さて、皆さんこんにちは。遂に要塞建設を行った北条透です。
今、首都に向かってC-130が飛び立って行きます。首都に残した家族と文通が出来ると知って手紙の量がえらいことになってます。
まぁ、流石に何年もここに篭る心算はありませんが、魔王城が見つからないうちは動くに動けません。
で、滑走開始。魔王討伐軍の面々、ガン見です。そう言えば、貴方達、固定翼機が飛ぶところ見るの初めてでしたね。
積んでいるのが手紙だけで軽量のC-130は滑走路を使い切ることも無くふわっと浮き上がります。
オオオォォォーーーー!!
歓声も上がります。そして、首都の方向に飛び去る輸送機が見えなくなるまで手を振っていました。
あちらから輸送機が帰ってくるのは、手紙が家族に渡り、返答を待ってからですから、数日は掛かりますかね。
「それにしても凄いよね。こんなに首都と離れているのに手紙のやりとりが出来るなんて」
「設備があれば数分で送れるんだがな」
「またまたご冗談を」
いえ、本当ですよ?ただ、送れるのは紙に書かれた文字などであって、紙自体じゃ無いですけどね。人、これをFAXと呼ぶ。
今現在、要塞内では二交代制に分けて生活しています。
二日に一回は空母に。もう一日は地上に建てられたプレハブ小屋に。
いくら軽徒橋があるとは言え、空母から直にこっちに来て戦闘配置に着くのは容易ではないんです。
そこで二交代制でプレハブに泊まってもらうんですが、これが暑い。野宿の方がマシと野営みたいに寝る者もいる始末です。
余りに不評だったんで、土の魔法使いに頑張ってもらって、コンクリモドキの宿舎を建てました。快適性は……まぁ、そこそこです。
で、今日はカール・ヴィンソンからの初発艦の日です。F/A-18Eにちょっくら荒野を越えて魔王の谷まで行って来てもらいます。
『ジャ、ユウシャ。行ッテクル、行ッテクル』
「おう、頼んだぞ」
手を振って機体から離れる。…真横に居れば影響ないよね?
カール・ヴィンソンからF/A-18Eが飛び立ちます。汎用性の高いマルチロール機は使い勝手が良いですね。
今まではヘリで偵察してたんで航続距離の問題上、魔王の谷まで行けなかったんですよね。
シュワァァーーーン!!!
う、五月蠅い。流石は騒音で訴訟にまで至ったホーネット。つうか、この距離でジェットエンジンに近づいたの初めてだし。
キィィィーーーン。
…あ、耳がいかれた。流石はパチンコ屋の騒音にも耐えられない俺の耳。
って、危ない! 飛び出したF/A-18Eは失速しかけ、水面すれすれで翼が揚力を得て、飛び上がりました。
あ~、ビックリした。…それにしても、何で全備重量に届いていないF/A-18Eがあんなにギリギリの発艦したんだ?
Q.飛行機が飛ぶために必要なもの
A.揚力
Q.揚力を得るために必要なもの
A.対気速度
ポクポクポク、チーン!
あ、そうか。空母が完全に停止しているからか。カタパルトだけじゃ速度不足なのかな?
仕方ない。次から風の魔法使い呼んで発艦の時に風を吹かせてもらおう。一度高度を取れさえすればその後はどうにでもなるべ。
トントン。ジャスティンに肩を叩かれました。
パクパクパクパクパク。…え、何? ご免。ジャスティン、何を言ってるのか、分かんない。読唇術なんて会得していません。
パクパクパクパク…「トオル、大丈夫?」
あ、ようやく耳が回復しました。いやー、調子に乗って、映画みたいに中腰で指差してGO! とかやるからですね。今度からしっかり耳を塞ぎましょう。
「随分とギリギリな発進だったけど、あれで大丈夫なの?あと、どの位で帰ってくるの?」
「どうやらカタパルトだけじゃ速度不足らしい。あと、帰ってくるのは、凡そ2~3時間ってとこじゃないかな。魔王の谷、どうなってるかよく分からんし」
そう言いながらタラップを降りて、軽徒橋を渡る。
要塞内は結構活気に満ちています。
何せ、今まで見たことが無いような構造ですから。皆興味津々です。
俺はと言うと、滑走路近くの地下壕に造った兵器庫のチェックをします。
召喚を前提にしているからそんなに貯蔵量は必要ないけど、やっぱりある程度は入れておかないと。
火気厳禁、立ち入り禁止。誘爆すれば基地の半分は吹き飛びます。
入り口が重いので開けるには車両に手伝ってもらわないといけません。
兵器庫はコンクリートで造られ、地下三メートル位に設置してあります。
搬出は高機動車あたりに繋いで牽引です。
次に武器庫のチェックを行います。
こっちは個人携帯の武器が収容されています。
AK-47やMINIMI、FN-MAG、M2なんかですね。
監視塔の中にスペースを設けてある程度入れてあるんですが、量的に少し不安です。
全部口径が違うのでやり辛くはありますが、野戦でもないですし、弾丸を大量に配布するので問題はないでしょう。
AK-47は要塞内に居るときは75連ドラムマガジンを使ってもらいます。少し重くなりますが、特に問題は無いでしょう。
MINIMIとMAGはベルトリンク。予備銃身も用意しないといけません。
他にガトリングガン専用のマガジンやバッテリー、M2用のベルトリンクもです。
全部、油紙に包んで箱に詰めます。この箱、結構重くなってしまったので、これもリアカーに乗っけて車両で牽引してもらいます。
城壁の上まで上げるのは人力ですけど。この武器庫、要塞内に六箇所あります。
全部を回りますが、移動は徒歩じゃ大変なんで高機動車です。
ここは各小隊長以上なら開ける権限を持っています。一番気を付けるのは湿度ですね。
一度開けて閉める場合は風と水の魔法使いに湿度を下げてもらいます。
今日もその辺にいた魔法使いを捕まえて同行させています。
「勇者殿、発電機の調子が良くないのですが」
「勇者殿、この重機関銃は何処に据え付けるのですか?」
「勇者殿、車両隊の待機場所は…」
「勇者殿、馬が暴れて仕方ないので一旦綱を解いて、草むらに放してもよろしいですか?」
「勇者殿、居住性確保の為にエアコンを宿舎に導入しませんか?」
稼動したての要塞には不都合が付き物です。
中の人間も慣れていないですし、何より構造的な欠陥が見つかる場合もあります。
実際に運用してみないと分からないことって結構あるんですよね。
あと、最後の奴。簡単に言うけど、エアコン据え付けたり、電源確保するの誰だと思ってるんだ。そもそも、宿舎は仮眠施設なんだから我慢なさい。プレハブや天幕に比べればマシでしょうが。
ゴオオォォォーーー
あ、どうやら偵察に出ていたF/A-18Eが帰ってきたみたいです。急いで空母に戻りましょう。高機動車――!!
『呼ンダ? 呼ンダ?』
「軽徒橋まで送って」
『ワカッタ。乗ッテ、乗ッテ』
さて、撮影された偵察写真を確認している俺ですが、久しぶりにorzな気分です。
「これは……凄い数ね」
そうなんです。魔王の谷の最深部に魔王城ありました。……沢山。
「何なの、この数!? 和式洋式中華にアラビアっぽい奴まであるよ!? あれか、これは歴代魔王の数だけ魔王城がありますよって事なんか!?」
「勇者によって魔王城の形の証言が異なると思っていたら、こうゆう事だったのね。で、どうするの?」
「これは、流石に全部破壊するのは容易じゃないべ。どうしよう。広域爆発系は建物内に与える損害が小さすぎるし、徹甲爆弾は効率悪すぎるし。そもそも魔王をそれで仕留められるって保障が無いし」
「でも、無限に呼び出せるんだし、問題無いんじゃない?」
「十、二十ならまだしも、この数じゃ俺の気が萎える。ひ弱な現代人、舐めるなってんだ」
本気でどうしましょう。
これ、地道に一個ずつ壊して行くしか無いんですかね。
アウトレンジは現代兵器の基本です。これが失われると現代兵器のウマミ半減です。
でも、今回の偵察で魔王の谷までの詳しい道のりと、谷内部の地形が把握できました。
谷とは言っても、絶壁に挟まれているだけで、内部は森になっています。
しかも、中は結構広い。山手線の内側と同じ位でしょうか。
しかも、結構密度濃いです。ここまで見事な森だと、谷と湖の間の荒野ってどうやって出来たのか非常に気になります。
「でも、ここまで見事な森だと車両での移動はかなり制限されるわね」
「はぁ、欝だ。世界はそこまで魔法を贔屓にしたいか。現代兵器を操る俺が嫌いか。もう、いっそ、カール・ヴィンソンに積んであった核を使って全部吹き飛ばせば戦争なんて終るのにな」
「核って何?」
「国境という線を消し去ってくれる消しゴムさ。ただ、放射能っていう目に見えない有毒物質を撒き散らしてくれるがな。要塞染みた城には効果が薄いが何十発も打ち込めば確実に蒸発するだろうし」
「放射能って?」
「俺の世界じゃ健康に害の無いレベルでもアレルギー反応が出る物質だ。いつの間にかハゲになったり、白血球が無くなって病気が治らなくなったり、ゴ○ラみたいな放射熱線撒き散らす巨大生物が生まれたり、言い出せばキリが無いな。水脈と気流を調査しないとマケドニアに到達するか、しないかも判らないけど、調査の方法が感想板と設定に載せた方法だからやりようが無いんだよな~」
「要するに、放射能の行く先が特定出来ないのね。うん、判った。絶対使うな」
気分は円卓の鬼神の相棒、片羽の妖精です。いっそ、観賞用にF-15C一機呼んで片羽赤く塗ろうかな。
ユウシャはウツになっている。
「え~と、右斜め45°から、えい!」
ガツン!
「あぐぅ!?」
キシからツッコミがはいった。ユウシャはモンゼツした。
「うおぉい、ジャスティン! 俺の頭は昭和のテレビか!?」
「え? 壊れたモノを直すにはこれが一番じゃないの? メイド・イン・タイワンは叩けば直るんでしょ?」
「そのモノって物だよね!? 俺は者だから! それに、俺はメイド・イン・ジャパンだよ! そもそもそれ、十年以上前の話だよ! お前は何処のロシア人宇宙飛行士じゃ!?」
「ジャパンって何?」
「タイワン解って、ジャパン解らないんかい!? 日本だよ、黄金の国だよ、神の国だよ!」
「トオル、貴方は少し、考え方が古いようね」
「じゃあ、日本だよ、オタクの国だよ、平和の国だよ! って言うか、絶対に知ってるだろ!?」
「ワッタシ~、ニホンゴ、ワッカリマセ~ン」
「こ、コイツ……!」
結局、ジャスティンは本当に知りませんでした。ギャグパートって怖いな、オイ。
で、後日、本当にF-15Cを呼び出して右翼を赤く塗って片羽の妖精仕様なんて喜んでいたのは内緒です。
今度はF-14Aを呼び出して北の海から来る悪魔兼英雄仕様とかやってみようかな。
いや、そう言えばコイツは艦載機だから普通に使えるんだった。
今度、使おうかな?でも、妖精と違って、悪魔兼英雄はほぼ、全体を塗り直さなくちゃいけないので大変です。
しかも、整備に手間隙かかる機体なので、一~二回使ったら新しいのと変えなくちゃいけません。…やっぱり観賞用にしときましょう。
で、忘れた頃にC-130が帰ってきました。しかも、結構な補給物資を積んで。
何でも、あのウッゼ~貴族どもが公的資金の私的流用で捕まったそうです。ざまぁ見ろ。
で、教会は王様を説得。討伐軍にそこそこの予算が与えられました。
つーか、俺は会ったこと無いんで知りませんでしたが、王様まだ十二歳だそうです。それじゃ、周囲に流されても仕方ないか。