外伝
とある日。
「笑いがとまらないねぇ」
「おう、ミス・ロングビルどうした?」
学園のテラスでフーケと俺がかち合う。
「いやね。あんたのいった清掃事業の売上がすごいことになってね」
「ほう、仕事が早いね」
「まあね」
例の清掃事業だが俺はフーケに一任している。
俺の分の取り分は一番安くしてもらっている。
なぜなら金を持っても買いたいものがないからだ。
「で? どんなもん?」
「このまま行けば年間千エキューは固いね」
「へぇ」
「へぇってすごいことなんだよ?」
しらんがな。
平民の一般的な収入の五倍くらいはあるのはわかるが元から千エキューは行くと思っていた。
「がめついことするなよ~。滑ったら困るのは君だよ?」
「わかってるわよ。しかし、笑いが止まらないねぇ。ヴァリエールの後ろ盾もあるがあんたの考えた事業自体が有能すぎだ。貧乏貴族も平民も喜んでるよ」
そりゃ誰も損しない事業だからな。
街は綺麗になって衛生面でも安心できるし、雇用も安定する。
今までがどうかしてたと思うぜ。
「こんな簡単に設けられるなら盗賊なんてやるんじゃなかったよ」
「はは、そりゃよかった。清掃事業が安定したら次もあるからよろしく~」
「はいボス」
フーケには俺のことをボスと呼ばせている。
フーケからは生い立ちと仕送りしていることを教えてもらった。
ティファニアのことは隠していたが。
まだ信用に値しないのだろう。
「そういや、仕送りしてる孤児院のことだが、警備とかなしでいいのか?」
一度フーケの仕送りしている孤児院を大きくしてまとめて管理しようと案をだしたが、断られた。
ま、ハーフエルフいる時点で色んな意味でこれ以上の干渉は無理なわけだが。
「必要ないって言ってるだろ? あまり人目につかせたくないんだよ」
過保護にもほどがある。しかし、エルフを囲っている以上異端扱いを受ける可能性が高い。
「まー、詳しくは聞かないけど、何? カワイイ子でもいるの?」
「妹だよ。大切なね」
うん、美しい。結婚してくれ。
場所は移り変わり図書館へ。
「始める」
「了解」
タバサに文字を教えてもらっている。
なるほど、自動翻訳とはよくいったものだ。
文字を教えてもらって一時間。
「どういうこと?」
いつもと変わらぬ抑揚で、タバサが言った。
「え?」
タバサは、一文を指差した。
「ここには、〝皿の上のミルクをこぼしてしまった〟と書いてある。しかしあなたは、〝取り返しのつかないことをしてしまった〟って読んだ」
「そう読めたんだからしかたない」
タバサは首を振る。
「ううん。あなたは間違えていない。この〝皿の上のミルクをこぼしてしまった〟という文章は慣用表現。その意味は確かに、〝取り返しのつかないことをしてしまった〟になる」
タバサは言葉を続けた。
「あなたはさっきから、書いてあることと微妙に違う文章を読んでいる。でも、間違っていない。むしろよく要約されて、文脈からするとより的確な表現になっている。まるで文章全体を、言葉のように捉えているみたい。確かに、犬やネコを使い魔にすると、人の言葉をしゃべったりできるようになる。でも、それだけでは、要約が可能な理由の説明にはならない。今みたいな朗読はありえない」
「なんつうか、頭の中で言葉を理解して言葉にすると気にまた言葉用に文字を変換してるって感じがさっきからしてる」
例えばと思いついて指を指す。
「これタバサはなんて読む?」
俺の目にはスケベと書いてある。
「エッチ」
「俺にはスケベと読める」
「そう意味で言ってない」
どうゆうことだろうか?
「ここにはなんて書いてあるんだ?」
タバサの頬が赤くなっている。
「そ、それは、男性器のことが書いてある」
頬を赤らめながらタバサが答えた。
「なるほど」
チキショウかわいいな、チューしたい。
「んじゃこれは?」
俺には男女のキス模様が書かれているように読める。
「男はキスを求めている。女はそれに答え舌を使い濃厚なキスをしたと書いてある」
やっぱりおかしな翻訳になっている。
ふと思いついたことがある。
俺はペンを借りて紙に文字を書く。
「これなんて書いてあるかわかるか?」
タバサに文章を見せる。
するといつもより神妙な顔になった。
「ここに書いてあることは事実?」
「事実ってゆーかそのまんまの意味だけど? 読めるのか?」
「読める。ここにはタバサは俺の嫁と書いてある」
おい!頭の自動翻訳!
俺はタバサは俺のお気に入りと書いたはずだ。
「うむ、本当は俺はタバサは俺のお気に入りと書いたはずなんだけど?」
タバサの顔がどんどん赤くなっていく。
「そう」
そういって顔を伏せた。
「私もあなたのことを気に入っている」
「え? なんか言った?」
タバサのボソリと言った言葉は聞こえなかった。
なぜなら次はどんな卑猥な言葉を言わそうか考えていたからだ。
「なんでもない」
「そうか、文字については齟齬が発生するものの大体伝わるからこんなもんでいいよ」
タバサは首を振った。
「最後まで付き合う」
「え?」
「難しい単語も存在する。ルーン文字だってある。一人じゃまだ無理」
「そうゆうことならまた今度頼む。この後はマルトーさんとこで俺の故郷の料理教えるんだ」
「わかった」
そう言ってお別れしようとしたら見事についてきて俺の作った料理を完食していった。
タバサ、お母さん助けたらキスしてやんぜ。
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思いつきで書いた。今は反省している。
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