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No.18458の一覧
[0] 現代兵器で勇者始めました(ネタ) 完結[タンクさん](2010/10/27 01:19)
[1] プロローグ 勇者と現代兵器[タンクさん](2010/05/22 08:15)
[2] 第1話 戦力把握は戦術の基礎です[タンクさん](2010/06/06 20:59)
[3] 第2話 勝手に動く戦車って邪道?でも、そんなの関係ねぇ![タンクさん](2010/06/06 21:01)
[4] 第3話 現代兵器と決戦前夜[タンクさん](2010/06/06 21:09)
[5] 第4話 勇者(仮)と初の実戦[タンクさん](2010/06/06 21:08)
[6] 第5話 とある貴族達の陰謀と勇者の旅立ち[タンクさん](2010/06/06 20:56)
[7] 閑話  とある執事の一日[タンクさん](2010/06/06 21:14)
[8] 第6話 難攻不落の要塞を造ろう[タンクさん](2010/05/22 09:03)
[9] 閑話2 とある要塞の日常[タンクさん](2010/06/03 15:07)
[10] 第7話 幹部クラス襲来[タンクさん](2010/05/22 09:13)
[11] 閑話3 自重を止めた勇者[タンクさん](2010/06/06 21:17)
[12] 第8話 ジ○リ襲来[タンクさん](2010/05/22 09:29)
[13] 閑話4 第一次防衛線修復&強化[タンクさん](2010/05/23 16:43)
[14] 第9話 エリア荒野上空制空戦[タンクさん](2010/06/01 22:40)
[15] 第10話 サンドトウ飛行場壊滅[タンクさん](2010/06/06 21:26)
[16] 閑話5 進む準備 加筆[タンクさん](2010/06/26 16:01)
[17] 第11話 魔王城道中記[タンクさん](2010/10/27 01:11)
[18] 最終話 責任逃れと状況に流されるのは日本人の特性さ[タンクさん](2010/10/27 01:17)
[19] 番外編 ジャスティンの出生[タンクさん](2010/05/22 09:33)
[20] 設定や説明[タンクさん](2010/11/12 08:40)
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[18458] 閑話5 進む準備 加筆
Name: タンクさん◆74790b16 ID:addd9404 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/26 16:01
さて、皆さんこんにちは。飛蝗のせいで飛行場を失った北条透です。

おのれ飛蝗。人が折角攻勢に出ようと思ったのに出鼻を挫かれました。

現在、サンドトウ飛行場は再建中です。

まぁ、そっちは召喚しまくった施設科車両と魔法使いに任せるとして、討伐軍主力は現在、空挺降下の訓練中です。

C-130輸送機 高度3000m

酸素マスクが無くても行動できるギリギリの高度ですわな。そして、俺はネタに走る。

「お前達は何だ!? 飛ばなければ価値の無い連中だ! 悔しければ食らい付け、しがみ付け! ほら行け!」

「しかし、勇者殿! 高いであります!」

「低高度からの方が良いってか!? 難易度無茶苦茶上がるんだぞ!?」

「しかし、足が竦んで動けないであります!」

「監視塔からロープ降下が出来るのに、何故にスカイダイビングが出来ん!?」

「我々に空を飛ぶという習慣は無いであります!」

「俺の世界だって普通の人間は一生体験せんわ! 軍人だって空挺レンジャー有資格者ぐらいしかせん! 貴重な体験が出来るんだ! さっさと行かんか!」

しかし、誰も飛ばん。駄目だ、コイツら。早く何とかしないと。

「仕方が無え。俺が手本を見せてやる! 行くぞ! アイキャンフラーーイ!!」

「ギャアァァァーーー」

俺の直後ろから悲鳴とか上がりましたが、気にせず、割と躊躇無く飛び出す俺。絶叫マシンとか大好きです。

ちなみに、降下はタンデムで行っており、風の魔法使いが必ず一緒に飛びます。

本番は自身以外にも複数の落下傘を誘導してもらわなくちゃいけないので、早く慣れろです。

割と早い段階で落下傘を開傘。

「勇者殿! 恐いであります!」

「もう飛んでんだ! 四の五の言わずに、湖に降りられるように誘導せんかい!」

「チッキショーー!!」

下から風が吹いて段々と湖に誘導されます。

ちなみに、俺達はしっかりライフジャケットを着て、胸にパラシュートを切り裂くナイフを装備しています。

ドブーーン!

暫くの空中遊泳の後に着水しました。気候的に夏だと言うのに水が冷たくて心臓発作起こしそうです。直に待機していた短艇が拾いに来てくれます。

「勇者殿、空の旅は如何でしたか?」

「ふふふ、癖になりそうじゃ。これ、今度から討伐軍正規訓練メニューにするべ」

「……母さん。俺、燃え尽きたよ。真っ白にな」

一緒に降下した魔法使い君が燃え尽きているが気にしません。灰になってもガソリンぶっ掛ければまだ燃えます。全てCO2になるまで火は消したげませんよ?

ヴォォーーーー!!

上空から機関砲の発砲音が聞こえます。

ちなみに、輸送機の後ろにJAS-39が追従しており、誰も飛ばないようなら威嚇射撃しろと命じて置いたのですが、まさか本当にする事になるとは。

それで意を決したのか次々にパラシュートが空中に咲きます。結局、皆、無事に着水に成功しました。今度は陸に降りる訓練をしないと。

今現在、討伐軍は三交代制です。空挺降下、鼠の除去、休憩です。

ちなみに幹部は、空挺降下、書類仕事、休憩の三交代制。

魔法使いは、空挺降下、飛行場建設、休憩の三交代です。

いや~、書類仕事の期限、完全に無視してますけどね。

こっちの一週間の生活リズムを送ってやったら何も言って来なくなりました。

マケドニアは少し労働基準法とか人権とか考えた方が良いです。


で、今度は飛行場に来ています。今度は飛行場、三箇所同時建設です。

まぁ、先に吹き飛ばしたサンドトウ飛行場跡地は割と簡単に再建できます。

今度はもう二箇所に同規模の飛行場を造るです。

名前は決めてあります。ヴァレー飛行場とケストレル飛行場です。

航空戦力も中身は変わりませんが、数が増えます。

そうそう、F-22AとSu-37を常駐させるです。

また架空機に出られても困りますし。少なくとも、初期型の可変戦闘機くらいならF-22Aが頑張れば撃墜できるです。


で、今度は鼠処理です。

…ナパームや火炎放射器で粗方燃やし尽くしているので、炭しか残っていませんが。

それを次々とゴミ袋に放り込んでいきます。それを集めて、穴の中に捨てて行きます。

穴はミズーリの着弾跡を利用です。穴掘る手間が省けます。魔法使いは埋める作業に専念してもらいます。


最後に書類仕事。……ジャスティンが燃え尽きていました。

「トオル~、全然終らないよ~」

何と言うか、女性として越えてはいけない一線を越えてしまったかのようです。

幹部は三交代と言いつつ書類仕事の頻度が高いですからね。

特にジャスティンは俺かジャスティンしか捌けない書類を扱うので早々休めませんし。

「判った、判った。とりあえず、カール・ヴィンソン行ってシャワー浴びてきなさい。6、いや、8、いや、12時間休憩」

「ホントに!?」

一気に元気になりました。でも、その顔で迫らないで下さい。余り、言いたくありませんが、…とっても怖いです。

「高機動車――!」

『呼ンダ? 呼ンダ?』

「ジャスティンを湖まで送って。軽徒橋は渡せないで、短艇で送らせて。出来れば誰かに部屋まで送らせてもらいたい」

『判ッタ、判ッタ』

ちょっとヤバ目な事になっているジャスティンを高機動車に押し込んで発進させます。…さて、お仕事しますか。

書類に目を通してサインをして行きます。それをただひたすら繰り返し、いつの間にか、隣に俺の知っている顔に戻ったジャスティンが来ていました。

「…あり? もう12時間経ったの?」

「え゛!? …まさかとは思うけど、もしかして、ずっと仕事してたの?」

時計を見ると確かに12時間経ってました。夕闇だった空は朝日になってます。思い出したようにお腹がグゥ~と鳴ります。

「ああ、気が付かなかった。道理で腹減る訳だ。何か、食って来よ」

「ちょ、ちょっとトオル!?」

「うん?」

「最後に寝たの何時!?」

「え~と……鼠と飛蝗が来る前…かな?」

考えてみたら一週間以上前でした。最近、余り睡眠を必要としません。

今も身体は芯からだるいのに眠気は全くと言って良いほど無いです。

…でも、こんな体調じゃ空挺訓練は危険ですね。止めときましょう。

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

「何? ご飯食べさせてよ」

「最近、身体の調子どうなの!?」

「どうなのと言われても……。強いて言うなら……カユ・ウマ?」

ストレスからか背中が痒くて仕方ありません。今度、孫の手作りましょう。

ついでに、味覚がおかしくなってどんな食事でも美味しく食べれます。この前はMREとか普通に完食しました。ご馳走様です。

某全金属な騒動で、傭兵部隊の軍曹が都立高校に持ち込んで、副会長にどろどろでビニール臭くて食感のおかしいツナヌードルと言われた物も普通に食べちゃう今日この頃。

「何処の生物災害よ。……これ、何本に見える?」

「何言ってんの? 9本でしょ?」

「3本よ!! 片手の本数が5を超えてる時点でおかしいと気付きなさい!」

「……あり?」

目をごしごしと擦ってもう一回。

「…ああ、ごめん、ごめん。間違えたわ。12本だったね」

「何で増えるの!?」

「え? 12本じゃ無いの?」

「何で心の底から不思議そうな顔をするの!? 両手の指を合わせても10本よ!」

自分の両手を見ながら数えます。20+20は…40本? いやいや。それ、人間の手じゃ無いだろ。

視覚だとどうにも情報がおかしいので触覚を使って触りながら数え直します。

「………おぉ~、確かに10本だ」

「何でそんな新発見みたいな反応をする訳!? トオル、貴方少し休みなさい!」

「いやね、それが休めんのですよ。休むと要塞が火に包まれる夢を見ましてね? それ以来、睡眠が全く…」

「ストレスの末期症状じゃない!?」

「そなの?」

「そうよ! 全く。ちょっと医者の所、行くわよ」

「あ~、待って。ご飯だけ食べさせて」

「はぁ~。…12時間も働き通しで、最後に食事したの何時なの?」

頭の中で逆算します。……え~と。

「32時間前だね。腹空くわけだ」

「さんじゅうにじか~ん!?」

「その前も12時間は開いてたわ。通りでどんな食事も美味しく頂ける訳だ」

「……ちなみに、どんな食事を?」

「MREとか」

「………視覚だけじゃなくて味覚も………」

で、MRE食うのを止められて、サラダとかシチューとかパンとか普通の食事をさせられました。

…MRE美味しいのに。あの世間一般では不味いと言われる味が今の俺には堪りません。

あの味で気付け薬にもなりますし。眠くはならないですけど、意識がハッキリしません。

で、今、医者の所に来ています。

「ふ~む」

「先生、どうなんですか?」

「ストレスから来る不眠症ですな」

「ストレス……」

俺ってばストレス溜まってたんだ。自覚無かったな。

「まぁ、勇者殿の場合は見知らぬ土地にいきなり召喚されて、魔王と戦えと言われたのです。当然と言えば当然。寧ろ、今まで発病しなかったのが不思議なくらいですな」

「え~? 言っちゃなんだけど、俺、順応性高いよ?」

「しかし、聞いた話では勇者殿の世界は平和だったのでしょう。いきなり見ず知らずの世界に召喚されただけでも人は体調を崩します。歴代勇者でもその症状は確認されています。ましてや勇者殿は既に月単位でこの世界に留まっておられるのです。我が軍の中でも、同じ世界で遠征しているだけなのにホームシックを患う者が出ております。勇者殿が発病しても何の不思議もありません」

「それに加えて、働きすぎなのよ。確かに忙しいけど、休憩は取らないと余計に効率が悪くなるわ」

「だから、寝むれないんだってば」

「催眠効果のあるネムネムの実を処方しましょう。一日三回、食後に必ず飲むこと」

そう言って薬剤棚から干し葡萄みたいな果実を寄越す医者。毎食後一日三回。しかし、今の俺には問題があるのです。

「俺、食事、一日に一回を割ってるんだが」

あり? 何か医者とジャスティンの顔がとても怖くなりました。

「ドクターストップです。勇者殿はあらゆる業務を停止して休みなさい」

「え~、そうは言っても~」

「トオル、これは討伐軍副指令命令よ」

「ちょ、俺、討伐軍指令……」

「討伐軍副指令権限で討伐軍指令の権限を三日間凍結します。…三日間みっちり休むこと。良いですね?」

「ジャスティン、そんな権限持ってたんだ。知らなかった」

「良・い・で・す・ね?」

…12時間前のジャスティンとは別の意味で怖いです。

何か逆らえないオーラが。数ある二次創作のリリカルな魔法少女の喫茶店パティシエとか、魔法使いの子供先生の、ちづ姉さんとかさっちゃんとか。

「…はい」

当然、そんなオーラを出されたら逆らえない俺。

……軟弱者と笑いたければ笑うが良いさ! この威圧感は実際に対面した人間じゃないと理解出来ないんだよ!


で、降って沸いた休暇なんだけど……ネムネムの実を食べたのに眠れません。

他にもミルクティーやホットミルクなんかを飲んでいる訳ですが、全く効果なし。

余りにも眠れないんで、眠くなるまで書類仕事でも……。

「トオル? そんなに物理的に眠らせて欲しいのかしら?」

はっ!? 馬鹿な、室内には俺しか居なかったはず!?

「ギャグパートってね、主人公がいけない行動をした時に一瞬で参上できるのよ? 魔法使いの子供先生な物語でも、ちづ姉さん、戦闘にも対応できるガイノイドすら欺いたでしょ? そもそも、貴方何時からワーカーホリックになったの? キャラに合ってないわよ」

いや、俺もそんな心算は無いんだが、どうせ後に回してるだけなんだから出来る内にやっとくのが得策だと思いません?

「今の最優先事項はトオルを休ませる事です。四の五の言わずに寝なさい!」

ゴツン!!

おごぉ!?

勇者ニ右斜メ45°ガ炸裂。勇者ハ気絶シタ。

「ふぅ、一週間も寝てないのに、ここまでしないと眠れないなんて、どんな神経してるのよ…」

そう言って部屋を出ようとするジャスティン。しかし、いきなりトオルが魘され始めた。どうやら本人も言っていた要塞が火に包まれる夢を見ているようだ。

『そーいん、たいひ……さんどとうひこうじょうにしきゅうたいひ…ようさいはほうきする……』

「え、ウソ!? 頭を叩いて気絶させたのよ!? その状態で夢なんて見るはずが…」

トオルの魘され具合は半端ではない。ベッドから落ちそうな勢いだったので強引に上から抱きかかえて固定する。すると表情は険しいままだが、首から下は落ち着いた。

『帰りたい…(ボソッ)』

「っ!? ……寝言?」

トオルを見るが、寝たままである。しかし、目からは涙が溢れている。それをそっと拭う。

「……ごめんね、トオル。頼ってばかりで、私達、何もしてあげられてないよね」

勇者は戦って当然という気風はこの世界に蔓延っている。

しかし、勇者は常に軍人やそれに準じるものが召喚される訳ではないのだ。

トオルのように完全無欠の一般人が召喚される事もある。

確かに彼等は強大な力を持つ。しかし、忘れてはいけない。軍人や警察官と一般人の最大の違い。それは技能ではなく、覚悟なのだ。

どんなに優れた技能を持っても、覚悟を持たぬ者は武官足り得ない。そして、制服を着ることでその証とする。故に制服の持つ意味は重い。

人は非常時に制服を見ると安心し、制服を着た人間の指示に従う。

「トオルは宣誓もしてなければ、何の訓練も受けてないんだもんね。色々と背負わせちゃってごめんね…」

トオルが弱みを人に見せるのは稀だ。

一番長く側に居るジャスティンですら数回しか見た事がない。

それも、こちらから誘発させる形で自発的ではない。

何の訓練も受けていない一般人としては驚異的と言える。

まぁ、トオルの本音を言えば、(多分)年下の女の子であるジャスティンに弱みを見せれますか、なのだが。

そんなこんなで11時間後。

「…ここは誰? 俺は何処?」

トオルが目を覚ましました。

「あ、トオル。起きたの?」

「君は誰? そして、俺は誰? 何も思い出せない」

「…ちょっと強く叩き過ぎたかしら。もう一回」

ガツン!!

「はぐぁ!?」

勇者ニ右斜メ45°が炸裂。勇者ハ気絶シタ。

3分後。

「……何だか頭がズキズキする」

「あ、トオル。起きたの?」

何事も無かったかのように接するジャスティン。

「……頭が妙に痛いのは、とりあえず置いといて。ジャスティン。何故に君は俺を抱えて添い寝してるのかな?」

「もう、覚えてないの? トオルを寝かしつけたらトオルが寝ぼけて私に抱きついてベッドに引き込んで、そのまま放してくれなかったんだから。(ポッ)」

イヤンイヤンと腰をくねらせながら赤面するジャスティン。

「……マジですか?」

「うふふ」

「orz 絶望した。寝ぼけて他人に抱きつく自分に絶望した」

「(まぁ、本当は魘されたトオルを落ち着かせるために私がやったんだけど、言わない方が良いわね。その方が面白そうだし)」

「ジャスティン。俺、ちょっと旅に出るよ。探さないでね」

「駄目よ。三日間は完全休養。その後は書類仕事に空挺訓練、終ってなければ鼠の除去とお仕事目白押しなんだから」

「旅にすら出られない!? 俺はベッドに引きずり込んでしまったジャスティンにどんな顔して接すれば良いんだ!?」

「笑えば良いと思うわよ?」

「何で引きずり込んだ俺がこれだけ慌てて、引きずり込まれたジャスティンが平然とネタに走ってるの!?」

「だって、優しくしてもらったし…(ポッ)」

再び腰をくねらせて赤面するジャスティン。

「優しく!? 俺、一体何をしたの!?」

「それを私の口から言わせるなんて…トオルの鬼畜さん♪」

「ウガァーー! 俺は一体、何をしたんじゃーー!?」

した、されたで言うなら寧ろされた側なのだが、極度の睡眠不足と二度に渡る右斜め45°で記憶が混乱しているトオルはその事を思い出せない。

結局、トオルをからかって遊んでいるだけのジャスティンに良いように遊ばれて終了しました。

「とりあえず、お腹すいた。何か食べてくる」

「MREとか?」

「MREってアメリカの? 何で態々そんな不味いって評判の物食べなきゃならんの? 慣れない人間は匂いだけで戻すんだぞ?」

「…そのセリフ、半日前の自分に言って欲しいわね」

結局、何を食べたかって? 普通にパンとかシチューとかサラダですよ。

…野戦糧食? あれは調理が不可能な環境下で食べるものです。自衛隊員だって普段は野外炊具で炊いたもの食ってんですから。


で、俺は今現在、カール・ヴィンソンの艦尾から釣り糸を垂らしています。

平和だ。俺が釣りをしているのに警報が鳴らないなんて初めての経験じゃないでしょうか?

全金属な騒動の軍曹も釣りが趣味らしいのですが、この平和な時間は何物にも代え難いですね。

で、この休暇中、俺ってば寝る時に何故かジャスティンの抱き枕にされています。

抱き枕って言うのは普通、自分より小さい人間を用いるのではないでしょうか? 俺、ジャスティンより普通に大きいですし。

正直、そんな状況下でまともに寝られるのかと思いましたが、意外とあっさり眠りに落ちてしまいます。

俺の煩悩ってば睡眠欲に負ける程度の物だったのね…。

トオルは気付かない。自分が毎晩魘されている事に。

魘されている人間に一番効果的なのは人肌の体温と心拍音。

それにネムネムの実を併用することで、トオルはかなり久しぶりの熟睡を味わっているのだ。

そんなこんなで、こっちに召喚されて以来、絶好調じゃないかって体調で休暇を終えました。


「では、行きますぞ。ウィキャンフラーーイ!!」

C-130からそう言って飛び出す隊員たち。

三日前はあんなに嫌がっていたのに、随分と積極的になったものです。

パラシュートを開く瞬間は離れるものの、それ以外は何処のアクロバットじゃ、と言いたくなるくらいに密集してるし。

「勇者殿! 降下高度をもっと上げましょう!」

「これ以上は酸素マスクが必要になるから却下」

実際のところ、ヘリボーンが一般的となった現代じゃ、空挺作戦はそうそう行われないのですよ。

でも、要塞から谷までヘリじゃ航続距離が足りませんし、最高速が300km/h程度のヘリじゃ時間もかかり過ぎます。

二千人近い人員をヘリで空輸するのも大変ですしね。

隊員達は湖に着水する第一段階から、飛行場に降下する第二段階(今ここ)、そして、今後はカール・ヴィンソンの飛行甲板に着地する弾三段階に至ってもらいます。

いや~、風の魔法使いも随分と技量が上がりましたね。


次いで飛行場を査察します。俺の休暇中にサンドトウ飛行場は再建され、新たにヴァレー飛行場とケストレル飛行場が完成していました。

ここにKC-767を大量に配備します。このKC-767、F-15を15機満タンに出来るだけの燃料を搭載できます。

同様にC-130の空中給油仕様、KC-130も召喚します。KC-767はそのシステム上、ヘリや一部の戦闘機に空中給油できませんから。

更に新規配備のF-22AやSu-37、前から配備されていたF-15E、A-10、JAS-39、B-1、C-17、C-130もどんどん召喚を開始します。

同時に兵器庫と燃料庫も大量に設置します。空挺時、俺は最前線に出る事になるでしょう。それでも、後方から充分な支援を得られるだけの態勢を整えないといけません。

更に新規で二機種を用意しました。

EF-2000 タイフーン。この機体は対空でも対地でも結構な戦闘力を有し、更にスーパークルーズができるので使い勝手が良いです。何と7.5tの爆弾を搭載できます。全速度域で良好な運動性を誇り、正面のレーダー反射面積は通常機としては最小クラス。4.5世代機としては最強なのではないでしょうか?

F-111 アードバーク。F(戦闘機)の機体番号を持つ機体としては珍しく横の複座です。機体スペックではF-15Eを上回る性能を持ち、対地攻撃作戦ではF-16やF/A-18以上の信頼を勝ち得ている機体です。戦闘爆撃機に分類されますが、実質的には空戦能力は無いです。F-15E以上の大型機ですから。

ここに元の世界でも全世界の空軍力でも相手に出来る航空戦力を召喚しました。

F-22A ラプター 108機

Su-37 チェルミナートル/スーパーフランカー/ターミネーター 324機

F-15E ストライクイーグル 648機

A-10 サンダーボルトⅡ 324機

JAS-39 グリペン 108機+12機 (航続距離不足で作戦には参加しない)

EF-2000 タイフーン 324機

F/A-18E スーパーホーネット 48機

F-111 アードバーク 324機

B-1 ランサー 108機

E-767 空中管制機 3機 (念の為)

C-130ハーキュリーズ 120機

C-17 グローブマスターⅢ 360機 (部隊降下前に戦車や装甲車を搭載した本機が強行着陸。援護に当たる)

KC-767 空中給油機 120機

KC-130 空中給油機 48機 (F/A-18Eや現地で召喚するヘリの為)

RF-4EJ ファントムⅡ偵察型 12機 (毎日忙しく飛び回ってます)

うん、アメリカ空軍にだって喧嘩売れますね。

各飛行場には通常機用滑走路が三本、STOL機用滑走路が三本あります。

作戦決行当日はここに部隊を移動させて飛び立つ事になるでしょう。

まぁ、先の会議で言った作戦のさの字も構築できていないのでまだまだ先の話ですけど。


で、現在、幹部連で会議真っ最中です。

「百キロ単位で離れた地域に一気に千単位の兵力を投入する。恐ろしい戦法ですわい」

「空挺作戦。…奇策としては中々の物ですが、これを正攻法として用いるのには反対ですな」

「確かに囲まれる恐れがある。しかし、陸路をちんたらと進軍するわけにもいきますまい。我等は歴代の討伐軍に比べ、攻撃力で大きく劣るのだからな」

「左様。一気に敵の懐に飛び込んで戦うしか勝機はありませんぞ」

何か、参謀連が空挺作戦の有効性を論議している内に俺は魔王の谷の地図を広げて進軍ルートを探していた。

と言うか、参謀連。空挺作戦決行は既に決定事項なのだ。今更何を言い合ってるんだ?

『こうでもしないと、我等、セリフが無いでしょう!!』×多数

そんなやりとりしている暇があるなら、こっち来てルート探すの手伝えですよ。

『……ハイ』×多数

やっぱり、谷内部はかなり木が多いですね。広場らしい広場は城の密集地域のみ。

でも、流石にそんな所に降下する度胸は無いです。

敵が態勢を整える前に攻撃できて、尚且つ、直接的な迎撃の届かない所。…難しい。

「とりあえず、魔王城から五十キロ前後手前に降下すればどうでしょうか?」

まぁ、その位が妥当だろうな。現代兵器が全速で突っ走って凡そ一時間か。しかし、これ以上は近づくのは危険だ。降下中の兵隊なんてただの的だからな。

「360機もの輸送機が強行着陸する場所の確保も行わなければなりません」

デイジーカッターで切り開くにしても、爆発直後に降下する訳にも行かないし、事前に爆破すれば降下場所を教える事になる。…結構、問題山積みだな。

「トオル、そんな時こそ魔法使いの出番よ!」

ジャスティン? 魔法使いをどう使うと?

「前に飛蝗に燃料をばら撒いた飛行機が居たでしょ?」

ああ、US-2ね。

「あれに湖の水を積載して爆心地にばら撒くのよ。そうすれば水は蒸発し、それと共に熱も下がるわ」

水が気化するときに熱を奪うのは知ってるが、それだけじゃ足らん。勿論、他に案があるんだろ?

「ええ。風と水の魔法使いの合同作戦ね。問題は、水をいかに効率良く散布するかと、蒸発した水蒸気を拡散させるか。空中散布する水を魔法使いが増幅し、それを風の魔法使いが爆心地を抜けるルートを作る。これ、森林火災なんかで良く私達が使う方法なんだけど」

確かに理に適ってはいる。水が蒸発の時に熱を奪うのは事実。

だが、H2Oが消える訳ではない。液体から気体となったH2Oを速やかに拡散させないとそれはサウナと同じだ。

ジャスティンの言うことは一見正しい。しかし、言うほど簡単とは思えないが…。確かに熱が冷めるのは早まるだろう。しかし、それでも時間が掛かるんじゃないだろうか。

「勇者殿!」

声を上げたのは確か水の魔法使いの代表格の男。何じゃい? 何か妙案でも?

「水の魔法使いを代表して発言します。我等、充分な水源さえ確保できれば熱を拡散させるなど朝飯前です!」

…そなの?

「勿論です!」

そう断言する水代表。でも、熱の拡散なんて自然界でも勝手にやってる事なのですよ。問題は効率。その辺、どーなの?

「高効率です!」

…えらい自信ね。

「お忘れですか、勇者殿。我等、戦闘においては全くの無力! されど、裏方においては半端ではない力量を有するのです!」

言ってることは正しいのだが…。

結局、テストする事になりました。デイジーカッターを投下して、爆発。キノコ雲が上がります。…コイツら、15分で熱を40℃まで下げやがった。

…そんなに力があるなら早く言えですよ。飛蝗とか鼠とかの駆除、無茶苦茶、楽にできたじゃないですか。

「能ある鷹は爪を隠すのです!」

……。

ジャキン!

俺の腕の中にはいつの間にやらショットガンが。ベネリM3、全米のSWATで使用されるセミオートとポンプアクションの切り替え可能なコンバットショットガンです。全金属騒動で軍曹が西瓜割りに使ったり、生物災害3で主人公が使っていたです。

「おぉう!?」

皆、要塞の一大事に爪を隠しとくなんて、少し頭冷やしましょうか。

「勇者殿!? それは洒落にならんのです!!」

大丈夫、弾はゴム弾です。プロボクサーに殴られた程度の痛みしか無いのです。ギャグパートなのに非殺傷弾を使うなんて、僕、優しいよね。

「ぶへらっ!?」

空手同好会の会員に容赦なく撃ち込む軍曹のように。全発撃ち込んでやったですよ。

この日の会議は結局、勇者の乱心にて中止となったのでした。ちゃんちゃん。


「構え、撃てーー!!」

タタタタタターーーン

俺は現在、歩兵部隊に混じって射撃の練習中です。今まで自衛の技術は大して学んで来なかったですけど、これから先は何が起こるか分かりませんから。

『イタ、イタタタタ』

ちなみに的は90式戦車です。痛い痛い言ってますが、実際には全く痛くないそうです。寧ろ楽しんでる?

90式戦車には時速30キロで右に左に動いてもらって、俺達はそれ目掛けて射撃を続けます。

でも、装軌式の車両への射撃は装輪式の車両への射撃に比べれば難易度は下がります。だって、曲がる時に極端に減速しますから。

それにしても、世界中の軍隊が射撃の移動目標を作るのに苦労しているのに、我が軍は戦車を引っ張って来るとか豪勢です。

次は剣。と言っても、俺には中学高校の体育で習った剣道の経験しか無いですけど。ジャスティンと綿を巻いた木刀で向い合っているです。

「トオル、面白い動きね? 何処で習ったの?」

俺の世界の教育機関で習う剣技だよ。

「へぇ~」

と言っても、この動きは軽い竹刀を振るうように作られているので、真剣はおろか、木刀でさえも振り回すのには適さないのです。

尤も剣道とて基礎となった動きは剣術。違いは踵を浮かすな、程度しか俺も知らないですが。でも、この差は意外と大きいんですよね。幕末最強の剣客集団として有名な新撰組。近藤、土方、沖田といった主要メンバーが使っていた天然理心流。真剣を用いれば恐ろしく強いですが、竹刀剣術としては関東の田舎剣術に過ぎなかったとか。京都に出てくるまでは全く知られていなかったと言うんですから驚きです。


カツン、カツン、カツン、ドゴ!

オップス!?

ジャスティンの木刀が腹部に直撃するです。い、痛い。

「あ、綺麗に入った。トオル、大丈夫?」

だ、大丈夫…。

「少し休憩にしましょうか?」

頼む。腕がもう上がらない。

「軟弱ね~」

ほっとけ。俺の世界じゃ、剣を振り回す筋肉なんてそうそう鍛えないんですよ。

皆さん、木刀を振るなんて大した事ないと考えるかもしれません。実際に木刀を持っても、少し重いな程度にしか感じないでしょう。でも、これより遥かに軽い竹刀でも一試合振り回せば腕は肩より上がらなくなっちゃんですよ。中学の授業の班対抗戦で人数足りないからと二試合連続でやったときは泣きたくなりました。いや~、あれを平然と振り回す剣道部員って腕力凄いですよね。

「全く、大の男が情けない」

対してジャスティンは平然としています。肉体的に女は男より筋力で劣るものなんですが、どんな鍛え方してるんだ? どんな見方しても筋肉が付いているようには見えないんだが。

「それは鍛え方よ」

鍛え方?

「人間の筋肉は有酸素運動を担当する赤筋と無酸素運動を担当する白筋に分けることが出来る。でも、僅かながらその両方の性質を持つピンクの筋肉が存在するのよ」

知ってるよ。心臓を始めとした極一部にしか存在しない白筋の瞬発力と赤筋の持久力を有する筋肉。

「それを意図的に増強できるとしたら?」

…生物学に喧嘩売ってるよね? 何処の哲学する柔術家だよ。

「でも、これくらいしないと屈強な男共の中で女の私が隊長張るのは無理なのよ? 男が指揮官ならその風貌だけでそこそこの威圧感が出るものだけど、女の場合は全ての不信を実力で捻じ伏せなくちゃいけないんだから」

…男女平等が進んだ俺の世界でも女性の指揮官が中々居ないのも似た理由なのかね。

「さて、休憩終了。立ちなさい」

応よ。

「トオルは基礎技術を持っているから楽だわ。後は、技術を活かせる筋力と動体視力を持たせるだけ。寧ろ、幾つかの業は私に教えて欲しいくらい。それにしても不思議な鍛え方ね。基礎筋力が全く無いのに技術だけ持ってるなんて」

この技術は刀を使う事を前提としているから余りお勧めしないよ? それと、数分間の試合だけ保てば良いんだから、体作りは本格的な剣道部員でも無いとやらないよ。所詮は、心技体を鍛えるための武道なんだから。精神さえ鍛えればそれで良いって感じだったし。

石ころ満載(一応全校で石ころ除去はした)の真夏のグラウンドや雪国の真冬の体育館に裸足とか虐めだったな。そもそも、夏冬合わせて二回も体育で剣道する中学とかおかしくない? いや、俺は剣道好きだし、お陰で高校の体育、剣道部員を除けば圧勝だったから良いんだけどね。そして、化学部の顧問で理科の女性教諭(身長150cm)が実は剣道三段で体育の授業に出てきた時はビックリだった。

「刀?」

刃が両方についているのを剣。刃が片方にしか付かないのが刀。特に俺の故郷に伝わる日本刀は世界最高の刃物と名高いんだ。質量で叩き切るじゃなくて、円運動をもって斬る。これが出来る刃物は中々無いよ。この刀を使うことを前提にしているから突きと斬撃を両立している武術なんてそうそう無いし。

「その刀、欲しいな~」

そんな物欲しげな目で見ても、無いものは無いぞ。

「ぶぅーぶぅー」

ふっ、隙あり! 面―!!

「無いわよ」

へぶし!?

隙を突いた心算が見事に返り討ちにあいました。ちゃんちゃん。

でも、質量で叩き切る西洋剣は扱い自体は楽なんだけど、必要な筋力が半端ねーのですよ。剣道の日本刀を用いることを前提にした円運動の動きが役に立たない。と言うか、そんな動きをしなくてもスピードが乗っていれば質量で切れるので必要ない。それに、剣道で習った複数の業。これってば重くて慣性モーメントの大きい西洋剣じゃ全く使えないのですよ。この重い剣でフェイントとかまず無理です。

「じゃあ、とりあえず、一日素振り千回ね」

おいおい!? 今でさえ殺人的なスケジュールをこなしてるのに、俺に死ねと!?

「それもそうかー。…トオル、剣の使用は諦めなさい。貴方、拳銃出せたでしょ? あれは完全に威力不足だけど、あれを使った方がまだ良いわ」

…マグナムなら威力不足なんて事は無いやい。

「あの大威力の拳銃? あんな反動の強い物を使うくらいならライフル使った方が早いし、手首に負担が掛かるから却下ね」

…ふん。45口径のグロックでも使うべ。まぁ、所詮はサイドアーム。そこまで気にする必要も無いか。

用意は着々と進んで……いる?


さて、皆さんこんにちは。遂に魔王の谷侵攻を決意した北条透です。今現在、拡声器を使って全軍にスピーチ中です。

「我が軍は遂に魔王の谷侵攻を決定した。決行は6日後。サンドトウ以下三つの飛行場に集結し、輸送機に分乗。戦闘機の護衛の下、飛行。降下前に先行した輸送機がデイジーカッターで降下場所を切り開く。同じく先行する風と水の魔法使いがUS-2の支援を受けながら対象地域の冷却を開始。冷却完了と同時にC-17が強行着陸。機甲戦力を投入する。その後、主力部隊が落下傘にて空挺降下。俺が召喚した戦闘装甲車や兵員輸送車に分乗し、進行を開始する。
ルートは上空の爆撃機が爆撃で確保する予定だ。三本のルートを開き、中央のルートを進行、両端のルートは攻撃や索敵を容易にする為のいわば囮だ。本当は三本分の広い空間を一気に切り開ければ良いんだが、冷却の関係でデイジーカッターをほいほい使うわけにもいかないし、飛び道具を使われた場合はこちらの方が損害も出ないのでな。
魔王城に突入するのは俺と第一騎士団を予定しているが、出たとこ勝負を拭えない以上、その場その場で臨機応変に対応する。正直、今代の魔王がどの城を拠点にしているか不明な以上、こればかりは事前に取り決めるわけにもいかない。なお、城の探索には俺の勇者適性を前面に押し出して探し出す。まぁ、俺が最前列で戦車をマニュアル運転して辿り着けばそこが魔王城という訳だ。
これが、最後だ。補給科は飛行場に残ってもらって補給活動を続けてもらう。他の部隊からも補給科を募る。良いか、聞き間違えるな。“魔王城侵攻”に参加を希望する者は2日以内に自身の所属中隊長に申請しろ。申請が無い場合は補給科に配属とする」

そこまで言うと部隊にざわめきが広がる。当然だろう。普通なら明らかに危険な部隊の方を志願制にするなど有り得ない。

「魔王城侵攻に参加する者は家族に文の一つも出しておけ。今から書き出せば上手く行けば返事をもらえるかも知れないぞ。だがな、勘違いするなよ。魔王城侵攻は決死であって、必死じゃ無いんだ。死ぬ覚悟を持つのは良いが、死を前提とするな。昔、俺の世界の武人達が言っていた。『生きながらにして死線を跨ぎ、その向こう側に活路を見出せ』と。俺は諸君等に死する覚悟を求める。だが、諸君の死を求めるのではない。死に物狂いで戦って欲しい。そして生還しろ。以上だ」

その後をジャスティンが引継ぐ。

「魔王城侵攻部隊の志願は只今から2日後、明後日の日没までとする。志願する場合は所属中隊の中隊長までその旨を伝える事。今回ばかりは私も諸君を無事に連れ帰る自信が無い。討伐軍結成以来、初の戦死者を出すかもしれない。良く考えろ。志願しなかったとしても何も言わん。だが、マケドニア騎士団、国防軍に入隊した時の宣誓を思い出せ。以上、解散」

「総員、敬礼!」

号令係の号令で一斉に敬礼する討伐軍の面々。大分様になったな。それにしても、ジャスティン格好良い~。

「茶化さないで、貴方もでしょ。普段からその位堂々としてもらいたいわ。…全く。これで志願が全く来なかったらどうするの?」

……この世界の住人が、魔王の討伐を…マケドニアの守護を俺一人に押し付けるなら俺にも考えがあるよ。

「っ!!??……考えって?」

ひ~み~つ~。

「…もしかして私達を試してるの?」

まっさか~。

「そう。(さっきの目、本気ね。…トオルを怖いと感じたのは初めてだわ)」

俺は討伐軍要塞を回った。…次に出発したら、もう此処には帰らないかもしれない。

俺が続な戦国の自衛隊を参考にして造った要塞。何だかんだで余り活躍しなかったな~。

次に軽徒橋を渡ってカール・ヴィンソンへ。

初代は自ら浅瀬に乗り上げたところへ気化爆弾の爆風を受けて傾斜したのでこいつは二代目。

初代から私物を運び出すの大変だったな。だって、通路が完全に傾斜してるんだもん。

次にミズーリへ。こいつも二代目。

初代は討伐軍の皆をバイタルパートの分厚い装甲で護ってくれた。

実は今まで、この50口径16インチ砲が火を吹いたのって鼠騒動だけなんだな。どちらかと言えば長射程のトマホークの方にお世話になった。

俺はひとしきり要塞内を巡ると要塞内の執務室(仮)に戻ってきた。そこでは隣接する郵便局(仮)に長蛇の列が出来ていた。これ程に混むのは初回の郵便以来か。それを視界の端に入れながら執務室(仮)に。これも、気化爆弾を食らったときに半壊して建て直したのだ。

最後にマケドニアに決行が決まった旨を報告しなくてならない。

「発勇者、宛マケドニア騎士団司令部。

我が軍は荒野手前の湖に要塞を建設し、魔王の動向を調査。詳細な情報を入手してからの進軍を試みるも、幹部級の圧力予想以上。これ以上の防衛戦は不利と考え、この度、攻勢に出る事を決定せり。一兵でも多くの兵を連れ帰るために奮闘する所存なり」

……なんか、変な文章になったな。詳細も全く書かれてないけど……ま、良いか。真面目な文章はジャスティンが送ってくれるでしょう。

その日の夕方、手紙を積んだ輸送機がマケドニア首都に飛び立った。あっちに到着する頃には完全に夜だけど、妖精には余り関係ない。俺の書いた報告書も一緒に飛んで行った。

で、俺はその日の内に、要塞をジャスティンに任せた俺はRF-4Eのコックピットに居た。一回は魔王の谷を自身の目で見とかないとね。護衛はSu-37が36機。今まで迎撃を受けたって話も聞かないし、少し過剰な気がしないでもない。

討伐軍降下予想地域から魔王城密集地域までのルートを見て回る。…森だけでその下がどうなっているのか、肉眼では全く見えませんでした。まぁ、富士の樹海みたく、伐採後も車両の通行が出来ないって事は無いでしょう。…多分。

演説二日目。今日の夕方で魔王城攻略部隊の申請は締め切りです。今現在、1800名位が志願してきています。これが日没までにどれだけ増えるかですね。既に志願した部隊員は小銃を従来のAK-47から折り畳み銃床のAKS-47に変更して射撃訓練中です。空挺降下するんで折り畳めるこっちの方が便利なんですよね。基本的には同じ銃ですから少し訓練すれば直に慣れますし。面倒くさいので表記はAK-47のままにしますが。

その日の夕方。魔王城攻略部隊の申請を締め切りました。結局、部隊は2267名に決定。急いで部隊再編成を行ってもらいます。尤も、極端に偏った訳でも無いので、そんな大規模な再編成は必要ないですけど。

演説終了三日目。新生補給班は既に飛行場に移動し、元から補給班だった面々が戦闘機や爆撃機で補給活動を実践で教えています。作戦決行してから誤爆とか勘弁ですから。新しい補給班員には信管とか弄らせない様に徹底します。

魔王城攻略部隊は装甲戦闘車や兵員輸送車への乗降訓練や、車上での戦闘訓練を繰り返します。動いている車上からの射撃訓練を行ったり、自身も動いている状況下での移動目標への射撃訓練など。

互いに移動している状況下で狙って中てるのは容易なことではないのです。元自衛隊非正規戦部隊射撃教官のカメラマン、トミーも言っていたのです。目標を狙うのでは無く、目標が来る先に弾幕を張れと。

世界が塩に覆われた物語の元戦闘機パイロットで引き出しが多い人も、動いている車に命中させられる奴など早々居ないと言っていました。

でも、我が軍の兵士には中ててもらわないと困ります。基本的に我が軍の戦術は強行突破なのですから。今回は殆どの兵士は車上戦闘で重機関銃か軽機関銃を使ってもらいます。アサルトライフルは連射で制御するのは難しいですから。

使う車両は90式戦車と89式装甲戦闘車。

89式装甲戦闘車は35mm機関砲搭載で、対戦車ミサイルと7.62mm機銃を搭載、7名の兵員が乗ることが出来ます。

新顔でロシア製BMP-3。こいつは100mm低圧砲を主砲として副砲に30mm機関砲と対戦車ミサイル、護身用に7.62mm機銃を持ち、戦車に追従できる機動性を持った車両です。車両運用に関わる人員以外に歩兵を最大9名、通常7名搭載できます。

同じく新顔の米国製M113兵員輸送車。日本の73式装甲車以上に旧式の装甲車ですが、世界中で改修を受けながら現役で使われています。珍しい所では、とある米国のSWATが装軌式装甲車である本車を採用していたりします。まぁ、何でこっちにしたかというと、73式と同じアルミ装甲でも、こちらは実戦を嫌というほど体験しており、増加装甲が割と標準ですから。兵員11名を搭載可能です。

進軍の編隊は、外部に無人の90式戦車、次にBMP-3、89式、中央にM113と。路面の状況が分からないので全て走破性の高い装軌式の車両で揃えました。装輪式の車両は段差に弱かったり、穴を乗り越えられなかったりしますからね。装輪式の装甲車じゃ一般車両程度の障害物でも乗り越えられないんです。

装軌は装軌で、履帯が一箇所でも破損すれば行動不能になりますが、その時は新しい車両を呼び出せば良いだけですし、無人の予備車両も用意しましょう。

ただ、装甲戦闘車(AFV)は良いんですけど、最近の兵員輸送車(APC)は装輪式が主流ですから装軌式のは旧式しかないんですよね。想定される主戦場が未舗装の郊外から都市部に移ってきたので仕方ないですが。自衛隊の96式や米国のストライカーなど、最新式は全て装輪。でも、第二次大戦以上に不整地な戦場で戦う俺には完全に裏目に出てます。

ああ、そうそう。装甲戦闘車(AFV)も兵員輸送車(APC)もどちらも普通科に配備されている車両です。機甲科じゃ無いですよ? ここ重要、テストに出ます。装甲戦闘車は一見戦車にも見えますが、装甲車です。判らなければ、スペックに乗員の他に兵員何名という項目があれば、それは装甲戦闘車ですね。AFVとAPCの違いは、戦闘に積極的に参加するか、ただの装甲した輸送車なのかの違いです。見分けるのは結構簡単。大砲もしくは機関砲を積んでいるかどうかです。AFVは歩兵を乗せて戦車に追従するのを求められますからね。

何と言うか、ここまで来ると数人多く乗せられるだけの兵員輸送車止めて全部装甲戦闘車にした方が良い気がしてきた。でも、二千以上の兵員を輸送する上でこの差は結構馬鹿に出来ない。…M113、旧式ですが我慢しましょう。

ファンタジーだと火炎攻撃が怖いんですけど。アルミ装甲は融点低いですし。…追加装甲、頑張れ!

でも、装甲で護られると言うことは同時にこちらの攻撃手段も限定されます。兵員全員分の銃眼があるわけじゃ無いですから。車上の重機関銃とかで応戦しましょう。特にAPCは自衛以外の戦闘を想定していませんから。

で、今、的になっているM113はベコベコになってますね。流石はアルミニウム装甲。何だか不安になって来た。これでも増加装甲装着型のハンヴィーよりも防御力あるらしいんですが。元が非装甲車のハンヴィーと比べるのが間違ってるんでしょうか? ソマリアじゃハンヴィー、悲惨な目に遭ったらしいですし。…ちょっと、試しておきますか。

「火の魔法使い」

「はっ!」

「ちょいと、あれを魔法で攻撃してくれや」

「は? 宜しいのですか?」

「ああ」

「分かりました。…ファイア・ボール!」

ボア!!

一気に火に包まれるM113。さて、丸太でも原型が残る攻撃。融点が低いとは言え一応金属のアルミ装甲は耐えられるのか? …あ、もう火が消えやがった。早いな、おい。可燃物無きゃ一瞬で消えるんか。

一応、軍手をして扉を開けてみる。……温かいというレベル。100℃行ってないんじゃないか? 軍手越しなので全然熱くありませんでした。

「勇者殿、どうでしたか?」

「あ~、うん、ありがとう。訓練に戻って良いよ」

「はっ!」

ビシッ! と敬礼して去っていく魔法使い。……これっぽっちも参考になりませんでしたとは言い辛い。火炎放射器を使えば撃破出来るのは分かりきっているからやる必要もないし。…はぁ、攻撃を受けないようにするのが一番か。APCの割合は減らしとこう。

演説四日目。定期便の輸送機の中にちらほらと先の手紙の返事が混じるようになって来ました。皆、それを見て泣いたり笑ったりしていますが、少なからず一度志願した者がそれを取り消すように申し出てくるかと思ったんですが、全く無いですね。少し意外です。

「そりゃ、そうよ。私達は志願してここに来てるんだから。当人も家族も最悪死ぬ覚悟は済ましてるわ」

疑問に思っていると、そうジャスティンに言われました。そうですか。平和な世界の俺の感性だったらしい。まぁ、自衛隊でも自身の身の危険に省みずとかいう内容の宣誓をするという話だったし、当然か。

演説五日目。遂に作戦決行前日になりました。討伐軍は訓練を全面的に中止して、今は隊員達に好きに過ごさせています。俺は例によってカール・ヴィンソンの艦尾で釣りをしています。これが最後になるかもしれないと思うと少し寂しいような気がしますね。

「トオル…」

いつの間にか背後にジャスティンが来ていました。

「な~に?」

「貴方に一度お礼を言っておきたかったの。明日の作戦がどうなるかは分からない。でも、マケドニアの為に戦ってくれてありがとう」

俺は湖の方を向いていますが、ジャスティンが頭を下げたのが気配で分かります。

「まぁ、気にすることは無いよ。何だかんだで成り行きで戦っただけだし。そもそも、俺自身は殆ど戦ってない」

「それでも、ありがとう」

「……その感謝、受け取っときましょう」

「そうして」

いつの間にかジャスティンは俺のすぐ側にいました。そして、ほっぺに柔らかい感触。

「じゃあね。絶対に作戦、成功させようね」

ほっぺにキスをされたと気付いたのはそれから時計の秒針が一周してからでした。

「……参ったね。この世界に愛着を持たないように人との付き合いを最小限にして来たってのに」

ここは俺の居るべき世界ではない。中隊長達の名前を覚えないのも作者が考えるのが面倒くさいだけじゃ無いんだ。俺が帰るときに後腐れが無いようにしたかったってのに。

「…ちょっぴり愛着が湧いて来ちゃったじゃないかよ」

作戦決行前日。皆、思い思いの過ごしかたをしていた。


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