皆さん、こんにちは。今日はローテーションで地上の宿舎で書類仕事をしている北条透です。
マケドニアから補給物資が送られてくるようになりました。
お陰で食事のレパートリーも増えて隊員の士気も上がったようです。それは結構ですが、同時に俺の書類仕事も増えました。
ようやく、スタンドアロンに行動し始めて書類仕事から開放されたと思ってたのに。orz
で、書類仕事をしています。真昼間から屋内に篭る俺、大変健康によろしくありません。
ピピピピピピ!!
おや?緊急連絡ですね。
『こちら航空指揮所! 本部、応答願います! 送れ!』
航空指揮所とは定期的に哨戒飛行をする航空隊からの情報を捌くところです。
航空指揮はしてません。だって、精霊たち、優秀なんで必要ないんです。
「はい、こちら本部。どうしました? 送れ」
『哨戒飛行中のJAS-39より入電。魔王の谷と砦中間部の荒野にゴーレム出現との一報です! その数、大型1、中型50、小型400以上! 現在の速度だと第一次防衛線の森林部まで六時間! 送れ!』
「ご苦労。JAS-39は即時帰還。写真撮影を忘れるな。代わりにOH-1とUH-60を向かわせろ。通信終了」
我が軍の防衛線は全部で三本あります。一本目は荒野から森林への境界線。二本目は森林からこちらで伐採した空地への境界線。三本目が空堀と城壁です。
「総員第一種戦闘配置発令! 中隊長以上の指揮官は司令部に集合せよ。全航空部隊及び機甲戦力は対地対戦車装備で即時出動態勢!」
さて、今回はシリアスパートですかね。
十五分後、全指揮官が集りました。
やっぱり空母で休息中の隊員は来るのに時間が掛かります。
緊急時は当直の部隊だけで活動を始めるんですが、今回は猶予があったので、全中隊長に集ってもらいました。
「先ほど、JAS-39が帰還した。で、これが今回の敵だ」
そう言って大量にプリントアウトした写真を幹部に回す。
俺はと言うとモンスター図鑑という、歴代の勇者が接触した魔物の情報を集めた図鑑を開いている。
「大型ゴーレム。通称ガ○ダム。全長18m。武装は実体剣のみ。しかし、その質量が既に武器。コアは腹部のコックピットに位置する場所にあり、それを破壊しないと無限に再生する。
中型ゴーレム。通称アーム・スレイ○。全長9m。武装はナイフのみだが、投擲してくるので注意が必要。動きは速く、100km/hで動くなんて報告もある。これもコアを破壊しないと無限に再生する。しかし、再生速度はガ○ダムに比べれば遅く、一度損傷を与えれば一時間は動けない。
小型ゴーレム。通称パワード・スーツ。全長3m。武装は実に多種多様。再生速度は遅く、一度損害を与えれば半日は動けない。…以上で間違いは無いな?」
ジャスティンが無言で頷く。
「では、この情報を元に作戦を決める。現在輸送機のC-130と戦闘機のJAS-39、F/A-18Eが対地爆撃装備で出動態勢を始めている。まず、作戦の第一段階としてJAS-39とF/A-18Eがクラスター(親子)爆弾を大量に投下する。次いで、C-130がデイジーカッターという大型爆弾を投下。周囲一帯を吹き飛ばす。これで、敵小型ゴーレムは殆ど無力化されているはずだ。
第二段階は作戦域にSH-60とUH-60を飛ばしてまだ無力化されていない個体にレーダーとレーザー照射を行う。それを目掛けてミズーリ搭載の巡航ミサイルと艦対艦ミサイルと大量に召喚している地対艦ミサイルの一斉射を行う。これで中型ゴーレムは大部分が撃破されているはずだ。
第三段階として、コブラAH-1とアパッチAH-64Dが対戦車有線誘導弾(TOW)と20mmガトリングガン、対戦車自律誘導弾(ヘルファイア)と30mmチェーンガンで一斉攻撃。同時に森林手前に敷設してあるトラップを発動して地雷を一斉起爆。出来ればここで大型ゴーレムに戦闘不能になってもらいたいが、最悪の事態を想定する。城壁外周に90式戦車を展開。ミズーリと99式自走砲の支援射撃の元、要塞の持ち得る火器を総動員して迎撃に当たる。全部隊員に110mm対戦車ロケットを携帯させろ。軽機関銃以下の火器は恐らく役に立たない」
対戦車火器というのは一般の想像と違って加害半径が小さい。
戦車の装甲を貫くために可能な限り攻撃を凝縮しているのだ。
故に、そこから発射されるメタルジェットが正確にコアを直撃しないと成果は出ない。
爆撃や砲撃で破壊されてくれよ。
「フェイズ・1を開始する。航空機部隊発進開始!」
デイジーカッターを搭載したC-130と搭載量限界までクラスター爆弾を搭載したJAS-39とF/A-18Eが次々と発進する。
ゴーレムは既に第一次防衛線から20kmまで接近している。
まずは、JAS-39とF/A-18Eがクラスター爆弾を次々と投下する。
対人兵器としてはデイジーカッターよりも威力があるとか。
投下された爆弾は途中で202発の小型爆弾に分離し、次々とゴーレムの周囲で爆破する。
表面が無駄に厚い中型以上には余り利いていないが、小型ゴーレムは次々と投下される小型爆弾に損傷を負っていく。
小型爆弾とは言え、一応装甲車両にも有効であるのだ。
次いで、C-130がパラシュート付のデイジーカッターを投下する。
ふわふわと風に揺られながら、大型ゴーレムの近くで起爆した。
元々は密林を切り開いて即席のヘリポートを作るために使用される伐採用。
核と見間違えられる爆発力は一瞬で小型ゴーレムを四方に吹き飛ばした。
爆発の影響が収まってから、OH-1から送られてくる映像を見ながら俺達は苦虫を潰したような顔になる。
小型ゴーレムの大部分を無力化できたのは良いが、中型と大型に損傷が殆ど無い。
所詮は広域殲滅用の爆弾。重装甲の相手には効果が薄い。
「フェイズ・2に移行する。航空機部隊は即時帰還。対艦ミサイルと徹甲爆弾に換装し、発進準備を整えろ。SH-60、UH-60はレーダー及びレーザー照射を開始しろ。ミズーリ、誘導弾発射準備。レーザー誘導のトマホークから発射開始」
湖のミズーリから轟音が上がり、トマホークが発射される。
今回、レーザー誘導にセットしてあるトマホークは粉塵などでレーザーが届かないと誘導が出来ないという欠点を持つ。
先のデイジーカッターのように粉塵が収まるのを待ってはいられない以上、殆ど同時に着弾させなくてはならない。
32発のトマホークが1体の大型ゴーレムと31体の中型ゴーレムに突き進む。
750km/hと、ミサイルとしては低速だが、それでも充分な速度を持つトマホークはあっと言う間に目標に着弾する。
当然、周囲には爆発の影響で粉塵が舞い上がる。
しかし、今回は粉塵が収まるを待たない。
次々とレーダー誘導のハープーンと地対艦ミサイルが発射される。
発射台に限りのあるトマホーク巡航ミサイルと違って、かなりの数を召喚していた対艦ミサイルは百発単位で、粉塵の中のレーダー反応へと突き進む。
これで、決着が着いてくれよという俺達の願いも虚しく、粉塵の中から現れる大型ゴーレムと中型ゴーレム。
しかし、数は減り、残った個体も四肢が欠けていたりと、多少は損害を被っているようだ。
特にミズーリから放たれたトマホークはレーザー誘導だけあって正確にコアに直撃したようだ。
しかし、全部が直撃したわけでは無さそうだ。直前で腕を盾にした奴も結構居る。
その後の対艦ミサイルも何だか損害の与え方がおかしい。
木っ端微塵になった奴と、損害を殆ど被っていない奴に分けることが出来る。
…奴ら、密集して外側の個体を盾にして中央部を護りやがったな。
ハープーンにしてもトマホークにしても、爆発力重視で貫通力はさほどでもない。
密集されれば外側の個体を無力化しただけで終ってしまう。それにしても、
「おい、大型ゴーレムは再生早すぎだろ…」
右腕は完全に吹き飛んだ以外は、所々が欠けているだけの大型ゴーレムだったが、そこが目に見えて回復し始めた。
二つの目に、V字アンテナは伊達ではないということか。
それにしてもゴ○ラに挑む自衛隊の心境っていうのはこんな感じなのかね。
「フェイズ・3に移行する。AH-1とAH-64Dによる精密攻撃を開始。確実にコアを破壊せよ。目標がトラップエリアに入ったら爆破する」
爆撃やミサイル攻撃に比べれば精密な攻撃が可能な攻撃ヘリである。
特にAH-1のTOWは有線誘導なので撃ちっ放しのヘルファイアに比べれば弾着地点まで誘導できる。
巡航ミサイルの直撃や対艦ミサイルの釣瓶打ちに耐える相手にどこまで通用するかは不明だが、諦めてやる道理は無い。
それに、対戦車ミサイルっていうのは貫通力だけなら対艦ミサイルにも劣ってない。
ヘリは次々とミサイルを放ち、機関砲を撃つ。しかし、ここで問題が生じた。
ドォォォーーン
一機のAH-1がいきなり墜落したのだ。
「何だ!? 何が起こった!?」
「ナイフだわ! 奴らナイフをヘリに向けて投擲したのよ!」
ナイフを投擲!? ああ、そういや、全金属の騒動な某軍曹も第一話でそうやってヘリ墜としてたな、こん畜生!
コブラのTOWは有線誘導という関係上、発射から着弾までヘリ本体の機動は制限される。
「AH-64D。中型ゴーレムを最優先で対処しろ! 数が少ない今なら力勝ち出来るはずだ! AH-1。大型のコアをピンポイントで狙え!」
AH-64Dのヘルファイア対戦車自律誘導弾は発射した後は勝手に目標に向かってくれるので、高機動下での使用も容易である。
それにしても、あの投げナイフ、どれだけ速度出てるんだよ?下手したらAH-64Dの最高速度上回ってるんじゃないか?
「トオル、ゴーレムが地雷原に入ったわ」
よし、来た! 対戦車地雷をふんだんに使って造り上げた地雷原だが、普通の地雷原と言うよりは、トラップと言った方が近い。
第一段階は地下空洞の支柱を爆破し、落とし穴に落っことす。第二段階で地下に大量に設置した地雷と爆薬を爆破。デイジーカッターからトマホークの弾頭やミズーリの砲弾まで流用し、穴で指向性を与えられた爆発力は、地下から罠に掛かった獲物ごと地面全体が盛り上がるほどの爆発をしてくれる…はず。
「ヘリ部隊、一時退避。……よし、爆破!!」
ズドォォォーーーーーン!!!!
うお!? 揺れた! ここまで振動が伝わって来る程の爆発。これで動いていたら心が挫けるぜ。
爆発で生じたキノコ雲。これ、どんだけで収まるんだろ?さてさて、
……挫けた。中型ゴーレムは木っ端微塵になっているってのに、あの大型、どれだけ強度あるんだよ!?
畜生。心の中だけorzだ。流石に現実ではやりませんけど。
「トオル……」
そんな不安そうな顔をしないで下さい。俺が一番泣きたいんだから。
「…全隊員を空母に集結させろ。最悪、砦の破棄も視野に入れる」
「でも!?」
「どの道、人間の扱う武器じゃ、兵器を上回る戦果は期待出来ない。砦はまた造れば良い。だが、これだけの討伐軍を再編するのは容易じゃない。心配するな。当然、撤退と言うのも最悪の事態を想定した場合だ」
「…分かった。そうだね。生きてさえ居ればどうにでもなるよね」
「ああ」
指揮所の重苦しい雰囲気は少しは軽くなった。そこに複数の緊急連絡。
『こちら航空指揮所! JAS-39とC-130、CH-47が爆弾を積めるだけ積んで発進しようとしています! と言うか既に発進を始めています! 送れ!』
『こちら、カール・ヴィンソン! 補給を済ましたF/A-18EとCH-47が勝手に発進を! 送れ!』
え?ちょっと待って。精霊には別名あるまで待機って言っておいた筈だが?
慌てて、指揮所を飛び出して高機動車を捕まえる。精霊は基本的にリンクしていて、現代兵器としてのデータ共有は無理だが、精霊としての意思は共有できる。
「おい! アイツら、何をしているんだ!?」
『ユウシャ、コノ砦、苦労シテ造ッタ。僕タチモ楽シカッタ。歴代ノユウシャ、僕タチニ見向キモシナカッタ。僕タチト向キ合ッタノ、ユウシャガ初メテ。ユウシャノ為ナラ、何デモ出来ル』
「お前ら……」
確かに万策尽きた。後は、あのトラップを抜けた相手に命中の期待出来ない艦砲射撃や、戦車砲や自走砲で勝負を挑まなくちゃならない。
俺の所為か?俺の力量不足で、コイツ等にカミカゼ染みた事をさせなくちゃいけなくなったのか?
『精霊、死ナナイ。呼バレレバ、マタ来ル。ダカラ、皆、“サヨナラ”ジャナクテ、“マタネ”ッテ言ッテル』
「…ああ。“さよなら”じゃない。“またね”だ。次はもっと強い依代(からだ)を用意して置くって言っておいてくれ」
「分カッタ、分カッタ。……ユウシャ、泣イテルノ?」
「いや、別れは笑顔で。愛と勇気の御伽話でも、そう言ってたからな。それに今生の別れじゃない」
素人の猿真似だが、飛んで行く機体を敬礼しながら見送る。
周囲の騎士や兵士も事情を察したのだろう。それぞれ、捧げ剣を行って見送った。
十五分後、森林部の入り口に先のトラップを上回るクレーターが出来た。
どうやら、大型ゴーレムは一度に大量の爆発を受けるより、断続的な、回復速度を上回る爆発に弱かったらしい。
もっと早く気が付けば、あいつらにカミカゼなんてやらせなくて済んだのだろうか?…いや、止そう。所詮はIFの話だ。
取り敢えず、要塞の強化から進めるか。もう二度と、俺の力不足の尻拭いを精霊にさせないためにも。
討伐軍は歴代勇者でも苦戦を強いられたゴーレムに勝利を収めた。でも、それは大きな犠牲と引き換えに掴み取った、とっても苦い勝利だった。