『森の賢者』
トリステインの英雄が戦場から消えたと同じ時期にアルビオンから噂が広まった。
商人に経済を説き、平民には学を与え、メイジではないのに病気まで治すという。
SIDE:ウェールズ
「ふ、わかりやすいな。サイトくんだ」
親友の顔が浮かぶ。
ゲルマニアのミス・ツェルプストーの実家まで噂は届いている。
アンリエッタは気づいているかな。
私は手紙を書く。
"アンリエッタへ"
"サイトくんはどうやらアルビオンにいるらしい。"
"森の賢者の噂。正体は恐らくサイトくんだろう。彼は貴族を嫌うだろうから平民の腕の立つ人物に探してもらうといい。"
書き終えた手紙を送る。
アルビオンで助けられたティファニアのことを思い出す。
もしかしたらサイトくんはあそこにいるのでは?
そう考えるとサイトくんは滞在するだろうな。
胸が好きだと言っていたし。
やれやれ、ミス・マチルダにも手紙を出しておいた。
ティファニアは私の恩人だ。
サイトくんが手を出すとは考えたくないが、年頃の男女が生活していれば間違いも起こりかねない。
「まったく、困った親友だ」
SIDE:アンリエッタ
深々とホーキンスは頭を下げた。
「なにか?」
「陛下……、陛下の軍は、たった一人の英雄によって救われたのです。ご存知ですか?」
私は頷いた。
ラ・ヴァリエール軍団の報告。
烈風カリンの報告。
ラ・ヴァリエール公爵家が噂を出している英雄の張本人。
ホーキンスは私に語った。
アルビオン軍は、一人の剣士によって止められたこと。
鬼神のごとき強さ、誰も殺さない手際。
ホーキンスは目を輝かせてサイトさんのことを英雄だと言う。
「――たった一人の剣士が……、数万の軍勢にも匹敵する戦果をあげたのです。英雄には、その働きに見合う名誉を与えねばなりません」
「わかっています。ありがとうございます」
〝虚無〟の使い魔。
伝説のガンダールヴ……。
彼はトリステインを救ってくれたのだ。
その夜。
アニエスを呼びつけた。
「隊長どの、あなたに新しい任務を与えたいのですが」
「喜んで」
私は、昼間、ホーキンス将軍から聞いたことを話した。
「ミス・ヴァリエールの使い魔が?」
「そうです。彼は……、祖国を救ってくれたのです。なんとしても、見つけ出さなければなりません。アルビオン軍と彼が交戦した地点はサウスゴータ地方……、ロサイスの北東とのことです」
「かしこまりました」
アニエスの顔が一瞬だけ嬉しそうになったのを見逃さなかった。
SIDE:モンモランシー
ここはトリステイン学院。
時は夕刻……。
私は、ちょっとせつない気持ちになって散歩をしていた。
あまり人の来ない、ヴェストリの広場を眺める。
戦争が終わってすぐに噂が流れた。
アルビオン軍に壊滅的打撃を与えた一人の少年のこと……。
サイトのことだと思い、浮かれるのもつかの間、次の噂で漠然となった。
その噂が本当だとして、五万の大軍に立ち向かって、生きているわけがない。残念だけど、諦めたほうがいい、と……。
学院に帰ってきたルイズの隣にサイトがいなかった時、私は激しく落ち込んだ。
やっぱり、サイトは……。
しかし、ルイズはサイトが行方不明になったと言った。
どうやら、噂は湾曲したらしい。
ホッとする反面なぜ行方不明になったのだろう、なぜ帰ってこないのだろうと疑問に思う。
ふと、気付くと目に入ったのは、火の塔の隣にしつらえられたサイトのお風呂だった。
そういえば、以前一緒に入ったっけ。いや、アレは薬のせいだった。
初めて会った時はフザケた平民だと思った。
次に会った時は事業に参加させられていた。
気づいたら平民の賢者と呼ばれていたっけ。
サイトのおかげでお金のことで悩むことが無くなった。
そんな風に、サイトとの思い出に浸っていると……。
なんだか目頭がじーん、と熱くなる。
「サイト。私はやっぱりサイトが、五万のアルビオン軍を止めたんだと思うわ」
私はごしごしと目の下をこすった。
死んだわけじゃないのに、帰ってこないサイトを思い、悲しくなった。
「……、早く帰ってきなさいよ。バカ……」
SIDE:マチルダ
サイトの事は噂で聞いている。
随分と無茶をするなぁ。と思ったがアタシはサイトが生きていると確信している。
手元にある書類の束を見る。
"もしも俺が長期不在になった時の対策"
冒頭の書き出しからサイトはあらかじめ、長期不在をすることを知っていたらしい。
戦の前に渡されたのだが、まさかこんなに早く使うとは。
「本当に恐ろしい坊やだ」
自分自身がいなくなることさえ織り込み済みなのだ。
終戦から十日程たったある日、私の元に珍しい人物から手紙が届いた。
「な、なんですって……」
ウェールズ曰く、サイトはアルビオンにいるらしい。
しかも、アタシの可愛い妹、ティファニアのところにいる可能性が高い。
すぐにでもティファニアの所に向かおうと思ったが、サイト作の書類にアタシがいないと事業に支障がでると綿密な説明が書いてあった。
「はぁ」
学院を離れるわけにはいかない。事業に支障が出てティファニアに仕送りができなくなると困る。
「早く帰ってきなさいよ、サイト」
SIDE:キュルケ
私は、五万相手に大暴れしたサイトの噂を聞いておったまげた。
それをルイズの実家が噂を広めているという。
肝心のサイトは行方不明になっていた。
終戦から、かれこれ二週間以上サイトは行方不明のままだ。
どうして、帰ってこない?
そして、もう一つサイトらしき噂が増えた。
『森の賢者』
アルビオンのどこかの森から広まった噂らしく詳しくは不明。
商人に経済を説き、平民には学を与え、メイジではないのに病気まで治すという噂らしい。
「まったく、トリステインは無能の集まりなの?」
サイト捜索は国を挙げて行われていた。
だが、未だに見つかったという報告は私に届いていない。
サイトは生きている。
私はサイトが死ぬなど思っていない。
探しに行こうかしら?
冷静になって考える。
国を挙げて捜索している人物を一人で見つけられるわけがない。
それに探しに行っている間にサイトが帰ってきたら入れ違いになってしまう。
結局、学院でサイトの帰りを待つしか無い。
「なんか、恋人の無事を祈りながら待つ可憐な少女のようね……、早く帰ってきなさい。私のサイト……」
SIDE:アンリエッタ
「そろそろ、三週間が経つわね……」
アニエスの報告は全て捜索中。
「アニエスはサイトさんに味方している? まさか、彼女は私の近衛……」
私は捜索の人数を増やそうかと考えていた。
丁度、サイトの情報を定期的に聞いてくる者……、カリーヌが訪ねてきた。
考えていた人数の増員を伝える。
「……、あまり、大事にすると本気で彼が逃げ出すかもしれません」
カリーヌは悩ましげに答える。
トリステインを救ってくれておきながらお礼もさせてくれない彼。
いったいどこで何をしているのだろう。
SIDE:カリーヌ
サイトさんの無謀な行為。
これは許されることではない。
しかし、結果だけ見ると彼は多大なる貢献をした。
私も昔は男装して軍に入って功績を立てたが、どれもサイトさんの功績に比べると霞んで見える。
「まったく、心配ばかりさせて……、出来の悪い息子を持った気分だわ」
トリステインから実家に帰る道中、一人でつぶやく。
しかし、サイトの戦う姿は凄まじかった。
剣士ではあまり居ない二刀流だった。
舞のように美しかった。
竜のように強かった。
そして、何より、速かった。
その姿を思い出して少し胸がドキドキした。
私がルイズくらいの頃に出会っていたら惚れていたかな?
年甲斐ないことを考えてしまい、苦笑する。
「ふふ。まあ、彼ならその内帰ってくるでしょう」
SIDE:サイト・ヒラガ
森でイドを見つけた。
「イドに誰もいないよね? うん、いない」
中を覗き込んでみたが、水が入っていただけだ。
「って、俺は一体何を?」
気づいたらイドに夢中になっていた。
最近やたらと商人が俺に話を聞いてくるし、村の人達は俺に文字を教えろと言ってくる。
そんな奴らを相手にして金をせしめていた。
その金で以前のカトレアさんの件から俺は医学に手をだそうと考え、専門書を購入した。
しかし、早々に魔法に心を折られた。
魔法が便利すぎて医学の進歩が見られない。
仕方ないので医学は諦めて、覚えている範囲でケガの応急処置法と溺れた時の心肺蘇生法、それに食生活の改善などをまとめて本にして売りさばいてやった。
さて、用事も済ませたし、おっぱ、テファの元へ帰るか。
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シリアスな話や、心踊らす戦闘描写は今後の私に期待。
というか、まだまだ文章力を鍛えてる未熟者なので、頑張りたいと思います。
サッカー観戦しながら書いていた分を一気に投稿。
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