SIDE:フーケ
もう二度と敵に回したくない。
サイトの顔を思い浮かべ、アタシはそう思う。
彼の発案する仕事はあまりに魅力的だった。絶対に成功する。と確信できるくらいに計画も完璧だった。
実際うまく行って儲けも出ている。
学院での生活も変わってしまった。
ミス・ヴァリエールは最近アタシを見つける度に孤児院を助けている聖女だと周りの生徒に言いふらしている。
彼の入れ知恵らしい。
ジジイのセクハラにはいつでも退職できると脅しているのでめっきりと減った。
彼曰くアタシが魅力的過ぎるのが行けないだとか。
うれしいこと言ってくれるじゃないの。
学院に戻ってからすぐに彼はアタシの元にきた。
「盗賊業すぐやめると金に困るだろ? 前金として五百エキュー渡しとくわ」
金貨の入った袋を渡してきた。
「アタシが言うのもなんだけど、学院長はかわいそうだねぇ」
彼の金銭感覚もおかしい。中堅商人の年収をぽんと渡してくる。
「あと頼みごとがある。そのお金には俺の頼みごとの依頼料も支払われています。ちなみに拒否権はない」
やっぱり。
「頼みごとってのは?」
「適当な貴族の宝盗んで頂戴」
盗賊業をヤメロといったのはあんただろ?
「そしたらたぶん怪しい奴らがあなたを勧誘してくると思うのでその話に乗って頂戴。んで、命が危なくなったら適当に逃げてね。あと、死体偽装してね。そうすれば世間的に土くれのフーケは死んでくれます」
ドキリとした。なんだかんだでアタシのことを考えてくれていた。
「怪しい奴らって誰だい?」
「禁則事項です☆」
ムッとする。だが、彼の言う事は正しい。
フーケは死んだということにすればアタシは自由だ。
そして話は冒頭に戻る。
彼の言う怪しい奴らはレコンキスタ。
本当に彼は何者?
レコンキスタに従う振りをして彼に敵対する行動をとることになるが、それすらも予定に組み込まれているのだろう。
ホント、彼を二度と敵に回したくないね。
SIDE:ルイズ
魔法学院を出発して以来、ワルドはグリフォンを疾駆させっぱなしであった。
サイトたちは途中の駅で二回、馬を交換したが、ワルドのグリフォンは疲れを見せずに走り続ける。乗り手のようにタフな、幻獣であった。
「ちょっと、ペースが速くない?」
ギーシュとサイトの姿は遠くに見えている。
「ギーシュもサイトも、きっとへばってるわ」
ワルドは後ろを向いた。ギーシュとサイトは何かを話しているらしい。
「ラ・ロシェールの港町まで、止まらずに行きたいんだが……」
「無理よ。普通は馬で二日かかる距離なのよ」
「へばったら、置いていけばいい」
「そういうわけにはいかないわ」
「どうして?」
ルイズは、困ったように言った。絶対にサイトは何かを言ってくる。
「だって、仲間じゃない。それに……、使い魔を置いていくなんて、メイジのすることじゃないわ」
「やけにあの二人の肩を持つね。どちらかがきみの恋人かい?」
ワルドは笑いながら言った。
「こ、恋人なんかじゃないわ」
私はサイトの顔を思い出していた。黙っていれば結構いい男なのだ。
「そうか。ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」
そう言いながらも、ワルドの顔は笑っている。
「お、親が決めたことじゃない」
「おや? ルイズ! 僕の小さなルイズ! きみは僕のことが嫌いになったのかい?」
サイトの言葉を思い出す。
『選択肢に困ったらそれ以外の答えをくれてやれ、そしたらうまくはぐらかせることができる』
今の選択肢は? 好きか嫌いか。
ワルド様には悪いけど好きではない。もちろん嫌いでもないが。
つまり答えは。
「どちらでもないわ」
「どうゆうことだい?」
再びサイトのことを思い出す。
『困った時の最終手段は未来人が教えてくれた。たった一言、禁則事項です』
サイトの話は荒唐無稽なものが多いが退屈しないので夜寝るまでの間に子守唄代わりに話してもらっていたのである。
「禁則事項です☆」
そう言って人差し指を口につけて言う。これがこのセリフの正しいポーズだとか。
ワルド様は驚いたような顔をしたあと、赤らめて何も言わなくなってしまった。
すごい効き目ね。
SIDE:サイト・ヒラガ
月夜に浮かぶ、険しい岩山の中を縫うようにして進むと、峡谷に挟まれるようにして街が見えた。
街道沿いに、岩をうがって造られた建物が並んでいる。
そろそろ襲われる時間かなぁ。
「おい、ギーシュ。股が蒸れてエラいことになりそうだ。休憩するぞ」
「そうだね。街も見えたし少し休もう」
二人して馬から降りる。
すると、崖の上から松明が何本も投げ込まれた。
馬は驚いて前足を高々とあげていた。
「危なかった。馬に乗っていたら落馬していたところだよ」
「ギーシュ、ワルキューレ出せ。奇襲だ」
俺はデルフリンガーを構えている。それを見たギーシュも急いでワルキューレを出した。
無数の矢が、俺とギーシュめがけて殺到した。
ワルキューレを盾替わりにして待機。
一陣の風が舞い起こり、才人たちの前の空気がゆがみ、小型の竜巻が現れた。
竜巻は飛んでいる矢を巻き込むと、あさっての方に弾き飛ばした。
グリフォンに跨ったワルドが、杖を掲げている。
「大丈夫か!」
「大丈夫じゃねーぞ。危うく死ぬとこだっただろ、どうしてくれる?」
「何言ってるんだい君は? 僕のワルキューレを盾替わりに使っていたじゃないか」
「相棒、寂しかったぜ……」
すまんデルフ、君の出番はもう少し後だ。
「夜盗か山賊の類か?」
ワルドが呟いた。自作自演だろ。乙。
ルイズが、はっとした声で言った。
「もしかしたら、アルビオンの貴族の仕業かも……」
「貴族なら、弓は使わんだろう」
そのとき……、ばっさばっさと、羽音が聞こえた。
タバサの登場だ。
「おや、『風』の呪文じゃないか」
ワルドが呟いた。俺には何も聞こえなかった。そういや、風のメイジって耳がいいんだっけ。
月をバックに、見慣れた幻獣が姿を見せた。ルイズが驚いた声をあげた。
「シルフィード!」
確かにそれはタバサの風竜であった。地面に降りてくると、赤い髪の少女が風竜からぴょんと飛び降りて、髪をかきあげた。
「赤のレース付きか」
「お待たせ」
ルイズがグリフォンから飛び降りて、キュルケに怒鳴った。
「お待たせじゃないわよッ! 何しにきたのよ!」
「パンツ見せびらかしにきたんじゃね?」
「助けにきてあげたんじゃないの。朝がた、窓から見てたらあんたたちが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」
タバサ、こいつと絶交したほうがいいぞ。パジャマ姿が萌えくるわしい。
「ツェルプストー。あのねえ、これはお忍びなのよ?」
「お忍び? だったら、そう言いなさいよ。言ってくれなきゃわからないじゃない。とにかく、感謝しなさいよね。あなたたちを襲った連中を、捕まえたんだから」
キュルケは倒れた男たちを指差した。怪我をして動けない男たちは口々に罵声をルイズたちに浴びせかけている。ギーシュと俺が近づいて、尋問を始めた。
「ギーシュ、まずは首から下を埋めちまえ」
「わかった」
動けない男たちはあっさり地上に生える生首となった。
「ひっ、助けて」
「だが断る」
男たちの顔は蒼白だ。
尋問するとあっさりと雇われたと言った。フーケやるじゃん。
「ギーシュ、ワルドにはただの物取りだと言ってこい」
「は? 雇われたということは彼らは明らかに工作員じゃないか!」
「黙りなさい」
「ひっ」
ギーシュにはワルドがどうも怪しい、おそらく奴はなにか企んでると言った。
「そんな、彼は隊長だよ?」
「裏切り者は役職が高いほど効果的だぜ?」
ギーシュはグラモン家の出身である。軍事に関しては多少心得はあるようで。
「た、確かに、お父様や兄様たちからも似たことを聞いた覚えがある」
さすが、元帥の息子。
「君の言うとおりにしてみるよ」
そう言ってギーシュはワルドに報告をした。
「子爵、あいつらはただの物取りだ、と言ってます」
「ふむ……、なら捨て置こう」
ひらりとグリフォンに跨ると、ワルドは颯爽とルイズを抱きかかえた。
「今日はラ・ロシェールに一泊して、朝一番の便でアルビオンに渡ろう」
ワルドは一行にそう告げた。
―――――――――――――――――――――――
13は分割してお送りします。
ε≡≡ヘ( ´Д`)ノ
―――――――――――――――――――――――