さて、皆さんこんにちは。勇者(仮)の北条透です。
あれだけ盛大に見送りをしてもらいましたが、魔王討伐はゆっくりやろうというのが我が軍の基本戦略です。
要塞予定地への到着は出立から二週間を予定。
俺は一足先に土木作業をする予定の土系統魔法使いと水系統魔法使い、それと護衛の騎士と共にMH-53Eで拠点予定地の湖に来ています。うむ、良い景色です。
「では、この設計図通りに要塞建設を行う。最上流の湖全周には空堀を造り、その内側には壁を造る。その内側は湖畔まで約500mあれば良い。滑走路は1kmクラスが一本。滑走路脇にはアーチ型のハンガーを造る。土魔法でアーチ型に成型し、セメントで固めろ。湖との間には小さくて良いので堤防を設けること。作業は精霊と共同で行え。水の魔法使いはこれから俺が大型艦を召喚するからその津波が岸に到達させないように押さえてくれ。では作業開始!」
自衛隊年鑑を開いて次々と施設科車両を召喚する。
施設作業車、グレーダ、掩体掘削機、バケットローダ、特大型ダンプを次々と召喚。
『オシゴト、オシゴト』『働クヨ、働クヨ』
魔法に負けない速度で作業を、寧ろ土砂の移動なんかでは魔法使いを上回る速度を見せる。
それを尻目に湖の中心へと向かう俺。MH-53Eでホバリング。水系統の魔法使いはここを中心として円状に展開し、水面に立っている。
「召喚! カール・ヴィンソン!」
排水量10万トンを超える質量が突然現れた事により、水が押し退けられて津波が発生する。
しかし、それを周囲に展開した魔法使いが押さえ込み、何とか空母召喚は無事に終わった。
「召喚! ミズーリ!」
次いで、カール・ヴィンソンの艦尾方向に戦艦ミズーリを召喚します。満載排水量5万3千トン。50口径40.6cm砲を3連装9門搭載する戦艦です。他にもハープーンやトマホークを搭載しています。
『ユウシャ、ユウシャ。艦体(カラダ)ガ大キ過ギル。動ケナイ』
「うん。色々と済まない。出来れば我慢して欲しいんだが?」
『面白イ装備、タクサン有ルカラ我慢スル』
「サンキュ」
これで航空戦力が艦載機限定で使用可能になりました。
ジャスティンによれば、これからは魔王軍の幹部クラスが出てきてもおかしくないとの事。戦力は多いに越したことはありません。
それに、艦内に五千人以上を収容可能な大型艦です。これからの拠点になってくれそうです。
地上部の方も次々と作業が進みます。
いや~、作業が速いですね。旧帝国軍はこれを人力でやってたって言うんですから感心します。本隊到着までには陣地の構築は終了するでしょう。
では、俺は周囲の森にセンサーを仕掛けに行きます。
対人センサーと指向性散弾を設置します。これは遠隔コントロールで起爆します。
国際条約で無差別に爆発する地雷は所有が禁止されたんですよね~。
設置を自国内に限れば許可しても良さような物を。つーか、これでMLRSまで禁止されたら数で劣る日本の防衛、大打撃です。
指向性散弾。元は対車両用の地雷です。
流石に装甲車両への効果は未知数ですが、非装甲車両はスクラップにできます。
当然、元が対車両用なので米軍の対人地雷、M18クレイモアより破壊力は上です。当然サイズも大きいですが。
ただ、森林部だと本体の隠蔽には有利なんですが、破壊力が削られるんですよね。
陣地予定地に戻ってきました。
湖は基本的に湧水なので、流入河川は小さいので問題ないのですが、下流の湖に流れている川にだけは橋を架けなくちゃなりません。
これは91式戦車橋を架けておきました。尤も、要塞内の大部分で、この川、地下に埋めます。
でも、気付かすに大重量で踏んでしまうと、空気の混ざらない管路で流れている川、破裂するんですよね。
都市部で不用意に戦車を動かすと水道管が破損するのと同じです。結果、戦車はこの部分、橋を通ってもらいます。
で、呼び出す車両ですが、例によって90式戦車と89式戦闘装甲車、82式指揮通信車。
新参が99式155mm自走榴弾砲、87式自走高射機関砲、MLRS。
後は、水際ということで海兵隊の水陸両用装備から幾つか引っ張ってきましょう。
LAV-25、八輪の装輪装甲車で25mm機関砲を搭載。最大速度は陸上で100km/h。水上で12km/h。
AAV-7、主に上陸戦を想定した装軌装甲車で兵員25名を搭載可能。40mm自動擲弾銃とM2重機関銃を装備。最大速度は陸上で72km/h。水上で13km/h。
日本には水陸両用車が無いので助かります。流石は世界中に展開する合衆国海兵隊です。
次に、回転翼部隊としてAH-64DとOH-1。UH-60JとCH-47Jを召喚。
部隊を分けて、陸上に駐機する組と空母に駐機する組に分けます。
定期的に上空から偵察をしてもらいましょう。30mmチェーンガンなら多少の木々は吹き飛ばして敵軍に損害を与えます。
今までみたいに魔物の確実な殲滅が目的ではないので大火力の面制圧が可能です。
よし。戦車橋とヘリポートもありますし、これで運用態勢は整いました。
土の魔法使いに格納庫(と言ってもアーチ型の屋根があって、開口部が防水シートで覆えるだけ。一応周囲より少し高くなっている)も造ってもらいましたし、これで滑走路が出来れば難攻不落の要塞の完成です。
それにしても、土の魔法とセメントの組み合わせは便利です。中に鉄骨と鉄筋を入れればそれだけで高強度の鉄筋コンクリートモドキの壁が出来ちゃいます。
監視塔も一瞬で完成しました。尤も、セメントが固まるまで土の魔法使いには代わる代わる魔法をかけ続けてもらわなくちゃいけませんけど。
二週間後、魔王討伐軍本隊が到着しました。
すると、何と言うことでしょう!森を抜けるとそこは要塞でした。
10m近く掘られた空堀、底には先端を尖らせた丸太が落ちて来る者を待ち構えます。
その上に高さ10mの壁が湖を囲むように造られています。
空堀の底から登ろうとすれば合計20mもの高さを登らなくてはなりません。
入り口は要塞側に上がっている巨大な板を下ろすことで架けられます。普段は内側に跳ね上げられるので、城門に匹敵する部分は無いんです。
周囲は完全に空堀と壁に囲まれます。空堀と城壁の間は三車線分ほど空間が有り、そこに車両を展開させることも可能です。
そして、城壁の一番下には指向性散弾がセットされています。必死に登ってきた魔物さんをお出迎えです。
中に入ると50m間隔で造られた監視塔が目を引きます。
城壁から少し内側に5m程高く建てられ、12.7mmM2重機関銃と7.62mmを使用するM134ガトリングガンとFN-MAG(M240)軽機関銃がそれぞれの死角をカバーするように設置されています。
これは対空射撃も可能となっていて、少数ですが、空を飛べる魔物を迎え討ちます。城壁の上にもFN-MAGが設置できる銃座が有ります。元々、地面に置いて伏せた状態での射撃を前提としているFN-MAGはちと重いので、これが有ると便利です。
唯一、堀の無い川の部分ですが、川底には機雷が仕掛けられており、銃座が沢山設置されているので、攻略の難易度は大して変わらないでしょう。
川も要塞内に入ったら100m以上を水道みたいに完全に空気を混ぜずに、専門用語で言うところの管路状態で流れており、その管路を流れに逆らって通れたとしても、一定以上の大きさの物体は動体センサーに引っかかるので進入は容易ではありません。
そして、一番目立つのが遠くからでもその大きさが判る航空母艦です。
その艦体サイズたるやマケドニア王宮にも匹敵します。
正規の運用には五千人以上を必要とする巨大艦。討伐軍を全て収容してもお釣りが来ます。
そして、火力支援を担当するアイオワ級3番艦ミズーリ。その16インチ砲は戦術兵器としては最強クラスの攻撃力を有します。
「呆れた。たった二週間でこれだけの要塞を造っちゃうなんて」
「魔法と施設科車両のお陰だな。それにしても魔法便利だな。目的の形に成型してもらって、鉄筋仕込んで、セメントと水を混ぜれば即席のコンクリートになったし。流石に強度の出る細骨材、粗骨材の混合比なんて知らないが、石を積み上げるよりはよほど強度が出てる」
「セメント?」
「水を混ぜれば固まる粘土の親玉だよ」
「へぇ~。滑走路も出来てるんじゃない。でも、壁なんかとは色が違うんだ?」
「壁はセメント、滑走路はアスファルト。材質が違うからな。尤も、ハリアーの発着スペースだけはセメントだけど」
それぞれの問題は、セメントだと施工に時間が掛かる。濡れると滑る。補修が大変。
アスファルトは高熱に弱い。絶対強度が低い。といったところか。
まぁ、現代日本でも建築資材を二分している材料だし、それぞれの利点を活かして行きましょう。
「へぇ~。もう戦闘機、呼び出したんだ~」
「ああ。空母の方もだが、即応戦力は用意している。流石に常時エンジンを掛けているなんて事は出来ないが、俺が居なくて召喚できませんでした、なんて言ったら折角造った滑走路が泣く」
「結構大きいんだね?」
「いや、コイツは最小の部類に入るぞ?この滑走路は平均の半分しかないからな。JAS-39グリペン。航続距離と攻撃力は物足りないが、それは空母搭載の大型機で補えば良い。何より整備性が他の機体より高いらしい。毎回飛行後に機体を召喚しなおすのは大変だし、数回は整備無しで戦ってもらわないと」
「あっちの飛行機は大きいね?」
「あれはC-130っていう輸送機だからな。首都滑走路との間で補給路の確保に役立ってもらう。まあ、20tの物資を運べるからな。そんなに運ぶ必要無いだろうが」
「20t!?」
「まぁ、この滑走路じゃ運用出来んが、122tを積める機体だって居るし」
「122t!? 私の常識が崩れていく。馬車で必死に補給路の確保をしてきた私達は何なの?」
「この滑走路でも77tを空輸可能な輸送機を運用できるけど、明らかに性能過多だから使わない。それに余り重量級の機体を運用すると滑走路の劣化が早まるし。まぁ、最悪、滑走路は戦闘機専門にして、その辺の地質がしっかりした所をローラーで均して1km確保すれば使えるんだけどね」
「…もう良いわ。現代兵器の非常識さは充分理解したから。これ一機あれば、補給部隊を十分の一に出来るわよ」
「何時でも何処でも迅速に、が勇者軍のキャッチフレーズだからな。今度、兵隊に空挺訓練受けさせようかな。今までも迅速だったけど、今度は規模が違うぞ。千キロ先にでも数時間で展開できる。風の魔法使いが居れば降下速度も落とせるし、ある程度コントロールも利く。そんなに難易度高くならないだろうからな」
「…こんな要塞を二週間で造ることと言い、兵隊をそんな遠くまで運ぶことと言い、末恐ろしいわね、ホント。そんな展開されたら世界中の戦術家が泣くわよ?」
「攻撃力の面で、歴代勇者に勝てないからな。便利面で勝たないと」
「ネギ○」なんかじゃ、魔法使い単体で戦車とかイージス艦上回るとかどんだけだよ。しかも主人公の父親、地形変えるとか完全に戦略級ですよね。
湖にはカール・ヴィンソンとミズーリの二隻が浮いているが、拠点にするのはカール・ヴィンソンの方。
馬は要塞内で適当に馬舎を作って繋いでおく。定期的に草むらに行かせて運動させますけど。
カール・ヴィンソンまでは軽徒橋が架けられています。これは浮力を利用した浮橋でオートバイまでなら走行できる構造です。
で、最初はうきうきしていた討伐隊面々もカール・ヴィンソンに近付くにつれて段々、口数が少なくなっていきます。
だって、近付けば嫌でも大きさが判りますからね。
東京駅が海に浮いていると想像してください。東京タワーが横になっているでも良いです。
艦測面まで行くと飛行甲板までタラップが降りています。これ登るの地味に大変なんですよね。でも、一気に飛行甲板まで行かないと絶対に迷うので仕方ないですけど。で、登りきると全員を一度整列させます。
「傾聴! この船が今後、我等の拠点となる。艦内はどこもかしこも似たような構造で、迷えば比喩ではなく遭難する。先遣隊では実際に遭難者が出ている。艦内にはいたる所に飛行甲板への道案内が貼ってある。迷った場合はそれに従って一度、艦外に出ること。これより艦内簡易地図を配布する。自身の所属部隊ごとに区画が決まっているので、基本的には、そこと食堂以外へは行かないように。迷うぞ。では、第一小隊から移動開始」
既に艦内にある程度馴染んだ者が案内を開始します。にしても、この艦内、本気で迷いやすいんですよね。下手したら遭難した後に死者が出ます。先遣隊では実際に遭難者が出て、精霊に誘導してもらってようやく見つけました。
さて、ツッコミ役のジャスティンも来た事だし、ここらで少しネタに走っておきますか。
「は~ははは! この艦は俺の城だ~! 俺はこの地に自分の王国を作る! 魔王城へGO!」
『ユウシャ、ユウシャ。コノ船、動ケナイヨ?』
「精霊様、気にしないで下さい。偶にトオルはこうして発作を起こすんです」
『ワカッタ、気ニシナイ』
…ツッコミが入りませんでした。折角、続な感じの戦国な自衛隊の海兵隊大尉を真似たのに…。
「マイナー過ぎて解る人、居ないのでは?」
「でも、面白かったんだよ。続な感じの戦国な自衛隊。小説で続編も出てたけど、現代に初代の伊庭三尉の娘が居ましたとか、やっちゃ駄目だろ。あの人、戦国時代で浮気っぽいことしてたぞ」
「よく解りませんが、全員収容完了しました」
「うん。今回は完全に外したね。警戒は先遣隊から人員を選出してやっておくから、休んで良いよ?」
「ええ。屋根の下で休めるのは久しぶりです。それにしても、狭さに我慢すれば首都より快適な生活が送れそうですね」
こうして、魔王討伐軍は本隊を加えて、要塞の本格稼働に入りました。しかし、これからは魔王軍の戦力も次々と強化されてくるらしいです。早く魔王城の所在を突き止めないと。