設問:異世界で人間社会にコンタクト。さて、問題は?
解答:お金がない。
ククリナイフを握った腕を振りぬくにあわせて、血飛沫が上がる。
首筋を切り裂かれたワニの親戚みたいな怪物が、よたよたと何歩か歩いてからそのままどさりと地面に横たわる。地面に転がる死体は、それで三匹目。
残る二匹を視界から外す事無く、ククリナイフを勢いよく振り、刃についた血糊を払い飛ばす。
睨みあい、ぶつかり合う視線。
張りつめた空気が漂い、凍りついたように動きを止めて互いを窺う時間が過ぎる。
じりじりと緊張感とともに時間が過ぎて、根負けしたように怪物たちが視線を揺らすと、くるりと向きを変えて森の中へと消え去っていく。
「さすがに、昼間は緊張する。まさか、MPKをリアルで経験するとは……」
消え去る気配を確認し、安全になったと思うと同時に深く息を吐き構えを解いて、肩の力を抜く。
「お疲れ様……です。MPKって……?」
こちらへと歩み寄ってくる途中、掬うように地面に手を触れたかと思うとタオルと水の入ったペットボトルを手にした美琴が、それで濡れタオルを作り、返り血に汚れた顔を丁寧に拭ってくるのに身を任せる。
「MMORPGとかで、自分を追いかけてくるモンスターを他人に擦りつける行為……だったかな?」
当たり前のように物質変換をこなしている姿に、能力の使い方は完全に身についたかと感慨深い思いを抱きつつ、正確な定義までは覚えてないがと、記憶を探りながら美琴の疑問に答え。視線を離れた樹の根元で目を回している少年へと向ける。
年齢的には10歳ごろで、人種的には白人系に見える。
この少年が、泣き喚き、悲鳴を上げながら森の中から飛び出してきて、樹に衝突。その後を追いかけて先ほどの怪物が飛び出してきて、ついでとばかりに智也たちにも襲い掛かってきたのだ。
怪物に視線を向けて眺める。
寸詰まりのワニを思わせる並んだ牙が凶悪な頭部に、しなやかなで運動性が高そうな四肢と強靭な尻尾。総じて評すれば、犬みたいな四肢で運動性の高そうなワニ。
「こいつもマンイーターか。ヘンダース島ほどじゃないが、この世界の生態系もずいぶんと危険なようだ……と」
「……ヘンダース島って、なんです?」
「子供を産みながらハンティング。生まれて5分もすればハンティングを終えて獲物を貪り食っているか、誰かの胃袋の中が当たり前。そんな狂った生態系の島。とりあえず、子供の足でうろつける範囲に人が住んでるとすると、人里は近いか?」
「近くに……村か何かが?」
「この少年も、俺たちと同じ遭難者でなければ。とりあえず、前に話し合ったとおりに準備をしておこうか」
「わかりました。それよりも……この子、助けてとか言ってました、よね?」
「それがどうし……なるほど」
美琴の問いに、智也が首を傾げ。納得したように頷く。
気にしてなかったが、言われてみれば少年の口にしていた言葉は理解できていた。
「言葉の問題はなし、と。幸先は良さそうだ」
スキピオは、意識を取り戻すと同時に意識を失う直前の記憶――リザードウルフの群れに追い掛け回されていた記憶を思い出して、がばりと慌てて体を起こした。
「…………あれ?」
きょろきょろとあたりを見渡して、周囲にリザードウルフがいないことを確認してほっと息をつき。改めて周囲を見渡し、こちらを興味深そうに眺めている女の子たちに気づいた。
掌くらいの炎が踊る小さな焚き火を前にして座っていた女の子たちは、この付近では見かけないような黒い髪をしていて、村の皆とは違う綺麗な服に身を包んでいて、びっくりするほど可憐で目を惹く容姿をしていた。
「気がついたか、少年。怪我はなかったはずだが、無事か?」
髪の長いほうの女の子が立ち上がり、ぽかんと見つめているスキピオの元へと歩み寄ってくるとしゃがみこみ、覗き込むようにして顔を寄せてくる。
「ええっと……。リザードウルフは?」
「追いかけていたアレか? それなら始末した。付近に気配はないし、安全だろう」
「へっ……?」
寄せられる顔を近いと、胸の鼓動が早打つのを意識しながら懸念事を問いかけ、返ってきた答えに間抜けな声が漏れる。
思わずまじまじと相手の顔を見つめ、確認するようにゆっくりと視線が下に下りる。儚げにも見える線の細い整った顔立ちに、ほっそりとした華奢な体。荒事に向いているとは思えない。リザードウルフの群れをどうにかしようと思ったら、腕に覚えのある村の大人たちが何人か必要だ。目の前の女の子にどうにかできると思えない。
視線をずらして、もう一人の女の子へと向ける。
何の装飾か、顔に変なものをつけているが、顔立ちは整ってるし、肌も綺麗だ。体つきも、リザードウルフと立ち回れるようなものじゃない。ふたりとも、村の女の人や、女の子よりもずっと綺麗な格好をしていて、見たこともない街の貴族やお姫様を連想する。
「誰か、男の人が他に?」
「いや、俺たちふたりだけだ。その様子だと、特に痛む場所もないようだ」
「えっ? でも、じゃあ……誰が、リザードウルフを?」
「……俺だが?」
こいつで倒したと、折れ曲がった形をした奇妙なナイフを抜き出して髪の長い女の子が、何が疑問なのかと不思議そうに首を傾げる。
「……本当に?」
「嘘をついてどうする。それよりも、案内を頼みたいのだけど家の方向はわかるか?」
あそこを見ろとばかりに、ナイフで示した先には乾いて変色した血の跡。死体は片づけられたのか、その姿はないが確かに死体があったのだと頷けるだけの大きな血の跡に、信じられないという思いを抱きつつ、ナイフをちらつかせる女の子の顔を見つめ。
「それで、道はわかるのか?」
去年結婚した隣の兄貴分の「女は魔物だ」との言葉を思い出して、スキピオは深く納得した。
「なんだか、久しぶり……ですね。まともな屋根の下で眠るのって……」
ベッドの上に智也と一緒に座り込み、背中を向ける智也の髪の毛をブラシで丁寧に梳りながらしみじみと言葉を漏らす。
「寝床はごわごわした感じがするけどな」
「仕方ないですよ、藁のベッドなんですから」
「マットレスひとつにも、豊かさの差を感じるとは……」
意識してなかったが、日本での生活はものすごく贅沢な生活だったのだなと、智也がしみじみと呟く。そして、肩越しに振り向いて視線を投げかけ訊ねてくる。
「ところで、酷くいまさらな気がするんだが……。一緒のベッドに寝ることに抵抗は感じないのか?」
「髪の手入れをしているんですから、じっとしていてください。せっかく綺麗な髪をしているんだから、きちんと手入れをしないと」
「いや、だから……」
「いまさら……ですよ」
言葉を重ねる智也を、美琴は背後からそっと抱きしめる。首筋に鼻先を埋めれば、石鹸の香りがふわりと甘やかに漂う。すっぽりと腕の中に納まった華奢な体躯を愛でるように、そっと指先を滑らせる。
ブラシを脇に置き、生粋の女の自分よりも大きな――自分が標準以下という事実は無視するとして―ー胸の膨らみを自分でも理不尽とは思う怒りを抱きつつ、くすぐるように指先を這わし撫で回す。
「これで、男を意識しろと言われても。下着だって、女の子の着ているじゃないですか……。わたしが用意したのを」
「あぁぁぁぁ……あの? 美琴さん?」
「襲うのなら、森の中でいくらでも……機会があったと思います」
うろたえた声を出す智也がなんだかおかしくて、くすりと笑い。いまさら、そんなことを言われてもと耳元で囁き、かぷりと耳朶を甘く噛む。
「ひぁぅっ!?」
びくりと腕の中で硬直する様子が可愛くて、愛しくて、思わずぎゅっと抱きしめ囁く。
「いままでずっと、守ってきてくれたじゃないですか。それに、ずっとこの姿ですから……」
森の中で一月近くも、寄り添うように暮らしていれば互いの肌なんて何度でも見ている。だいたい、下着を用意する時にはスリーサイズまで測ったというのに。正直、自分よりスタイルが良くて綺麗で、可愛くて――女として負けてるとひそかにショックを受けていたというのに、男として意識するわけがない。
腕の中で硬直している智也へとそっと体重をかけて、優しくベッドへと押し倒す。
硬直したまま抵抗しない智也と向き合うように姿勢を変えて、その胸元に顔を埋めて抱きつく。
「……他の皆も、こんな風に姿が変わってるんでしょうか」
「あー……。人間やめて、触手になってた人もいたし……」
頭の上から降ってくる困ったような声に耳を傾け、目を瞑る。
「それじゃ、他の人に会っても……誰だかわかりませんね」
「胸元で喋られるとくすぐったいんだが……。やっぱり、知ってる顔には会いたい? 皆、それなりに何か能力をもらってるだろうし俺たちみたいに生き延びてるさ」
だから、そのうちにまた会えるさと――優しく頭を撫でながら智也が囁いてくる。
「うん……。そうですよね。でも……それよりも、お家に帰りたい……です」
まぶたの裏の暗闇に浮かんでくる両親の顔。それがひどく懐かしくて、泣きたくなるほど切なくてぎゅっと智也に抱きつき、柔らかな双丘へと顔を埋め擦りつける。
「そう、だな……」
優しく、甘く、ふわりと囁かれる声。子供をあやすように、ゆっくりと優しく、抱き寄せられて頭を撫でられ、背筋をさすられる。
耳に響く智也の心音が、心地よく眠りを誘う。
とくんとくんと脈打つ音に耳を傾けながら、安心しきってゆっくりとまどろみの淵へと意識が沈んでいった。
規則正しく穏やかな寝息を胸元に感じながら、智也は梳るようにそっと美琴の髪に指をすき、頭を撫でる。
抱き枕のように、きゅっと抱きつかれて覚えるのは母性本能じみた保護欲求。口元が緩み、微笑みを浮かべていることを自覚して溜息のように深く息をつく。
「これも、精神が肉体に引きずられているということ……か?」
パジャマの代わりと、ゆったりしたTシャツの胸元から美琴をそっと引き離し身を起こしながらひとりごちる。
以前だったら、女の子にこんな風に抱きつかれたら性的な意味で興奮や緊張を覚えていたはずだ。まったく覚えないのかと言われたら、首を横に振るが昔ほどには積極的な関心を覚えない。
そっと自分の胸の膨らみに視線を落とし、小さく息をつく。
うん、アレだ。
自分に無い物だから、興味津々で興奮を覚えるのだ。
ナルシストでもない限り、自分の体に興奮する趣味の人間はいない。最初のうちこそは女体の神秘の探索をしもしたが、自分の体にもあると思えばなんというか興味が薄れてくる。
ふにふにと、形を確かめるように自分の胸を揉んでから、その虚しさに溜息をつく。
電気の力で闇が打ち払われている日本の夜とは違い、この世界の夜は暗く深い。
枕元で淡く光を放っていたLEDランタンのスイッチを切ると、すぐさま闇が押し寄せてくる。
美琴の寝息に耳を傾けながら、じっと膝を抱えたまま意識を周囲へと広げていく。
昼間の少年に案内させて辿り着いた村で借りた宿は、村の酒場の一室。
専業で宿屋を開くほど人気のある村でもなく、民宿に雰囲気は近い。
そして、息をひそめてこっそりと近寄ってくる複数の気配。
「……予想通りか」
現地通貨などの持ち合わせがあるわけでなく、支払いを美琴が造った宝飾品で支払った時から気になっていたのだ。愛想良く笑みを浮かべながら、ねっとりと絡みつくように向けられていた視線が。
男が女に向ける性的な視線。
その視線に不快感を覚えつつ、冷静になって考えてみると自分たちは狙われてもおかしくない。
森の中でも、ほぼ毎日のようにビニールプールに湯を注いで即席の風呂を造ってに入ってたおかげで、肌も髪も清潔を保って綺麗。着ている服は、上質な布地。支払いは、気軽に貴金属と宝石。加えて、無力そうな少女がふたりだけで護衛もなし。
わけありとみて警戒するか、いいカモだとみて手を出すか。
向けられる視線の質に、後者だと判断を下していたが正解だったかと、溜息をつく。
金品を奪って殺して埋めて、村ぐるみで口をつぐめば誰にもばれない臨時収入。あるいは、自分たちも売り飛ばして金に換えるつもりか。どちらにせよ、自分たちの体で楽しむつもりらしいのは、囁き交わされる下卑た会話が教えている。
昼間ならともかく、夜ならば扉越しの囁き声などはたやすく聞き取れる。
かちゃりと、小さな音を立てて鍵をかけたはずの扉が開いていく。
「――――!?」
寝ていると思っていたのだろう。
目が合った男が、驚いたように立ち竦む。
「お嬢ちゃ……げぶっ!」
男が何かを言いかけたが無視して、ほんの一瞬で側によりその喉首を右手で掴み上げる。
「深夜に、乙女の部屋に忍び込むとは何の用だ?」
小さな声で囁くようにして問いかけながら、左手はナイフを握っていた男の右の手首を握り締める。たいして力も込めていないのに骨が軋んでいく。自分よりも背丈のある男が、苦しげにもがいて振りほどこうとしているのも子猫にでもじゃれつかれているようだ。
人間とは、こんなにも非力で脆弱だったのか。こんなにも、自分は異常な存在になっていたのか。人間を相手にすると、自分の変わりようが実感させられる。
「ああ、別に答えなくてもいい。手にしたもので、何をするつもりかは予想がつく」
宿の主人に、柄の悪そうな男。今、喉首を掴んでる小太りの男の三人。手にしているものが、ナイフにロープに麻袋。そして、鍵がかかってるはずの扉を開けての侵入。何を意図していたのかなど、問うまでもない。
「てめえっ――」
「黙れ、美琴が起きる」
何かを言いかけた男の瞳を見据えて、命じる。
それだけで、男が表情を失い言葉をとぎらせる。
魅了の魔眼。
吸血鬼にはありがちな、精神干渉系の能力。
使ってみるのは初めてだが、なかなかに便利だ。そんな感想を抱きながら、男の精神を掌握する。
何が起きてるのか理解できずに、うろたえてる宿の主人と目をあわせる。すぐに、宿の主人も表情を虚ろにして立ち竦む。
「さて、色々と試してみることがある。お前たちには、実験につきあってもらおう」
喉首を掴んだまま、無理やりに跪かせて覗き込むように顔を寄せて、口の端を吊り上げて囁きかける。
「ミッ……ミディアン!」
「なるほど、俺のような存在は一般的なのかな? この世界の常識を色々と語ってもらう必要もありそうだ」
目を見開き、恐怖の表情を顔に貼りつけた男が呻くように漏らした言葉に、くつくつと低く笑う。
「そして、少年……夜這いをするにはまだ若すぎる気がするが?」
背後を振り返れば、窓枠に足をかけ。なかば、室内へと身を乗り込ませていた昼間の少年が呆然とした様子で固まっている。
「えっと、その……ガラドのおじさんが、その……助けに……」
うろたえた様子で、口をぱくぱくとさせながら必死に言葉を搾り出す様子が何かおかしくて小さく笑う。
ちらりと一瞥し、合わさる視線を介して精神の表面を撫でる。
混乱はしているが、嘘はついていない。
「夜這いでないなら、お静かに。そして、ここであったことは秘密だ」
人差し指を一本立てて、唇に当ててお静かにとジェスチャーをしながら、刺激しないように声をかける。
「あ、ああ……。黙ってる。すげえ、ミディアンなんて……初めて見た」
きらきらと瞳を輝かせながら、少年がこくこくと頷く。
少年の反応に、智也は「あれ?」と内心で首を傾げた。男のみせた反応は恐怖。ならば、ミディアンとは恐れられる存在のはず。なのに、この少年の反応は何だ?
智也は知らない。
自分たちの格好と立ち振る舞いから、スキピオが自分たちをお姫様みたいだと思っていたことを。
自分たちを襲う計画を立ててるのを聞いて、騎士気取りでやってきて男たちを返り討ちにしている自分を目撃して格好いいなどと思ったことを。
少女たちがミディアンだと知って、先が見えてる同じ事の繰り返しの退屈な日常から、非日常の世界へと足を踏み入れたとわくわくと胸を躍らせていたことを。
ボーイ・ミーツ・ガール――少年は少女に出会う。それは、幾多の物語で語られる冒険の始まりであることを。
ありていに言えば――スキピオ少年は厨二症候群を罹患していた。
一方、その頃。
「あぁん、ショウコ様ぁ……」
ずるりと蠢きうねる触手へと、白濁に穢れ、粘液に濡れた裸身をすり寄せてうっとりとした表情を浮かべる少女。
薄暗い室内には、生臭い性臭気がむわりと立ち込めていた。
感情表現がわかりにくい触手の塊だが、見慣れた自分にはわかる。あれは、後悔と自己嫌悪に震えてる。
頭が痛いとばかりにこめかみを揉み解して溜息をつき、菜月は疲れたように日本語で声をかける。
「それで、どういう話の聞き方をしたらこういう結果に?」
菜月の声に、びくりと触手の塊が震える。
「違うの。襲うつもりなんかなかったの。怯えて、暴れて話を聞いてくれないから……その、捕まえて落ち着かせようと……」
「生贄として連れてこられたら、怯えもするでしょうけど。それがどうしたら、こうなるわけ?」
「うぅ……。だって、柔らかくていい匂いがして…その……」
「ムラムラして、気がついたら押し倒してましたって?」
「あぅ……」
「はぁ……。これじゃ、本当に生贄じゃないの」
翔子と菜月。
怪しげな結社の召喚儀式の現場に出現して崇められる結果になったふたりは、ともに自分の現在の容姿に不満を抱いていた。
そして、この世界には魔法があるらしい。
ならば、自分たちを元の姿に――せめて、人間の女の子らしい姿に変える魔法もあるのでは?
その発想に辿り着くまで、さほどの時間を要しなかった。
同時に、結社の人間に崇められているからこそ自分たちの安全があることを理解もしていた。
自分と一緒に室内に入ってきたフード姿の男たちが、室内に撒き散らされてる粘液や白濁をありがたそうに回収しているのを横目に眺めながら溜息をつく。
遠回りに探りを入れたのは失敗だったかと。
自分たちとしては、魔法を使える者はいないか。いれば会いたいと求めたつもりだったのに、どういう解釈が行われたのか、力ある乙女を生贄に求めてると受け止められたらしい。
見目麗しい少女を恭しく差し出されても困るのだ。
それでも、魔法が使えるのならと藁にも縋る思いで必死な翔子が話を聞こうとし今に至る。人払いがされてフード姿たちはその現場には立ち会ってないし、自分も少女が落ち着くまでは無理だと食事を取りに離れてた間に一体何があったのやら。
いや、まさか……
「心が、体に引きずられてる……?」
悪夢めいた触手の塊という風情の翔子を一瞥する。なにか、アレはエロゲ的触手だったというわけ?
「うわぁ……。男でよかったかも」
もし自分が女だったら――うっとりと蕩けた表情で翔子に肌をすり寄せ甘える少女へと目を向けて、ぞくりと背筋を震わせる。
まさか、男でよかったと思う日が来るとは。
いや、そうじゃなくて。このままでは、いずれは自分も女の子に欲情して押し倒すとか?
一緒にこの世界に来てるだろうクラスメイトに変身魔法の使い手がいれば、ぜひとも今すぐこの場に来て欲しい。
精神的同性愛か、肉体的同性愛かでわたしが悩んでいるうちに。
そして、できれば翔子が人間をやめる前に。
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フラグメントは面白かった。
TSすると、心が体に引きずられるのは定番ネタの気が。