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No.17964の一覧
[0] 【ネタ】厨二な俺らの漂流記【現実→異世界】[中の人](2010/09/23 01:29)
[1] ボーイ・ミーツ・ボーイ[中の人](2010/04/17 22:23)
[2] Welcome to this crazy world[中の人](2010/05/15 00:40)
[3] Metal Wolf[中の人](2010/05/18 16:13)
[4] In The Deep forest[中の人](2010/05/31 03:11)
[5] Boy meets girl[中の人](2010/07/03 03:12)
[6] 《楽園》[中の人](2010/07/03 03:34)
[7] それぞれの夜[中の人](2010/09/08 05:21)
[8] Monster on the road[中の人](2010/09/16 04:14)
[9] 姫君と騎士[中の人](2010/09/23 01:31)
[10] 厨二病症例集[中の人](2011/03/16 09:26)
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[17964] 《楽園》
Name: 中の人◆fb9d4b16 ID:dfbc6fc1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/03 03:34
 大小あわせて二千を越える島が浮かび、多島海の異名を持つエイジア海。
 その海に浮かぶアリストロメリア島は、地球の人間が見ればギリシャの島を連想するだろう。
 すなわち、表土を失い枯れた石の荒野に覆われた島を。
「我らの土を失えば、我らは立ち去るしかない。岩を耕し、喰らう術を知らねば」
 緑豊かな島に住み着き、森を切り開いて畑を作り耕し――その果てに全てを失った島の先祖の言葉だ。
 地球においては、モアイ像で有名なイースター島の住人が辿った道だ。万を超える人口を誇った栄華も、森の樹を最後の一本まで切り倒し、脆弱な土壌を耕し失った果てには、人口を激減させ、飢えのあまりに人食いの風習にまで陥り、ついには滅びた終末の光景。
 歴史を紐解けばメソポタミアにギリシャにローマ。ゆっくりとした変化であるがゆえに、滅亡の予兆に気づかないか気づかないふりをした挙句に滅びた文明はいくらでもある。
 そして、滅びの後に残されるのは貧困と飢餓。
 それはこの島でも変わらない。
 交易の拠点になってるわけでもない不毛の島は、沿岸部にへばりつくようにして寂れた漁村がいくつかあるだけの貧しい島。
 だが、いかに貧しくても人が住まうなら人の営みがある。
 男と女が巡り合い、子を産んで育み老いて死ぬ。人と人がぶつかり、わかりあう。笑顔を浮かべ、涙を流し、出会い、別れを繰り返す。
 特別なところなど何もない、ありふれた日常の連鎖。
 その連鎖が、今途切れようとしていた。
 闇夜の暗がりを、黒い影が音もなく走る。ひとつでなく、いくつもの人間ほどの大きさの両生類じみた異形の影が走る。
 それを物陰に隠れて、戸板の隙間から息を殺しながら見ていることしか少女にはできなかった。
「誰か、助けげげぶっ……っ!」
 転げるように村の中を走っていた男が唐突に転ぶ。両生類の皮膚のようにぬらつく質感の黒い影が、尻尾を揺らしながらその背中にのしかかっている。
 人間の手を思わせる前脚で男を押さえ込むと、イソギンチャクのように無数の触手をうねらせる円形の口で帽子のようにすっぽりと男の頭を咥えこむ。鼻から下だけを覗かせて、悲鳴を上げて助けを呼ぶ声が唐突に途切れる。むちゃくちゃに振り回されていた手足が、不意にばたりと地面に落ちる。
 異形が口を離せば、糸の切れた操り人形のようにごとりと男の体が地面に横たわる。
 ごろりと首が転がり、少女に虚ろな頭蓋の赤黒い断面を見せる。
 男の頭蓋は鋭利な牙で切り取られ、穿たれていた。
 男の脳髄は啜られ、貪られて失われていた。
 まるで、壷の蓋を外して中身を取るように、頭蓋を外して脳髄を喰われていた。
 どこかウナギを思わせる頭部を揺らめかして、脳喰らいの魔物が新しい獲物を求めて視線を巡らす。
 悲鳴を上げそうになる口元を、必死に手で覆い。世界を拒絶するように固く目を瞑って、必死に小さく体を丸めて見つかりませんようにと神々に祈る。
 そして少女の祈りは聞き届けられることはなかった。


 破滅の種子が播かれたのはしばらく時を遡る。
 急峻な地形の島の中央部。人の立ち入らぬその場所へと、啓示空間から落ちてきた人の頭ほどの黒い種子が落着した。
 落着した種子は、即座に発芽して薄い土壌を突き破り基盤岩層へと直接根を張り、岩盤を貪り喰らい孔を穿つ。そして、喰らった質量をそのまま自分の構成質量へと変換して急速に成長していく。
 その光景を見ている者がいれば、自分の穿った穴へと沈み込みながら凄まじい速さで成長している黴の菌糸にも似た醜悪な《樹》を目にしただろう。
 人は岩を食えない。たとえ、口にしたところで栄養にならない。だが、《樹》は物質変換を行うことで岩を滋養たっぷりの餌として貪り喰らう。
 岩盤へと穴を穿っての急速な成長も《樹》の高さが人の背丈の倍ほどまで育ったところで、さすがにペースが落ちる。
 種子が発芽のために胚に蓄えていた栄養を使い果たすように、物質変換の効率が低下していき、質量の直接変換による急速な自己成長が終わり。根が貪り喰らい分解吸収した質量を養分へと変換して全身へと運んでの代謝によっての成長に移る。
 急速な成長を支えるために、血管を思わせる組織が脈動しながら養分を全身に運ぶ。急速な成長と代謝活動の結果として出される廃熱は周囲の大気を揺らめかし陽炎を作るほどの熱量に及んだ。 
 《樹》それ自体には、自我と呼べるものはない。
 ただ、与えられたプログラムの通りに黙々と成長を続け、初期に与えられた力を使い果たし、物質変換能力を事実上失うと同時に次の段階へと移る。
 一日がかりで大人が二人ほどでようやく抱えられるほどの太く成長した幹の内部で、細胞群が変化してただ記憶し演算するための器官を形成していく。十分な処理能力と記憶領域が確保されると、圧縮状態で大切に保存されていた情報を解凍し、演算領域へとロードする。
 解凍された情報は即座に自己組織化を終えて、活性状態に移行する。
 《樹》に自我が宿った瞬間だ。
 《樹》には目も耳もない。ゆえに、暗黒と静寂に囚われた意識は周囲の状況を確認したいと望んだ。
 それに応えて樹皮の隙間を押し開くようにいくつもの眼窩が形成されて、そこを眼球が埋めると、ギョロギョロと慌しい動きで視線もばらばらに周囲を見渡す。
 無数の目で周囲を確認しながら、参考データーとして埋め込まれていた情報を読み込んで自己の現状を理解するにつれて内部意識は凪いだように静かな精神状態で沈黙し――狂ったように笑い出した。
 狂躁的な笑いの衝動が過ぎると、《樹》はゆっくりと思索を巡らし、今後の方針を立てる。
 幹と周囲の岩壁を繋ぐ菌糸めいた枝に肉芽が形成される。肉芽は腫瘍のように育ち、果実のように実っていく。
 物質であれば全てを餌として貪り食った暴食能力は既に使い果たされていた。
 黒ずんだ緑の葉を茂らせて、普通の植物のように光合成によって養分をまかないながら果実を育てていく。人間で言えば脳に当たる演算器官とそれを維持するための器官以外を分解吸収して萎えさせて果実を育てる養分へとリサイクルまでして、急いで果実を育てていく。
 栄養に富んだどろどろのスープのような溶液が果実へと流し込まれ、果実の中で育つ何かが養分を吸収して細胞分裂を繰り返し、自分の出す代謝熱でゆだりながら凄まじい勢いで成長していく。
 自らが穿った穴の奥底で、自らを育てる有機物に飢えながら《樹》はゆっくりと果実を実らせていく。
 島で放し飼いにされている犬の一匹が行方知れずになったのは、それから一週間後のことだった。


「……ダメだ。船は、全部やられてた」
「そうか……」
 不意に翳る日差しにちらりと横目で視線を向けると、浜に船の確認に行っていたカルウスが暗い表情で結果を報告する。
 ドルースは、手にしたままぼんやりと眺めていた剣を鞘に収めると立ち上がる。
 辺りを眺めれば、昨夜の魔物の襲撃を生き延びた数人の村人が表情の抜け落ちた生気のない顔でこちらを見つめている。
 惨劇の後を物語るように、戸や壁を打ち破られた家が見える。しかし、無惨な姿をさらしている死体の姿はない。別に自分たちが弔ったわけではない。
 魔物たちが持ち去ったのだ。
 昨日まで当たり前の日常が送られていた村の姿を一瞥し、目に納めると無言で歩き始める。
「どこへ行く気だ?」
「島からは逃げられない。ならば、行く先はひとつだ」
 背後からの声に振り返る事無く、そっけなく言葉を返す。
「……そうか」
 呟くような声が染み入るように、小さく響く。それきり、続く言葉もなく沈黙が生まれる。言葉の代わりに続くのは、自分以外の足音。
 それがひとつ増え、ふたつ増え――やがて、生き残った村人の数に等しくなる。
 昨夜の惨劇が嘘のように、青く綺麗に晴れ渡った空の下。寂れた田舎だと疎ましく思いつつも、ここで骨を埋めるのかと諦めにも似た境地で受け入れていた日常をドルースは追憶する。
 大陸で冒険者として活躍していたと語る親父の昔話。隣の家の兄弟と喧嘩をしてむくれていた妹の愚痴。笑顔を絶やさず、家族の面倒を見ていた母親の顔。
 先の見えたつまらない生活だと見限り、いつかは島を出て大陸で成功してやると思っていたはずの昨日までの生活。
 みずぼらしく、惨めだと思っていたはずの記憶が黄金の輝きを持ってよみがえる。
 ぎしりと、歯を軋ませて噛み締めて島の中央の頂を睨みつける。
 記憶をひとつ振り返るごとに、郷愁が胸を突く。憎悪の焔が心を焼く。
 貧しくみすぼらしい、惨めな生活だったかもしれない。つまらないほどにちっぽけで、先の見えた人生だったかもしれない。だが、こんな風に理不尽に奪われて良いものだったはずがない。
 親父が冒険者時代に使っていたという剣の重みを確かめながら、一歩ずつ魔物たちが消えた島の中央へと足を進めていく。
 勝てるのかどうかなど、どうでもいい。
 ただ、この刃をやつらに突き立てることができればそれでいい。
 誰も一言も言葉を発しないままに、穏やかに照りつける日差しの下歩き続ける。
「これは……」
 天へと突き立つように急峻な地形の島の中央部。その山腹部分に、洞窟のようにぽっかりと開いた穴を発見して一行は無言で目配せをした。
 その入口付近に生えていた草は踏みしだかれていて、最近出入りした者がいることを告げている。
 ドルースは、ぽっかりと広がる洞窟の奥の暗がりを見据えて剣を鞘から抜き放つ。それにあわせて、背後で各々の武器を構える音が続く。
「行くぞ」
 低い声で、一言告げてドルースは洞窟へと踏み込んでいった。
 そして、洞窟の暗がりを抜けたその先に見たものは異形の《樹》だった。
 くりぬかれたように垂直に広がる穴。その穴にすっぽりと収まって、見たこともない異形の巨木が生えていた。黒くひび割れた樹皮に覆われた幹には、無数の眼球が周囲を埋め込まれていて、それが周囲を見つめている。
 岩壁と幹とを繋いでいる無数の枝には、人の頭ほどの奇妙な果実が無数に実っている。天井のように頭上を覆うのは、病んでいるかのように黒ずんだ葉を茂らせた枝。
 そして、樹の根元には蓋の着いた卵形の奇妙な器官があり、薄く半透明の膜を隔てて中の様子がぼんやりと透けて見える。知る者が見ればウツボカズラの食虫器官を巨大化したようだと評するだろう、その器官の中に詰め込まれているのは村から持ち去られた無数の骸。
 その周囲には、村を襲った魔物たちが体を丸めて身を休めていた。
 剣を握る手に力がこもり、ぎしりと軋む。
 物陰に潜むようにして様子を窺っていたこちらに気づいたのか、丸めていた体を解きほぐすようにして魔物たちが次々に体を起こしていく。
「行くぞ!」
 背後を確認する事無く、剣を振りかざし飛び出す。
 地を蹴りつける足に返る硬い地面の感触。手に伝わる振りかざした剣の重み。粘液に濡れて光る鋭利な牙と触手に縁取られた円形の口を突き出すようにして駆け寄ってくる魔物たちの群れ。
 全てがくっきりと認識できているのに、全てがひどくゆっくりに動いているような奇妙な感覚。
 耳に届く獣の咆哮は何かと思えば、自分の喉の奥から迸る雄叫びだった。背後の仲間たちがあげる闘争の声だった。
 何もかもがゆっくりと動いていく世界の中で、戦闘を突き進む魔物が間合いに入ったと感じた瞬間に振りかざしていた剣を全力で叩きつける。
 刃が肉を打つ鈍く湿った音が響き、返り血がドルースの顔に飛沫となって降りかかる。
 金属が軋むような叫び声を魔物たちが奏でる。
 そこからは乱戦だった。
 剣だけでなく鋤や鎌など、思い思いの武器を手にした仲間たちと魔物たちが血飛沫を撒き散らし、叫び声を上げながらぶつかり合う。
 ドルースも必死に剣を振るい、魔物たちにぶつかっていく。まともに剣を習っているわけでもない、ただがむしゃらに振り回すだけの攻撃。統率を取れた動きを見せる魔物たちと、素人丸出しのドルースたちでは始めから勝負は見えていた。
 とんでもなく長い時間が過ぎたようで、実際には呼吸をいくつかする程度の時間。
 ドルースたちの決死の攻撃も、ただその程度の時間であっさりと制圧をされた。そして始まるのは、凄惨な宴の時間。
「くそっ! 離せ、離せ!」
 地面へと押し倒されて、両肩を押さえる様にしてのしかかる魔物を睨みつけて吼える。
 必死に逃れようと暴れても、がっちりと押さえ込まれていて身動きひとつ取れない。無駄な抵抗を嘲笑うように、ぞろりと生えた牙と触手を揺らめかし、粘性の高い唾液を滴らせて奈落の底へ通じる穴のような暗がりを覗かせて魔物の口がドルースの頭へとゆっくりと寄せられていく。
 生臭く生暖かい口腔へと頭を咥えこまれて、視界が闇に閉ざされる。
 そして、無慈悲に頭蓋に牙が食い込んでくる痛みを感じ――ドルースの意識はふつりと途切れた。


「お兄ちゃん、起きて。起きてよ、お兄ちゃん」
 死んだはずの妹の声が耳元に優しく響く。目覚めてと、ゆさゆさと体が揺さぶられる。
「あ……。え……アドリア?」
 それが妹の声だと気づくと同時に、跳びはねるように起き上がる。見開いた目には、見慣れた妹の驚き呆れたような顔。
 死んだはずの妹の顔を呆然と見つめてるうちに、アドリアが頬を膨らませ不機嫌そうな表情へと変わる。
「もう、お兄ちゃんったら。せっかく、《楽園》に来たのにずっと眠ってるんだから」
 見て見てとばかりに、アドリアが周囲をぐるりと手で指し示す。つられて視線を流せば、穏やかな日差しに照らされてそよ風にそよぐ緑鮮やかな草原が目に映り。自分たちに木陰を落とす樹は甘い香りのする果実を実らせている。
 天を見上げれば雲がゆっくりと風に流れ、鳥の群れが視界をよぎっていく。
 緑豊かで、穏やかで平和な風景がそこには広がっていた。
「いや、しかし。俺たちは、魔物に喰われたはずだ」
「バナールの悪魔。その概念的応用……らしいんだがなぁ。仮想現実といっても理解できんだろしな。わかりやすく言えばここは夢の世界だ」
 不意に背後から響いてきた声に慌てて振り返れば、さっきまで誰もいなかったはずの場所に一人の少年が立っていた。急ぎアドリアを背後に庇うようにして立ちながら、少年を警戒のまなざしで睨みつける。
「この世界が夢の世界とは、どういう意味だ?」
「脳殻の中で培養液に浸ってる脳へと直接感覚入力を行い望む仮想現実を見せているというわけだ。薬物と暗示を併用して、必要とあれば記憶操作や洗脳も行っている……と言っても、理解できてないようだな」
「……俺たちは、死んだんじゃなかったのか」
 少年の口にする言葉は意味がわからず、そんなこちらの様子にどうでも良さそうに肩をすくめる少年に低い声で問いかける。
「その質問に対する回答はノーだ。お前たちを襲った《収穫者》は、脳髄を生きたまま回収している。その他の部分は、この《バナールの樹》の栄養にさせてもらってる」
 少年の言葉とともに、空中に窓が開くように見覚えのある《樹》の姿が映し出される。
「ほら、そこにぶら下がってる脳殻の中に脳みそがあり、あの中でお前たちは夢を見ているわけだ」
 少年が指差す先には、枝からぶら下がる丸い果実。そのなかに自分たちの脳があると言われても実感が湧いてこない。
「これが夢と言うのなら、現実へ返せ。俺たちを解放しろ」
「そうは言っても、既に身体は処分済みだからなぁ……」
 あきらめろと、酷く軽い仕草で少年は肩をすくめる。
「なに、現実でないからこそ現実のしがらみからは解放される。美しい異性を望むだけ侍らして肉欲に溺れるのもいい。スリルに溢れた困難な冒険を楽しむのもいい。あるいは、現実をそのまま再現した夢の中で、現実の続きを暮らすのもいいだろう。望む事を望むだけ続けられるこの世界は《楽園》だぞ」
「違う! 夢は、夢だ。どんなに現実そっくりでも、自分の肌で感じたものじゃない。自分の目で見て、手で触れたものじゃない。ただの幻だ」
「感覚野への直接入力だから、主観的な知覚においては現実との差異はないはずだ。それに、十分な精度の観測データーに基づいて再構成された仮想現実は、現実との差異はなく現実そのものだ。厳密に言えば、演算リソースの節約で省略化している処理はあるが……。主観認識においては、それを知覚することはない」
「わけのわからない事を言って誤魔化すな」
「……これだから、野蛮人は。妹が会いたいと待っていたから、あわせてやったのに」
 嘆くように首を振って漏らす独り言に、馬鹿にされている事を感じてむっとして睨む。
「お兄ちゃん……」
 背後でおろおろとしていたアドリアが、腰元へとすがりついてくる。
「ひとつ訊かせろ。どうして、俺たちの村を襲った」
「即物的な理由で言えば、《樹》を育てる栄養を得るため。他には、個人で見る夢は当人の想像の範囲を超える事がなく、それでは《楽園》は退屈に飲まれてしまう。それを避けるためには、やはり複数の人間を集めるのがいい。共同で同じ夢に沈むのもいいし、他人の無意識領域を利用して個人の夢でも予想を超える展開を出せる。そして、最後に何よりも俺がそうしたいからだ。全人類を《楽園》に取り込み、俺は世界を征服する」
 安心させるようにアドリアへと手を添えながら、殺意すらこめて睨みつけて問うた言葉ににやにやと笑いながら少年は答えを返す。
「現実をお望みなら、記憶を消去・修正して今までと同じ日常を暮らすがいい。妹との暮らしを望むのなら、ともに同じ夢を見ればいい。妹の意見が違うのなら、仮想人格のコピーが一緒に暮らしてくれる。なに、《楽園》の管理者たる俺は住人のいかなる望みでもかなえてみせるさ。納得する必要はない」
 言葉とともに少年は唇の端を吊り上げるようにして、優越感に満ちた嗜虐の笑みを見せる。
「我々はお前たちを同化する。抵抗は無益だ。おとなしく《楽園》の夢に沈め」

 

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現実と区別できない仮想現実に閉じ込められたら、人はその事実に気づけるんでしょうか?



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