SIDE:キュルケ
私は、昼前に目覚めた。今日は虚無の曜日である。
窓を眺めて、窓ガラスが入っていないことに気づいた。周りが焼け焦げている。しばらくぼんやりと寝ぼけた気分で見つめて、昨晩の出来事を思い出した。
「そうだわ、ふぁ、色んな連中が顔を出すから、ふっ飛ばしたんだっけ」
そして、窓のことなどまったく気にせずに、起き上がると化粧を始めた。
今日は、どうやってサイトを口説こうか、と考えるとウキウキしてくる。
私は、生まれついての狩人なのだ。
化粧を終え、自分の部屋から出て、ルイズの部屋の扉をノックした。
そのあと、私は顎に手を置いて、にっこりと笑った。
サイトが出てきたら、抱きついてキスをする。
しかし、ノックの返事はない。あけようとしたが、鍵がかかっていた。
私はなんの躊躇いもなく、ドアに『アンロック』の呪文をかけた。
部屋はもぬけの殻だった。二人ともいない。
「相変わらず、色気のない部屋ね……」
ルイズの鞄がない。虚無の曜日なのに、鞄がないということはどこかに出かけたのであろうか。窓から外を見まわした。
門から馬に乗って出ていく、二人の姿が見えた。
SIDE:タバサ
普段の自分なら虚無の曜日は好きなだけ本を読んでいる。
だが、ふと窓の外を見た時、二人の姿が見えた。
間違えなく一人は彼である。
彼らを追うために準備を済ます。
すると丁度ドアが開いた。
「タバサ。今から出かけるわよ! 早く支度をしてちょうだい!ってアレ? どこかにいくの?」
彼らを追いかけるとは言えない。
「本を買いに行く」
「ふ~ん」
納得してないようだが、私には関係ない。
私は窓をあけ、口笛を吹いた。
ばっさばっさと力強く両の翼を陽光にはためかせ、ウィンドドラゴンが飛び上がった。
「いつ見ても、あなたのシルフィードは惚れ惚れするわね」
「どっち?」
私は短くキュルケに尋ねた。
窓から見た方角して城下町の方だろう。
しかし、それを知っているということは彼らを追いかけるということをバラしてしまうことになる。よって、嘘をついた。
「わかんない……。慌ててたから」
私は別に文句をつけるでなく、ウィンドドラゴンに命じた。
「馬二頭。食べちゃだめ」
SIDE:ルイズ
変わった使い魔だと思っていた。ギーシュとの決闘では圧倒的な力の差で勝ってしまった。
しかも素手で。
使い魔のサイト曰く、自分は剣を使った方がもっと強いとのこと。
ドットメイジを物ともしない強さを誇る使い魔。
剣を持たせたらもしかしてトライアングルクラスのメイジでもやっつけちゃうんじゃないのかしら?
そう思うと私は誇らしくなった。
こんな強い使い魔を呼び出す私はすごいんじゃないか?
そう思っていたのもつかの間。
「乗馬って難しいな。そして股が熱い」
馬に乗るのが初めてだったらしい。
股って言うな。
結局城下町に着いた時にはへばっていた。
強いのか弱いのかよく分からない使い魔だ。
SIDE:サイト・ヒラガ
馬で三時間って偉く遠いな。
車が恋しいです。
城下町ってまさにテーマパークだな。
夢の国といい勝負だ。
でも狭い。
「狭いな」
「狭いって、これでも大通りなんだけど」
道幅は五メートルもないのだ。
コミケよりは人は少ないがそれでも結構人もいる。
コミケの昼過ぎレベルだな。
「ブルドンネ街。トリステインで一番大きな通りよ。この先にトリステインの宮殿があるわ」
「ふーん」
そういえば、城って攻め落とされないように城下町って複雑にするようになってるんだっけ?
でも、空戦用の戦艦あるしそもそも魔法使いって空飛べるじゃん。
ドラゴンもいるから城下町複雑にしても意味ないんじゃね?
「ほら、ボーッとしない。すりが多いんだから! あんた、上着の中の財布は大丈夫でしょうね?」
「大丈夫だ。しかしこんな重いもんすられんよ」
エキューって円に換算するといくらだ?
まあいい、しかし、五百円玉をキロ単位で持つってどんなプレイ?
「魔法を使われたら、一発でしょ」
「貴族がスリなんかすんのかよ」
原作どおりの会話だった。
「きたねえ」
「だからあんまり来たくないのよ」
悪臭が鼻をつく。ゴミや汚物が、道端に転がっている。
「汚物は消毒だ~」
「何いってんのよ。あ、あった」
掃除しろよな。というか貧乏メイジと平民総動して掃除する会社作れば雇用も安定するし街も綺麗になる。一石二鳥だ。今度ルイズに言ってみよう。
店の中は昼間だというのに薄暗く、ランプの灯りがともっていた。
壁や棚に、所狭しと剣や槍が乱雑に並べられ、立派な甲冑が飾ってあった。
ドラ●エの武器屋か!?
「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」
「客よ」
ルイズは腕を組んで言った。
「こりゃおったまげた。貴族が剣を! おったまげたー」
「どうして?」
「いえ、若奥さま。坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖をふる、そして陛下はバルコニーからお手をおふりになる、と相場は決まっておりますんで」
「使うのはわたしじゃないわ。使い魔よ」
「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も剣をふるようで」
主人は、商売っ気たっぷりにお愛想を言った。それから、俺をじろじろと眺めた。
なんだよ文句あっか
「剣をお使いになるのは、この方で?」
「わたしは剣のことなんかわからないから。適当に選んでちょうだい」
主人はいそいそと奥の倉庫に消えた。
「なあ、ルイズ。明らかにあの人はお前を剣を知らない鴨だと思ってたぞ?」
「しょうがないでしょ? 貴族は剣なんてふらないもの」
主人は一メートルほどの長さの、細身の剣を持って現れた。
「レイピアか?」
「そのとおりでさあ」
「あ~、スイマセンが、これは使い物になりませんね」
「といいますと?」
刺すのに優れているが細いため耐久度がない。
それに俺が欲しいのはデルフリンガーだ。
適当にイチャモンをつけて他の剣を持ってきてもらうことにした。
「もっと大きくて太いのがいいわ」
何その卑猥な言葉?
デルフリンガーがしゃべりだすまでイチャモンを付ける。
「これなんかいかがです?」
宝石が散りばめられた剣だった。たしかメチャ高い剣だけどあっさりと折れるなまくらな剣だったな。
「ん~、それって戦闘用の剣じゃないね。どっちかっていうと式典用じゃね?」
「わかってるじゃねーか。小僧」
デルフですね。分かります。
「やい! デル公! お客様に失礼なことを言うんじゃねえ!」
「お客様? 剣もまともにふれねえような小僧っこがお客様? ふざけんじゃねえよ! 耳をちょんぎってやらあ! 顔を出せ!」
「それって、インテリジェンスソード?」
ルイズが、当惑した声をあげた。
「そうでさ、若奥さま。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。いったい、どこの魔術師が始めたんでしょうかねえ、剣をしゃべらせるなんて……。とにかく、こいつはやたらとロは悪いわ、客にケンカは売るわで閉口してまして……。やいデル公! これ以上失礼があったら、貴族に頼んでてめえを溶かしちまうからな!」
「おもしれ! やってみろ! どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ! 溶かしてくれるんなら、上等だ!」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ」
そう言って俺はデルフリンガーを持つ。気づけよ?デルフリンガー。
「おでれーた。見損なってた。てめ、『使い手』か」
「『使い手』?」
「ふん、自分の実力も知らんのか。まあいい。てめ、俺を買え」
「買うよ」
そのためにここに来たんだし。
「ルイズ。これにするぞ」
ルイズはいやそうな声をあげた。
「え~~~。そんなのにするの? もっと緯麗でしゃべらないのにしなさいよ」
「だが断る」
有無を言わせ無い内に購入させる。
「あと、ついでに隠しナイフが欲しいんですが構いませんかね?」
ちゃっかりと隠しナイフも買ってもらったのだ。
「一目でわかったよ……アンタ俺に惚れてる」
「何いってんだ?」
―――――――――
2010/08/21
誤字修正しました。
―――――――――