筑前国休松城。
策略を用いて秋月勢を城に追い込んだ大友軍は、敵将秋月種実が立てこもる本丸に猛攻を加えた。
この時、休松城の秋月勢はおおよそ二千五百ほど。度重なる城攻めで大きく数を減らしていたが、それでもなお大友軍の二千よりはるかにまさる。数の上では互角以上の戦いが可能であるはずだった。
だが、秋月勢は城内を制圧するために各処に分散しており、また嵐の中のこととて戦況を把握することも容易ではなかった。
くわえて現在の秋月軍は、種実直属の部隊を除けば新たに徴用された者がほとんどであり、当主種実の下で組織化されてから一月と経っていない。変転を続けていた戦況に翻弄されていたこととあいまって、戸次勢の攻撃を受けるや四分五裂の状態となり、背を向ける者が続出する。
結果、本丸に立てこもった秋月勢は三百に満たず、彼らの半ばも動揺を禁じえずにいた。
ゆえに勝敗は明らかである――と思われたのだが。
秋月勢は、ここにいたってなお敢然と戸次勢の前に立ちはだかった。当主種実が直接指揮する秋月勢の抵抗は凄まじく、勇猛をもって鳴る戸次勢を二度までも押し返し、さらには逆撃の気配さえ示してみせたのである。
この頑強な抵抗を前にして、戸次勢は攻めあぐねた。このまま力ずくで制圧することは可能だが、被害が無視しえないものとなることが明らかだったからだ。
本丸をめぐる攻防で、戸次勢はすでに五十名近い死傷者を出している。今日に至るまでの篭城戦で受けた痛手も決して軽くない。実のところ、戸次勢の数はすでに二千を大きく下回り、今回の戦いで動けたのはおよど千七百名ほど――それも軽傷の者を含めた上での数だった。無論、残る三百名が全員戦死したわけではなく、戦についてこられないと判断された者たちは、山中の一画に隠れ潜んでいる。
大友軍にしても、決して余裕をもって戦っているわけではなかったのである。
「満身創痍というほどではないけれど。そんな感じだな」
東の空がやや明るんでいるところを見るに、間もなく夜明けなのだろう。すぐそれとわかるくらいに、陽光を遮る雲は薄くなっており、頬に吹き付けてくる風雨もずいぶんと勢いを弱めている。
嵐が去りつつあるのを感じ取りながら、俺は傍らの吉継を見た。顔を覆う頭巾を取り去り、鎧兜に身をかためた吉継は、秀麗な容姿もあいまって実に凛々しい武者ぶりである。戸次家の誾殿にもひけをとらないだろう。
ちなみに吉継は表向きは病をわずらっている身なので、顔を晒して出歩いているのは色々とまずかったりする。まあ普段は顔を晒していないから、俺の傍らにいるのが大谷吉継だ、と外見だけでわかる者はほとんどいないだろうが、俺と吉継の会話を聞けば察するのは容易であるに違いない。
そのため、緒戦以来、そこをどう誤魔化すかを考えあぐねていたのだが、吉継は大して気にした様子を見せなかった。
普段は頭巾をかぶり、応戦する際には素顔を晒して兜をつける。特に名を伏せたり、偽ったりはしていないため、察しの良い者たちはとうに気づいているだろうし、それは吉継も承知しているはずだが、それでも気にかける素振りを見せない。吉継なりに思うところがあるのだろうと思われた。
その吉継は俺の傍らで厳しい表情で本丸を見据えている。そして、それとわからないくらいかすかに、その脚が震えていた。
「吉継」
「お断りします」
間髪をいれずに拒絶の言葉を口にした吉継は、厳しい表情はそのままに俺の顔を見つめる。
その顔を見れば、吉継が何を言わんとしているのかは明らかだったので、俺は頬をかきつつ逃げるように口を開いた。
「……せめて心配を口にするくらいは許してほしいのだが」
「無用のことです。今、お義父様が気にかけるべきは私などではなく、貝のごとく閉じこもった秋月をいかに屠るかでしょう?」
そう言うや、吉継は再び視線を本丸に戻した。
日ごろの修練の賜物だろう、吉継の身体は女性らしい丸みを帯びつつも、刀槍を揮うことに耐えられる引き締まったものだ。
かつてその腕前を身をもって知った俺は、吉継が戦場に出ること自体を止めようとは思わなかった。
しかし、体格だけを見れば吉継は決して武将として恵まれているとはいえない――あくまで武将としてであって、女性としては小柄で可愛らしいのだが、それはさておき。
武芸で身体を鍛えたとはいえ、やはり限界はある。ことに今回の戦いは重い鎧兜を身につけ、嵐の中、山を駆け下りては戦い、駆け上っては戦い、と大の男でもきついものだった。体力的に恵まれていない吉継にとっては苦行でしかなかったことだろう。
それでも吉継は決して足手まといになることはなかった。弥太郎のように、その上で戦でも大活躍、というわけにはさすがにいかなかったが、それは当然といえば当然のこと。ついてこれただけで激賞するべきだろう。というか、弥太郎と比べて遜色ない姫武将なんて、九国中さがしても三人といないだろうし、比べる対象がおかしいな、うん。
とはいえ、さすがにそろそろ限界だろう。おそらく、今、膝をつけば、吉継はしばらく立ち上がれない。だから後方で休むように言おうと思ったのだが、その気遣いは、たった今木っ端微塵にされてしまった。
これが噂に聞く反抗期か、などと言おうと思ったが、さすがにそれは不謹慎だと考え、俺は意識を眼前の敵勢に切り替える。
本丸に立てこもる秋月軍への攻撃は中断している。今は大友軍、秋月軍、いずれも次の攻勢に備えているところである。
大友軍は決して万全の状況ではないが、それでも近づく勝利を思って意気軒昂だった。
一方の秋月軍は、というと。
今、俺が立っている場所は大友軍の最前線であり、本丸に立てこもる秋月軍の将兵の姿をしっかりと見ることが出来る。彼らは悲壮な雰囲気を漂わせてはいたが、敵に屈するつもりは微塵もなさそうだった。
すでに筑前の国人衆は敗走し、他の秋月勢は壊乱状態である。そのことは彼らとて承知しているだろう。
にも関わらず、秋月軍から戦意が失われていないという事実が、敵将秋月種実の器のほどを示していた。
そして。
実のところ、この秋月軍の抵抗は単なる悪あがき以上の意味を持っていた。
俺の予定では捕らえるか討ち取るか、いずれにせよすばやく種実の死命を制し、最低限、秋月軍に代表される筑前衆の動きを制してから毛利軍にあたるつもりだった。
先夜の戦いを端的に言えば、大友軍が嵐に乗じて大騒ぎし、それによって筑前衆が勝手に混乱を来たしただけで、双方の被害は大したことがない。
無論、これは作戦どおりの行動で、その目的は極力自軍に損害を出さないためである。たとえ奇襲とはいえ、敵に打撃を与えようとすれば、こちらにも相応の被害が生じる。篭城戦で消耗した戸次勢では、秋月軍を除いても五千近い大兵力を有する敵軍に致命的な打撃を与えることは望むべくもなかった。
またそこで欲をかけば、今度は城の秋月軍を討つのに支障が生じる可能性が高かったということもある。
嵐が去り、落ち着きを取り戻せば、筑前衆の中でもそのことに気づく者は少なくないだろう。この時、総大将とも言える種実が健在であれば、逃げ散った筑前衆が将兵をかき集めて再び挑んでこないとも限らないのだ。
当然、それは逃亡を選んだ他の秋月勢にも同じことが言える。彼らがそのことに気づくのが一週間後であれば問題はない。一日後でも、十分に種実に対処することはできる。だが、一刻後であればのんびりはしていられないし、それこそ一分後に気づく人間がいないとは限らないのである。
不意に吉継が口を開いた。何やら低い声で、まるでだれかの真似でもするように。
「ことここに及べば、策をほどこす余地もない。勝勢に乗じて、力ずくで種実を討ち取るしかないだろう。三度目の正直ともいうしな……」
「これぞまさに以心伝心。よくわかったな、娘よ」
内心をぴたりと言い当てられ、俺が驚くと、吉継は疲労を上回る諦観を湛えた表情で、深々とため息を吐いた。
「ここまでの戦を見ていれば、お義父様が存外好戦的であることは誰でもわかります。何も将みずから刀をとって敵と戦う必要はないでしょうに……」
それは吉継なりの心配の表現だったのだろう。まあ、ただ単にあきれ果てているだけかもしんないが。
言うまでもないが、別に刀をとって戦っているからといって、謙信様や政景様のようにばったばったと敵兵を切り倒しているわけではない。
それでも将が怖じることなく刀を揮えば、配下の兵士も奮い立つもの。ことに戸次勢は道雪様を間近で見てきた将兵である。後方で采配を揮うだけでは、なかなか信望を勝ち取れるものではなかった。
もっとも、当然、その分危険も増えるわけで、先夜からの戦に限って言っても、吉継に幾度も助けられたりしたあたりが、ちょっと情けなかったりするのだが。
「……とはいえ、決して好戦的なわけではないと強く主張する」
「勢いのままに自ら兵を率いて本丸に乗り込んでいき、あえなく撃退されても即座に態勢を立て直してまた攻め込み、戸次様の命令を受けてようやく戻ってきた人がそれを言いますか」
何度肝を冷やしたことか、とぶつぶつ呟く吉継。
「男児たるもの、向こう傷をこそ誉れとすべしと言ってだな」
「普通、そういう人を指して好戦的というのですよ、お義父様」
「はっはっは、これは一本とられた」
「何を爽やかに笑ってごまかしているんですかッ」
まったくもう、とため息を吐く吉継。
そんな俺と吉継の周囲から、なにやらにやにやした視線が向けられている気がしたが、あえて気づかぬふりをする。「なんでここに小野様と由布様がいるんだろうな」というくすくす笑う声も聞こえないのである。
だが、そんな時ならぬ和やかな雰囲気も、次の瞬間、即座に霧散した。
にわかに後方が騒がしくなり、刀槍が連なる音がかすかに響いてきたからである。
何事か、と誰もが思ったが、そこは物慣れた戸次勢である。秋月軍を前にして後方を気にするような素振りを見せれば、敵を勢いづかせることにつながる。
あくまで平静を保ち、眼前の敵から視線をそらさない。知らせるべき事柄であれば、道雪殿から何らかの通達が来るだろう。
そう考えていると、ほどなく道雪殿からの知らせがやってきた。
聞けば後方――つまりは休松城の城門に、およそ三百ほどの騎馬隊が姿を現したのだという。
はや先刻の危惧が現実になったのか、と思ったのだが、少し違った。その軍勢が掲げる軍旗は秋月家のものではなく、筑前のどの国人衆のものでもなかったからだ。
では、どこの軍勢が今この時、休松城に姿を見せたのか。
使者が語る名を聞いた途端、俺は思わず天を仰ぎ、顔中に雨滴の洗礼を浴びてしまった。
現れたのは『一文字三ツ星』を掲げた軍勢。その旗印を掲げる軍勢を、俺は一つしか知らない。
すなわち、中国地方の覇者、毛利家である。
◆◆◆
「安芸国守護毛利元就が息女、吉川元春と申す。貴殿の名は遠く離れた安芸にまで鳴り響いております。お目にかかれて光栄に存ずる、戸次殿」
「同じく、毛利元就が息女、小早川隆景です。お初にお目にかかります」
周囲を敵兵に取り囲まれながら、微塵も動揺した様子のない元春。
隆景は言葉すくなに、その元春の影に隠れるように座しているが、その眼差しに秘められた鋭利さは隠しきれるものではなかった。
なるほど、世評にのぼるだけの実力は備えているようだ。道雪は毛利の姫たちをそう見て取った。
「丁寧な挨拶、いたみいります。名高き毛利の『両川』とこのような場所でお会いできるとは思っていませんでした。大友加判衆筆頭、戸次道雪です。どうぞお見知りおきを」
道雪の澄んだ声音を聞き、元春はわずかに目を見張った。普段は知らず、敵将を前にして表情をかえるなど、元春にしては稀有な出来事である。
世に雷神と恐れられる人物である。さぞ重厚な人物であろうと考えていたのだが、眼前の道雪は、女性の元春から見ても賛嘆を禁じえない佳人であった。
これがあの鬼道雪なのか、と正直元春は仰天していたのである。
一方の隆景はわずかに目を細めて道雪を見つめているだけだった。姉が仰天していることは察したものの、隆景にはそこまでの驚きはない。というか、そこまで驚くほどのことだろうか。毛利家だって外では散々恐ろしげに語られているが、内に入ればそれほどでもない――と思うし。
隆景が注意を払ったのは、今、この場に隆景たち毛利の軍勢があらわれたことを、道雪がどのように判断しているのか、その一点だけだった。
見た限り、道雪の目に驚きや焦りはない。内心に押し隠しているようにも見えない。
それはつまり、道雪が毛利の登場にまったくもって驚いていないことを意味する。隆景としては、相手の動揺ないし誤解に乗じて、こちらの要求を押し通せれば、とかすかに期待していたのだが、眼前の道雪を見れば、それはやはり無理であるようだ。
これから費やす労力をおもって、隆景は小さく息を吐いた。
そもそもどうしてこの今この時、元春と隆景の二人が休松城に姿を現したのか。
それは秋月種実が毛利軍の到着を待たずに、戸次勢に攻めかかったことを知ったからだった。無論、種実はわざわざ使者を出して、そのことを伝えたりはしていない。元春たちが独自に斥候を放ち、情報を集めたのである。
秋月軍が古処山城を出て攻めかかった事実と、それを伝えようとしない種実。
この二つだけで、毛利の両川が秋月家の思惑を察するには十分すぎるほどであった。
そして、元春はそれを聞くや、隆景に毛利軍の指揮を委ね、自身はただちに馬廻衆だけを率いて種実の下へ赴こうとする。功に逸った種実を諌めるためでもあったし、同時に自分たちだけで戸次道雪を討ち取れると考えている種実の油断を感じ取ったからでもあった。
種実の才は元春も十分に認めているが、どれだけ優れた才を持っていようと、また敵軍に数倍する大軍を抱えていようと、二十にも満たない若者にあっさり討ち取られるようならば、戸次道雪の名がここまで称揚されることはなかっただろうと元春は思うのだ。
種実が苦戦する程度ならばまだ良い。むしろ道雪相手の戦は勝敗を別にしても良い経験となることだろう。しかし、下手をすれば逆撃に転じた大友軍に討ち取られてしまう可能性もある。それも少なからず。
具体的な大友軍の作戦を読んだわけではない。ただ戦将としての直感に促されるままに、元春は馬を走らせようとしたのである。
隆景が元春と行動を共にしたのは、逆に元春を気遣ったからであった。
先に和睦したとはいえ、実質的に大友と毛利は敵国同士。まして国内をひっかきまわす毛利家を、大友家の君臣が憎悪しているだろうことは想像に難くない。他の筑前衆だとて、元春が少人数で戦場に踏み込めば、どう変心するか知れたものではなかった。
「……と、種実のことは気にしていない、あくまでついでだと必死に自分に言い聞かせる末姫殿であった」
「春姉、うるさい」
そんな会話をかわしつつ、二人は三百の騎馬隊のみで筑前の地を駆け抜けたのである。
そしてようやく到着してみれば、筑前衆はすでに壊滅状態であり、秋月軍は影すら見えぬ。
そこに毛利家の旗を見つけた秋月勢の逃亡者たちがあらわれ、先夜来の情勢を知った元春たちは、種実が城で追い詰められていることを悟り、まっすぐに休松城に向かった。もはや手遅れか、と半ば覚悟しながら。
◆◆
無論、この時点で元春も隆景も城内で種実が決死の抗戦を試みていることを知らない。
それでも幾多の経験と大友軍の様子から、大友軍がまだ目的を達していないだろうことを察することは出来た。
安堵はあったが、それ以上に眼前の問題の困難さに頭を抱えたくなる。
毛利軍の本隊は、まだはるか遠方。この場にいる三百だけで種実を救出することは出来ない。
であれば、交渉して種実の身柄の安全を確保するしかないのだが、はっきり言えばこちらから奇襲を仕掛けた挙句、失敗したから逃がしてくださいというようなものである。
仮に元春が敵にそう言われたら鼻で笑うだろうし、隆景であればにっこり笑ったあとに総攻撃を指示するだろう。
おそらく、戸次勢の将兵も毛利の狙いは察している。
道雪は穏やかだし、元春たちをここまで案内してきた十時という将(元春たちが腰の大小を預けようとしたら、それには及ばないと言って返されたので、素直に感心して名前を聞いた)は無表情だったが、それ以外の者たちは明らかに隔意を抱いている様子だった。むしろ、はっきりと敵意、殺意を示さないあたりに戸次勢の真価を見て取れるかもしれない。
とはいえ、だからといってこちらの申し出に友好的な対応をしてくれるはずもない。
さてどう切り出そうか、と隆景が口を開こうとした時だった。
――不意に天幕の外からこんな声が聞こえてきた。
「なッ?! 秋月を逃がすというのですか?!」
「うむ。大友は敵将は逃がすけど筑前は得られる。毛利は策略は失敗したけど種実は助けられる。秋月は蜂起には失敗したけど再起の芽は残る。まさに三方一両損ならぬ三方一得一失、見事な大岡裁きだろう」
「まったくもって意味がわかりませんが、それはともかく、先の豊前の乱といい、今回といい、他国をかき回すだけかき回した家にその対応は甘すぎます。それに種実を逃せば、またいつ筑前に乱を持ち込まれるかわかりません」
「それはそうだが、仮にここで秋月を殲滅して、毛利の両川を討ち取ったらどうなる?」
「どうなるといって……大友の筑前支配を固め、毛利に大きな打撃を与えることになるのではありませんか?」
「そして怒り狂った毛利の大軍が周防灘を埋め尽くす。謀将は情の上に理を置くから、怒りに我を忘れることはない。でも『有情の』毛利は違うだろう。たぶん石見を尼子に熨斗をつけてくれてやってから、全軍をあげて攻めかかってくる。最初に殴ったのがどちらかなんて、耳を貸さないだろうな」
「……それは、そうかもしれませんが……」
「大友の目的が毛利の滅亡というならともかく、今の時点でそこまでする理由はないし、する必要もない。まあ、来たのが別の人間だったら少し考えないでもないけどな。ところで案内の方、道雪様たちはどちらに……って、え、ここですかッ?!」
「……その、さきほどからお伝えしようとしていたのですが、あまりにお二人の息が合いすぎていて、口をはさむ暇が……申し訳ございません」
天幕の内と外でなんともいえない沈黙がわだかまる。
やがて、元春がぽつりと呟いた。
「……なかなかに個性的な配下を抱えていらっしゃるようですね、戸次殿」
「毛利家の方にそう言っていただけると照れてしまいますね」
「……春姉は褒めてないけどね」
口元に手をあてて微笑む道雪に対し、隆景は姉と同じように呟いたが、道雪はまったく動じず、天幕の外で立ち尽くしているであろう者たちに声をかけるのだった。