「なあ、こんなに頼んでもだめなのか?」
「だめだね」
「千までならだす」
「お金の問題じゃないよ」
「頼むって」
「い・や。こればっかりはアタシの感情の問題だ」
「俺のこと嫌いになったのね?」
「はん、そんな風に言って煙に巻こうとしても無駄だね」
「さすがは年の功」
「うっさいわね。アタシはまだ23だよ!」
「フーケ、お願い☆」
「可愛くしても無駄だよ。そもそも国王により家名を取り潰されているんだよ?」
「ぐぬぬぬ。強情だな!」
ウェールズ捜索隊にフーケを入れなければならない。アルビオンの地理にも詳しい上に、有能だ。
しかし、頑なに断られている。そりゃフーケにとってはウェールズは目の敵だ。
だが、ティファニアにとってはウェールズは従兄になる。厄介なことにウェールズの父がティファニアの両親を殺したのだ。
フーケ、マチルダ・オブ・サウスゴータ。アルビオン貴族の出身。
いつだったか、月の綺麗な夜にマチルダは半生を語ってくれた。
俺はマチルダのことは知っていたが、実際に聞くと少々同情してしまう。
話の最後に
『というわけさ。まあ、今はあんたのおかげでまっとうに生きてる。それだけは感謝してるよ』
そう言われて俺は嬉しかった。
『フーケ、いや、マチルダ。俺だ、結婚してくれー』
とハッチャケたのはいい思い出である。
「親の罪は子にはないって。恨む王国も新しくなったし気分も少しは晴れたろ?」
「それでも許せない物は許せないね」
手詰まりである。トリステイン、アルビオン、ゲルマニアから今や知らないモノはいないと思われる伝説を残し姿を消しているウェールズ。
三国の政治家達は婚姻に忙しい。既に潰れた国家の王子など知った事ではない。といった感じで捜索も早々と打ち切られた。
いや、トリステインのみ小規模で継続しているらしいが、機能してるかもわからない。
ウェールズがワルドに殺されなかった。これによる原作改変がどのような変化をもたらすか分からない俺は学院を空けることができない。
結局は、ウェールズが俺の元を訪れるのを待つばかりである。
「あ~もう、わかった。だが、約束しろ。ウェールズのことが何かわかったら必ず俺に伝えること。目の前に現れても殺さないこと。ウェールズが親の代わりに謝罪したら許すこと。わかったな?」
「アタシは死んでると思うけどね。もし現れたらあんたの言うとおりにしてやるよ」
マチルダは既にウェールズが死んでいると思い込んでいる。なのでどうでもいいように返事をした。
「絶対守れよ? 守らなかったら俺の愛人だからな」
「はいはい」
SIDE:ウェールズ
私は目を覚ます。ここは? 見知らぬ天井が見える。
服装は決戦時の時のままだ。杖もある。
私は思い返す。
貴族派が攻め込んできたという報告を受けた。その時に部下たちは私を逃がしたのだ。
私は最後まで戦い死ぬつもりだった。サイトくんのいう逃げろと言う選択肢は考えていなかったのだ。
すると部下は言った。
『あの変な少年からの伝言でしてね。ウェールズだけはなんとしても逃せ。ウェールズが生き延びればいずれ取り戻すことができるって。私らは王子のいない隙に退路をつくっておきました。もうここは落ちます。
だから生き延びてくだせぇ。これがここに居る全員の総意です』
『しかし、私は』
『へへ、あのお方の言うとおりだ。殿下、私はここに居る総意っていったんです。まさか王が国民の総意を無視するんですか?』
国民の総意。確かに私に使える国民はもう、ここにいるだけだ。
サイトくん。
『すまぬ。私だけ……』
『私たちの代わりに生き恥さらしてください。頼みます』
『さあ、長いは無用。いってくだせぇ』
「そうだ。私は逃げた。その後、敵に見つかり交戦して魔力を使い切った」
どこをどう馬で走ったかも覚えていない。確か、馬ごと倒されてその後……。
だめだ。思い出せない。
「あ、おきたの?」
目の前に現れた少女は美しかった。
「よかった。四日も眠ってたから……、目覚めないかと思って心配してたの」
「私はそんなに寝ていたのか……」
改めて少女を見る。
粗末で丈の短い、草色のワンピースに身を包んでいたが、美しさを損ねるどころか、逆に清楚《さを演出していた。短い裾から細く美しい足が伸び、そんな足を可憐に彩る、白いサンダルをはいている。
そんな素朴な格好をしていた。
そして……、金色の髪の隙間から、ツンと尖った耳が覗いていた。
「エルフ……」
髪の隙間から覗いた自分の耳に気づき、両手で隠した。みるみるうちに、その頬が桃色に染まっていく。
「ご、ごめんなさい」
私は何をやっている。謝るのは私の方だ。
「私の方こそすまない。どうやら君は私を助けてくれた恩人のようだ」
「え? うん、すごい怪我してた」
私の体には包帯が巻かれていた。なるほど、記憶のないのはケガのせいらしい。
「治療もしてくれたのか、先程は本当にすまない。恩人に対して失礼した。助けてくれてありがとう。ほんとにありがとう」
「ど、どういたしまして。困ってる人を助けるのはあたりまえのことよ」
頬を赤らめたまま答えてくれた。
「そうか、世話になった。私はどうすれば君に恩を返せるだろう?」
「べ、別に返さなくてもいいわ」
「そうはいかない。王族である私がそんなの許さない」
といっても既に私一人だが。
「王族? あなた王子様だったの?」
「元、がつくがね」
「もしかして、伝説のウェールズ皇太子様? きゃ、すごい人に会えちゃった」
伝説? どうゆうことだ?
「なぜ私のことを知っている? いや、伝説とは? 今アルビオンはどうなっている?」
彼女は驚いた顔になった。しまった。怖がらせてしまったか。
「すまん。気になってしまって焦っていた」
「え、ええ、私はあまり知らないけどウェールズ皇太子のことはすごい噂になってるわ」
そう言って彼女は話してくれた。
アルビオンの反乱は、ニューカッスルの攻城戦という名前がついた。
王党派は破れはしたものの伝説を残す戦いを繰り広げた。
貴族派が勝利したものの、王党派の主要人物つまり、私のことだが。
消息不明になった。
噂ではゲルマニアに生きたまま亡命した。それをトリステインも同盟国とうことで信じた。
よってアルビオンは翻弄させられたという。
消息不明の王子は亡霊となってアルビオンと戦っているなど。
結局、今はゲルマニアに亡命したということが真実じゃないかと囁かれているらしい。
「実際はアルビオンの森の外れにいたと、ハッハッハ。サイトくんだ」
噂を流した犯人を当てる。そもそもゲルマニアに亡命しろといった張本人だ。
「サイト? でね、昨日までだったら居場所を知らせるだけでも何年も働かないで暮らせる賞金かけられたんだけど、急になかったことにされちゃったの」
つまり、国同士でなにかあったわけだ。
「その噂の犯人は?」
「知らないわ。ただゲルマニアの方から噂が流れてきてるから皇太子自らがゲルマニアから噂を流しているって話もあるわ」
「そんなはずはないね」
「そうよね」
二人して笑いあう。
ガチャリと扉が開く。
「誰と話してると思ったらこりゃあ坊主の勝ちだね。はあ」
SIDE:マチルダ。
なんてこった。サイトに暇をもらって戦地であったアルビオンにいるテファが心配で戻ってきたら、誰かと仲良く話していた。珍しいと思い部屋に入ってきたらまさか親の仇と話してるなんてね。
「そういえばまだお名前いってなかったね。私ティファニア」
「ああそうだったね。失礼。私は既に知っていると思うがウェールズ・テューダー」
アタシをおいて自己紹介し始める二人。ティファニアは知らない。ウェールズが親の仇で従兄であることを。
「テファ、ちょっとおいで」
「なに?」
アタシは思考をめぐらす。さっきのやり取りを見ているとウェールズもテファの事を知らない。
それにエルフだとわかっているのに恐れない。
サイトの言っていたことを思い出す。
『ウェールズはおともだち、そう、おともだちなのよ』
ウェールズのことをなんで気にするか聞いた時の答えだったが妙な答え方をしていたのが引っかかる。
そもそも一日そこらで友達を名乗るか?
テファには悪いがウェールズと大切な話があるといって部屋を出ていってもらった。
「大切な話とは私になにかあるのかい?」
「ええ」
どう切り出そう。サイトと友達かいと聞いてしまうか?
「ウェールズ皇太子ご本人ででよろしいでしょうか?」
「ああ、そうだ。といってももうそれを証明できるものはこの服装と指輪くらいだが」
確かにアルビオンの軍服を着ている。
「お仲間は?」
「知っての通り皆勇敢に戦い勇敢に死んで行った。私だけ生き恥をさらしているが友人との約束でね」
「その友人とは誰のことでしょう」
アタシは胸が高鳴る。サイトのことだ。本当にサイトとは友人なのだ。
「はは、変わった人間でね、そうかと思えば賢者のごとく冴えのあることも言う最高の友人だ」
間違いない。
「その友人のお名前はなんというのでしょう?」
「サイト」
複雑な想いがあるが、サイトとの約束だ。
「お迎えに上がりましたわウェールズ皇太子」