SIDE:モンモランシー
翌朝……。
私は昨日と同じように、カエルを水に放して水の精霊を呼んだ。
「水の精霊よ。もうあなたを襲う者はいなくなったわ。約束どおり、あなたの一部をちょうだい」
私がそう言うと、水の精霊は細かく震えた。ぴっ、と水滴のように、その体の一部がはじけ、私の元へと飛んできた。それをビンに詰める。
「待ってくれ! 一つ聞きたいことがあるんだ!」
「なんだ? 単なる者よ」
「どうして水かさを増やすんだ? よかったらやめて欲しいんだけど。なんか理由があるなら聞かせてくれ。俺がなんとかしよう」
サイトがそう言った。キュルケ達のこともキチンと考えている。
「お前たちに、任せてもよいものか、我は悩む。しかし、お前たちは我との約束を守った。ならば信用して話してもよいことと思う」
水の精霊は私の姿をしている。恥ずかしいのでやめて欲しい。
水の精霊の話ではおよそ二年前に秘宝が盗まれたとのこと、それを取り戻すために水かさを増やし続けているという。
なんて気の長い話だと思うが、水の精霊には時間という概念があまりないらしい。
盗まれた秘宝は『アンドバリの指輪』。
私はそれに聞き覚えがあった。
確か偽りの命を死者に与える秘宝。
それを盗んだ人物の一人はクロムウェルだと言う。
キュルケが言うにはアルビオンの新皇帝の名前らしい。
そろそろ私の頭では処理しきれなくなりそうだ。
「わかった。その指輪をなんとしてでも取り返してくるから、水かさを増やすのを止めろ!」
サイトが言う。精霊にたいして失礼な物言いだが口を挟むとややこしくなるので、黙ることにした。
「わかった。お前たちを信用しよう。指輪が戻るのなら、水を増やす必要もない」
私の、いつまでに取り返せばいい? という問に私たちが死ぬまでと答えた。
やっぱり時間の概念が薄いなと私は改めて思った。
水の精霊はごぼごぼと姿を消そうとした。
「待って」
私は驚いた。いや、この場の全員が驚いてタバサを見る。
タバサが他人を……、いや人じゃないけど、呼び止めるところなんて初めて見たからだ。
「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」
「なんだ?」
「あなたはわたしたちの間で、『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」
「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違う。ゆえにお前たちの考えは我には深く理解できぬ。しかし察するに、我の存在自体がそう呼ばれる理由と思う。我に決まったかたちはない。しかし、我は変わらぬ。お前たちが目まぐるしく世代を入れ替える間、我はずっとこの水と共にあった」
誓約か。サイトと? バカね。少なくとも薬が効いている内は無理。
「変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」
タバサは頷いた。それから、目をつむって手を合わせた。いったい、誰に何を約束しているのだろうか。
その様子を見たサイトが私をつつく。
「なによ?」
「俺たちもここで誓約しよう。ほら」
私は首を振る。
「祈ってくれないのか? 俺に、愛を誓ってくれない……だと?」
泣きそうなサイトの顔を見るのが辛くなる。
「ごめんなさい。正気に戻ってもう一度同じこと言ってくれたら本気で考えるわ」
SIDE:ルイズ
トリステイン魔法学院の女子寮の一室で私たちが見守る中、モンモランシーが一生懸命に調合にいそしんでいた。
「できたわ!」
モンモランシーは額の汗を拭いながら、椅子の背もたれにどっかと体を預けた。
テーブルの上のビンには、調合したばかりの解除薬が入っている。
「これ、そのまま飲ませばいいの?」
「ええ」
私はそのビンを取ると、サイトの鼻先に近づけた。
「くせっ」
「お願い。飲んで」
「飲んだら、キスしていい?」
モンモランシーは仕方無しに頷いた。
サイトは思いきったように目をつむると、くいっと飲み干した。
様子を見ていた私がモンモランシーをつつく。
「逃げないの?」
「ええ」
私ならたぶん逃げ出している。
「うっ」
それから、憑き物がとれたように、いつもの表情に戻る。
SIDE:サイト・ヒラガ
ちょっとした好奇心は身を滅ぼす。というのを生で実体験した。
さっきまでどうにかしてたんだ。モンモランシーが異常に可愛く見えてしかたなかった。
記憶が残るってどんな拷問だよ。モンモランシーが俺に惚れちまったとか本気ですか?
いやいや、彼女をハーレム計画に取り込む気はなかった。
ギーシュがいるし。ああ、でも別れたか。
しかし、責任というものはとらなければならない気がした。
「よう」
「ええ」
なんだか友達経由であいつお前の事好きなんだぜー、とお互いが知ってしまったような気恥ずかしさがある。
言葉が続かなかった。
だから抱きしめた。
「いやー、惚れ薬って怖いね。すべて忘れて欲しいし、忘れたいとこだけどバッチリ記憶に刻まれてる。だからさ、今は保留ってことで。起こったこと全部置いといてさ。保留にしようよ。いや、保留にしてください」
「うん」
弱々しく俺の胸の中でモンモランシーは頷いた。
アレ?
可愛いだと……?
「ねぇ、使い魔」
「サー、なんでしょうか。サー」
「一度、死んどきなさい。このバカ犬~」
「ごぶぇら」
今日だけは甘んじて攻撃を受けよう。
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魔法についての設定ですが、基本的にウィキペディアとゼロ魔の考察サイトを参考にしています。
日本刀にかけた固定化と硬化は謎の多い魔法ですねぇ。
原作に出てこない魔法は使う予定はありませんので安心してください。
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