目の前に荒ぶる虎と、逆鱗に触れられた龍が居る。
今日の予定に「木の葉の里から上忍一名離脱」と記しておこう。
あれほどの目に会っても懲りないカカシの根性を称賛すべきか、馬鹿は死なねば直らないと嘆息を漏らすべきか……
俺に出来ることは、真っ赤になって怒る龍虎のとばっちりがこっちに来ないように、訓練場の隅でプルプル震えていることだけだった。
一時間ほど経っただろうか? 怒りのあまり具現化したチャクラをうねらせている二人から、もう少し距離をとるべきか? あまり距離を開けすぎると逆に目に付いて標的にされるかも? なんて思案しているところに人影が見えた。
心の中で阿呆な上忍の冥福を祈り、静かに眼を閉じていると人影は別の人間だったようだ。
波風フトウこと波風ミナト上忍と、第七班(ナルト、サスケ、サクラ)の三人だった。
どうやらこの訓練場で伝統のテストをするつもりだそうだ。
モミジとカエデは訓練場を使うために許可が要ることを知らなかったようだ。 もっともカエデは「そういえば」なんて言ってるので、この制度が出来たころの記憶はあるみたいだが。
ミナトは三人に休憩するように言い、モミジとカエデからカカシの所業について説明を受けている。
モミジとカエデは忘れているようだが、カカシは元々ミナトの生徒なのだ。
今の木の葉の不甲斐なさを嘆き、彼を担当した上忍を罵倒し始める姉妹。
「あいつを受け持った上忍は何を教えたんだ?」
「聞いた話ではかなりの使い手だったようだが、教導する才能には恵まれなかったんだな」
二人の罵倒を聞いているうちに、今度はミナトが真っ赤になって震えだしてきた。
一通り話を聞くと、腰につけていた鈴2つをはずし、俺のほうに歩いてくる。
「コジ。 おまえ、あの試験知ってるよね? 悪いがお前がやってくれ。 突然なんだが俺は用事が出来てね」
今にも体の穴という穴から火を噴出しそうなミナトに「下忍が下忍をテストするのはまずいでしょ」なんて言えるはずも無く、からくり人形のようにひたすらうなずく。
そうしていると向こうのほうから、
「いや~ 人生に迷っちまって」
へらへら笑いながら歩いてくる銀髪覆面忍者が見えた。
合掌
「何でお前が試験するんだ? アカデミー主席だからって俺たちを舐めてんのか?」
原作から比べると歪んでいないが、それでも生意気なサスケが言う。
ナルトのほうも
「こっそり合格しておいてくれよ。 どうせやんなくても分かるってばよ?」
何が分かるんだろう?
今試験をせずに分かったことは、サスケが生意気だって事と、ナルトがズルしようとしてたぐらいだぞ? これで判断下すなら一発で不合格になると思うんだがそれで良いんだろうか?
サクラはサクラで目をハートマークにしながらサスケにべったり。
ミナトさん、ちゃんと説明したのかな?
不合格になれば落第だって伝えたのかな?
「試験官が上忍から下忍になっただけでも破格のサービスだろうが? 阿呆なこと言ってないでさっさと準備しろ」
面倒臭くなってきたので投げやりに言ったらサスケのやつ、気に入らなかったのか起爆符とかヤバ目の忍具を準備している。
体術そこそこ、忍術もそこそこ、忍具の使い方は目を見張るものがあるが、原作と比べるとやっぱり覇気が無いというか…… かなり弱体化しているな。
ナルトもヤル気になったみたいで準備運動をしている。
多分だけど、ミナトさん影分身を教えているんだろうな。
チャクラコントロールも九尾の影響がなくなったおかげで、格段に上達しているし、原作と比べてコイツは何か隠しだまを持っていそうだ。
これで、学科も頑張れば原作サスケと入れ替われただろうに、勉強のほうはからっきしでドベ街道をまい進していた。
サクラは…… しらん。 準備しろつったのに、準備しない子なんて先生知りません。
「それじゃ、ルールを説明する。 この鈴を俺から奪えた奴が合格だ。 見てのとおり鈴は二つ。 一人は確実にアカデミー行きとなるから頑張れよ~」
「「「なっ?」」」
「鈴二つとか不公平だってばよ」
「そうよ。 馬鹿なこと言ってないでちゃんと試験しなさいよ」
愚痴りまくるナルトとサクラを横に、サスケは面白いとばかりに笑っている。
実力が伴っていればクールに見えるんだろうが、今のコイツがこんな顔をしても滑稽なだけである。
ホント面倒だな。 ミナトさんこいつらを下忍にする気あるのかな? 里抜けの準備も続けてるみたいだし、ここで下忍にさせなくても問題ないんじゃないか? サクっとボコって失格にして、世界の広さを教えれば良いんじゃないか?
色々ネガティブな思考に陥るが、手を抜いたとうちの姉妹に知られたら折檻されそうなので、ほどほどに真剣にすることにした。
「合図は~ あ~ 時計が無いので適当に。 そのうちチャイム?が鳴ると思うので制限時間はそこまでね」
そう言い終えると同時に三人とも森に入り姿を隠す。
普段の言動が馬鹿っぽくて、座学こそ赤点量産機のナルトであるが、こと実技に関しては上忍に迫るものがある。
俺は地獄の幼女姉妹に、血反吐を吐くような――それこそ、いっそ殺せと何度叫んだか分からない修行を課せられた結果、天狗眼で底上げされた身体スペックと使いこなせるようになったわけだが、ナルトは天然ものだ。
チャクラ運用こそ新式封印術でスムーズに行えるが、それ以外は原作のままなのだ。
対するこちらは、総合チャクラ能力強化、筋繊維ピンク色強化、特殊皮膚加工強化など、仮面ライダーも失禁するような改造を自分に行っている。
その上でハートマン軍曹よりも厳しい、悪魔も逃げ出す双子の取特訓を受けた俺に、模擬だし未熟なころとはいえ何度かポイントを上回ったこともあるナルト。
本物の才能に嫉妬を感じるが心の底から尊敬する。
主人公補正というものか? 常人には到達できない場所に立てる人間の輝きを見た気がした。
さて結構時間が経ったわけだが、誰も襲ってこない。
アカデミーで力を見せすぎたか? 思ったより警戒しているな。
主席を取ったとき双子には「アカデミーとはいえ実力を見せるのは忍者の恥。 こちらは隠し、相手の情報を奪うのが忍者の正道だ」と散々怒られたものだ。
現に双子はアカデミーどころか里で比べても、ワンツーフィニッシュを決められるような力を持ちながらも、その力を抑え悟られることはせず、くの一クラスの主席を山中いのに譲っている。
そんなくの一クラスいちの秀才こと春野サクラは、森のなかでサスケの名を呼びながら歩いていた。
原作で知っていたが、目のまで見ると脱力する。
こいつ、本当に忍者か?
忍たま乱太郎だって…… いや、同レベルくらい?
完璧にギャグ忍者だな。
そんなサクラを囮にする気まんまんな気配が二つ。
サスケのやつ、隠行術はまぁまぁ良いじゃないか。
アカデミー卒業にあたり、イタチさんからしごかれた?
ナルトのほうは上忍もしくは、特殊な探索スキル持ちじゃないと分からないレベルだ。
チャクラの放出レベルを辺りの動植物レベルまで落として、その質もかなり近く同化している。
臭いなんかはまだ隠しきれてないだろうけど、十分実践で使える隠行術だ。
まぁ、こっちから仕掛けないとずっと動きそうに無いので、原作どおりサクラには幻術にかかってもらう。
「幻術! 超兄貴の術」
幻術・超兄貴の術とは…… ご想像のとおりです。
素晴らしい夢の世界に堕ちたのだろう、サクラは泡を吹いてぶっ倒れた。
倒れた際に、思いっきり後頭部をぶつけたわけだが、それでも覚めない俺の幻術精度に拍手を送りたい。
そしてサクラが倒れた瞬間、三方向からクナイが飛んできた。
特殊な三又のクナイ。 柄の部分に符を仕込めるタイプ。
あれってミナトさんから貰ったんだろう。
それを追うようにナルトの影分身3つが突っ込み、足の裏に貼り付けていた手裏剣をクナイと同じ軌道に蹴り投げてきた。
影分身3体というのは良い判断だ。
それ以上多いと逆に邪魔になる。
無尽蔵にチャクラがあるくせに、この堅実なチャクラ運用。 マジでナルトは侮れない。
イタチさんに比べて、1回失敗(カカシ)してる分、ミナトさんの教導スキル上がってるのかな?
しかし、サスケのほうが隠行下手なんだから、先に仕掛けてナルトを隠せば良いのに、ビビリ君め。
こっちもクナイを投げて、起爆符クナイを打ち落とし手裏剣は避ける。
それを合図にナルトと体術に入った。
正面二人でダブルのように怒涛のフェイントを使った連撃。 もう一人は確実に背後を突いてくる。
ただの影分身3体による強襲じゃなくて、ちゃんとした多人数格闘術だ。 スリーマンセルのお手本のような動きに「もうナルトだけ合格させて、影分身でスリーマンセル組めば良いんじゃね?」なんて考えがよぎる。
前の二人を蹴り飛ばした瞬間、落ちていた手裏剣の変化が解けた。
なるほど。 最初のクナイは変化した本体を守るための壁だったわけだ。
後ろのやつも蹴り飛ばす動作に入っていたため、ナルトの本体に鈴を触られた。
奇襲の失敗を悟ったナルトはそのままの慣性で距離を開ける。。
そのタイミングでサスケが飛び出し馬から虎の印を結んだ。
「火遁! 豪火球の術」
忍具を準備していたのはブラフだったか。
確かに使う相手の前で武器を晒す阿呆はいない。
サスケは大きく息を吸い込み後ろへのけぞる。
まさか、この術を使えるのか? と思ったら
バフッ
失敗。
顔の辺りを火傷して悶絶するサスケ。
こ、これが狙いだったのか?
俺もあまりのコントに大爆笑。
サスケと同じように腹を抱えて悶絶した。
呆然とする、ナルト。
使えもしない術を実践に持ってくるなよ。
サクラが起きていれば幻想を打ち砕かれただろうが、いまだ彼女は夢の中。
顔を抑えてうずくまるサスケ。
呆然と立ち尽くすナルト。
白目をむいてピクピクしてるサクラ。
腹を抱えて笑い続ける俺。
なんかシュールな光景だ。
笑いすぎてケヒョッケヒョってなってる俺に
「アッーーーーーーー!」
という豚を絞め殺したようなカカシの悲鳴が聞こえた。
というわけでタイムアップ。
本来の趣旨で採点すると大失格。
カカシに言わせれば仲間を囮にするやつは忍者のクズだというだろう。 俺なら遅刻するやつも忍者のクズだと反論するが……
そもそも、ナルトもサスケもサクラを仲間だとは思っていない。
ナルトのほうはサクラのことを異性として少し気に入っているようだが、忍者にとってそんなものは毛ほども任務に影響されるものではないのだ。
サスケのほうは完璧アウトオブ眼中。
そう考えると、このチームはナルトとサスケのタッグに、サクラという外部要員を加えたチームに見える。
なら、外部要員を犠牲にして任務達成も忍っぽくて俺的にはOKだと思う。
そもそも、チームなんて一朝一夕できるものじゃないしね。
潜った死線と共に食べた飯の数だけ、チームワークってのは深まると思う。
以上を踏まえて採点すると……
サクラ――論外
サスケ――面白かったです
ナルト――花丸
……
……
……
面倒だし合格で良いや。
下忍として実力が足りない気がするが、実践でしか学べないことも多いし、ミナトもんが何とかしてくれるだろう。
何とかなら無くても里抜けになればチーム解散だしね。
俺は何やら隠しだまで挑もうとするナルトを止めて、三人に試験の合格を言い渡した。
ぐだぐだな試験になったが、俺が試験官ならこんなものだろう。
「あ~、もうお弁当食べて良いよ。 でも、時間までは帰らないでね」
その弁当には影分身で蝶強力な下剤を仕込んでおいた。
忍者たるもの、自分で用意した飲食物以外を口にするべからず。
こういうのは身をもって覚えないとね~
見上げる空には雲がゆっくりと流れていく。
木の葉の空は今日も穏やかだった。
「アッーーーーーーー!」
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好きなキャラはマイト・ガイです。
贔屓したいが、どう使えば良いか分かりません。