「第一小隊構え!てぇーー!!」
耳栓をした俺の合図でジャスティンの第一重装騎士団の団員が一斉に引金を引く。
使っているのはAK-47。頑丈で有名なあのライフルです。
タタタタタタタタ
「安全装置確認。チェンバー内が空であることを確認」
的にしていた案山子は見るも無残な状態である。
まぁ、30発もライフル弾を受ければこうなって然るべきだけど。
俺は召喚された日からマケドニアの戦力増強に励んでいます。
貴族から噂を聞いていたのか、王様は今代の勇者である俺をガン無視して進めるそうです。
騎士団と国防軍の一部を俺の指揮下に入れることは認めさせたからこっちも好きにやらせてもらおう。
目的は元の世界への帰還。早く帰ってネット小説を読むんじゃい。
「次、第二小隊! マガジン装着! 初弾装填! 安全装置解除! 狙え! てぇーーー!!」
メガホン片手に次々と指示を出す。
それにしても、流石は傭兵や民間軍事会社を顧客に狙った高級品。
素人が扱っているのに弾詰まり一つ起こしません。
「ジャスティン。ここよろしく。俺、ちょっと書の使い方を研究してくる」
「行ってらっしゃい」
昨日と今日の実験で銃火器の類は無限に召喚できることが分かっている。
次は兵器に挑戦だ。尤も、戦車とかは扱い方分からんがな。
ジャスティンとは昨日の内にタメ語で話すようになった。
勇者様って柄じゃないから敬語を止めてもらった。
「召喚。高機動車」
自衛隊年鑑を見ながら召喚する。
『キタヨ、キタヨ』
あれ?何か聞こえた。
『ユウシャ、ユウシャ。ボク、ドウスレバイイ?』
あの、何かライトがピカピカ光ったり、ワイパーが動いたり、何より高機動車が俺に纏わりつくんですけど?
「高機動車が喋って動いてる?」
『セイレイ、セイレイ。書ニ、頼マレタ。ユウシャ、助ケテヤッテクレ、ッテ頼マレタ』
「高機動車の精霊なのか?」
『違ウ、違ウ。コノ世界ニ、昔カラ居ルセイレイ』
「もしかして、他の車両なんかも?」
『操レル。操レル』
「数は?」
『セイレイ、イッパイ居ル。数エ切レナイ』
「いよっしゃーー!! これで勝つる!!」
正直なところ、兵器関連の物は全て無駄になってしまうかと思ったが、流石異世界召喚。その辺もばっちり考慮済みか。
『デモ、気ヲ付ケテ。魔王軍手ゴワイ。トッテモ手ゴワイ』
ですよねー。つうかファンタジー相手に現代兵器ってどこまで通用するんだ?
「なあ、機械が動かなくなると精霊ってどうなるんだ?」
『依代ガ無クナッタセイレイ、還ル、還ル。デモ、呼バレタラ、マタ来ル』
「死という概念は?」
『セイレイ、世界ノ一部。セイレイ、死ヌトキ、世界ガ、死ヌトキ』
死という概念は無いのね。
良かった。俺の戦術じゃ、現代兵器は捨て駒になってしまう。
その度に精霊が死んでたら気が狂いそうだ。
『ユウシャ、優シイネ、優シイネ』
「…臆病なだけだい」
『ユウシャ、照レテル。ユウシャ、照レテル』
「うっせい」コツン
『イテナ』
次はこの世界の魔法の戦力把握と行きますか。
「ジャスティンの騎士団には魔法使いは居るのか?」
「勿論居るよ」
「攻撃魔法が使える奴を呼んでくれ。出来れば系統別に」
「分かった」
数人の魔法使いが呼ばれた。
「この世界の魔法の威力を知りたい。あの案山子に向かってそれぞれの得意とする攻撃をしてくれ」
「はっ!」
「一番手、炎属性、行きます! ファイア・ボール!」
召喚された炎の塊は案山子に直撃する。
ウッゼ~貴族が対戦車ロケットを地味と言っただけの事はある。
案山子は一瞬で炎に包まれる。が、
「……なあ、ジャスティン。あの案山子、何で出来るんだ?」
「丸太だけど?」
「普通に原型残ってるよな?」
「丸太を完全に焼き尽くす魔法使いなんて早々居ないよ?」
「………」
「二番手、水属性、行きます! アクアウォーター!」
大気中から召喚された水が丸太に向かう。
その水量は消防車の放水を上回るだろう。でも、
「なあ、ジャスティン」
「何?」
「あの丸太どれだけ地中に刺さってるんだ?」
「50センチ位かな?」
「傾いてもいないよな? これ威力あるのか?」
「相手が鎧とか着ていると耐えられることも有るからね。その代わり一度押し流せば鎧が重くて簡単には立てないよ?」
「……………」
「三番手、雷属性行きます! サンダーボルトー!」
ビリビリビリ。四方に飛び散る雷。
うおっ!? 危ねえ、こっち来た!
「どこ狙ってるんだ!?」
「雷属性は制御が難しいんだよ」
「…………」
「接触すれば問題はないよ? 威力を調整して流すと肩こりが取れるんだ」
「…………」
「四番手、土属性、行きます! アースニードル!」
トタタタタタと走り出す魔法使い。
「なあ、ジャスティン。彼は何をやってるんだ?」
「土属性は有効範囲が狭いからね。ここからでは完全に射程外だよ」
「…………」
「はぁはぁ、アースニードル!」
ドカーン!……ドサ!! 地面から盛り上がった土の槍は案山子を完全に貫通した。
「威力はそこそこあるのか? でも剣で斬りつけた方が早いな」
「元々土属性は防御専門だから」
「それなら使えるか」
「弓矢を防ごうと上まで壁を延ばすと魔法が切れた時に生き埋めになるけどね」
「使えねえな!? おい!!」
「最後、風属性、行きます! ハリケーン」
ヒュオオオォォォ
周囲の風が渦を巻いて強風が発生する。
「おお、これは期待できそう」
オオオォォォーーーー………
「…………え? これで終り?」
「そうだよ?」
「ただの強風じゃん!?」
「風属性ってこんなものだよ?」
「じゃあ、圧縮して鎌鼬にするとか…」
「風を圧縮? そんなことできる魔法使い、今居るのかな?」
「…………orz」
「どうしたの?」
「駄目だ。神は死んだ。欝だ死のう」
「団長? 勇者様はどうなされたのですか?」
「ただの発作よ。心配しなくて良いわ。時間がたてば勝手に治るから」
こうして、俺はこの日、兵器関係は精霊が操ってくれることと、この世界の魔法が全く使えないことを確認できたのだった。
「なぁ、ジャスティン」
「何?」
「魔法って戦闘でどんな感じに使ってるの?」
「う~ん? 例えば火の魔法なら油を流し込んだ落とし穴に発火させるとか、水ならダムを決壊させて押し流すための水を溜めるとか、雷なら地面に引いた金属板に電流を流すとか、土なら落とし穴を掘るとか、風なら土煙を起こして相手の視界を塞ぐとか…」
「早い話が、直接戦闘には参加しないのね」
「魔法ってそんな物だよ?」
「はぁ、魔法に幻想を抱いていた俺が馬鹿だった」
「幻想を抱いて溺死しろ」
「酷っ! しかも本当にジャスティンってこの世界の生まれ!?」
「当たり前じゃない?」
勇者(仮)の受難は続く。
「い~もん。メカと精霊だけがと~もだちさ~♪」
「悲しい子。皆に頼りにされているようで、その実、良いように利用されているだけなのに気付かないのね」
「うっさいよ!? しかも何、ジャスティン、キャラ変わりまくりだよね!?」
「だって楽しいじゃない?」
「orz」
「これはまた、見事なorzね。ほら、私の足をお舐め」
「帰って来てー! 召喚直後の騎士の名に相応しいジャスティンに戻ってー!」