手元の書類を見る。
過神コジ。
九尾襲来により両親をなくし孤児となり、過神カエデ、過神モミジ――初代様と二代目様の兄となった者。
今年、アカデミーを首席で卒業し、はたけカカシを担当上忍として下忍に任官した少年である。
過神――過ち、過去、過ぎたる、繋げるならば、過ちの神、過去の神、過ぎたる神。 いろんな意味を読み取れるが、名に神をつけるとは…… そこに深い意味があるような気がするが、孤児だからコジと名乗るふざけた感性に迷いが生まれる。
実際の授業を受けているところ見たが、その実力に驚愕した。
初代様と二代目様に個人的な修行をつけてもらっていると思うが、それを考慮しても尋常ではない実力だ。
上忍以上――特殊上忍…… いや、三忍に匹敵する実力を有しているように見える。
もしかしたら彼も復活した過去の偉大な忍びなのだろうか?
考えれば考えるほど、わけが分からなくなる少年である。
しかし、この少年がナルトと並び、里を震え上がらせる問題の鍵であることは間違いない。
「どう思う?」
書類を投げ渡し、そばに控えていた森乃イビキ特別上忍に問う。
「こりゃ、素晴らしい成績ですな。 私がアカデミーに通っていたころと比べると、恥ずかしくて赤面してしまいます」
「そんなことを聞いているわけではない」
「出来るなら、二十四時間監視して情報を集めたいところですが」
「あの二人が許さんだろう」
はいと森乃特別上忍はうなずく。
「正面から請えば少しは会えますが、影から監視は危険ですな」
「危険?」
「留守の間、家に忍び込もうとしたゲンマが全治二週間です」
「ふむ」
溜息を吐き椅子に体を沈める。
四代目の里抜け発言ももちろん大問題だが、四代目を含むお二人が蘇った秘術も知らねばならない。
死者の蘇生。
誰もが馬鹿な話だと一蹴する奇跡が目の前にあるのだ。
これは忍びの世界だけではない。
知られればすべての里と大名家が…… いや木の葉を含むすべてのものが狂い、そして襲ってくるだろう。
この世界自体が狂乱の中で破滅するかもしれない秘事。
なんとしても手に入れ、死者蘇生を阻害もしくは無効化する方法を見つけなくてはならない。
しかし、相手は伝説になるほどの手練。 強硬に出ることも出来ず、忍者の本分である影からの奪取も高すぎる壁である。
「頭が痛いの」
そして首尾よく術を手に入れたとして解析できる人材が居ない。
正確には召喚しているが、積み上げられるのは失敗の報告。
おそらく、この術を解析できるものは三忍である大蛇丸か綱手…… あとは、砂の国のチヨくらいか?
大蛇丸も他里のチヨも論外であるため自然と頼れるものは綱手に行き着くが、その綱手は木の葉を去りいくら使者を送ろうと帰参する気配は無い。
それだけでも胃が痛い話だが、唯一木の葉と友好であった三忍最後の一人である自来也もその姿を消した。
理由は分かっている。
自分に愛想が尽きたのだ。
大蛇丸。
綱手。
そしてミナト。
何がプロフェッサーだ。
何が火影だ。
この木の葉の危機の多くは自分の失態である。
弟子である大蛇丸の根を理解せず、正しく導いてやることが出来なかった。
綱手もそうだ。
あやつの悩みを聞き、道を示してやることこそ師の務めではなかったか?
九尾襲来のときも老いぼれが生き残り、前途ある若い忍びに全てを負わせてしまった。
そやつから頼まれたナルトを守ってやることも出来ず、そうした全ては火種となって里に燻っている。
老いた…… いや、そもそも自分に火影などという大役を務める能力など無かったということか?
この期に及んで逃げだろう。
里長たるもの決して口にしてはならぬ言葉だろう。
しかし分からない。 分からないのだ。
どうすればよい? 誰にも聞けぬ、相談など出来ぬはずが、お二方は蘇られた。
何もかも捨てて、お二人の下に参じたいという欲求が口から出そうになる。
火影の編笠など自分がかぶってよいものではない。
この編笠に相応しい者がそこに居る。 なんど纏まらぬ議会のさなか叫びそうになったことか。
こんな愚物を師と仰ぐことなど、自来也も馬鹿らしくなっただろう。
煙管の灰を落とし、新しい草を詰める。
火をつけ口に咥えたところで、イビキの報告が続いた。
「ダンゾウ以下、根の動きにも怪しいものが」
根か……
盟友であり暗部を統括する男。
そして『根』の首領。
闇の闇。 暗部の暗部。 木の葉という大樹を地に埋もれ支える支柱の支配者。
自分が表の火影ならば、裏の火影とも言うべき忍びの暗躍。
「木の葉が割れるか」
ぽつりと吐き出された言葉は、揺ら揺らと立ち流れる紫煙と共に消えた。
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幕間です。
短くてすみません。
次回本編に戻ろうか、ちょっとしたオリジナル入れようか迷っています。