「お願いがあるんだが……」
「あんだよ」
報酬金は分けないぞ? お前は名誉が大事なんだろ?
「ぼくの使い魔を連れていきたいんだ」
「ああ~」
ギーシュが足で地面を叩いた。
すると、モコモコと地面が盛り上がり、茶色の大きな生き物が、顔を出した。
「でっけぇモグラだな」
「ヴェルダンデ! ああ! ぼくの可愛いヴェルダンデ!」
モグラと言っても大きさは小さいクマほどである。この世界の生態系どうにかなってるな。
「そうだ。ああ、ヴェルダンデ、きみはいつ見ても可愛いね。困ってしまうね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」
らめぇえ、ミミズがいなくなっちゃうぅう。俺の考えを知るわけもなく、モグモグモグ、と嬉しそうに巨大モグラが鼻をひくつかせる。
「そうか! そりゃよかった!」
ギーシュは巨大モグラに頬を擦り寄せている。
「もう、結婚しちゃいなよ」
「ねえ、ギーシュ。ダメよ。その生き物、地面の中を進んでいくんでしょう?」←スルーした
「そうだ。ヴェルダンデはなにせ、モグラだからな」
「そんなの連れていけないわよ。わたしたち、馬で行くのよ」
ルイズは困ったように言った。
「わたしたち、これからアルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物を連れていくなんて、ダメよ」
ルイズがそう言うと、ギーシュは地面に膝をついた。
「お別れなんて、つらい、つらすぎるよ……、ヴェルダンデ……」
そのとき、巨大モグラが鼻をひくつかせた。くんかくんか、とルイズに擦り寄る。
「な、なによこのモグラ」
「ルイズがいい匂い放ってるんじゃね?」
「ちょ、ちょっと!」
巨大モグラはいきなりルイズを押し倒すと、鼻で体をまさぐり始めた。
「や! ちょっとどこ触ってるのよ!」
モグラと壮絶なマットプレイをしている様子を俺は主にルイズのパンツを覗くことで時間を潰した。
指輪の匂いも嗅いてる。ちゃんとその匂い覚えてくれよ。
ルイズが暴れていると、一陣の風が舞い上がり、ルイズに抱きつくモグラを吹き飛ばした。
ロリコンヒゲもじゃの登場である。
「誰だッ!」
ギーシュが激昂してわめいた。
羽帽子ってダセーよな。確か26だろこいつ。
「貴様、ぼくのヴェルダンデになにをするんだ!」
ギーシュはすっと薔薇の造花を掲げた。
一瞬早く、羽帽子の貴族が杖を引き抜き、薔薇の造花を吹き飛ばす。
「ギーシュ、負けてばっかりだな」
「僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね。きみたちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたってワケだ」
あの頭の弱い姫様め、なら初めからルイズに頼むなよ。
ん? 原作じゃ頼んでたシーンあったっけ?
ああ、嘘か。ギーシュに見つかる程間抜けな姫様から情報漏れたんだろ。
SIDE:ワルド
「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」
こう言えばたかが学生では口出しできまい。
昨晩いなくなった姫様を探していたら……
『アンリエッタ姫はウェールズ皇太子にラブレター送ってるぞぉおおお』
思いもよらぬ情報を聞きつけた。我らがレコンキスタにとって喉から手が出るほど欲しい情報だった。
風のスクウェアメイジである僕が聞き逃すはずがない。
叫んだものは密に処刑されただろう。その者がどこから情報を入手したかわからないが今となってはどうでもいいことだ。
「すまない。婚約者が、モグラに襲われているのを見て見ぬ振りはできなくてね」
「ワルドさま……」
立ち上がったルイズが、震える声で言った。
「久しぶりだな! ルイズ! 僕のルイズ!」
そう、今はこの愛らしいルイズとの再開に感謝しよう。
「お久しぶりでございます」
ルイズは頬を染めて、僕に抱きかかえられている。
「相変わらず軽いなきみは! まるで羽のようだね!」
「……お恥ずかしいですわ」
「彼らを、紹介してくれたまえ」
モグラの主である少年はグリフォン隊隊長の僕に憧れの目を向けているのはわかる。
( ゚ ρ ゚ )ボー
おそらく平民の彼からはなんの感情も読み取れない。
「あ、あの……、ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のサイトです」
ギーシュと指さされた少年は深々と頭を下げた。
使い魔と指さされた少年は相変わらず感情の読み取れない表情で僕を見ていた。
「きみがルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったな」
僕は気さくな感じを装ってサイトに近寄った。
「ぼくの婚約者がお世話になっているよ」
「そう思うならさっさと引きとってもらえませんかね? こっちはただ働きさせられてるんで」
まるで汚物を見るかのような目で僕を見ている。この平民は無礼だ。
「どうした? もしかして、アルビオンに行くのが怖いのかい? なあに! 何も怖いことなんかあるもんか。君はあの『土くれ』のフーケから盗品を奪い返したんだろう? その勇気があれば、なんだってできるさ!」
嫌味のつもりでいってやった。
「勇気と無謀は全くの別物ですよ。んで、これからの行動は無謀ってやつですよ? 隊長殿」
ムッとした。だが、こんなところで時間を食っている暇はない。昨晩の叫び声を聞いて僕のように頭の回るやつならそのうちここにたどり着いてしまう。
僕は使い魔を呼ぶために口笛を吹いた。
SIDE:ギーシュ
(((( ;゚д゚))))アワワワワ
「君、グリフォン隊隊長によくあんな無礼な口を聞いて生き延びれたね」
僕は正直殺されると思った。貴族それも、王国勤務の部隊長相手にアレだけの口をきける平民なんていない。
「ぇあ? 少なくともここで殺すメリットねーだろ? それにルイズの使い魔だ。殺したらルイズになんて言われるかわかんねーだろ?」
馬で移動しながら話していたため僕は思わず馬から落ちそうになってしまう。
そこまで考えていたって相手がどう動くなんてわかるはずないじゃないか?!
「確かに君の言う事にも一理あるが、この先、というかこれからはもう少し抑えてくれたまえ」
とばっちりを食うのは僕らだ。
「えー」
「えー、じゃないよ」
まったくルイズはよくこいつの相手をしてるな。
「しかし、いいのかい?」
「何が?」
ワルド達はずいぶんと先に飛んでいっている。
「アルビオンの行き方はギーシュが知ってるんだろ? 頼りにしてるぜ」
頼りにされるのは嬉しいが。
「そういうことじゃないよ。僕が言いたいのはルイズのことだ」
「ん? ああ、ワルドね。別にどうとも思わん。ロリコンだし」
「はは、ひどいな。まるでルイズが婚約破棄するって思ってるんじゃないのかい?」
思いついたことをサイトに告げてみる。
「イグザクトリー」
短くそう答えた。自信に満ちた答えは男の僕でもカッコよく思える。
「ごめ、トイレ」
馬を乗り換えるタイミングでトイレに行ってしまった。これさえなければ彼はモテるんじゃないのか?
SIDE:アンリエッタ
出発する一行を学院長室の窓から見つめていた。
目を閉じて、手を組んで祈る。
「彼女たちに、加護をお与えください。始祖ブリミルよ……」
隣では、オスマン氏が鼻毛を抜いている。
私は、振り向くと、オスマン氏に向き直った。
「見送らないのですか? オールド・オスマン」
「ほほ、姫、見てのとおり、この老いぼれは鼻毛を抜いておりますのでな」
アンリエッタは首を振った。
「トリステインの未来がかかっているのですよ。なぜ、そのような余裕の態度を……」
「すでに杖は振られたのですぞ、我々にできることは、待つことだけ。違いますかな?」
「そうですが……」
「なあに、彼ならば、道中どんな困難があろうとも、やってくれますでな」
「彼とは? あのギーシュが? それとも、ワルド子爵が?」
オスマン氏は首を振った。まさかと思うが私と同じ人物が頭を支配しているのでは?
「ならば、あのルイズの使い魔の少年が? まさか! 彼は平民ではありませんか!」
無礼な平民なのは確かである。
「姫は始祖ブリミルの伝説をご存知かな?」
「通り一遍のことなら知っていますが……」
オスマン氏はにっこりと笑った。
「では『ガンダールヴ』のくだりはご存知か?」
「始祖ブリミルが用いた、最強の使い魔のこと? まさか彼が?」
彼の詳しい力は知らない。だが、報酬をふっかけてくるのだからそれなりに自信はあるのだろう。
「えーおほん、とにかく彼は『ガンダールヴ』並みに使えると、そういうことですな。ただ、彼は異世界から来た少年なのです」
「異世界?」
「そうですじゃ。ハルケギニアではない、どこか。『ここ』ではない、どこか。そこからやってきた彼ならばやってくれると、この老いぼれは信じておりますでな。余裕の態度もその所為なのですじゃ」
「そのような世界があるのですか……」
私は、遠くを見るような目になった。その少年の唇の感触と体を触られた感触が、自分のそれに残っている。
私は、唇を指でなぞって目をつむると微笑んだ。
「ならば祈りましょう。異世界から吹く風に」
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ワルドファンのかたすいません。
これからワルドの扱いが酷くなります。
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