スクール・カーストという概念がある。
インドのカースト制度のごとく、学校での人間関係に階層社会的な上下関係を持ち込む概念だ。
上中下、ABC、1級・2級・3級――おおむね、3階層のグループに分けられるのが普通で、カーストの最下層に落とし込まれたものは悲惨な境遇に追い込まれる。
人生において輝かしい時代であるはずの思春期。
友人と馬鹿騒ぎをやって友情を楽しみ、恋愛の甘酸っぱい思い出を育む異性との触れあい。
スクール・カーストの最下層においては、それらに巡りあう機会がそもそも与えられない。向けられるのは冷ややかな侮蔑のまなざし。あるいは、背景を眺めるかのような無関心な視線。
では、そのカーストの上下を決めるのは何か?
それは、ある分け方が端的に示している。
「イケメン」「フツメン」「ブサメン」
つまり、容姿だ。
顔がよければ、性格が悪くても許される。無論、顔が全てという訳ではない。
究極的には、カーストのどこに位置するかを決めるのは人気だ。その意味では、確かに顔がすべてではない。
だが、同時に無視し得ない大きな要素でもあるのだ。ぶっちゃけて言えば、性欲真っ盛りの発情期とも言える思春期において、美形であるという事は異性を惹きつけ、人気をかきたてる。
つまるところ、容姿が残念な人間はただそれだけでカーストの下層に落とし込まれてしまう。そうなってしまえば、輝かしいはずの青春時代は色あせた悲惨なものになってしまう。
同じクラスに、つい目で追ってしまうような美少女がいる。
だからなんだ?
彼女が自分の恋人になってくれるとでも? 向けられる笑みは社交辞令の域を出ることは決してない。自分が視線を向ければ、彼女の周囲の人間が気持ち悪いと言い立ててくる。
放課後にどうするかと、楽しげに予定を語り合う男子たちがいる。
だからどうした?
その話の輪に自分が加えられることは決してない。もし加えてもらえるとしても、連中の優越感を満足させる道化としてだけだ。それならばいっそ一人でいるほうがマシだ。
現実とは悪意と無関心の入り混じる乾いた場所でしかない。
だからこそ、二次元の世界へと彼は入りこんでいく。二次元の世界においては、いろんなタイプの美少女が彼に擦り寄ってくる。恋心を隠すことなく、甘い囁きと輝くような笑顔を向けてくる。
それもひとりではなく、よりどりみどりでハーレムだって作ることが出来る。
誰からも顧みられない背景のようなモブキャラでなく、美少女を好き勝手に踏みにじって快楽に貶めて奴隷に堕とす悪として君臨する事だってできる。
そこは現実よりもずっと生々しくて、希望に溢れて輝くリアル。
それでも、望んでいたのだ。
現実においてもつまらない自分を脱却して、輝く人生の主人公になることを。
例えば、自分には何か秘められた才能があり、それが発露することを。謎めいた少女と出会い、非日常の世界踏み込むことを。異世界に召喚されて、英雄として活躍することを。
夢に見るほどに願い求め、夢から醒めて愕然として夢の鮮やかさに涙するほどに。
だが、いまや現実だ。
可愛らしい女の子が、異世界へと転生させてくれると言う。希望する特典をつけてくれるという。
だから望んだのだ。
自分を空気のように扱った女の子たちを蹂躙できるような力を。高嶺の花と遠くから眺めていた女の子たちを無造作に手折ることが出来る力を。現実では味わえない、人間では味わえない快楽を味わえる姿を。
魂が打ち震えるような歓喜とともに。
なのに、なんだこの現実は。
どこの腐れた乙女の見る夢だこれは。
目の前には穏やかに微笑む、金髪碧眼の白皙の美貌の王子様。
自分にはわかる。
何故かは知らない。彼の本能が危険を囁いている。
「コイツはお前のケツを狙っている」と。
だから、彼――大久保卓郎は近づく王子様から逃げようと後ずさり。その結果としてベッドから転げ落ちた。
----------------------------------------
乙女は異世界トリップすると「王子様」に拾われるのがお約束。
厨二成分補給に「とある魔術・超電磁砲」をまとめて見てたらSSはちょっぴりだけに。
厨二病は正しく発症するとよい燃え成分になりますね。
ちなみに、UNKNOWNはネタが思いつかなかったから。
感想くれてる方々にありがとうの一言を。
今回は短かったので、症例集はお詫びに残しておく。