SIDE:マザリーニ
アンリエッタ姫の呼びつけで部屋に入るとギャンブルに大負けしたような平民の姿があった。
誰だ?
そう思ったが、中庭での報告を聞いていたので私はアンリエッタ姫の任務を受けたラ・ヴァリエールの関係者と思いついた。
「して、姫殿下どういったご要件で?」
「マザリーニ枢機卿、私が呼び出しましたが要件があるのは彼の方です」
そう言って指さしたのは打ちひしがれていた平民だった。
「彼は平民のようですが?」
「正確にはルイズの使い魔です」
ラ・ヴァリエール公爵の娘が平民を召喚した?
私は耳を疑った。
「マザリーニ枢機卿の思うところはわかりますが、私が保証します。彼は平民で、人間でありながら同時にルイズの使い魔なのです」
私は彼を見る。
格好は平民っぽい。持っている大剣からも平民を思わせる。
主であるはずのラ・ヴァリエールの姿が見当たらない。主と使い魔は一心同体。
ラ・ヴァリエールはいったい何処へ?
それよりも今は優先すべきことがある。。
「してその使い魔がどのような要件で?」
「姫様に一杯食わされたので八つ当たりです」
「そのようなこと言ってないで! さっき私にお話してくれたことをマザリーニ枢機卿にも言うのです」
この平民はなんだ?
姫様があんな言葉遣いをするなど、幼年期の頃のようだ。
「さっきある考えを姫様に言いました。俺のその考えは、姫様の発案にしろって言いましたがどうしても俺の発案にしろと聞きいれやがらないのであなたは呼ばれました。以上現場からの中継でした」
「サイトさん。あなたが伝える気がないのなら私がいいますよ? そのかわり報酬はなかったことになりますが」
「借金を帳消しにするとはいい度胸。俺から言う。お前は黙ってろ」
姫殿下に対してなんて失礼な態度をとる平民であろう。
私は兵を呼び出して捕まえる思案をしていたところにあろうことか姫殿下が私の思考を遮る。
「いいのです。マザリーニ枢機卿」
「ですが、姫殿下」
「サイトさんお話を」
「おk。マザリーニさん。アルビオンはレコンキスタによって制圧されたって噂が広まってます」
確かに、王家は破れ、貴族派の勝利となった。おそらく、次は我が国に攻めいるのは確実だろう。
「しかし、おかしなことにウェールズの死亡は噂されてません。つまり生死不明なわけです。それを有益に使いましょうって話です。簡単に言うとウェールズはなんとか生き長らえてゲルマニアに亡命したってのを広めてほしいんですよ」
私は理解する。この平民は只者ではない。
私は思考する。彼の言うとおりウェールズ皇太子が生きてゲルマニアに亡命したという話を広めればアルビオンの貴族派はゲルマニアと一戦することになる。勝敗は?
今すぐ戦えば間違えなくレコンキスタは敗れる。
時間をかけるしか無い。しかもその噂の真相も探るために時間を取られる。
そのうちに私たちはゲルマニアと同盟を結び戦力を確固たるものにできたとすれば?
一点を覗いて私たちに不利益はない。
「しかしながらその噂をトリステインが広めたら結局トリステインがウェールズ皇太子の亡命を進めたことになり最悪アルビオンとゲルマニアに攻めいられますぞ?」
「ルイズ、俺の主人のことですが、学生です」
突然話に関係ないことを彼は言葉にした。
「それがどのような関係が?」
「ルイズのお友達にゲルマニア出身がいましてねぇ。大変仲がよろしいことで」
その話に私はピンときた。ツェルプストー家。ヴァリエール家と国境を挟んだ隣にあるゲルマニアの名家だ。
「噂はゲルマニアの方から流れました。今から同盟組む国の言う事なので私たちは信頼します。よってウェールズは生きてゲルマニアに亡命しました。肝は"ゲルマニアの方"から噂が流れたと言う事。決してゲルマニアが流したといわないこと」
とんだ詐欺師だ。ペテン師だ。
私は彼の考えが面白く顔を歪めてしまう。
「はは、確かにあなたの言うとおりだ。ゲルマニアの方から噂は流れたがゲルマニア自体が流したわけではない。方便ですな。実に面白い」
ゲルマニアには悪いが利用させてもらおう。なにせこちらに実害はない。むしろこちらに利益が生まれる。
同盟国として信頼しているという名義が生まれる。
さらに言えば所詮、噂である。
ゲルマニアもトリステインもアルビオンから真相を探られても表向きにはたかが噂だ。放っておけと言えばいいだけである。
となれば噂を流すのは早い方がいい。もしウェールズ皇太子が死んでいるという事実がわかってしまったらこの策は破綻してしまう。
「サイト!」
扉が開き彼の主人である人物が現れた。
SIDE:サイト・ヒラガ
俺の提案した策はウェールズが死んでいないことが前提である。戦力差から言って死んだも同然だ。消息不明とは言うものの、死んでるって考えるのが普通だ。死体が見つからない内にできることはやっておいた方がいい。
「サイト!」
ツンデレ属性のルイズが現れた。
「あ、マザリーニ枢機卿じゃありませんか」
「これは、ラ・ヴァリエール嬢、ご機嫌麗しゅうございます。覚えていないとは思いますが幼年期いらいですな」
「いえ」
「あいさつはそれまでで良いっしょ? で、なんて?」
「あ、うん。キュルケはもう実家の方へいったわよ」
できるだけ早く俺の考えたことを実行するためにルイズに頼んでキュルケには実家に帰ってもらった。
ゲルマニアで噂を流してもらうためだ。現地にいる元ボーイフレンドとか有益に使えって言っておいた。
「タバサも行っちゃったわ。一刻も早くって言ったらタバサが協力してくれるって」
「友情ですなぁ」
「一体どういうことかね?」
骨が聞いてきた。
「ああ、さっき言ったことですよ。完璧に事後報告でした。でも、マザリーニさんならわかりますよね」
「ウェールズ皇太子の遺体が見つかっては意味がない。ということですかな?」
「イグザクトリー」
俺と骨は嗤い合う。
「もしやと思いますが、最近噂の『平民の賢者』とはあなたのことでは?」
「いつの間にかそうなってますね」
「あなたが貴族ならどれほどよかったことか」
「なら平民も貴族になれる制度でも作れば? ゲルマニアは金で貴族になれるって聞きましたが、トリステインはそういうのないんでしょ? あと言っとくけど俺は貴族になるつもりはないんで」
封建制度だっけ、俺の世界じゃ中世社会の基本的な支配形態だったか。差別社会ってレベルじゃねーぞ。
「賢者であるあなたの意見は傾聴に値する話ですな」
「マザリーニ枢機卿、こいつの言い分は話半分程度に聞いておいた方がよろしいですわ」
どういう意味だ、ルイズ。
そうかねと、何故か納得した骨はやることがあるのでと言って部屋を出ていってしまった。
「……」
アンリエッタは何か考えている様子。たぶんアレだ。アニエス率いる銃士隊の構想でも考えてるんだろう。
「もうやることもないし帰ろうルイズ」
「そうね」
二人して部屋を出て行く。
馬で学院に向かう途中で気づいた。
「あ、ギーシュ忘れてた」