サイトは岸辺に佇んでいた。
背中には大剣、腰には変わった剣を装備している。
「……」
目を閉じている。
さながら決闘前に気分を落ち着ける剣士のようだと思った。
バカ(ギーシュ)は酔っ払っていたので私は寝てなさいと言ってやった。
少しはサイトを見習って欲しい。
「ギーシュは陽動を頼む、ルイズは援護を」
短く、それだけ言ったサイトは変わらず佇んだままだった。
私には何も言ってこなかった。
「私は?」
「モンモランシーは離れて安全圏に、ケガをしたら回復を頼むよ。それが役割だ」
「サイトはどうする気?」
「戦って護るのが俺の役割」
それは本来、ルイズの為に向けられる言葉だ。
そう思うと気分が沈んだ。
それから一時間も経った頃だろうか。岸辺に人影があらわれた。
人数は二人。
漆黒のローブを身にまとい、深くフードをかぶっているので男か女かもわからない。
あらわれた人物が、水の精霊を襲っている連中だと、決まったわけではない。
のだが。
「どっせぇええい」
サイトが飛び出してしまった。
おおよそ三十メイルはあったはずの距離は一秒も立たないうちに詰められた。
小さいほうの人影は、 すばやく身をひねり、杖を振った。
しかし、サイトが大剣を振るうと小さいほうの人影は驚愕していた。
背の高いほうのメイジが巨大な火の球を放ってきたが、大剣にかき消されてしまった。
「嘘、なにあれ?」
私は恐怖する。
二人のメイジを平民が圧倒している。
強い、そして何よりも速かった。
薄暗闇の中でのサイトの動きはほとんど見えない。
フードの被ったメイジの杖が弾き飛ばされる。
勝負に十秒もかからなかった。
「顔を見せろ」
サイトは大剣を二人に向けて言い放った。
二人のメイジは言われたとおり、かぶったフードを取り払った。
月明かりにあらわれた顔は……、
「キュルケ! タバサ!」
見ていただけのギーシュとルイズが叫ぶ。
しかし、サイトは大剣を向けたままだ。
「お願い、サイト止めて。事情を聞きましょう」
「そうだね。モンモランシー」
スッと剣を収めてくれた。
「あなたたちなの? どうしてこんなとこにいるのよ!」
キュルケは驚いたように叫んだ。
私の水の魔法でキュルケとタバサの腕を治していた。
サイトは杖を弾き飛ばすと同時に腕に力が入らない程度に峰打ちしたらしい。
私はキュルケたちに事情を聞くことにした。
「サイト、やっぱり強かったのね! 殺されるかと思ったわ」
キュルケは負けたことがちょっぴり口惜しかったのか嫌味っぽくサイトに言った。
「モンモランシーが見てたから少し張り切ってみた。今は反省している」
キュルケがぽかんと口をあけて、私を見つめた。
しかし、すぐに何かに気づいたのか何やら考え込んでいた。
「サイトは事故で惚れ薬を飲んじゃったのよ」
事情を知っているルイズが簡潔に説明した。
「ふーん、それで、サイトがモンモランシーに惚れたってわけ?」
さすがは恋多き女だ。すぐに理解した。
「惚れたのではない。愛しているのだよ」
シレッとそんなことを言ったサイト。
肩を抱き寄せないで欲しい。
縮こまっている私を見てキュルケがピンときたらしい。
「モンモランシーもまんざらじゃなさそうね。その様子だとサイトに惚れたわね?」
「ぐ、そうよ。悪い?」
「まったく、自分の魅力に自信のない女って、最悪ね」
「わかってるわよ! しかたないじゃない! いきなり飲むとは思ってなかったんだもの!」
私とルイズはキュルケにことの次第を説明した。
惚れ薬の解除薬を作るためには、水の精霊の涙が必要なこと。それをもらう代わりに、襲撃者退治を頼まれたこと……。
「なるほど。そういうわけであなたたちは水の精霊を守ってたってワケなのねー」
キュルケは困ったように、隣のタバサを見つめる。
彼女は無表情に、サイトをじっと見つめていた。
「参っちゃったわねー。あなたたちとやりあうわけにもいかないし、水の精霊を退治しないとタバサの立つ瀬はないし……」
「こちらとしてもモンモランシーが困っている。ここは譲歩しよう。。水の精霊を襲うのは中止してくれ。そのかわり、水の精霊に、どうして水かさを増やすのか理由を聞いてみよう。その上で頼んでみる。水かさを増やすのはやめろって」
「水の精霊が、聞く耳なんかもってるかしら」
「俺がモンモランシーの為になんとかする」
キュルケはちょっと考えて、タバサに聞いていた。
「結局は、水浸しになった土地が、元に戻ればいいわけなのでしょ?」
タバサは頷いた。
「よし決まり! じゃ、明日になったら交渉してみましょ!」
キュルケの声に皆散り散りに時間を過ごしていた。
私はと言うと、サイトがそばから離れないので困っていた。
「ミス・タバサ? なにか私に用かしら?」
彼女はフルフルと首を振る。
「ということは俺に? すまんが今はモンモランシーとの貴重な時間だ」
「手加減」
私は疑問が頭に浮かぶ。もともとタバサとは会話すらしたことがなかった。
なのでサイトに話しかけているタバサが珍しいと思った。
「モンモランシー、悪いがタバサと話してもいいか?」
「わざわざ聞かなくてもいいわよ」
こういう所はバカ(ギーシュ)も見習って欲しい。
「タバサはさっきなんで手加減したか知りたいんだろ?」
コクリとタバサが頷いた。
私は愕然とする。アレだけ圧倒的な強さを見せたのに手加減していた?!
「なに、心優しい癒し手がいるので血を見せるのは悪いと思ってね。それに捕縛して理由を聞き出したかったし」
全ては私のためなのだ。
心が痛むなか私はそう思った。
「あなたは後悔する」
タバサが私に言ってきた言葉は私の心に刺さった。