SIDE:ルイズ
アルビオン侵攻は、怖いほど順調に進んだ。
お父様、お母様率いる、ラ・ヴァリエールの軍団は私を守るためだけに動いたと言っても過言ではなかった。
常に私の側にはお父様か、お母様がいた。
でも、サイトは側にいなかった。
私は姫様の側にいた。
それに、姫様の私に対する行動に思うところがあったのか両親が姫様と私に問い詰めてきた。
私が虚無の使い手であることが、両親にバレた。
サイトがいないと私は駄目だった。
虚無は使わせない。
両親の下した命令に私は従うしかなかった。
私は切り札として、姫様の側に居ることになった。
サイトの操るゼロ戦は空を駆け巡る。
次々とアルビオンの竜騎士達を落としていた。
私はサイトが無事で嬉しかった。
サイトの活躍は著しい。
空を駆けるフェニックスと謳われ、トリステインの盾とも言われた。
サイトは敵を殺さずに制圧している。
私はそれを聞いて誇らしかった。
そんな中、アルビオン軍主力が早くも動き出したと報告が届いた。
侵攻してわずか三日目である。
空にはトリステインの守り神、地上にはラ・ヴァリエール軍団。
さらに、風のスクウェアスペル、ユビキタス(偏在)による情報伝達方の確立がトリステインに戦果をもたらした。
「正直に言います。サイト殿の提案を使いました」
私と、姫様しかいない時マザリーニ枢機卿は静かに語った。
ユビキタスでの情報伝達により、軍の連携が上手くいくこと。
敵が戦力を拡大するまえに短期的に戦いを終えること。
そのためにはラ・ヴァリエール軍団とサイトを上手く使うこと。
捕虜には優遇してアルビオンの情報を聞き出すこと。
「彼にはお礼を仕切れない。彼は我が国の英雄だ。よくぞラ・ヴァリエールは彼を召喚してくださった」
「いえ、とんでもありませんわ……」
私はマザリーニ枢機卿の勢いに若干驚きながら答えた。
わずか三日でトリステインの盾と呼ばれるサイトのことを想う。
サイトとは家で別れて以来顔を見ていない。
悲しかった。
この戦が終わったら文句の一つでも言ってやる。
翌朝、私は顔を蒼白にする報告を聞いた。
シティオブサウスゴータに集結したアルビオン軍の主力五万。
そこにサイトらしき人物が一人で向かって行ったらしい。
「それ、本当なの?」
「はい。背中に大剣と腰に細身の剣を持った黒髪の少年が馬でシティオブサウスゴータに向かう所を見たと言う人物が何人もいます」
「サイトさん、ですわね……」
アンリエッタ姫も顔を蒼白にしている。
お父様はサイトの後を追うべくすぐに私たちの元を去った。
なにしてるのよ。サイト……。
普段のサイトでは考えられない行動だ。
サイト自ら死ににいくような真似をするなんて……、もしかして、私のせい?
私は居ても立ってもいられなくなり、部屋を飛び出そうとした。
「お待ちなさいルイズ!」
「離して! サイトを助けなきゃ!」
「今から行っても間に合いません!」
姫様に止められた。
気付くと私は泣いていた。
「どうして? サイト?」
「あなたを、そしてこの国の多くの人を守るためですわ」
姫様も泣いていた。五万の人間相手に生き残れるはずがない。
どうして、そんな無茶を?
「あなたの両親がきっと助けてくれるわ。今はサイトさんの無事を信じて待ちましょう」
私は母様の顔を思い出す。
「烈風カリン」として現役復帰した母様。
サイトのことを気にかけてくれていた。
サイトの単独行動の知らせを聞いていちはやく向かってくれたと聞いた。
母様ならきっとサイトを救ってくれるだろう。
助けるのが私ではないのが悔しい。
「……、分かりました姫様。サイトには帰ってきたらきつく言い聞かせます」
「私も……、それに賛成ですわ」
二人で笑いあう。
私は不安を心に秘めたままだった。
昼過ぎ、私と姫様の元に報告が入る。
「アルビオン軍五万の主力部隊がラ・ヴァリエール軍団により、壊滅的打撃を受けてアルビオンから降伏宣言がでました。なお、妙な報告が一つ。ラ・ヴァリエール軍団が到着した頃には相手は相当混乱していた様子で、ラ・ヴァリエール軍団はそれを叩いただけとのことです」
「ルイズ!」
「ええ、姫様。サイトですわ」
私は誇らしげに胸をはる。
しかし、嫌な予感がずっと拭えない。
「お母様?」
突然、私たちの元に顔色の悪い母様が現れた。
「ルイズ、落ち着いて聞きなさい。サイトさんが消えました。私たちが相手を制圧した頃には既にサイトさんの姿が消えていました」
私は母様が何を言っているのかわからなかった。
つまりサイトはどうなったの?
「母様、サイトはどうなったの?」
「わかりません。確かに途中までは一緒に戦っていたはずですが……」
「何故か姿を消したと?」
姫様が付け加えるように聞いた。
それに母様は頷く。
「私を見てこれ以上戦闘は必要ないと思ったのでしょうか? しかしながら、女王陛下、彼のような人を英雄というのでしょうね」
母様は遠くを見るような目で私を見ていた。
「彼は既に我がトリステインの英雄ですわ。トリステインの盾と噂されてますし……」
「ええ、私が見た彼はまるで……、英雄、いえ、勇者のように勇敢でした」
母様は言う、サイトの勇敢な戦いぶりを勇者だと。
SIDE:サイト・ヒラガ
五万も七万も変わらん。
朝もやのなか目の前にいる大軍を見てそう思う。
短期決戦が上手く行った。
のんびりしてると、降臨祭とかアンドバリの指輪で相手に援軍を作ってしまう。
べ、別にルイズに嫌われてムシャクシャしてやったわけじゃないんだからねっ!
それに、早く、早くおっぱ、ティファニアに逢いたかったのだ。
しかし、居なくなれってキツイこと言うぜ。
その言葉通り、しばらく居なくなるけどな。
「さて、おっぱ、ティファニアに出会うとしますか」
俺は俺自身の力を試したかった。
俺は走り出す。
危なくなったら逃げるからねっ!
それに、ラ・ヴァリエール軍団が後で何とかしてくれるだろう。
SIDE:ホーキンス
前衛の混乱が激しくなっていた。敵は見事な動きだと関心する。
単身で乗り込み多くの兵の中を器用に駆け巡る。
味方は同士討ちで混乱する。
その混乱がますます混乱を招いていく。
それも、相手は指揮官ばかりを重点的に狙っている。
自分の元に届く報告を聞いて頭を悩ませる。
「なんてヤツだ!」
風のように速い敵だ。
火のように強い敵だ。
土のように動じない敵だ。
水のように臨機応変な敵だ。
しかも相手は重傷者ばかり作っている。水のメイジが慌てふためいている。
死者を出さないというのがここまで厄介なものか。
けが人が転がっているため大軍を前に進めることもできない。
「散開して敵を囲め!」
「無理です! 指示系統がめちゃくちゃになってます。散開させたら逃げ出す兵士が出てきます!」
私は顔を歪める。
指示が遅すぎた。
相手の動きが早すぎた。
兵たちの間に動揺が走りつつある。
曰く、エルフの精鋭である。
曰く、悪魔である。
曰く、風の精霊である。
なんとも気に入らない。
対策を思案する。
「ホーキンス将軍! 敵の増援です! それを見て兵たちが逃げ出しています!」
「く、よもやここまでとは……」
敵の援軍は我が軍を蹂躙し始める。
どうやら向こうには圧倒的な風の使い手がいるようだ。
あっという間に制圧され始める。
「烈風カリンです! あの伝説の烈風カリンが……」
それ以上の報告は耳に入らなかった。
私は知っている。アイツの恐ろしさを。
「全軍! 戦闘は終了! 降伏する! 死にたくなかったら武器をおけ!」
私の指示に次々と兵たちは武器を置き始める。
たった一人にかき回された。
私は思う、二度とトリステインとは戦わない。
「単騎で大軍を止める、か。歴史の向こうに消えた言葉で言うならば、彼は『英雄』だ。わたしも将軍ではなく、『英雄』になりたかった」
本音だった。それを聞いた 副官も頷いた。
「ですな。つりあう勲章が存在しないほどの戦果ですな。残念なのは、彼が敵だということです」
「全くだ」
投降している兵を見ながら苦笑する。
そういえば、彼はどこへ消えた?
疑問に思いながら烈風カリン率いる軍団に投降した。
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ルイズ、貴様にはしばらく休暇を与える!
さよならつるぺた。こんにちはボインちゃん。
忙しさ(サッカー観戦)にやられて更新遅れました。
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