SIDE:カリーヌ
久しぶりに戦慄を覚えました。
王宮ではマザリーニ枢機卿が待ってましたと言わんばかりに私たちを待ち構えていました。
聞けば彼は『平民の賢者』とペンフレンドであると。
たかが平民とトリステインを影から操っていると噂の枢機卿とペンフレンドという事実。
サイトさんは国の中枢に食い込んでいた?
最近できた平民だけの銃士隊にリッシュモンの逮捕。
以前起きた、姫様の誘拐未遂事件。
すべて、裏でサイトさんが動いていた?
「まさか。彼はあくまでもペンフレンド。"おともだち"ですよ」
私の問いにそう答える枢機卿。
怪しいが、枢機卿相手に追求するワケにもいかなかった。
急いで家に帰ってサイトさんに聞けばいいのだ。
夫に後を任せて私は一人、実家に向かった。
SIDE:エレオノール
悔しかった。
たかが、平民に言い負かされたこと。両親が何故か、信頼を置いていること。
なにより、カトレアの病気をあっさりと治してしまったこと。
早朝、誰よりも早く起きてルイズの使い魔のところへ赴いた。
ドアを開けたが、誰もいなかった。
それだけでも、私は頭に来たが冷静になって近くにいたメイドにアイツの居場所を聞いた。
「随分前に、中庭に向かいました」
「そう、ご苦労様」
かなり早起きしたつもりだった。それなのに、随分前にいなくなった?
私は気付くと急ぎ足で中庭に向かっていた。
「な、なによ。アレ」
拷問?
ルイズの使い魔はどこから持ってきたのか、大きな丸太を背負って走っていた。
それに、足には大きな鉛玉が鎖に繋がれている。
傍から見ると、大昔の奴隷がやる強制労働にも見える。
しかも、上半身裸なのだ。
私に気づいているはずだが、動きを止めない。
真剣な表情に声をかけるのも忘れて見入ってしまった。
丸太を身体に括りつけて、腕立て伏せを始めた頃に気づいた。
彼は鍛えているのだ。
素人でもわかる。
アレは異常だ。
我に返る頃、彼は汗だくになった身体を拭いていた。
「おや、何か用ですか?」
「い、いえ、その……」
上半身裸の男性、腹筋は綺麗に割れている。全身が引き締まっているのがわかる。
私たちメイジが魔法を鍛える場合、ただ杖を振っていればいい。
才能に左右されるが、そこそこ強くなれるのだ。
一方、平民は身体を鍛えるしか無い。
しかし、彼は歴戦の傭兵以上に鍛えていると思う。
拷問に思える、それほどに過酷なトレーニングをしていた。
「いつもあのようなことを?」
彼は『平民の賢者』だという。
私はてっきり頭のいいだけの平民だと思っていた。
しかし、彼はそれだけじゃない。強くなる為に人並み以上に努力しているのだ。
それに比べて私はどうだ?
ただの高飛車な物知らずの娘。
たまたま幸運で公爵家の娘として生まれてきた。
私はそれなりに努力はした。
結果は魔法研究所の研究員だ。
しかし、ルイズの魔法、カトレアの病気。どちらも私には分からなかった。
ルイズの魔法を失敗と決め付け、カトレアの病気は私もさじを投げてしまった。
一方、彼は、ルイズの魔法について何か知っている様子。
カトレアの方に至っては、治療してしまった。
私は無力だ。心の中で苦笑する。
「ありゃ、見られてましたか? ルイズには内緒にしといてください。俺って奴は臆病でしてね。鍛えてないと落ち着かないんです。それに、ルイズを守らないといけない」
人間が使い魔、前例を聞いたことがない。
しかし、ルイズを守るという使い魔らしい答えに、私は羨ましいと思った。
「つ、使い魔なのだから主人を守るのは当たり前です」
本当は違うことを言いたかった。貴方は努力している。すごいと認めてあげたかった。
しかし、貴族としてのしょうもないプライドが言葉を変えてしまった。
「良い人ですね。エレオノールさんは。ルイズのこと、心配なんだ」
彼の言うとおり、ルイズの事は大好きだ。
いつも、恥ずかしさで辛く当たってしまっているが、私はルイズを愛している。
私は心が見透かされているような感覚に落ちる。
つい、素直になってしまった。
「ええ、私の小さいルイズはアレでやんちゃなところがありますから。小さい時も目を離すとすぐにどこかに行ってしまって心配させるばかりで」
私は何を言っているのだろう。昨日今日あったばかりの男性に心を開いてしまった。
「ははは、ルイズはそれに気づいてないから意地悪されてると思ってますよ? 素直にそう言ってやればきっとカトレアさんにするように甘えてくると思います」
確かにカトレアとルイズの仲はいい。
私にも甘えてきて欲しいと思っているがその事を誰にも言ったことが無い。
「ホントに?」
「ええ」
彼の答えに私は少しだけルイズに素直に接してあげようと思った。
同時に、ここまで心を許せる男性に私の心は惹かれたような気がした。
SIDE:ルイズ
エレオノール姉さまの様子がおかしい。
私にやたらと優しくしてくれる。
おかしい。今日は一度もほっぺをつねられないし、怒られない。
極めつけは
「もっと甘えていいのよ」
と言われたことだった。
なんだか私の調子が狂う。
いつものエレオノール姉さまじゃない。
ちいねえさまが治った所為?
そういえば、やたらとちいねえさまはサイトに接している。
病気だったことを忘れて追い掛け回しているときは流石に驚いた。
いや、私以上にかわいがっている?
治療のお礼だろうか?
でも、まるで恋人のそれにするように。
アンリエッタ姫とウェールズ様のようにイチャついているようにも見える。
エレオノール姉さまもサイトにやたらと話しかけている。
サイトが家に来てから家族がおかしい。
お母様とお父様はサイトに事業の先のことでやたらと三人で話しているし、姉さま達もそれぞれ、部屋で何かお話をしている。
夜は私と二人きりになってくれるが、それ以外は何かと私の家族といるのだ。
もっと私をかまえ、と言いたかったが、サイトの代わりにエレオノール姉さまがやたらとかまってくるので、なかなか言い出せなかった。
私はサイトに家族を取られたように勘違いしてしまい。
思ってもいない事を口にしてしまった。
「サイトなんていなくなればいいのに!」
それを聞いたサイトは驚いた顔をした後、悲しい顔をした。
何も言わずにサイトは部屋を出て行ってしまった。
私はその言葉をひどく後悔する時が来るのをその時は知らなかったのだ。
そして、サイトの悲しい顔。
それが、私の見た最後のサイトの顔になる。
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カトレアさんの病気は原作者のヤマグチ氏のみぞ知る。
さて、そろそろ、乳革命の出番だ!
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