その反応は一瞬で、されど多大なモノだった。
純粋な物質の結晶に、不純物がひとかけらでも介入すればどうなるか、それはさながら化学反応のようであった。
なのはやユーノ、ルーカスが知らぬ間に事は緊急事態まで進んでいる。
歪みと言うエネルギーがジュエルシードへ入り込み、ジュエルシードに篭められた魔力で血肉を象っていく。
その血肉を集めて生み出されるは混沌の悪夢。
ハンス達の言葉で"魂を刈り取るモノ"と呼ばれし、金属と得体の知れない生物が融合した、化物だった。
それを空間越しに見つめる黒髪の女。
黒い服を纏った女はその悪趣味なホールで、大型な何かとともに笑みを浮かべていた。
「さあ、みせて頂戴。その結果を。」
『WARNING!WARNING!』
ビーコンより緊急信号が送られ、ルーカスは飛翔しながら確認する。
同地点より多大な魔力と歪みが検出されており、その地点はなのはと黒衣の少女が居る地点である。
彼女たちが存在し、かつ歪みの波動が駄々漏れであると言う事をビーコンは教えていた。
つまりそれは、大規模な魔力と混沌の波動の融合、すなわちルーカスが想定し得る最悪の状態が起こっていた。
目標地点は大規模な封時結界が施されており、発生した何かを逃さないタメの配慮はなされているようだった。
だが、相手は混沌だ。
何も知らない彼らだけではとうてい5分も持たないだろう。
それほど混沌とは独特な相手だ。
「俺たちは結局後手にしか回れないか………!」
悪態をつきつつ、ルーカスは結界内へ転移する準備を進める。
先ほどまでは滑空することで貯蔵魔力をセーブしていたが、時間はもう一刻の猶予を許さない。
短杖の高速詠唱によってルーカスは姿を消した。
『WARNING!WARNING!Far different from the enemy.』(警告!警告!今までの敵とは違います!)
すずかの屋敷の近くの森へ飛び込んだユーノとなのはは、その敵の異様さに圧倒される。
その姿は従来のジュエルモンスターとは違い、グロテスクかつ機械的な肉体を持つもので漠然とした目的ではないものを考慮されて象られている。
それはまさしく破壊のための身体であり、腕には砲と巨大な剣。まともに当たればひとたまりもないものであることは誰の目にも明らかだった。
「なのは、相手は何をするか分からない。だから絶対に前に出ちゃダメだよ。」
「うん、わかったユーノ君。でもあれって………。」
「………! 間に合え、"ラウンドシールド"!」
グロテスクなクリーチャーはなのはたちへ向かって長い肉のような何かを伸ばしてくる。
それをユーノは咄嗟になのはの手を引っ張り、ラウンドシールドを張って防御を試みた。
しかし、その翠の盾も突き破られ、なのはが居た位置へ伸びきって次の瞬間には消えていた。
ユーノがなのはを自身の後ろに庇っていなければ、穴が開いていただろう。
それほどの威力はユーノには察する事ができた。
しかしそうなるとユーノに解せないことが一つ浮上してくる。
グロテスクなモンスターが纏う負のオーラとは何なのか?
「これほどまで……!」
「次はこっちの番だよっ!"ディバインシューター!"」
[Divine Shooter.]
桜色の魔力球がほとばしりながら、クリーチャーに殺到する。
相手は動きが遅く、バインドなしでも炸裂するはず。
そう考えてなのはは反撃を発射した。
激戦を見ながらたたずむ黒衣の少女の後ろに、深緑色のバリアジャケットを纏った少年が降り立った。
軍服風の意匠や拳銃にも似た短杖のせいか、それは軍人にも見えた。
短杖を突きつけつつ、少年は少女に尋ねる。
「アレを呼んだのはお前か?」
「私じゃない。けれど。」
[Photon Lancer.]
「あなたをあそこへ行かせるわけにはいけないもの。」
瞬間、少女の周囲より黄色の魔力光でできた槍が少年へ飛ぶ。
しかし、少年はそれを短杖で叩き落し、もう片方の手に持つ本を開いた。
「そうかい、じゃあ遠慮は要らないな。聞く事もあるまい。」
[Army Setup. Neme is Steel Rain. Auto Put.]
少年の周囲数十メートルの空間が歪み、中より守護者たる軍勢が出でる。
そして、赤色のレーザー光が茂みや林の中より突き抜ける。
戦争はこうして始まった。
ユーノとなのははジュエルシード・モンスターと対峙する。
黒衣の少女はルーカスと。
しかし、早くもその戦いに闖入者が介入しようとしていた。