11月23日 戦術機シミュレーター ザシュッザシュッザシュッザシュッ 想定されたフィールドは市街地、ビルが遮蔽物となり敵の姿を隠していた。銃を構えた戦術機がビルの陰から飛び出してくる。74式近接戦闘長刀を構え、ジャンプと同時にブースターを吹かし回転運動を加える。コマのように回転しながら片手で持った刀で敵の胴を薙いでいく。「ふっ………!」 軽い衝撃を受けながら着地する。―――接敵[ENGAGE] アラームが鳴る。「後ろかっ…………ラストッ!!」 機体を限界まで沈ませ左の胴から右肩まで斬り上げる。 ザシャアッ!!!「ふう……終わった……でも、一々動作がでかいな……まあこれは経験を積まないとどうにもならないか」 ため息をつきながら額の汗を拭う。シミュレーター内が少し汗臭い気がする。―――動作教習応用課程D終了「動作教習応用課程Dを修了する。白銀、東海林、降りて来い」 プシィ ガシャッ ウィーン 神宮司教官から通信が入る。シートが後ろに下がる、そのまま座席ごと引き出される。「…………ふうっ、長いこと密室にいると息がつまる」 深呼吸をして呟く。「戦術機に限らずどんな乗り物だってそうだろ?」 隣のシミュレーターから出てきたタケルが言う。「ソレが嫌だから俺はバイクに乗ってんの」 肩を叩き『行こう』と言いながら歩き出す。「しかしマサシの戦術機の動きって、こう…………なんて言うのかな、そう! 『気持ち悪い』よな!」「気持ち悪いって……あんまりじゃねぇか? 回転運動しながら死角に移動し続けてるだけなんだけどな……」 タケルの疑問に答える。「死角って、一々そんなこと考えながら動かしてんのか!? だから気持ち悪いんだ……変則すぎて」 信じられないといったような顔をする。「酷い言いようだな、お前の動きもめちゃくちゃなくせに。はあ、説明してやるよ……生き物ってのはな、見ていた物がイキナリ視線から外れたら一瞬混乱するもんなんだよ。だからってBETAに通用するかは疑問だけどな」 このことについては剣道の師である爺さんに感謝した。まさかこんなところで役に立つとは思ってもいなかったのだ。「へえ…………死角かあ、俺もやってみようかな」 『むむむ』と唸りながら歩く。「やってみろやってみろ。試行錯誤して失敗して、そうして自分を鍛え上げていけ」 タケルにアドバイスしておく。これも爺さんの受け売りだが……。「そうだな。 うん、色々やってみるよ」 そうこう言っているうちに、神宮司教官の前に着いた。 ドレッシングルーム ドレッシングルームには207隊のみんな、神宮司教官がいた。「……試しにということで乗せてみたが……白銀、東海林、貴様等は戦術機の操縦経験があるのか?」 腕を組み眉を吊り上げ神宮司教官がタケルに言う。「え? あはは……まさか」「いえ、ありませんが」 背中に冷や汗をかきながら答える。初めてのシミュレーターであそこまでの動きをすればそう考えるのは当然だろう。「ふぅむ……」 神宮司教官が顎にてを当てて唸る。「どうしたんですか?」 タケルが頭に『?』を浮かべながら聞いた。「……昨日の戦術機特性値を見た香月博士が、1度二人を乗せてみろと言い出してな……」「……え?」「ふむ……」「操作も覚えていないのに無理だと言ったんだが……」 俺は昔から"触ってみて分からなくなったら説明書を読む"感じだったからな。でも戦術機は面白い……"リアル"の世界でやっていたゲームに似ている。レバー2本にフットペダル、ここまで同じだ。違うところといったらコインスロットがないということだけだ。「あの……教官、二人はそんなに凄いんですか?」 榊が眉を下げて聞く。「過去の記録では、訓練兵が動作教習応用課程Dをクリアするまでの最短時間は33時間だ。まあ、1日中乗っているわけではないからな……実質5日ほどかかっている計算になる」 5日か…………ふむ1時間程で慣れたんだが。ゲーム慣れした現代人の特性なのか?「二人は2日……いや、正味1日ですかっ!?」 御剣が驚愕の顔をしている。ほかのみんな、慧ですら驚いているようだ。「その通りだ。白銀、東海林両名は歴代最高記録を5分の1に縮めたんだ」「へえ~~~」 鎧衣が俺とタケルを交互に見やる。「もちろん、教習カリキュラムの改善や、シミュレートされる機体の性能向上も、記録更新の大きな要素だろうが……しかしこの二人の乗り方は面白いぞ」「「「「「えっ?」」」」」 ん?なにが面白いのだろう。タケルと目を合う。タケルも同じ事を考えているのだろう。「白銀の方は今までにない機動で敵を翻弄しながら攻撃していく、だが東海林の場合は…………」 ……………。「東海林の場合は、白銀に比べると機動が少々甘いが、常に敵の死角に潜り込んで一撃でしとめている」 さすが神宮司教官良く見ている。――――神宮司教官は榊たちに、俺と、タケルの"特異"な点を上げていっている。「教官っ!!」 タケルが一歩前に出る。「……ん?」「オレたちの操作記録を、みんなに見せるわけにはいきませんか?」「……どういうことだ?」 神宮司教官がタケルに向き直り腰に手を当てた状態で聞く。「教官のお言葉通り、オレたちの技術がそれほど凄いというのなら、それは隊全体で共有すべき財産だとかんがえます」「僭越ながら……俺もタケルと同意見です。俺たちの操縦技術が隊の底上げになるのならば皆に見せるべきです」 タケルと同じ位置まで一歩出て言う。「なるほど……榊はどうだ?」「……そうですね、白銀たちの言うことはもっともだと思います。ただ……」「ただ?」「たとえ操作記録を見ても、そこで得た情報をすぐに自分の操縦に反映できるか……自信がありません」 客観的だな……だけど、この程度のことは榊たちにでもできる。「なるほど、客観的で榊らしい意見だな」 少々主観的になりすぎたみたいだな。「……さて、実は貴様達に知らせておくことがある」「何でしょうか?」「白銀達と全く同じ提案を、昨日してきた人物がいる」 …………アノ人しかいないよな。「誰ですか?」「……香月博士だ」「「……………」」「『白銀は操縦技術に長けているはずだから、それを確認し、事実なら操作記録を全員に開示せよ』とな」 さすが香月女史だ。2歩3歩先の事を見ている。『おほほほほ』と笑う香月女史の顔が容易に思い浮かぶ。「……その根拠は、戦術機適性のみ…………ですか?」 榊が険しい顔をしてタケル、俺を見る。なにか思うところがあるのだろう。「博士は……いわゆる天才だからな。どこからそれを予見したのか……我々には理解できないだろう」「……すごいですね―、預言者みたい」 だが、さすがの香月女史も俺まで適性があるとは思ってもいなかったのだろう。「既に博士の提案に基づき、操縦訓練カリキュラムが大幅に変更されている」 仕事が速い……できる女ってのはカッコいいよな。「まず、本日より貴様達が卒業するまでの間、我が207訓練部隊がシミュレーターを最優先で使用出来ることになった」「え!?」 榊が声を出して驚く。「次に、貴様達専用の練習機が明日搬入されてくる」「明日!?」 これはタケルも予想できなかったのだろう。目を見開いている。「博士は戦術機など車と同じで慣れだと言っていたが……正直、ここまでやるとは私も思わなかった」 たしかに………他の隊から反感を買わなければいいが……。「午前の教習はこれで終わる。解散後、榊は白銀と東海林の操作記録を取りに来い」「はい!」「午後も引き続きシミュレーター教習だ。15時00分、各自衛士強化装備で集合。それまでは記録とマニュアルを参考に、イメージトレーニングをしておけ」「「「「「「「はい!」」」」」」 みんな気合が入っているな……そりゃこのスケジュールじゃ嫌でも気合入るよな。「解散!」「敬礼!」 バッ! 神宮司教官が出て行った……。くくく……ふふふ。「よしゃ―!!! やったぜタケル! みんな!」「おっしゃ―!!」 パンパンパンッ ガシッ バンバン 手を叩き合い、腕を組み背中を叩く。タケルにとってはこれがはっきりと分かる時間の短縮だろう。「ふふふ……そなたたち、まるで子供だな」「あはは―ほんとだね―、タケル、マサシって大きな子供だよ―」 みんな、俺達を見て笑っている。「うっせい! 男は永遠に子供なんだよっ!」―――あはははははははは 11月24日 格納庫「おお――――!!! もう来てるのか―!」 大声を出しながら格納庫に入る。鼻を突く油の匂い。そして、ハンガーには……97式戦術歩行高等練習機"吹雪"が7機……。辺りを見回すと俺とタケル以外のみんなが集まっていた。「いよう、みんな早いな」 片手を挙げみんなに近付く、こちらに気付いたようだ。「おはよ―マサシ―! みてよ実機だよ実機!! ああ―興奮する―!!」 鎧衣が胸の前で手を組み合わせて大声で叫ぶ。「少し落ち着け。戦術機は逃げないって」 苦笑いしながら頭をポンポンと叩く。「う―でも―」 興奮冷めやらぬ、といったところだろう。実を言う俺もかなりドキドキしていた。これは初めて買ったバイクを納車するときに似ている。「あ! たけるさんだ―」 格納庫入り口にはタケルがいた。ただ目の焦点が合ってない。「たけるさん!」 タマの呼ぶ声も聞こえていないようだ。足取りも危なげにこちらに寄ってくる。「た~け~る~さんっ!!」 はっとして顔を上げるタケル。「よう、たま。おまえも気になって来たのか?」「みんなも来てるよ」 タケルの視線に手を挙げて答える。「いよう! 遅かったじゃねえか」 肩をすくめながらタケルに近付いていく。隣に並び小声で。『どうした……? なにかあったか?』『あ……いや別に大した事じゃないよ』 顔をそらしながら答える。心なしか顔が青い。『そうか……なんかあったらすぐ言えよ?』『ああ……ありがとう」 ニカッと笑いながら言う。タケルも笑いなたら答える。「――敬礼!」 いつの間にか神宮司教官が来ていた。やれやれといったような顔をしている。「朝食は済ませたのか? まあ、集合までは好きに見ていてかまわないが」 と言いながらみんなの顔を見渡す。みんな一様に照れているようだ。「でも、今日はまだ乗れないんですよね」 タケルが言う。神宮司教官は腕を組んで戦術機の方を向き。「そうだ。だが、機体整備もコクピットの個人調整も今日中には終わらせてくれるはずだ」 戦術機を見上げる。鈍い鉛色の機体……これが兵器の"存在感"なのだろう。「今日中ですか? 早いですね……」 整備員が戦術機のコクピットまわりの整備をしている。隣のハンガーでは塗装をしている、左肩には"UN"の文字右肩には"06"……どうやらタケルの機体のようだ。「まあな……機体のコンディションは最良だというから、基本整備と再塗装で済むらしい」「え? 破損機を回したり……じゃないんですか?」 タケルがもっともなことをい言う。この言葉をうけ神宮司教官は目頭を揉みながらため息をついた。「はあ……言わずともわかるだろう? こんな事するのは」 神宮司教官の顔に縦線が入った気がした。「香月博士……ですか」 苦笑いをしながらタケルが言う。内心喜んでいるのだろうが。「新造機を要求したが、搬入に30日以上かかると言われて妥協したらしい」 新造機を7機……すごいコストがかかるだろう。「新品へのこだわり……ですかね?」 神宮司教官はさらにため息をつき。「……シートの保護ビニールを破るのが好きらしい」 神宮司教官の頭に"16t"とかかれた錘が落ちたようにみえた。「あ―俺、その気持ち判るかも」 "UN-07"…………俺の機体だ。そっと脚部に触れる。ひんやりとしていてたしかに"ここにある"という事がわかる。「…………へへっ、よろしく頼むぜ。相棒」 そう言いながら軽く叩く。―――軽い音が響く 俺にはそれが"吹雪"からの返事に聞こえた。「さて、私はそろそろ行くが……各自程々にしておけよ。集合には遅れるな」 神宮司教官が笑いながらいう。「―――敬礼!」 神宮司教官は身を翻し出ていった。「……私たちも行きましょうか」 敬礼を解き榊がみんなを見渡しながら言う。―――オーライ、オーライ! そのまま―………ストップ! 固定急げ―丁寧に扱えよ―! なにやら慌しい整備員の声が響く。声が聞こえたほうを見ると数人の整備士がバタバタと駆けずり回っているのが見えた。「なんだ? ……アレは……」 遠目からでも目立つ"紫"の機体。横目で御剣の顔をうかがう。「…………」 困ったような、それでいて諦めているような顔をしている。「武御雷か……」 タケルが呟く。それに過剰に反応する者が1人。「――!!」 御剣だ。目を見開き頬にひと筋の汗。「なんだよ、そんな驚くことじゃねぇだろ?」「…………」「お、おい、怖い顔するなって」「……そなた……知っていたのか……?」 タケルが鼻の頭をかきながらバツの悪そうな顔をして言う。「まあ……人並みには、ね」 今俺は"武御雷"の前にいた。――帝国軍城内省 斯衛軍専用戦術機 武御雷 紫をベースに所々に赤のマーキング。古より紫は『最も高貴な色』とされている。なるほど"将軍専用機"というのも頷ける。 全体的に"不知火"と似ている……違う点といえば胸の一部、腕部、肩、そして頭部……1本の角が天を突き、顔は獲物を威嚇するかのようだ。―――うわぁ~武御雷だ―! タマの声が聞こえる。俺は武御雷の前部にむかって歩き出した。 武御雷の前部には、タケル、御剣、タマそして……真那さんと3バカ……もとい、神代 巽、戎 美凪、巴 雪乃がいた。"コッチ"の3人はキリッとしてかっこいいが違和感がある。「私はかねてより、冥夜様がこのような場所におられることは、承伏しかねると申し上げて参りました……」 真那さんが悲しそうな顔をしながら言う。「私の意思だ」 目を瞑り静かに言う。「しかし……冥夜様がここにいらっしゃる必要は……」(本当に御剣の事を考えているんだな……【オルタ】のように冥夜が死んだら、いや……考えたくもない。) ブンブンと顔を振りその思いをふりはらう。(よし! 行くか)「しかし……冥夜様がここにいらっしゃる必要は……」 そっと真那さんの背後に忍び寄る。「それ以上を口にすることは許さぬぞ…………ん?」「…………」 御剣とタケルは俺に気付いたみたいだ。真那さんのすぐ後ろに立ち。「は……出過ぎた真似をいたしまし『つぅ―――』たあああああ――――!!!????」 うなじを指でなぞって差し上げた。いや……だって色っぽかったし……。「ななななな……なにものかっ!!!」 うなじを押さえ顔を真っ赤にしながら真那さんが振り返る。「やっ……お久しぶりです。真那さん」 右手を『おい―っす』と挙げ、挨拶をする。もちろん笑顔を忘れない。「貴様はっ!」 真那さんがこちらを睨んでくる。御剣、タケル、3バカは『ポカーン』としている。「貴様は東海林 将司!!! 何故ここにいる!」 どうやら混乱して考えが纏まっていないようだ、また真那さんの可愛いところを発見してしまった。「いや……俺、207隊だし……なあ?」 御剣とタケルに同意を求める。「「あ…ああ」」 真那さんはハッとし、更に顔を赤く染める。微かに涙目のようなきがする。「くっ……はっ! 名前で呼ぶ事を許した覚えは無いぞ!!!」 今頃気付いたらしい。「え―――、いいじゃないですか。減るモンじ「私の精神が磨り減ると言っただろう!!」え――」 どうしても名前で呼ぶのはダメらしい。「そもそもお前と話す言葉は持ち合わせておら「わかりました!」む……そうか、わかったなら」 吊り上げた眉を下げて真那さんは言う。「それじゃあ"マナマナ"って呼びますねっ!」――――………………………… あたりが静まり返る。なかなかに『爆弾』だったようだ。「………………………」 真那さんは完全にフリーズし。「「ぷっくくくくく…………」」 タケルと御剣は笑いを堪え。「「「…………ゎぁ――――」」」 3バカは俺の事をまるで『ヒーローショー』を観に来た子供のような顔で見ている。なぜだ。「…………マナマ『ドゴスッ』ケパッ」 ずさぁっ! ピクッピクッピク―――薄れ行く意識の中で俺は……「………………」 タッタッタッタッタッタッタッ「あっ! 真那様お待ちください!」「待ってください―!」「…………真那様に"マナマナ"なんて……"もののふ"だな」 タタタタタタタタタタタタタタ「おいっ! マサシ! 大丈夫か! お……ぃ、だ……ぶ…か!しっ……………」 だけど…………真那さんのあの顔を間近で見れた俺は……勝ち……ぐ…………み。 続く (´・ω・`)マナマナ様分補充中のかんとりーろーどです!やっと戦術機が届きました!将司のナンバーは07です。 こちらの世界の3バカも『心の奥では悪戯がしたい』だろうということでこういうキャラにしました。というかシリアスなシーンをぶち壊す将司ある意味"もののふ"さて次回は、タケル発案の新OS"XM3"の登場そして、たまパパ登場、更にマナマナさまフラグが"また"立ちます!お楽しみを!それでは、ばいちゃ~フレイムオン! 三(´+ω+))