SIDE:モンモランシー
サイトが居なくなって一ヶ月は経つ。
ルイズは使用人のメイドを連れて探しに出掛けてしまった。
私もルイズの後を追うために準備をしていた。しかしそれも無駄になった。
狙ったように、ルイズの出発と入れ違いにサイトから手紙が届いたのだ。
"オッス。オラ、サイト。"
"この手紙が届いているということはたぶんルイズは俺を探しに行ってる頃だろう。"
"ギーシュのアホは勲章でも自慢してると思うので俺が帰るまでに鍛えとけと伝えろ。帰ったら決闘だ!"
"事業については俺が居なくなった時のマニュアル通りに動いていると思うのでそのままやっちゃってちょうだい"
"モンモランシーは回復の薬を作ってもらう。上質な水の秘薬を1ダースね。期限は俺が帰るまでな! できなきゃ犯す"
"じゃ、またな~"
「サイト……、無事なら早く連絡しなさいよね。あ~、また課題ねぇ」
サイトは事あるごとに課題という名の無理難題を押し付けてくる。
メイジとしてレベルが上がるので文句はないし、報酬も出るのでやるが、できなかった時の罰がほとんどセクハラまがいのものだ。
しかし、女性であることが助かっているのも事実である。
バカ(ギーシュ)がヘマをした時はボロボロになった上にタダ働きさせられていた。
「それにしても、なんでギーシュが勲章を自慢してるってわかるのかしら?」
戦地から帰ってきたギーシュはコレぞとばかりに教室で自慢しまわっていた。
それに比べてサイトの勲章は大きすぎる。
しかも自慢するどころか行方不明になって心配させる始末。
ギーシュがなにやら私に聞こえるように自慢話を初めていた。
「まあ、私には関係ないわね」
ギーシュの取り巻きには女の子もいる。
誰かと好き勝手にくっつけばいい。
それよりも、水の秘薬つくりに精を出そう。
あ、ギーシュへの伝言を忘れるところだった。
「ギーシュ」
「モンモランシー!」
未だに恋人だと思い込んでいるわね。
まあいいわ。
「はいこれ」
「なんだい? 手紙? ははは、サイトからじゃないか!」
ギーシュは手紙を読んでいく内に青くなったり赤くなったり顔色を変えていた。
「どうしよう? 僕は殺される!? なんで決闘なんだ~!」
「知らないわよ。じゃ、伝えたからね。私も忙しくなるから邪魔しないでね」
私はギーシュを置いて教室を出た。
「あ、いた。ちょっと、お願いがあるんだけど」
「え? あ、モンモランシー。またサイト?」
水系統の知り合い数人に声をかける。
随分と社交的になったものだ。
サイトの出す難題はそもそも一人でなんとか出来るレベルじゃない。
サイト自信も一人でやれとは言ってこない。
結果を出せるなら使えるモノは使う。
「そうなの。今度は上質の水の秘薬1ダース」
「うわぁ、キツイね。先輩と後輩、集めてくるわ」
そう言って私を置いて去ってしまった。
サイトの報酬は多い。そこから彼女たちにも分配する。
サポート料としては適切だと思う。
サイトの事業で家計の苦しい学院の生徒は優先的に拉致……、じゃなく勧誘されている。
清掃事業はいつの間にか国に認められた公共事業になってた。
それ以外のサイト個人の事業の手伝いを学院は黙認している。
不幸になる人物がいないし、授業にも影響がないのが理由だろう。
実際に、家族が助かったとお礼すらする子もいる。
大概は、学院を中退してサイトの仕事場ですぐに働きたいと言うが、
『中退する奴はウチでは採用しないぞ』
その言葉で皆、中退は諦めた。
おかげで中退を決めていた子たちと仲良くなれたので文句はない。
しかし、事業に勧誘するのは女の子ばかりなのはなぜだろう?
『すべてのおっぱ、じゃなかった。女性に優しい。それがこの俺。サイトさんです』
以前のサイトの答えが気になる言い方だったが、まあいいわ。
SIDE:ギーシュ
僕が何をした? サイトの手紙には帰ってきたら決闘とあった。
なぜだ~?
部屋に戻ると手紙を持った鳥がいた。
「なんだ?」
手紙を読む。
"サイトです。君に出番をやろう!"
"訓練その1 身の回りの世話はワルキューレにやらせろ。"
"訓練その2 毎日ぶっ倒れる限界まで魔法を使い尽くせ。"
"訓練その3 筋トレとかすればいいと思います。"
"訓練その4 実戦の相手はトライアングルじゃないと意味ないよね?"
"キュルケとタバサを相手にしろ。覗きでもして無理やり戦いに持ち込むといいでしょう"
"健闘を祈る。じゃあな"
"追伸、女の子は強い男に惚れやすい。モテたきゃ強くなれ"
それだけだった。
僕はそれからすぐにワルキューレを作り出し、身の回りの世話をさせた。
勲章をもらったのは老兵のおかげ。
それを恥じていた。
「くっくっく、サイト。僕は強くなるよ」
手紙の後半の内容でやる気がマックスになっていた。
その後、常に一緒にいるワルキューレを連れているギーシュは学院で戦争に頭をやられたカワイそうな子という噂が広まったとか。
SIDE:サイト・ヒラガ
「あ、あんたエルフだったの?」
気付くの遅すぎ。ルイズがテファの耳を見ていた。
デカすぎる胸が悩みという、全女性の敵、テファは答える。
「私はハーフですけど」
ついでに言えば虚無の担い手ですけど。なにか?
以前、盗賊達に襲われた後、テファに確認の為に聞いていた。
『襲われた時、テファはどうしてたの?』
『えっと……』
もじもじしながら虚無の目覚めから今に至るまでを語ってくれた。
君の敵はウェールズの父だ。と言いかけたがややこしくなるのでやめておいた。
テファは自分が虚無の担い手だというのに、ことの重大さがよくわかっていない感じだ。
しかし、テファが虚無の担い手という事実をどうする?
「ハーフエルフの娘っこは、〝虚無の担い手〟だ」
駄目だ、この剣。埋めるか?
「このバカ剣。ダメソード。人が考え事してたのにブチ壊しやがって」
「どういうこと?」
ほら見ろ。ルイズが聞いてきた。
「はぁ、テファもルイズと同じ虚無の担い手なんだよ」
困った顔の俺の顔を見ながらも、ティファニアは改めて語った。
エルフである自分の母は、アルビオン王の弟である大公の妾だったこと。
財務監督官でもあった父は、王家の秘宝を管理していたこと。
ある日、その王家の秘宝の一つである指輪をはめ、同じく秘宝であったオルゴールのふたをあけたら、自分の他には誰にも聞こえないメロディが聞こえてきたこと。
エルフを妾にしていたことが、アルビオン王にばれ、騎士隊を差し向けられたこと。
その際に、父と母が命を落としたこと。
そのとき、頭の中に浮かんだ呪文を唱えたら、騎士たちの頭の中から『自分たちを討伐するためにやってきた記憶』が消え、自分は助かったこと……。
「その呪文が〝虚無〟ってわけ?」
ルイズの質問にダメ剣が答える。
「そうだよ。〝忘却〟の呪文さ」
「どうして記憶を消すのが〝虚無″になるのよ」
「思い出せ。お前さんの持ってる始祖の祈祷書の序文には、なんて書いてあった?」
「系統魔法は、小さな粒に影響を与える。〝虚無〟はさらなる小さな粒に、影響を与える……」
「そうだ。人の脳みそは、小さな粒の集まりでできてる。記憶ってのは、この小さな粒のつながりさ。系統魔法での〝魅了〟や〝敵意〟、特定の感情を発揮させる呪文は、この粒に干渉して中の流れを変えてるだけなんだ。だが、虚無たる〝忘却〟は違う。さらなる小さき粒に干渉して、記憶の中枢たる〝小さな粒のつながり〟の存在を消しちまうんだ」
「そんなこと言われてもわかんないわよ」
「とにかく、あのハーフエルフの娘っこが唱えた呪文は、紛れもなく〝虚無〟だよ」
人の記憶って電気信号だっけ?
それはいいとして、虚無は原子に干渉できる。
わかっちゃいたが、『忘却』ってこえーな。
隠密行動して総指揮官に戦う目的の記憶消せば勝てるじゃん。
「ダメ剣のお墨付きもでたし、間違いなくテファは虚無の担い手ってことで」
「相棒、ダメ剣ってひでーよ」
「ところで、虚無の担い手って何人いるわけ?」
デルフを無視してルイズが聞いてくる。
相変わらず可愛顔をしているテファは虚無の担い手の重大さをわかってない様子。
「四人、俺みたいな使い魔合わせれば八人だな」
「なんでわかるのよ?」
「ダメ剣。説明してやれ」
「ブリミルは自分の子供たちと一人の弟子に、それぞれ秘宝を渡したんだ。その〝力〟も含めてな。三人の子供たちは、このハルケギニアに三つの王国を開いた。担い手はその直系の子孫……、だから四人さ」
「トリステイン、アルビオン、ガリア、そしてロマリアね」
ルイズは頷きながら言った。ダメ剣も少しは役に立つ。
四人って正確に知ってるのは原作知識だ。まあ、これは言うつもりはない。
しかし、使い魔の四人目、おそらくテファが呼び出せば揃ってしまうわけだが。
伝説の使い魔。テファの歌を思い出す。
神の左手ガンダールヴ。
勇猛果敢な神の盾。
左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。
神の右手がヴィンダールヴ。
心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。
神の頭脳はミョズニトニルン。
知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。
そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……。
最後の一人については何も情報はない。
原作でさえ描写もない。
ガンダールヴ、あらゆる武器を使える。
ヴィンダールヴ、あらゆる乗り物を使える。
ミョズニトニルン、あらゆるマジックアイテムを使える。
最後の一人、おそらくあらゆる何かを使えると考えられる。
そして召喚されるのはたぶん人間。
ルーンは胸に刻まれるらしい。
もしかして、あらゆるおっぱいのサイズを操れる?
そんな馬鹿な。
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原作読者は察したようですね。
サイトは使い魔の契約で頭をやられていたんだよ!
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