはたけカカシはというと……
「ごごごっごべんざはひっ」
いま目の前で拷問されていた。
木遁で捕縛されたカカシの足の裏を羽箒でこちょこちょしながら、うちの幼女改め少女二人、過神モミジと過神カエデに視線を向けると、まるで大魔神のように憤怒の形相で腕を組んでいる。
最初は木の葉のエースと聞いて期待していたのだ。
一分くらいは眉を寄せるも下忍相手ならばと我慢していた。
五分経ったころプルプル震えだしたので、怖くて声をかけられなくなった。
そしてカカシは入ってきた瞬間、木遁によって捕縛され、モミジとカエデのわっくわく大折檻を受けることとなったのだ。
「忍者を辞めろ」
普段は鈴の鳴るような可愛い声のカエデだが、いまはあらゆるものを凍りつかせる絶対零度の命令だ。
モミジに至ってはこのまま埋めそうな勢いだった。
「貴様は忍者を何だと思っている? 遊びで忍者をやっているのか? 上忍の端くれなら忍者の心得を諳んじれるだろう? 今ここで言ってみろ」
忍者の心得。 それは部隊長である中忍に上がる時に教えられるため、中忍の心得とも言われる至言である。
天無くば智を知り機に備え、地無くば野を駆け利を求めん。
弱点を補い、心技体を揃えれば忍者の正道とも言うべき、任務の安全につながると記した言葉であるが、そこに含まれた意味はそれだけではない。
智とは恥。
忍者にとって恥ずべき行いを知らなければ、機――機会、依頼を得ることは出来ない。 地は里を野は国を表し、利――糧を得るために走り回れと教えている。
忍務――仕事とは天より振る雨のように、ただ口をあけて上を向いていれば入るというものではない。
積み重ねられた血と汗は信頼という名の結晶となり、それだけが忍務を得る手段となるのだ。
その信頼を作ることは、とても困難で途方も無い時間を要するが、壊す時は実に容易で一瞬。
だからこそ忍者は掟を作る。
ひとつ。
忍びは裏切ってはならない。
ひとつ。
忍びは任務を放棄してはならない。
ひとつ。
忍びは仲間を尊ぶべし。
数々の掟は里と忍びを守る鎧であり、日々の糧を得る剣でもある。
忍びならば…… ましてや上忍が蔑ろにしていいはずが無く、『遅刻』など言語道断の掟破りなのだ。
「誰が遅刻する忍びを信用する? お前が遅れて任務地についたとき、部隊が全滅していたらお前は仲間になんと詫びる? 密書、物資、援軍、伝達、ありとあらゆる物が時間の誤差無く求められるのだ。 届かぬ密書のため戦になったら、届かぬ物資のため部隊が飢えたら、届かぬ援軍のため全滅したら、届かぬ情報に価値がなくなっていたら。 時間は金と知れ」
いつのまにか木で出来た土下座マシーンにより屈服され、モミジに足で頭を踏まれているカカシ。
カエデはゴミでも見るような眼で、カカシに延々と忍びとは何かを説いてた。
「明日貴様を試験する。 それに受からねば我等の担当上忍とは認めぬ。 もし試験に落ちればアカデミーからやり直すんだな」
日が傾き、西の空が赤くなったころカエデはそう言って話を終えた。
木遁を解くも、カカシは土下座のポーズを崩さない。
長い間維持していたから、その格好で固まっちゃったんだな。
腐ってもだ上忍だから大丈夫だろうが、姉妹が去った後こっそり医療忍者を呼んでおいてあげた。
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サスケはあまり好きじゃないので不遇です