11月30日 格納庫 俺は今、香月女史と大空寺博士と共に土蜘蛛の前にいた。昨日の演習で気付いた点を話すためだ。「ええ、土蜘蛛の経験不足が顕著にでましたね。なかなか思ったとおりに動いてくれなくて……」 昨日が土蜘蛛の初演習だったので経験不足なのは仕方ないのだが、実戦ではそうも言ってられない。「そうね、やっぱりシュミレーターでの経験は実戦じゃ役に立たないってことなのね」 香月女史は右手人差し指を口に当てて考えている。たしかにシミュレータはあくまでもデータ、実際に起こるアクシデントや状況の変化まで経験できなかったみたいだ。「それと、武装面では近接武装が無いのが痛いですね。」 スペックを聞いた時点で気になっていたのだが土蜘蛛には、近接武装が装備されていない。これではBETAが接近してきたら一瞬のうちにスクラップになってしまう。 レールガンについては……あんな貫通力のある兵装は乱戦じゃ使えない。「うーん、近接武装に関しては色々案があるのさ。もうちょっとだけまってくれぃ」 大空寺博士が頭を掻きながら言う。「ついでに言うとですね……土蜘蛛に飛行能力を追加できませんか」 土蜘蛛は市街地などではその"多脚"でかなりの機動をみせるが高低差の激しい場所や、木の乱立している場所などでは役に立たなくなる……それが俺の見解だ。「ちっ……あたしとした事がそんな問題をみのがしていたなんて……盲点だわね。というか東海林が先に気付いたってのがムカつく……」 えらい無茶苦茶な事言ってらっしゃる。「…………はあ、それと……これは注文というか、提案なんですが……」 博士が睨みつけてくるがこの際無視だ。後が怖いが、おそらく大丈夫だろう。「土蜘蛛にAIというか人格みたいな物を付与することはできませんかね? 戦闘中では手動でモード切替するのは難しいので音声認識とかしてくれると助かるんですが……」 そう、戦術機で高機動している最中はどうしても土蜘蛛の操作まで手が回らないのだ。「人格の付与ねぇ……出来なくも無いけど……その分大変よ? なにせ成長していくにつれて個性という物がでてくるんだから」 香月女史が言うにはオルタネイティブ4の一環として作ったニューロチップが存在するらしいのだ。ただ大きさの問題がありお蔵入りしたらしい。「チップ事態は……というか装置自体はこの基地にあるわ。この装置の大きさが……そうねえバレーボールくらいの大きさかしらね」 バレーボール大で、その知能は、人間で言う14~18歳くらいまでしか成長を見込めないらしい。「いえ! 自律行動や状況判断の速度を上げる方が優先ですよ! 実戦じゃ経験不足というのは負ける理由にはならないでしょう!?」 身振り手振りで説得する。初めは乗り気ではなかった香月女史だが最後には首を縦に振ってくれた。「わかったわ……それじゃあAIの育成は「あたしがやる……あにさ……なんかもんだいでもあるんかい?」……はあ……分かったわ、あんたに任せるわよ」 大空寺博士は嬉々として格納庫から出て行った。香月女史はため息をつきながら手を額に当てる。「……よかったんですか?」 大空寺博士に子育て(AI育成)を任せたら大変な事になりそうだが……「あゆはああ見えても天才なんだから……大丈夫でしょ…………たぶん」 心配だ…………。「そうそう、少しの間白銀借りるから」「第4計画の要……ですか?」 空気が張り詰める。「そうよ……あんたはこれから起こる事を知っているんでしょうけど……口出しはしないで」 そう……俺が口出しをして更に"世界が分岐"したら先が読めなくなる。「わかってますよ……ただ……ただ、近い将来に1回だけ……口出しさせていただきます」 香月女史の眼を見つめながら強く言う。「わかったわ……」 俺達は沈黙の中、土蜘蛛を見上げていた。 食堂 あの後一通りに打ち合わせを終わらせた俺は食堂に来ていた。辺りを見渡しタケル達を探す。みつけた……「ようっ! どうした―何沈んでんだよ?」 そう言いながらタマの鎧衣の隣に座る。「「「「「…………」」」」」 5人ともだんまりだ。おそらくタケルとやらかしたんだろう。「なにか言わないとわからんぞ?」「…………白銀が」 慧が言う。どうやら当たりのようだ。「はは~ん……タケルを爆発させたんだな……」「「…………」」 榊と慧がうつむく。どうやら相当こたえたらしい。タマは涙を浮かばせながら慌てている。「まあ……原因はあえて聞かないが…………。そんなに気に病む事は無いさ」 みんな此方をみる。その顔には困惑の色が浮かんでいる。「タケルもストレスを感じているんだろうよ」 タケルは世界を救おうと動いている……自信にかかるプレッシャーはかなりのものだろう。それでも初めのころよりは幾分か軽くなっただろうが。「白銀が……ストレス?」 榊が信じられないといった顔をしながら呟く。「タケルだってストレスくらい感じるさ…………身体能力、知識、戦術機操縦のセンス、それらがいくら高くたって俺に言わせればタダのガキだからな」 みんな呆けた顔をしている。俺はそれを見ながら声を上げて笑う。「ははは……お前ら酷い顔してるな。更に言えばお前らだってまだガキなんだ、だからよ……もっと、こう話し合って、協力し合って友情を深め合ってだな…………なんて言えばいいかな……自分のボキャブラリの少なさが恨めしいよまったく」 少し困った顔をしながら言う。みんなの顔にも少しずつだが笑みが戻ってきた。「そうそう、人間ニッコリ笑って生きていかなきゃな。…………さてと、お前らにちょーっと協力してもらいたい事があるんだがよ」 最近生やしているアゴヒゲを摩りながらニヤリとする。「「「「「ん?」」」」」 大空寺研究所「大空寺博士―」 ドアをノックしながら格納庫に入る。「ほら、お前らもコッチ来い」 御剣、榊、鎧衣、タマ、彩峰の5人を連れて中に入る。「あ―? なんだ東海林か……なんのようさ?」 博士はデスクの上に足を乗せ、スナック菓子を貪っていた。「はあ……ほら、さっき話してた"土蜘蛛の経験"についてですよ」 土蜘蛛は今現在7機存在している。これからもっと増える予定だが今のところはこれでいいらしい。「ああ~、さっそく演習するんか? んじゃこっち来いや」 博士は格納庫の奥に歩いていった。「東海林、土蜘蛛とはなんだ?」 御剣が聞いてくる。「ああ、昨日演習で俺に随伴していたロボットがいただろ? アレのことだ。お前らに説明する間もなく香月女史や博士に拉致されたからな……」 説明しながら歩く。「んじゃ……ちょっと遅いが、お披露目といきますか? 博士お願いします」「ん……」 博士が手に持った端末を操作すると目の前のシャッターが静かに上昇していく。「…………こ、これは」 榊が驚愕の声を上げる。他のみんなも眼を見開いている。「これが、戦術機支援構想第一案。戦術機随伴高機動戦車"土蜘蛛"だ」 目の前には、薄いグレーをベースに青い文字でUN、そして207B-01~07とマーキングされた土蜘蛛が揃っていた。「うわ―! マサシ近くでみてもいいよね?」 鎧衣が眼をキラキラさせて言う。新しいおもちゃを与えられた子供のようだ。「ああ、それぞれお前らの"バディ"になる機体だ……みてこい」 バディ……"常に二人が組になって、互いに助け合いながら行動し、事故を防ぐ"まさに土蜘蛛と衛士の関係だ。「博士……彼女達にスペックの説明をしてくれませんか?」 スナック菓子を片手に端末を弄っている博士に言う。「ああ? なんであたしがそんなメンドクサイことを…………と言いたい所だけど……今日だけは特別にしてやるさ。感謝しろ」 彼女達は博士の説明を聞いている。「さてと……俺の土蜘蛛は~っと」 そういいながら07とマーキングされた期待に近付いていく。装甲に手を当てながら外部端末を引き出そうとする。『あはははは……くすぐったいです~』 そんな声が聞こえすっころぶ。「んなっ!? えっ……どなたですのん!?」 なにやら意味の分からない事を口走ってしまった。『あ……あ……かたじけないっ! 拙者のせいで東海林殿にお怪我を!!!』 侍……侍だ……「は……はかせー!!!!」 博士と説明を聞いているみんなが此方をむく。「なんじゃい! すこし黙っ「なんすかこれ―!!」ああん?」 半眼で此方を見やりながら博士と、なにが起こったのかわからないといった皆が歩いてきた。「こ……これ、俺の土蜘蛛を触ったら……急に!」 土蜘蛛を指差しながら言う。『俺のだなんて……』 土蜘蛛がイヤンイヤンと機体を左右に振る。「「「「「なっ!!!」」」」」 みんなも驚愕している。「ああ、さっき話してたAIさ、1つプロトタイプがあったからお前の機体に搭載したのさ」 そういいながら端末を開く。「そんじゃ、端末みとけ―」 そういいながら土蜘蛛07号機の情報を呼び出していく。それを覗く俺達、ちゃっかり土蜘蛛も乗り出すように覗いている。案外器用みたいだ。「まずこの機体には―新型のニューロチップが組み込まれている。まあ、順次他の機体にも搭載していくから安心しろや」 安心……なにをもって安心とな?「このニューロチップを搭載したために、土蜘蛛は殆ど自律制御に変更されるのさ。すなわち経験を積めば積むほどお前らの"して欲しい行動"を取るようになるのさ」 つまり昨日のようにはならないと言う事だな。「ああ、お前らにこれを渡しておく」 そう言いながら博士は、PDAに良く似た端末を渡していく。「この端末はお前らの土蜘蛛と直結しているのさ。この端末でAIとコミュニケーションを取ってお前らに合った機体に仕上げていけばいいさ」 続いて簡単な説明をしていく博士。その内容を確認しながら彼女達は端末を操作していく。「仕上げるって……博士、なんか俺のAI完成しちゃってるって言うか……」「あきらめろ」 即返答してくる。『将司殿は拙者ではご不満かっ!!? ならば腹をかっさばいて……』 ホント器用に自分の腹に脚を当てる。 「わ―!!! やめい! 不満じゃねーよ!」 手を振りながら言う。『まことかっ!』「まことじゃっ!」 親指を天に突き上げながらニカッと笑う。自棄になっている自分がいる。『びえ~ん、うれしいです~』 イキナリ泣き出した。「ちょっ! だれか…………」 博士は既にここには居らず、他の皆は自分の機体に夢中なようだ。『"まゆ"は"まゆ"は………・・・びえ~ん』「ああっ! もう泣き止んでくれー!!!」 兵舎:自室前 あの後、まゆ――俺の土蜘蛛のAIの名前――を泣き止ませるタメに3時間かかった。「あ"~~~ぁ、疲れた……」 まさか、もうAIが組み込まれるとは思ってもいなかった……。他のみんなのAIはこれから数日を掛けてバディの性格を判断しながら口調や思考回路を構築していくらしい。「まあ……まゆのアレも味だとおもえば……」 タケルの端末と説明は御剣と榊がしてくれるらしい。説明等はあいつらに任せた方がいいだろう。 そうこうしながら俺は自室の前まで来た。扉を開き中に入る。 部屋に入って電気をつけ、据え付けられている蛇口で顔を洗い、顔を上げる。そこで鏡越しに……。「ふう――………・・・おわああああああああ!!!ムグッ……」 グレーの帽子にグレーの上着を身に着けた中年の男が立っていた。「驚かせてすまないね。どうか叫ばないで欲しい」 俺は鏡越しに彼の眼を見つめながら頷く。「…………ぱっはあ~……げほっ……で? アンタはどちらさん?」 なんとも言えない雰囲気をかもし出しているこの男性は……。「私は絶妙に妖しい者だ」 …………キタ「ちなみにその絶妙さは……例えるなら……」 乗ってみるのも面白そうだな……。俺はアゴヒゲを摩りながら尋ねる。「例えるなら………・・・?」「そう……例えるなら……」 なかなか前にすすまない。「………………ネタは固まって披露しましょうよ」 ぼそっと呟く。「…………私の名前は"鎧衣 左近"帝国情報省外務二課に所属している」 …………………「いや……聞いてませんよ」「…………おもしろい男だな君は」「「わははははははははははは」」 ひとしきり笑いあい、聞いてみる。「んで……その鎧衣さんが俺に何の用で?」 彼は、ベッドに腰掛けながら。「そうだな…………月詠中尉の信頼を得たという男に会いにきたんだよ」「ははは……情報省ってそんなことまで調べないといけないんですか? で実際俺に会ってみてどう感じました?」 どうせこの人のことだ裏がある。「いやはや、本当におもしろい男だね……どこのデータベースにも存在しない男がいるなんて」 そう言いながら、今までに無いほど真剣な目で俺を見つめる。「存在しない男が何を成すか、それに大変興味があってね。どうだろう、私に聞かせてくれないかね」 俺が何を成すか…………か。「そんなことが聞きたいんですか……まあ、大した事をしようとは思ってないですよ」 イスに座りながら言う。「俺はただ、惚れた女と仲間達と共に、昨日を心に刻み、今日を精一杯生きて、明日を夢見て……そして大往生を遂げる……そのついでにBETAを倒してみようかな―なんて思ってるだけですよ」 鎧衣課長は一瞬驚いた顔をし、そして微笑みながら。「本当に……本当に君はおもしろい男だ」 鎧衣課長は立ち上がる。「そろそろお邪魔させてもらうよ。ああ……そうだ、もし国連軍をクビになったら帝国軍に来なさい歓迎するよ」 そう言いながら名刺を渡してくる。「ははは……どうも。惚れた女と同じ職場ってのも憧れますが、まだまだここですることがありますから」 名刺をポケットに収めながら言う。「ふむ、それは残念だ。またの機会に会おう、東海林 将司君」 上着を払いながら部屋の外へと出て行く。「ええ、俺も楽しみにしてますよ」 扉が閉まる。この部屋には俺一人が残された。「はあ…………しんど……」 鎧衣課長といると中々疲れる。会話のペースを持っていかれるからだ。「情報省にいるとあんなスキルが身に付くのかねえ」 支給されたPDA一式をデスクの上に広げ充電器をコンセントに接続する。「まゆは睡眠中か……てか寝るの早いな……」 PDAを充電器に接続してデスクの上に置く。「ふう…………もうすぐクーデター勃発か……」 そうクーデターの勃発が12月5日……あと幾日しかない。「それまでにどうにか土蜘蛛を仕上げないとな……」 土蜘蛛の改良案を考えながら俺は眠りに付いた。追記:今日1日将司が顔を見せなかったため、月詠真那中尉の機嫌がいつもより悪かったらしい。 続く (´・ω・`)どうも~ なんか……ポーションって微妙な味ですね…… かんとりーろーどです!! 今回、感想で寄せられた提案の"土蜘蛛に人格"と言う案を実行いたしました。 どうですか!まゆまゆ登場ですよ! だれもこんな展開予想しなかったに違いない! グハハハハハハ あと鎧衣課長……喋り方がつかめない……ムズカシ! 次回! タケルは現在アッチの世界にシフト中、その間に他の仲間達と親睦を深める将司! ちょっと飛ばして一気にクーデターに持っていけるようにがんばります!! (´・ω・)ノシ では、ばいちゃ~!