「シエスタ……?」
「お目覚めですか? サイトさん」
「ああ」
確かギーシュに勝った後、ルイズにボディ決められて倒れたんだっけ。
ルーンの使いすぎも重なってあっさり気絶か。
そういや、ルーンの効果って継続時間の詳細は語られてなかったな。
動くと体力と共に精神力も持っていかれるからだいたい10分くらいが限度?
でもサイトは七万と戦って敵を止めたんだからおそらく丸一日位は持つはず。
ただし鍛えてるやつに限るってか?
推測だが、ゼロ戦とか道具を使うだけならかなり長い時間もつはずだ。
戦闘だと鍛えないとそう長くは持たない。
武器の相性とかもあるだろう。
やっぱりデルフリンガーがいるな。
などと考えてるといつの間にかシエスタが飯を持ってきてくれた。
「あの……、すいません。あのとき、逃げ出してしまって」
「いいっスよ~」
「ほんとに、貴族は怖いんです。私みたいな、魔法を使えないただの平民にとっては……」
シエスタは、ぐっと顔をあげた。その目がキラキラと輝いている。
「でも、もう、そんなに怖くないです! 私、サイトさんを見て感激したんです。平民でも、貴族に勝てるんだって!」
立った!
シエスタフラグが立った!!
「戦闘力……、83だと……?」
ガンダールヴの恩恵を発見したのだ。
。
名づけておっぱいスカウター
どうやら身体能力の向上は部分的にも可能らしい。
目に意識を集中させればなんとバストがわかってしまうんだ!!
ババァーン
な、なんだってー!!
「どうしたんですか?左手に何持ってるんですか?」
「いや、何でもないDEATH」
話を変えねば、もうシエスタフラグは立った。
ほっといてもこのエロメイドの称号を持つシエスタなら勝手に近づいてくるだろう。
「もしかして、ずっと看病してくれたのか?」
「違います。私じゃなくて、そこのミス・ヴァリエールが…」
やだ……何これ、可愛い。
ルイズは、柔らかい寝息を立てていた。
「ふぁああああああああ」
ルイズは大きなあくびをして、伸びをする。それから、オレに気づいた。
「あら。起きたの。あんた」
それはこっちのセリフだ。
「その、ルイズ」
「なによ」
「授業は?」
「いいのよ」
「いいのかよ?!」
思い出した。
教室爆破フラグを避けるために学院から離れた森でジョジョネタやってたんだ。
そのままギーシュと決闘したから教室爆破フラグは回避したらしい。
「ちょっと今は教室使えないから自習よ」
あなたがぶち壊しましたからね。
原作知識で知ってるとはいえ、生で魔法授業見れなかったのが残念なんて思ってないんだからねっ!
SIDE:マルトー
長年学院に務めているがアレには驚いた。
『我らの剣』
まさか平民が貴族の坊主をあっさりと倒すなんて。
いや、決闘の噂では剣すら持たずなんとポケットに手を入れたまま杖を奪って降参させたとか。
なぜかシエスタと飯を食いに来た『我らの剣』は自ら言ってたっけ。
「剣とか使えます。でも自分不器用なんで。相手を傷つけないように勝つにはアレが一番よかったんです」
信じられるか? 貴族相手に手加減してたんだ。
「本当の達人というのは、こういうものだ! 決して己の腕前を誇ったりしないものだ! 見習えよ! 達人は誇らない!」
その時は厨房の連中にそう言った。
「やい、『我らの剣』。俺はそんなお前がますます好きになったぞ。どうしてくれる」
謙虚なやつは嫌いじゃない。
「ハハ、HA☆NA☆SE」
美味そうに飯を食う姿も料理人としてうれしいことだ。
驚いたことに平民、いや、サイトだったか。
飯のお礼にと言って薪割りを手伝っていた。
「夢中になった。今は反省している」
剣を扱えるというのは本当だった。
薪割りをしていた姿は異常の一言に尽きる。
空中に放り投げた薪を鉈で一閃。
あっという間にバラバラにしていったのだ。
「さすがは、『我らの剣』だ!」
SIDE:サイト・ヒラガ
薪割りという名のガンダールヴ運転試験を終え適当に学院を散策することにした。
トリステイン学院。
本塔とその周囲を囲む壁、それと一体化した5つの塔。
下手な大学よりよっぽど広い。
小学校4つくらい入る敷地あんじゃね?
ゼロ戦を飛ばせるくらいの広場もあるし、さすがセレブの集まる学校。
「広すぎだろJK」
「あら?あなたは確かミス・ヴァリエールの使い魔さんでしたか?」
声のする方を向くと緑色の髪に眼鏡をかけた妙齢の美しい女性がいた。
ミス・ロングビル、またの名を「土くれのフーケ」だった。
「ヒュウ、これは美しいお嬢さん。宜しければお名前をお聞かせください」
「あら、これは失礼を。私は学院長の秘書でロングビルといいますわ」
フーケって23だっけ、俺と一つしか違わないのに年上のおねーさんって感じだ。
まあ、今の見た目は17前後だからまさに年上のおねーさんでいいわけだ。
「その美人秘書さんはこんなところで何を?」
「ちょっと、宝物庫の目録を作ろうとしていたところですわ」
そういや宝物庫って学院長室の近くにあったっけ。うーむ記憶が曖昧だな。
原作読んだのがずいぶん前だし、いちいち細かなところまでは覚えていない。
「興味深いですね~。どんな宝があるんですか?」
「詳しくはわかりませんが、秘宝と呼ばれるものがいくつもあるという話ですわ」
鍵は学院長が持ってるんだっけ。
「へぇ~。ここが宝物庫なんですか?」
鉄の巨大な扉を指さして聞いてみる。
「ええ、そうです」
「これってどうやって開けるんですかね?」
「学院長のオールド・オスマンが鍵を持っていますわ。今はご就寝中なのですが」
アレこれって確かコルベール先生が魔法じゃ無理だ。
物理攻撃なら破壊できるぜって伝えるシーンじゃね?
「はあ、魔法の事はよくわかりませんが、こっちの壁でもぶっ叩いて壊せばいいんじゃないですかね~」
扉には強力な魔法がかけられて開けられないんだっけ。
でも近辺の壁にはそんな強力な魔法はかけられてなかった気がする。
ルイズが爆発で壊してたし。
「!」
フーケはその発想はなかったわみたいな顔をしていた。
アレ? 気づいてなかったのか?
SIDE:フーケ
「はあ、魔法の事はよくわかりませんが、こっちの壁でもぶっ叩いて壊せばいいんじゃないですかね~」
アタシとしたことがどうにかしてた。
確かにこの使い魔の平民が言うとおりだ。
アタシの目算でもゴーレムで叩けば壊せそうだね。
でも、何モンだい?
この平民。アタシが二ヶ月かけて調べてきたのにたった一度この宝物庫を見ただけで攻略法を導き出した。
只者じゃないね。
ゾクリと背筋に嫌な感じが走る。
そうだ。平民なのにこの扉にかけられてる魔法に気づきその堅牢さを見抜きあっさりと扉を開ける考えを捨てて別の方法を思いついた。
同業者?
いや、平民の盗賊なんてたかが知れてる。
じゃあこいつは?
「素晴らしい慧眼の持ち主ですわね。もしや名のある貴族様でして?」
没落貴族だとあたりをつける。
「いいえ、ただの使い魔ですよ。ところで、ミス・ロングビルは独身なんですか?」
それがなんの関係があるんだい?
そう思いつつも答えることにした。
「ええ、身よりもありませんし、まだこちらに来たばかりなものでして」
「なんとぉ、ミス・ロングビルみたいな美しい人を放っておくここの男たちはどうにかしてますね」
まあ、悪い気はしない。
なんだ、アタシに惚れたのかい?
イケない坊やだ。
「あら、嬉しいですわね」
「冗談ではないですよ? おっと、どうやらお昼の時間ですね。残念ですが今日は失礼しますね」
じゃ、と言ってあっという間に立ち去ってしまった。
しまった。話をはぐらされた。
こちらの思案に気づいていた?
SIDE:サイト・ヒラガ
フーケには宝物庫の攻略法を教えれたからこれでいいだろう。
しかし、フーケをモノにするには難易度高すぎです。乙。
レコンキスタのことを伝えても今はまだ活動してないだろうし、アルビオンを救うにも戦力ねーし、テファをどうにかするといっても召喚されたばかりの俺がなぜ知っているということになる。
つまりは、詰んでる状態なわけで。
とりあえずはヒロイン達とフラグを立てることに専念するか。
「というわけで、図書館の許可書をくれ」
「何が、というわけよ? あんたどこうろついてたの? 使い魔のお披露目もまだすんでないんだからね!」
正直バカにされるだけとわかっているので行きたくない。
「まあまあ、次の授業でお披露目ってことで、ほら、御主人様みたいな大物は最後に披露するのがいいですよ」
適当にルイズのご機嫌を取っておく。
ま、原作通りにお披露目は馬鹿にされました。悔しくなんて無いんだからっ!
教室の爆破はフラグを回避したので起こらなかった。
その日の夜。
「お、フレイムじゃん」
ということはキュルケフラグか、結局キスしかできないんだっけ。
いや、乳くらいは揉んで見せる。
きゅるきゅる、と人懐こい感じで、鳴いているフレイムについていき、キュルケの部屋のドアをくぐった。
「扉を閉めて?」
俺は、言われたとおりにした。
「ようこそ。こちらにいらっしゃい」
「真っ暗だな」
キュルケが指を弾く音が聞こえた。すると、部屋の中に立てられたロウソクが、一つずつ灯っていく。
イッツショータイム。
ぼんやりと、淡い幻想的な光の中に、ベッドに腰掛けたキュルケの悩ましい姿があった。
ベピードール、誘惑するための下着をつけている。
薄! 服、薄!
チキショー、もっと明るかったら全て見えるのに。
「そんなところに突っ立ってないで、いらっしゃいな」
キュルケはにっこりと笑って言った。
「座って?」
俺は言われたとおりに、キュルケの隣に腰掛けた。
あ、やば。いい匂い。
「あなたは、あたしをはしたない女だと思うでしょうね」
「キュルケさん?」
「思われても、しかたがないの。あたしの二つ名は『微熱』」
常に体調不良みたいな二つ名だよな。
「あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。だから、いきなりこんな風にお呼びだてしたりしてしまうの。わかってる。いけないことよ」
「いけないことだね」
落ち着けまだ慌てる時間じゃない。
でも横のメロンちゃんを見てるとおっきしちゃうんだお(^ω^)
「でもね、あなたはきっとお許しくださると思うわ」
「許す?」
キュルケは、すっと俺の手を握ってきた。
キュルケの手は温かかった。
そして、一本一本、俺の指を確かめるように、なぞり始めたのだ。
やわらけぇええ。
「恋してるのよ。あたし。あなたに。恋はまったく、突然ね」
「まったく突然だな」
「あなたが、ギーシュを倒したときの姿……。かっこよかったわ。まるで伝説のイーヴァルディの勇者みたいだったわ! あたしね、それを見て痺れたのよ。信じられる! 痺れたのよ! 情熱! あああ、情熱だわ!」
「情熱か、うん」
だったら二つ名を情熱にすればいいのに。
「二つ名の『微熱』、つまり情熱なのよ! その日から、あたしはぼんやりとしてマドリガルを綴ったわ。マドリガル。恋歌よ。あなたの所為なのよ。サイト。あなたが毎晩あたしの夢に出てくるものだから、フレイムを使って様子を探らせたり……。ほんとに、あたしってば、みっともない女だわ。そう思うでしょう? でも、全部あなたの所為なのよ」
そうですか、俺の所為ですか。
「俺の所為なら俺が何とかしなきゃね?」
「ええ」
答えたキュルケを抱き寄せる。
ボヨンっとした感触が体に伝わる。
「んっ」
ハーッハッハ、キュルケの唇は頂いた。
ムニュと乳を揉んだところで行動を停止する。
「あん、どうしたの?」
「いやー、お客さんが来たみたい」
俺がそう言ったとき、窓の外が叩かれた。
そこには、恨めしげに部屋の中を覗く、一人のハンサムな男の姿があった。
「キュルケ……。待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば……」
「ペリッソン! ええと、二時間後に」
「話が違う!」
キュルケは、胸の谷間に差した派手な魔法の杖を取り上げると、そちらのほうを見もしないで杖を振った。
「今の誰?」
「彼はただのお友達よ。とにかく今、あたしが一番恋してるのはあなたよ。サイト」
キュルケが俺に再び唇を近づけた。
俺はこれからどうなるのか分かっているので、何もしなかった。
すると……、今度は窓枠が叩かれた。
見ると、悲しそうな顔で部屋の中を覗き込む、精悍な顔立ちの男がいた。
「キュルケ! その男は誰だ! 今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!」
「スティックス! ええと、四時間後に」
「そいつは誰だ! キュルケ!」
怒り狂いながら、スティックスと呼ばれた男は部屋に入ってこようとした。
キュルケは煩そうに、再び杖を振った。
再びロウソクの火から太い炎が伸びる。男は火にあぶられ、地面に落ちていった。
「……今のも友達?」
「彼は、友達というよりはただの知り合いね。とにかく時間をあまり無駄にしたくないの。夜が長いなんて誰が言ったのかしら!瞬きする間に、太陽はやってくるじゃないの!」
窓だった壁の穴から、悲鳴が聞こえた。窓枠で、三人の男が押しあいへしあいしている。
三人は同時に、同じセリフをはいた。
「キュルケ!そいつは誰なんだ!恋人はいないって言ってたじゃないか!」
「マニカン! エイジャックス!ギムリ!」
モテモテだな。まあ最終的には俺のものになるんで君たちはこれが最後の見納めだ。
「ええと、六時間後に」
キュルケは面倒そうに言った。
「朝だよ!」
三人は仲良く唱和した。キュルケはうんざりした声で、サラマンダーに命令した。
「フレイム!」
きゅるきゅると部屋の隅で寝ていたサラマンダーが起き上がり、三人が押し合っている窓に向かって、炎を吐いた。三人は仲良く地面に落下していった。
「酷いことするね」
「さあ? とにかく! 愛してる!」
「まった!」
そう言ってキュルケを押さえつける。
そのとき……。
今度はドアが物凄い勢いであけられた。ネグリジェ姿のルイズが立っている。
「キュルケ!」
ルイズはキュルケの方を向いて怒鳴った。
キュルケは俺から体を離し、振り返った。
「取り込み中よ。ヴァリエール」
「ツェルプストー! 誰の使い魔に手を出してんのよ!」
「しかたないじゃない。好きになっちゃったんだもん」
「そうだもん。好きになられたんだもん」
ルイズの鳶色の瞳は燗々と輝き、火のような怒りを表している。
やべ、外した?
「恋と炎はフォン・ツェルプストーの宿命なのよ。身を焦がす宿命よ。恋の業火で焼かれるなら、あたしの家系は本望なのよ。あなたが一番ご存知でしょう?」
「来なさい。サイト」
睨むのは結構ですが、鞭は勘弁してください。
「ねえルイズ。彼は確かにあなたの使い魔かもしれないけど、意思だってあるのよ。そこを尊重してあげないと」
「そうだ。そうだ。人権を認めろ」
ルイズは硬い声で言った。
「あんた、明日になったら十人以上の貴族に、魔法で串刺しにされるわよ。それでもいいの?」
「平気よ。あなただってヴェストリ広場で、彼の活躍を見たでしょう?」
学生程度なら何人集まっても倒せる自信があるが、さすがに敵を作るワケにもいかない。
「行こうかルイズ」
「あら。お戻りになるの?」
目的の乳も揉んだしこれ以上の長いは無意味だ。
部屋に戻ったルイズは、慎重に内鍵をかけると、俺に向き直った。
そういや鞭でこの後叩かれるんだっけ。それは痛いのでイヤだ。
「ルイズ」
「な、なによ?」
「武器が欲しいです」
神の左手、デルフリンガーをね。
「ど、どうして?」
真面目な顔が効いたのか素直に聞いてくれた。
「ルイズを護るために必要だろ?」
キラッ☆という感じで決めてみた。
「そ、そうね、なかなか殊勝じゃないの」
チョロい小娘だ。原作を読んでいる以上性格は分かっている。
「なんか気にくわない顔ね。ま、いいわ。明日は虚無の曜日だから、街に運れてってあげる」
ホッと胸をなで下ろす。しかし、結局、キュルケとの関係を聞かされたのだ。