ら、らめぇえええ。
ルイズ覚醒フラグだ。これは必要なんだよ。ゼロ戦は所詮、戦術機。
アルビオン軍の戦艦相手に竜騎士が勝つようなものだ。うん。それ無理。
つーわけで、ルイズさんよろしく。
トリステイン魔法学院に、アルビオンの宣戦布告の報が入った。
骨は俺の助言を最大限に活かしたらしく、王宮からの使者は多少混乱していた程度だった。
事の始まりは、魔法学院の玄関先で、王宮からの馬車を待っているところであった。
ゲルマニアヘ俺たちを運ぶ馬車だ。
しかし、朝もやの中、魔法学院にやってきたのは一人の使者であった。
学院長に報告することがあると言ったので、俺たちもついて行ってオスマン氏と共に報告を聞いた。
「王宮からです。申し上げます。アルビオンがトリステインに宣戦布告しました。
そのため、姫殿下の式は無期延期になりました。王軍は、現在ラ・ロシェールに展開中です。
したがって、学院におかれましては、安全のため、生徒及び職員の禁足令を願います」
オスマンは顔色を変えた。
「宣戦布告とな? 戦争かね?」
「いかにも。タルブの草原に、敵軍は陣を張り、ラ・ロシェール付近に展開した我が軍とにらみ合っております」
やっぱりそうなるのか。
「アルビオン軍は、強大だろうて」
使者は、うわずった声で言った。
「敵軍は、巨艦『レキシントン』号を筆頭に、戦列艦が十数隻。上陸せし総兵力は三千と見積もられます。我が軍の艦隊主力はすでに交戦中、かき集めた兵力は四千。
国内の戦の準備はマザリーニ枢機卿により万全の体制です。
しかしながらそれより、制空権を奪われたのが相手に味方したようで、敵軍は空から砲撃をくわえ、我が軍をなんとか食い止めている模様です」
骨、やるじゃん。
「現在の戦況は?」
「敵の竜騎兵によって、タルブの村が多少のぼや騒ぎが起きた程度です。しかし、それも制圧は目の前だとか、しかし、同盟に基づき、ゲルマニアへ軍の派遣を要請しましたが、先陣が到着するのは三週間後とか……」
オスマンはため息をついて言った。
「……見捨てる気じゃな。敵はの頑張り次第では、トリステインの城下町を落とすじゃろうて」
「初めから助ける気はなかったんだろ? 同盟は単にゲルマニアとしてトリステインというか王族の血と姫様の人気が欲しかっただけのパフォーマンスってとこかね。アルビオンに潰されたらそれはそれで、トリステインと戦ったアルビオンを潰して両国をいっぺんに手に入れるってなんという漁夫の利」
「噂にたがわぬご考察でございます賢者様」
使者がそういって頭を下げる。ちっ、骨の仲間か。
「んで、あんたが来たのはそれだけじゃなくて敵を倒す決定打が欲しいって所?」
「は、アナタ様の意見を聞いて来いとのことです」
骨め、それくらい自分でなんとかしろ。俺は知らん。
「な、ななんてこと、たかが使い魔にマザリーニ枢機卿はどこまで信頼してるわけ?」
「ペンフレンドだし、いいこと思いついた。ルイズ、ゼロ戦に乗れ」
「ご自身が戦場に赴くと?」
使者が驚いた顔で聞いてきた。
「まさか、といいたいですけど、マザリーニさんは戦場にいるんでしょ? 直接伝えに行くだけですよ」
「はあ」
きょとんとした使者とオスマンをおいて俺は中庭に向かう。
「どこに行くのよ!」
「タルブの村」
ルイズを引き連れてコルベールの研究室へとたどり着いた。
ハゲは起きてた。くそ、頭に落書きしてから起こそうと思ったのに。
「ガソリンはできてますぞ。君の言った通りの量ができているよ。ほれ、そこに」
「じゃあ、それを運んでください! 今すぐ!」
「君の言っていたことが起きたと言うのかね?」
ハゲには骨と同じことを口頭で伝えてある。
「イグザクトリー」
「ちょ、あんた、戦争が始まるって知ってたの?」
「いや、かもしれないって言っただけ」
驚いているルイズを引きずってゼロ戦に向かう。
ハリー、ハリー。
助走距離が足りないがハゲの魔法に頼って見事に飛んだ。
「うわー、本当に飛んでるわ」
「うおー、飛びやがった! おもれえな!」
ルイズとデルフリンガーが興奮したように騒ぐ。
「飛ぶさ。飛ぶようにできてんだからよ」
ゼロ戦は翼を陽光にきらめかせ、風を裂き、異世界の空を駆けのぼった。
俺は風防から顔を出して、眼下のタルブの村を見つめた。
消火活動を終えたっぽいトリステインの兵士がたくさんいた。
空からの俯瞰で素人目に見ても地上戦の終りは近かった。
あれ? やることなくね?
そう思っていた時期もありました。
制空権をとっているアルビオン軍は空の戦いでは優位に立っていた。
『レキシントン』号。ルイズ覚醒のために的になってもらう。
その前にハエみたいに飛んでる奴らを倒さなければ。
機体を捻らせ、タルブの村めがけてゼロ戦を急降下させた。
「ヒャッハー、汚物は消毒だー」
弾を無駄遣いしないようにタタタ、タタタと撃って敵を倒していく。
シューティングゲーム感覚であるが、殺さずの誓で? ノー、単に臆病。
なるべくケガですむように加減している。
「すすす、すごいじゃないの! 天下無双と謳われたアルビオンの竜騎士が、まるで虫みたいに落ちてくわ!」
「見ろ、人がゴミのようだ」
「相棒、右から十ばかりきやがったぜ」
高性能レーダー、デルフが教えてくれた。
「了解、ひねりこみ、入りまーす」
「きゃあ、もっと丁寧に操りなさいよ!」
「しゃべってると舌を噛むからしがみついてなさい」
SIDE:ルイズ
もう、子供扱いして! 心の中で叫んだ。機体の中は激しく揺れる。
やっぱりくるんじゃなかった。
もしかしたら戦闘するかも? というかする! と言ってた。
私は行かなくてもいいじゃないと言ったが、サイトは、姫様の助けになると言った。
それに宝探しの時はついて行けなかったので今回はついてくることにしたのだ。
戦場でサイトが死ぬかもしれない?
まさか、殺しても死なないような奴だ。
危なくなったら一目散に逃げ帰るだろう。
サイトにしがみつきながらそう思った。
「ルイズ、『始祖の祈祷書』持ってる?」
「持ってるわよ。それがどうかしたの?」
『始祖の祈祷書』を握り締めた。
「指輪は?」
「ポケットの中、だからそれがどうしたっていうのよ!」
「指輪はめたらいい詩が思い浮かぶかもよ? ついでに『始祖の祈祷書』に思いついたこと書いとけよ。どうせ白紙だし」
呑気なものだ。そりゃ、あっという間に二十騎もの竜騎士を倒してやることないのはわかるけど。
「そ、そんなのダメに決まってるでしょ?」
「女は度胸、何でも試してみるものさ」
そう言われてしぶしぶ指輪をはめて『始祖の祈祷書』を開く。
もちろん何か書くつもりはない。ページを開いた。
その瞬間、『水』のルビーと『始祖の祈祷書』が光りだしたとき、心底驚いた。