翌日、俺がギーシュとの相部屋で目を覚ますと、扉がノックされた。
どうせワルドなので無視して二度寝を決め込む。
今日は船でないからやることもないのだ。
ドンドンと扉が叩かれている。
流石にうるさいのでギーシュを起こしてやる。
「なんだい? なんの騒ぎだい?」
「どうやらギーシュのファンが詰めかけているらしい。答えてやれ」
「そうかい!」
扱いやすい男だ。
ギーシュが扉を開けてそこにいた人物に抱きつく。
ギーシュ×ワルド
「え?」
ギーシュはきょとんとして、ワルドを見た。
「すまないが、僕には婚約者がいるんだ。それに元からそういう趣味じゃない」
やんわりとギーシュの抱擁を退けるワルド。
「おはよう。使い魔くん」
「おはよう。すぐ出ていくんで気にしないでください。お幸せにぃ~」
「ま、待ちたまえ」
グッと腕をつかまれる。
「いや、触らないで!」
「君は勘違いしている。僕は男に興味はない」
「そうやって安心させておいてズブリってわけね! 恐ろしい子爵ね!」
腕を振りほどいてワルドと向き合う。
「やれやれ、とんだ誤解だよ」
「僕を騙したな!」
ギーシュが空気を読まずに会話に入ってくる。
「騙してない、勘違いさせたんだ」
「同じ意味だ!」
「ギーシュくん、君は寝ぼけているようだ。顔でも洗ってきたまえ」
そういってワルドはギーシュを部屋から追い出した。
「いやぁ、おいてかないで~。ギーシュさ~ん」
「断るね」
そそくさとギーシュは出ていってしまった。
「きみは伝説の使い魔『ガンダールヴ』なんだろう?」
「は?」
ワルドは、なぜか誤魔化すように、首をかしげて言った。
「……その、あれだ。フーケの一件で、僕はきみに興味を抱いたのだ。さきほどグリフォンの上で、ルイズに聞いたが、きみは異世界からやってきたそうじゃないか。おまけに伝説の使い魔『ガンダールヴ』だそうだね」
「興味を抱いたって、やっぱりそうなのね?」
「そこは重要じゃない! 後半の部分が重要なんだよ!」
ワルドがそういって捲くし立てる。
「僕は歴史と、兵に興味があってね。きみに興味を抱き、王立図書館できみのことを調べたのさ。その結果、『ガンダールヴ』にたどり着いた」
「やっぱり、男が好きなんですね。わかります」
ワルドの顔が
(#^ω^)ピキピキ
となっていたが俺には関係ない。
「あの『土くれ』から盗品を奪い返した腕がどのぐらいのものだか、知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」
「えー、ホモ野郎に見せる腕はありません。股についてるものはもっと見せたくないです」
「いい加減にホモから離れてくれないかな?」
俺はワルドから離れた。
「いやそういう意味じゃなくてだな。僕はホモじゃない。ルイズという婚約者もいる!」
「ロリコン宣言ですね」
「ええぃ、やかましい。とにかく手合わせ願う。逃げるなよ!」
そう言ってワルドは部屋から出ていってしまった。
SIDE:ワルド
なんて格好のつかない決闘の約束だ。
しかし、手合わせの約束は強引に取り付けたので、中庭の練兵場に足を向けた。
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………………………
……………
……
…
「遅い!」
朝に約束をしたのだが、既に昼過ぎである。
立会人のルイズも既に立ち去っている。
「あれ~、こんなところにいたんですか~」
ぞろぞろと彼を筆頭に全員がついてきていた。
「何をしていたんだね?」
「朝ごはん食べて街に繰り出して昼飯食べて戻ってきたところです」
「君は僕と手合わせすると約束したはずだろ?」
「一方的な上、時間と場所を教えてくれなかったあなたが悪いかと」
ぐ、確かに約束だけ取り付けて場所と時間を教えていなかった。
だからってなんで普通に遊んでいる。これは任務なんだぞ。
「何をする気なの?」
おお、愛しのルイズ。助かるよ。
「彼の実力を、ちょっと試したくなってね」
「もう、そんなバカなことやめて。今は、そんなことしているときじゃないでしょう?」
「そうだね。でも、貴族というヤツはやっかいでね。強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ」
ルイズはサイトを見た。
「やめなさい。これは、命令よ?」
「はーい、ということで手合わせは中止ってことで、ワルドさんも食事いってきたらどうです?」
確かに腹は減っている。しかし、ここで引いたら貴族の名折れだ。
「その必要はない。ルイズ、これは男と男の問題だ口を挟まないでもらいたい」
こうなったら意地でも戦う。
「ルイズ~、あの人はちょっと頭がおかしな人なんだよ。きっと戦えば落ち着くと思うから戦ってあげてもいいよね?」
「へ? そうなの?」
「きっと戦闘中毒なんだよ。人助けだと思ってギーシュと戦わせてやろう」
「そうね」
「なんで僕が? 君を指名してるんだ。君がいきたまえ」
僕の評判がおかしくなっているが口をはさむと煙に巻かれてしまうので黙って聞いてやる。
「では、介添え人の了承も得たことだし、始めるか」
「そーですねー」
よしきた。思えば長い道のりだった。
「サイトの勝ち」
メガネを掛けた青髪の少女が言った。
「なに? まだ何もしていないじゃないか」
少女を無視して戦闘態勢に入る。
腰から、杖を引き抜こうとする。
無い、視線を腰に落とすと杖があったはずの場所に杖がない。
視線を上げると彼が僕の杖をひらひらと振り回していた。
「なん……だと?」
「すいません、僕の勝ちのようです。杖なしでもいいのなら戦いますが?」
杖の無いメイジなど平民と同じだ。悔しい思いを押し殺して彼に敗北を告げる。
「降参だ。杖の無いメイジでは剣士である君には勝てない」
SIDE:タバサ
私は彼とワルトが戦うところを見たかった。
手合わせが始まる前から私は違和感を覚えていた。
ワルドには何かが足りない。
彼と手合わせすると言った。その時に違和感の謎が溶けたのだ。
彼は杖を持っていない。
腰につけている杖の入れ物にあるはずの杖がないのだ。
「では、介添え人の了承も得たことだし、始めるか」
既に勝負の決まっている。
「サイトの勝ち」
間抜けなワルドに私は伝えた。
私は早く彼に種明かしをして欲しかった。
「降参だ。杖の無いメイジでは剣士である君には勝てない」
ワルドがそういった。彼は杖を返した。
「ご飯を食べればきっと気分も晴れますよ?」
「そうすることにする」
そういってワルドはトボトボと歩いっていってしまった。
「助かったよ。タバサ」
「いつとったの?」
少しだけ彼が驚いた顔をして私の頭を撫でる。
心に暖かいものが入ってきたような気がした。
「HAHAHA、ギーシュ今朝のことを話してやれ」
「え? 僕かい?」
「早く話す」
私はギーシュに言った。
「あ、ああ、確か君が起こしてくれた後、扉の向こうに僕のファンがいるといって騙してくれたね。
おかげでワルド様に抱きつくはめになったじゃないか!」
ギーシュは思い出しながら怒っていた。そんな事があったのかと思う。
「なに~、ギーシュって男もイケる口だったの?」
「違う!ああ、もう、その後、君は仕切りにワルド様のことをホモだといってからかっていたね」
「なによそれ?」
キュルケはキュルケなりに笑い。ルイズもニヤついていた。
「その当たりで俺が腕を捕まれたろ?」
「ああ、君が僕らを残して逃げようとした時だろ?」
「そん時にスった」
私とキュルケ、ルイズはたぶん同じような顔をしているだろう。唯一、ギーシュだけが驚愕していた。
「な、一体、いつ? 君がそんな動きしてたなんて気付かなかったぞ?」
彼は説明する。
「掴まれたのは左腕だったろ? それを振り払うふりして左手を動かしている間に右手で杖をスった」
人の視線は動いているモノに行くただそれを応用して盗んだという。
「もし杖がないときにワルド様が襲われたらどうするつもりだったのよ?」
「え? 見捨てるつもりでしたけどなにか?」
「見捨てるなんて貴族のすることじゃないわ」
ルイズが怒る。言う事はもっともだが、彼は貴族ではない。
「俺貴族じゃねーし、それにワルドだって、軍人なんだから杖の無い時の対処くらいあるっしょ?
任務で死ぬことなんて軍人なんだから覚悟してるよ。奴には俺らの盾になってもらう」
「ははっ、なんてヤツだ、君は!」
そう言って笑うギーシュ。
「そうよねぇ、ワルド様って逞しい体してたし逃げることぐらいはできるわよね」
キュルケはそう言って納得した。
「でも」
「でもじゃない、ルイズ。これから先向かうところは戦場なんだぜ? この任務で誰も死なないとか思ってるわけ?」
私はドキリとする。
「そ、そうよね。そういえば戦場に向かうんだっけ」
彼はやさしい。きっと私たちに帰れというだろう。
「というわけで、タバサとキュルケは帰っていいよ。アルビオンに用事があるんで。こっから先は誰が死んでも不思議じゃない」
「連れないこといわないでよ、ダーリン」
私もキュルケに賛成だ。
「タバサもキュルケと同じか~?」
コクリと首を振る。
私は知りたいのだ。
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しばらく13は続きます。
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