11月29日 格納庫 今俺は、自分の吹雪の前で土蜘蛛のコントローラーの調整をしていた。コントローラーと言っても簡単な命令"攻撃と警戒"しかないが……このコントローラーは強化服の左椀部に組み込まれていて、手首から肘までの大きさだ。操作はタッチパネル式になっており情報はヘッドセットを経由して網膜投影される。「搭載弾薬100% バッテリー98% 油圧、冷却水温度OKっと……アイドリング状態では問題は無いか……」 投影される情報を読み取っていく。一定時間コントローラーを操作しなければ土蜘蛛のデータは縮小表示され、投影された映像の左下に表示される。「次はっと……」 デッキに上り吹雪のコックピットに向かう。「よいっしょっ……と」 吹雪のコックピットに入りシートに座る。左レバー上部に昨日までなかったジョグダイヤルが付けられていた。ダイヤルを上下に動かしてみる。網膜に投影された土蜘蛛のモードが"索敵・攻撃・索敵……"と切り替わりダイヤルを押し込むと決定される。「ジョグダイヤルか……携帯みたいだな……」 左親指を見ながら苦笑してしまう。この世界に来てまだ1月しか経ってないはずなのだが、もう何年もいるかのように思えてくる。それだけ濃い内容なのだろう。「は―……本当なら元の世界にもどりて―! とか言うんだろうけど……俺って薄情なヤツだったんだなあ」 普通の人間がこんな世界に来たらどんな事を思うだろう……。タケルみたいに認めないのだろうか……。「まあ……俺には助けたい連中もいるし…真那さんもいるし」 昨日の事は、まだ信じられないがどうやら真那さんは、俺の事を認めてくれているらしい。「自分も死なない程度に連中も助けてハッピーエンドってところかな……」「あら……頼もしいわね」 シートの後ろ……デッキから声がした。首を捻り声の主を確認する。「調子はどう? 今日は勝てそうかしら?」 香月女史だった。いつもの制服の上に白衣を着てコックピットを覗いている。「ははは……勝たないと"糞虫"決定ですからね……勝ちに行きますよ」 そう、今日勝たなければ"糞虫"のレッテルを貼られてしまうのだ。「あゆも無茶苦茶言うわよねえ……まあ白銀達とアンタ……どこまでやれるか楽しみだわ」 含みのある笑みを此方に向けながら香月女史は言う。俺の吹雪には試作型のXM3が搭載されている。XM3と土蜘蛛を使いどこまでいけるか……それが俺の課題だった。「俺の吹雪にXM3が搭載されているのは秘密なんですよね?」 視線を土蜘蛛のコントローラーに移し調整をしながら聞く。「そうね……そっちのほうが面白そうだし……ふ、ふぁあぁ……っと、失礼。そのほうが土蜘蛛の性能を試せるでしょ?」 目じりに涙を浮かばせながら言う。「寝てないんですか?」 コックピットから這い出し、香月女史の隣に並びながら言う。「ああ、ちょっと例のアレがね……行き詰ってて、まあ……白銀の協力でどうにかなりそうなんだけど」 デッキの方へ歩きながら話す。どうやらオルタネイティブ4が行き詰まっているらしい。「そうですか……無茶してもいいですけど無理はしないでくださいよ?」 苦笑いしながら言うと香月女史はキョトンとし……「そんな言葉久しぶりに聞いたわ……大丈夫よ天才に不可能は無いわ。あんたこそ今日は無理も無茶もして勝ちなさいよ」 背中を叩きながら言う。「了解ですよ……そんじゃ俺は行きますね」「はいはい」 香月女史はゆらゆらと手を振って言う。 ドレッシングルーム「…………ぷはぁっ……ふう」 喉を鳴らしながら水分補給をする。部屋の端に据付られたベンチに座り天井を見る。(今日は白銀、榊、彩峰と戦かわないといけない……白銀はもとより、彼女達は犬猿の仲の癖に驚かせる連携をしてくる……どう対処しようか……) まだXM3に慣れていない俺は目を瞑りながら戦略を練る。榊、彩峰はXM3に慣れていないだろう……まずは2人のどちらかを沈めて…………「東海林、今大丈夫か?」 意識が表に引き戻された。この凛として通る声は…………。「あっ……真那さん」 真那さんだった。穏やかな笑みを見せながら俺に近付いてくる。そして俺の隣に座る。「今日の演習、調子はどうだ?」 恐らく御剣のスケジュールを確認したのだろう。「う―んそうですね……ちょっと厳しいですけど勝ちに行くつもりです」 頬を掻きながら言う。真那さんは満足したような顔をし。「そうか……東海林、お前ほどの者ならば勝つことも難しくはないだろう。ゆめゆめ油断しないことだ」 そう言いながら出口の方へ歩いていく。わざわざ応援に来てくれたのだろうか。「真那さん……ありがとうございます! 俺、がんばります! 観てて下さい!」 立ち上がりながら真那さんに言う。「…………礼を言うのはこちらだ……そんなこと言われなくてもいつでも観ている」「え?」 小声で何かを言いながら部屋から出て行く。「……がんばらないとな」 そろそろ集合の時間だ……格納庫に向かおう。 格納庫:デッキ デッキに向かう途中に榊たちと合流し、中に入る。「小隊集合ッ!―――敬礼!」 榊の号令のもと香月女史と神宮司教官に向かって敬礼をする。「はいおはよ―……まりも、頼むわね?」 香月女史は足早に出て行ってしまった。「え……あ、ちょっと! 博士っ!? ……んもうっ!!」 神宮司教官がハッとして香月女史の方に手を伸ばすが、既に香月女史はそこにいなかった。ため息をつきタケルの方を見やり。「……白銀」「じょ……上位命令には逆らえないのでありますッ!」 ビシィッと敬礼をし、どもりながら答えるタケル。「……わかってるわよ」 そのタケルを半眼で見、やれやれといった様子で言った。「「「「「……???」」」」」 他の5人は何が何だかわからない様子だった。 土蜘蛛整備トレーラー 土蜘蛛整備トレーラー、もともと戦術機搬送用として使われていたトレーラーを急遽改造したものだ。トレーラーのドアを開け中に入る。「失礼します」 そこには数人の整備士に激を飛ばしている大空寺博士の姿があった。「おらー! きりきり作業せんかい! レンチで頭かち割るぞ!」 モンキーレンチを振り回しながら『うがああああ!』と叫んでいる。整備士はたまったもんじゃないだろう。「大空寺博士……どうも、今日はよろしくお願いします」 博士に近付きながら挨拶をする。博士は此方に気付き。「おそい!」 もう無茶苦茶だ。「は……はあ、すみません」 博士はお菓子を摘みながら……「土蜘蛛の装備の説明をしてやるから耳をかっぽじって聞きな! 今回の追加装備は煙幕とチャフを装備させてるさ、ただこれは格3発ずつしか装備してないから使うところを考えて使えよ」 煙幕とチャフか……。「あとレールガンで模擬弾を発射することができんから、銃身にレーザーポインターを装備させた、これが当たれば弾が命中したと判断される……レールガンの弾速を避けたり、貫通力に抵抗できんだろうからこれでいくのさ」 バリボリとスナックを食べながら言う。「了解です。ん…………終わったようですね」 トレーラーに移る外の映像には3機の吹雪が模擬弾でオレンジ色に染まっていた。「それじゃっ! 俺いきますね」 頭を下げて出口に向かう。「勝たんと"糞虫"だかんな―!」 背中に激励?を受けながら俺は外にでた。 外に出てみると御剣たちがタケルになにか問い詰めていた。「どうしたーお前らー」 ゆっくり歩きながら近付いていく。タケルが俺に気付いたようで此方に歩いてくる。「マサシ! みたか!? 新OSの力すごいだろう!」 興奮冷めやらぬ顔で嬉しそうに聞いてくる。「ああ、御剣たちの班に勝つなんてなあ……恐れ入ったよ」 だろ?と言わんばかりのタケルを制しながら榊たちに近付いていく。「よう! 榊、彩峰おめでとう」「ありがとう」「…………ありがと」 照れ隠しなのか二人は俺の方を向かずに返事をする。「でも、勝てたのは白銀の考案したOSの力なのよね……」 榊が微妙に納得ができないという顔をしている。「でもよ……それを使いこなしたお前らの力をもうちょっと誇ってもいいんじゃないのか?」 初めて使うOSで御剣班に勝ったのだ。少しくらい誇ってもいいだろう。「…………」 まだ考え事をしているようだ。この手のことは自分が納得いかないとどうしようもないからな。「そういえば気になってたんだけど……マサシの左手の……何?」 鎧衣が俺の左手を刺しながら言う。他のみんなも気になっていたようだコントローラーを凝視している。「ん? これか? 後でのお楽しみだ」 笑いながら言う。「えっ……はい、わかりました。榊、彩峰、白銀、東海林の4名は15分以内に吹雪に搭乗。追って指示があるまで待機せよ!」 神宮司教官が3人に言う。もうそんな時間か……。「「「「――了解!」」」」 敬礼をし、デッキに駆けていく。 格納庫:デッキ 吹雪のコックピットに滑り込み機体を起動させていく。網膜に外の風景が投影され機体がアイドリング状態になる。フットペダルを踏み込み吹雪を前進させる。軽い振動が体に響く。『やっほ―東海林、白銀、榊、彩峰、聞こえる―?』 香月女史からの通信だ。『今からアンタたちには3対2で戦ってもらうわ―さっきの榊たちの班と東海林ね』 榊たちは驚いた顔をし……『せ、先生! 俺たち4人以外は吹雪に搭乗していませんけど……3対2ってどういうことです?』 タケルの言葉は最もだ。恐らく御剣たちは外で待機しているのだろう。『ま……あとでのお楽しみってことで、じゃ通信終わり』 ブツンと一方的に通信を切る香月女史。「さーてと……いっちょやってみますか!」 演習場「…………」 今俺は廃墟の一角に隠れている。土蜘蛛は俺から20mはなれたところで索敵モードで待機中だ。土蜘蛛から送られてくる戦術地図には赤い光点が三つ点滅している。徐々に此方に近付いてきているということは場所がばれているということなのだろう。「…………1機、孤立しているな……どうせ囮だろうが……おいしく頂いちまうか」 土蜘蛛を攻撃モードに切り替え特殊兵装:チャフを孤立した1機に向かって発射させる。発射と同時にブースターを吹かし廃墟から出る。チャフの効果だろう孤立した1機のいた場所に近付くにつれ、こちらの戦術地図にもノイズが走り、土蜘蛛の状態も自律状態へシフトする。「いたっ!」 敵吹雪はチャフが散布された区域から逃げようとしていた。こちらに気付いたのだろう87式36mm突撃機関砲の銃口を此方に向ける。俺は更にブースターを吹かし低空飛行をしながらフルオートで機関砲を撃つ。「だりゃああああああ!!!!!」 弾は吸い込まれるように敵の左肩に命中した。胴体を狙ったのにだ…………。敵吹雪は体勢を立て直しつつある。急いでブーストを逆噴射し隠れる場所を探す。「ちいっ、これだから銃は嫌いなんだよっ!」 敵吹雪は此方に向かって機関砲を撃ってきた。それを廃墟の影に入ることでやり過ごす。模擬弾がコンクリート壁に当たり塗料を撒き散らす。「くそっ!!」 [データリンク接続] 土蜘蛛の制御が戻った。レールガンを敵吹雪にロックする。土蜘蛛から放たれたレーザーポインターの赤い点が吹雪の胴、コックピットに照射される。「判断が遅い! まだまだ学習が足りんかっ!」『彩峰機、コックピットに被弾 致命的損傷、機能停止!』 神宮司教官からの通信だ。「よしっ! 次は……」 機体の出力を上げて一気に加速する。土蜘蛛はその多脚ローラーホイールの性能を発揮し追従してくる。「2機同時か…………やれるかっ!」 目の前100mほどの廃墟から1機飛び出しながら機関砲を撃ってくる。その砲撃を回転しながら避け、着地と同時に機関砲を撃つ。今度は土蜘蛛の援護付きだ。「がああああ!!! 当たんねえ! ならばっ」 フルオートで土蜘蛛の射線軸に誘導していく。廃莢の音と共に模擬弾が飛んでいく。敵は俺の弾が当たらないと思ってか上空に飛び上がる。そこへ土蜘蛛からの砲撃。『榊機、動力部に被弾 致命的損傷、機能停止!」 土蜘蛛はいまだに判断が遅い。だが命中率は戦術機と段違いだ。「今のが榊……となると……」 その瞬間背中に悪寒が走る。その感覚を信じ横にフルブーストで突っ込む。俺のいた場所へ大量の模擬弾が吸い込まれていく。「タケルかっ!」 他の2機とは比べ物にならない機動をしながら此方へ突っ込んでくる。反撃の隙を与えてくれない。さすが3年分の技術を持っているってところか。「くぅっ…………ならばっ」 土蜘蛛兵装を煙幕弾に変更し、俺は74式近接戦闘長刀を装備する。土蜘蛛からタケルに向かって煙幕弾が発射される。突然の煙幕にタケルは戸惑うだろう。その間も土蜘蛛はタケルへの砲撃を止めない。だがロックしたとしても次の瞬間無理のある機動をし土蜘蛛の攻撃を避けていく。かする程度しか結果を出さないのだ。「おらあぁあっ!!」 煙幕を掻き分けながらフルブーストでタケルに近付き刀を突き立てる。だが刀はタケルの右肩をかするだけだった。どうやら機体を捻って避けたようだ。「なんとー!!!」 タケルはそれだけに止まらず俺に機関砲を向けてきた。この近距離でだ。 普通ならば避けきれないだろうが俺は機体を回転させながら射線軸から逃れる。そのまま側面に回りこみながら剣撃を放つ。「くらえっ!」 俺の放った剣撃は機関砲の銃身で受け止められる。「そんなんありかよっ!!!」 刀と銃で鍔迫り合いをするなんて思わなかった。だが、俺にはまだ攻撃の手段がある。 タケルの背後に土蜘蛛からの砲撃が連続で加えられる。 「よっしゃああああ『白銀、東海林機、コックピットに被弾。致命的損傷、大破!』ああぁぁあぁ!?」 俺?俺も大破!?「ちょっと!!! なんでですか!!!! 俺の勝ちでしょう!?」 そうだ攻撃を加えたのは俺の土蜘蛛なのだ。『…………そのことなのだが東海林、おま……あちょっと、香月博士っ!!…………うっさいわね―、東海林……あんた土蜘蛛に装備された基本兵装なんだか覚えてる?』 基本兵装って…………あっ。『そう、土蜘蛛の基本兵装は【レールガン】よ?それを連射なんてしたら戦術機くらい簡単に貫くわよ……』 んなぁっ!!!!「でも今回の演習じゃレーザーポインターのはずでしょう!?」 そう今回はレーザーポインターを使用したはずなのだ。『あんたね……わざわざ設定を変えてまで演習はしないわよ……たとえ使われたのがレーザーポインターでも"レールガンを使用した時の威力計算"に変換するに決まってるでしょう』「…………てことは……」『そう、あんたたちの負け、まあ言うなれば……土蜘蛛の一人勝ち?』「ぐっは―――――!!!!!」『ああ、東海林……あゆから何か言う事があるそうよ。』『ごらああああああああああ!!!!! 東海林ぃぃぃいい!!!! お前なに醜態さらしとんじゃ―!!』「んげえっ!!!!!」 鬼のような顔がどアップで映し出される。『お前はアンだけ説明させといて全っ然理解しとらんようだなあ! お前なんか"糞虫"決定じゃい!』 ああ……俺は……なんて……うう。 目から汗が流れる。その汗でぼやけた視線の先には、悠然と立った土蜘蛛の姿があった。「くそう……俺がなにしたってんだよお……」 追記:後日将司が糞虫と3バカに言われ更に凹み、それをみた真那がそっと慰める姿が基地内でみられた。 続く (´・ω・`)……戦闘描写って難しいね……かんとりーろーどです! 結局のところ将司には糞虫になってもらいました、孝之とは違った"ヘタレ"具合です。 でも真那さんに慰めてもらって元気一杯の将司君でありましたとさ……チャンチャン 次回、ついに大人気の鎧衣課長がでます!そしてタケルのアッチの世界への干渉……てか……クーデターの戦闘描写自信が無い……ドウシヨウ お楽しみに!!!